追放令嬢とフレポジ男:婚約破棄を告げられ追放された侯爵令嬢はあてがわれたド田舎の男と恋に落ちる。

唯乃芽レンゲ

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2章:新婚旅行は幻惑の都で…(前編)

21.フレポジ男と祝福の腕輪

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「コルディーニ皇子殿下と面会の予定が入っているはずなのだが確認を頼む、ケヴィン・フレポジェルヌだ」
「ハッ!聞いております、待合室へお連れしますのでそこでお待ちください」

 馬で皇城へ乗り付けたケヴィンはいつものように門番の前で名乗り入城許可を申請すると敬礼でケヴィンを迎え入れる門番。
ケヴィンは馬を預けると案内に従って待合室へと通される。
相変わらず無駄に豪華で落ち着かない部屋だと思いつつもソファーでくつろいでいるとすかさずメイドがお茶を運んできた。

「へぇ…良い香りのお茶だな、どこのやつ?」
「ヘイラン産でございますよ」
「あ、聞いたことある。確か高いやつだっけ?太っ腹だなぁ」
「皇子殿下のお客様に失礼な物は出せません」
「お茶の良し悪しって未だに分からないけど…これは美味いな。
やっぱり嗅ぎ分けるのってコツとかあるの?」
「こればっかりは色々飲んで慣れるしか無いんじゃないでしょうか…」
「確かになぁ…いつも飲んでる奴って最初に勧められたのそのままで。気に入ったから以降それしか買った事無かったわ…」
「クスクス…それは勿体ないですね、私のおすすめをお教えいたしましょうか?」
「そりゃいいね、教えてくれよ」

 メイドを捉まえて雑談に花を咲かせる事にしたケヴィン。
しばらく話し込んでそろそろ茶葉を理由にデートにでも誘うかな…と思った所で部屋の扉がノックされた。
思わず舌打ちをしたくなるタイミングで皇子との面会の時間となってしまったのだ。
一瞬待たせようか…という誘惑に駆られてしまうのも仕方のない事だろう。

 だが流石にソレをすると印象が最悪に傾く事は分かりきっているので諦める。
呼びに来た年配のメイドはケヴィンもよく見る相手で小言が多いというのを聞いたことがあった…というよりたまにケヴィンも小言を言われる。
この城のメイド長であり、多分お茶を運んできてくれたメイドの直属なのだろう。
先程まで話し込んでいたメイドの方をチラリと見たのに気が付いたケヴィンは念のためフォローを入れておいた。

「ああ、仕事中に引き止めて悪かった」
「いえいえ、お客様を楽しませるのも仕事のうちですから」
「なら最高の仕事ぶりだったな。教えてもらった茶葉、今度買ってみるよ」
「ええ是非」

 笑顔で送り出してくれるメイドさんに感謝を告げてからメイド長に案内をしてもらう。
だが、皇子の部屋へと案内されている道中、そのメイド長から釘を刺されてしまった。

「ケヴィン様、あまり若い子を弄ばないで下さい」

マズい…小言の矛先が自分に向かってしまった。

「いや、弄んでなんかないですよ…?」
「ご結婚されたと聞きましたが…間違っても未婚の女性をその気にさせるような事はしないで下さいね」
「………もちろん」

勿論、"わすれてた"なんて事は口が裂けても言わない。
習慣とは恐ろしいものだ。

………

案内をするメイド長の後ろを歩いていると一人の偉そうな貴族の男とすれ違う。

「おい平民」
「?………」

一瞬呼び止められたかと思ったがどうやら違うようなのでそのまま通り過ぎようとするケヴィン。
当然だが、メイド長もそのまま案内を続けようとする…が。

「待てと言っているだろう、そこの平民!」
「………え”、自分ですか?」

これにメイド長も頭を抱えてしまう。
勿論ケヴィンに対してではない。
そして、その貴族らしき男はケヴィンに絡んできたのだ。

「お前意外誰がいる?」
「あーなるほど…私は皇国貴族ではありませんが、王国の子爵家の嫡男なのですよ」
「貴様のような奴が?これだから王国は…」
「ハハハッ、まあわからないのも無理はないですよね~。
自分は特に貴族っぽくないと言われること多いですし。
俺は貴族だ―って言いふらしながら歩るくわけにもいきませんからね」

「貴様の場合は品性が欠けているからそう見えるのだろう?
この城に猿が紛れ込んでいると思うと虫図が走る、何故貴様のような奴がここにいる?」
「コルディーニ皇子に呼ばれたからです。文句ならそちらに言ってください」
「…あの皇子にも困ったものだ、こんな得体のしれない冒険者などを使って。
くれぐれも怪しげな行動は控えるように」

