追放令嬢とフレポジ男:婚約破棄を告げられ追放された侯爵令嬢はあてがわれたド田舎の男と恋に落ちる。

唯乃芽レンゲ

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2章:新婚旅行は幻惑の都で…(前編)

22.フレポジ夫人と冒険者ギルド

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 エルシャ達は昼食後にお茶をしながら長い会話を楽しみ馬車で帰路についた。
以前会った時から長い年月が経っているのだ、話が尽きる事はない。
車内でも会話は続いていたのだが、不意に馬車のドアがノックされた。

 コーデリアがカーテンを開こうとしたので手で静止し、自身のスカートの中に手を入れる。
ドレス用にと夫から貰ったレッグホルダー、それに装備している短剣を確かめると窓の外をそっと覗き見た。
するとそこで馬に乗り並走していたのは見知った顔であった。
エルシャが警戒を解きカーテンを開いて声が通るように窓を開ける。

「ケヴィン様…」
「よう、今帰りか?」
「はい、ケヴィン様はお仕事の方は終わったのですか?」
「いや、これからまた冒険者ギルドの方へ顔を出さなきゃならん。
エーデルの馬車が見えたから声をかけたんだ」

 皇族の馬車を見かけたからと言って声をかけるとは何事か…そんな小言が頭を浮かんでしまう。
警護の騎士もケヴィンの事は顔パスらしい、ハーケーン皇族は強国の余裕なのだろうかフレンドリーな人間が多いようだ。
付き合う方としてはやりやすくはあるが、だからといって夫が王国貴族としての礼儀を忘れて接してしまうのは問題だ。
エルシャのお説教リストにスッとチェックが入るのだった。

「あら、ギルドに顔を出すって事はお兄様の依頼受ける事にしたの?」
「何もしないで情報だけ下さいってのもなぁ…他に誰かいれば任せてたんだけど」
「案外律儀なのねぇ…あら、エルシャどうかしたの?」

コーデリアが何かを考えている風なエルシャに気が付く。
エルシャもしまったと思いつつ疑問を口にした。

「ああいえ、冒険者ギルドとはどのような場所なのかなと思いまして…」

この疑問にケヴィンとコーデリアは思わず顔を見合わせ…
そして声をそろえて言い放つ。

「「ろくでなしの収容所…」」
(えぇ…)

 別にこれはケヴィンがろくでなしだと言っているわけではない。
冒険者というのは上位数パーセントの上級冒険者と三割くらいの生涯続けられる中堅冒険者、それと職にあぶれて仕方なく冒険者になった人間達で構成される。
要は殆どが日々の生活がギリギリの低所得者であり、正直言ってお行儀がいいとは言えないのだ。

「エルシャは見たことが無いのね…ならケヴィンさん、エルシャに冒険者ギルドをみせてあげたら?」
「あん…?いや、あんな汚い場所にエルシャを連れて行きたくないんだが…」
「ケヴィンさん…エルシャが奇麗な場所だけを見せて喜ぶような女だと思っているのならそれこそ失礼よ?」

 うぐ…と言葉に詰まるケヴィン。
チラリとエルシャの方を見てみるも…そこにあったのは興味津々という顔。

(意外と好奇心旺盛なんだよなぁ…)

その顔を見て諦めたケヴィンはエルシャを連れて行く事にした。

「決まりね…じゃあエルシャ、このままケヴィンさんの方へ乗り移りなさい」

止まればいい物の何を思ったか馬車が走っているのにも関わらず扉を開くコーデリア。
これにはエルシャも抗議の声をあげるが…

「え…でも…」
「大丈夫よ、私は暴走する馬車で乗り移ったことあるから。
ギルドに行くならこれくらいの荒事慣れておきなさいって」

 勧めて来るコーデリアにエルシャも仕方がないと夫の方を確認する。
ケヴィンの方は問題ないようで馬車に馬を近づけていた。
意を決して夫の方へと手を伸ばすとケヴィンはその手を取る…事もなくそのまま両手でエルシャの腰を掴み持ち上げた。
「キャッ!!」と叫び声を上げるも子供の様に持ち上げられるとそのまま引き寄せられ馬の上に座らせられる。
未だ慣れない馬上に少々怖くなり夫にしがみついてしまう。
そしてその夫のたくましい腕に包まれ思わず耳まで真っ赤にしてチラチラとケヴィンの顔を覗くエルシャ。

「あら~エルシャったら、以外にそうゆうのがいいのかしら?」
「………???」

コーデリアがその様子をニマニマしながら眺めているがエルシャには何のことやらさっぱりである。

「それじゃあエルシャ、ケヴィンさん、パーティーで会いましょう」
「本日はありがとうございました…パーティー楽しみにしております」

 そう言って挨拶を済ませると、ケヴィンの操る馬は馬車から離れ方向を変えた。
道すがら馬の上で「こいつを着ておけ」と外套を羽織らされる。
どうやら、ドレスで訪れるような場所ではないらしい。

―――――――――――――――――――――――

 しばし馬を走らせていくと段々と周りを行き交う街の人々が富裕層から貧民層へと変わっていった。
先程までは皇女が買い物をするような高級店が集まる区画にいたのだが、冒険者ギルドがある場所は労働者が集るような区画。
当然住人の質も変わってくる。

 ギルドに着き馬場へ馬を止めるとギルドの中へと入っていくが…
そこでケヴィンから一つ注意を受けた。
周りに労働者や冒険者たちがうろつく環境という物に慣れていなかったため夫にくっつくように歩いていたのだが、少し離れるように言われてしまったのだ。

 これは別に知り合いに見られて恥ずかしいからという理由ではない。
女連れでイチャイチャしながらギルドの中に入ると十中八九喧嘩を売られるからなのだとか…
 
「流石に仕事場に冒険者でない女を連れて行くわけにもいかないからそこの酒場で待っててもらえるか…?」
「わかりました」
「念のため受付から目が届く範囲に居ろよ?」

 元より仕事の邪魔などするつもりはない。
冒険者ギルドの雰囲気が知りたかっただけのエルシャはこの場に慣れているケヴィンの言葉に大人しく従う事にする。
エルシャは一人酒場へ向かうと空いている席へと腰かけた。


 ケヴィンは心配しながらもそれを確認するとギルドの受付へと向かった。
丁度良く女の受付が空いたのでそちらへ足を向ける。

「このギルドってこんな美人の受付嬢いたっけ…新人?」
「毎回飽きませんねケヴィンさん、しばらくぶりで記憶なくなりましたか?」
「可愛いネックレス付けてたから別人に見えたんだよ」
「えへへー、彼氏にプレゼントしてもらったんです。男避けだって」
「まじかー、絶対俺に気があると思ってたのに…」
「ケヴィンさんを見てたら誠実な人の魅力に気が付いたんですよ。
ところで、お連れ様がいるのに大丈夫なんですか~?」
「おっと…」
「それで本日はどのようなご用件で?」
「ああ、ギルマスいる?話があるんだけど」
「ええおりますよ、こちらへどうぞ」

軽いやり取りの後、ケヴィンは受付嬢の案内に従ってギルドマスターの部屋まで向かったのだった。
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