散々と毒をまき散らした後に去っていった男。
その後姿を見ながら思わずメイド長に聞いてしまう。

「…誰?」
「申し訳ございません、彼はロ―マック伯爵といいまして…
パーティ―の出席者で第四皇子派閥の人間なのです」
「あー、俺がコルディーニ皇子と仲いいから気に食わなかったとか?」
「コメントいたしかねます。
お客様をご不快にさせてしまい申し訳ございませんでした」
「バーベラさんも大変っすね…第四皇子ってまだ小さくなかったっけ?」
「今年五才になりました」
「うへぇ…やだやだ」

メイド長も困ったように苦笑いを浮かべると再び案内に戻るのだった。

―――――――――――――――――――――――

 コルディーニ皇子の執務室に通されるとすかさず皇子が人払いをする。
ケヴィンが一緒になって出て行きたくなるのは当然だろう…
これが意中の女の子の話を聞かれるのが恥ずかしいから…とかだったら喜んで聞くのだが。

 皇子に促されソファーに座ると真向かいに座った王子が箱を机の上に出す。
そしてその箱の蓋を開けると中には腕輪が入っていた。

「うっかり着けるんじゃないぞ」

 言われずともである…
長年のカンが言っている…これはヤバいと。

「兵の一人が度胸試しに着けたら突然発狂…急いで取り外したが残念ながら今現在廃人状態だ」
「解析は?」
「君の姉君に依頼中だ。どうやら、人を意のままに操るために作られているようなのだがね」

 "人を意のままに操る"…そういった魔道具は確かに存在する。
魅了チャームをかける道具や人を隷属化する道具などがそれにあたるのだが…

 女神は人の意志の自由を許しており、それを否定する事を許してはいない。
これはいかに邪悪な思想であろうとも思想であるうちは許されるという程絶対的なものである。
それ故に"人を意のままに操る"という魔道具などロアヌ教徒の支配区域で作られる事など決して許されないのだ。

「…無理やり命令を聞かせる類の物って事ですか?」
「少し違う…これがやろうとしているのはどうやら記憶の上書きらしいのだよ」
「上書き?…つまり違う人間の記憶を植え付けるという意味ですか?」
「そのように考えてくれてかまわない」
「何でそんなもの…」

 記憶の上書きと聞いてソレが作られた経緯について考えを巡らせていると皇子の方が先に口を開いた。

「例えばの話、産まれた時から忠実に命令を遂行することを訓練された人間の記憶…これを植え付けたらどうだろう?」
「体はともかく、経験的にはよく訓練された忠実な兵隊が量産できるって事ですか…」
「完成すればどんな凶悪犯罪者でも一瞬で忠実な兵士にできる素晴らしい道具だな」
「まさに女神も恐れぬ所業というやつですね、エルシャが知ったらと思うと恐ろしい…」
「感心だな、そういえば彼女は敬虔な信徒であったか。まあ、この腕輪をもってすれば信仰心すらも意のままかもしれんがな…」
「反吐が出ますね」
「まったくだ」

 箱の中の腕輪を汚物を見るような目で睨みつける。
そして腕輪はその視線を嘲笑うかのように邪悪な鈍い光を放つのであった。

「奴らこれを『祝福の腕輪』と呼んでいるようだ」
「祝福ねぇ…」

女神の意に背く道具…

邪悪なる意思…

邪なる愛を受け取るための装置…

「邪神の祝福…」
「ああ、奴ら『常闇の鐘』だ…」

 思わず天を仰ぎ見るケヴィン。
折角壊滅させたと思ったのにいつの間にかまた湧いて出て来る…
相手にしたくないと言うよりは存在自体してほしくない、それが彼らなのだ。

………

「それにしても、噂のエルシャルフィールがケヴィンの妻になるとはな。
婚約破棄の情報を聞いた妹から絶対に逃がすなと言われ、侯爵に縁談の申し込みの手紙も送ってしまったぞ…」
「はぁ?遊び人のアンタが結婚!?何の冗談だよ…」
「その遊び人でも結婚して後悔しない程の美人と聞かされたんだ…興味あるだろう?
実際に会ってみるとなるほどと唸ったよ…」
「エルシャに指一本でも触れてみろ?
アンタが童貞卒業式で間違えて娼婦のケツにツッコみそうになった事ばらすぞ…」
「貴様もがっつきすぎで女の扱い方の説教受けてただろ…
あの娼館、レベルは高いのに壁が薄いのは何とかならんのか?」
「薄いのが売りってとこもあるしなぁ」
「それはそうだが…まあ、なんだ。
エルシャルフィールが未亡人にでもなったら私が面倒を見てやるからそこは安心しろ」
「もしそうなったら死んでも呪い殺してやるから覚えておけよ?」
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