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2章:新婚旅行は幻惑の都で…(前編)

20.フレポジ夫人と夫の過去・学園生活

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「それで女の子をゲットするために学園に入学を果たしたケヴィンさんなんだけど…」
「ハッキリ言葉で言うの止めてもらっていいですか?」
「お姉様がアネス姉様と同級生だったから話を聞いてたんだけれど…
一度に十人の女の子を口説いてまわってたってのは有名な話よ?」
「………」

 普通であればそんな馬鹿相手にされず終わる…はずであった。
しかし、その相手達も口説かれること自体はまんざらではなかった。
その理由というのがその選ばれた十人の人選にある。

 身分を問わず、婚約者がいない女生徒から性格と容姿のみで選んだ十人…
思わず学園の人間全員が頷いてしまうほど的確に選ばれた高嶺の花たち。
つまり実質学園の美少女ランキングだったのだ。

 取り巻きを連れて高笑いをするような高位貴族の御令嬢。
ランチタイムに学費を稼ぐために学食で働く平民の苦学生。
はたまた、図書館の主と呼ばれる常に俯いているような内気な先輩まで。

 何処から見つけてくるのだと言いたくなるような厳選されたダイヤの原石たち…
世界各地から才能あふれた子女たちを集めた学園で十指に入ると言われ嬉しくないわけもなく。
何となく他人に寛容になったり、何となく男子の視線を気にするようになったり、何となく前を向くようになる事もあったとして不思議ではない。
そして、そんな彼女たちに注目が集まるのも必然…
その結果、ケヴィンの口説こうとする女にハズレ無しと他の男子から大量の求婚が舞い込むという図式が出来上がったのだった。

「それで一人もケヴィン様のお相手をしてくれる方はいなかったのですか?」

 逞しくて昼間だけではあっても紳士だし他人が見てもカッコいいとは思うはず…
エルシャとしては自分の夫であり、他人がどう評価していたのかは何となく気になってしまうのだが。

「身分問わずって言うのがネックだったみたいね。
上位貴族に声をかけている相手を下位の人間がおいそれとものにするわけにはいかないでしょう?」

 結果、貴族はより上位の相手に気を使い、平民はケヴィンが貴族である事や他の貴族に気を使い、上位貴族はケヴィンが他国の下級貴族である事に気を使う…
女たちはのほほんと鼻の下を伸ばしている羊を食べてしまっていいのか盛大に迷った。

 学業に関しては確かにギリギリであったが、そもそも世界でもトップクラスの人材を育てる学園でギリギリでもついてこれているのであれば一般的には十分凄いと言われるレベル…
そして剣術は入学当初こそ後れを取ったが姉と同じく学園で他者の剣術に触れた事で頭角を現し、驚異的な成長を見せトップクラスに名を連ねる程まで成長した。
加えて容姿は意外と高水準であり他国の辺境ではあるが領地持ち貴族の跡取り息子…

 普通であればすぐにでも相手は見つかるはずなのに、口説かれた女たちが互いに警戒し合った結果誰も手を出さず。
次第にスペックは高くても女たらしでモテない残念な男の称号を得るに至ったのだ。


 ちなみに、ケヴィンの学内での評判は決して悪いものではなかった。
女性に関しての情報を多く持っていた事から意中の人がいる男性陣から数多くの助言を頼まれそして多くのカップルを産み出した。
そして女性陣達からは女とあればすぐに口説いてくる珍獣として見られていた。

「お姉様が学園生活楽しいって笑ってたわ…自分をあの手この手で口説こうとする身の程知らずのバカな後輩がいるって」
「えぇ…エーデルのお姉様もだったのですか…」

思わずため息をついてしまうエルシャ。
まさか友人の姉にまで手を出そうとしていたなど呆れるばかりである…
しばし、コーデリアの話を受け止めていると…

「………………って、はぁ!!!???」

 ふととんでもない事実に気が付いてしまった。
コーデリアの姉…それはつまり皇女殿下に言い寄ったという事である。
エルシャの頭に"国際問題"の文字が浮かんだのは言うまでもないだろう。
しかし、教えた方のコーデリアにとっては"あのケヴィン"がやらかした事件の一つでしかなく笑い話であった。

「氷の皇女って呼ばれてたお姉様が笑いかける男が現れたって物凄い混乱だったのよねぇ~」
「………???」

(あれ?それは…実は凄いのか?)

「お姉様を狙って様子見と牽制をしあってた各国の王子様方が急にオロオロし初めて。
学業では勝負にならないからケヴィンさんに決闘まで申し込む始末よ…」
「ケヴィン様、優秀だったのですか?」
「いや、落第ギリギリだったから勝負しても何の自慢にもならなかっただけ…
でも、腕っぷしは嘘みたいに強いから次々に王子様方をぶちのめしちゃったのよねぇ。
ちなみに学力では相手にならないって言いだしたのケヴィンさんの方ね」

目をつぶって言葉を咀嚼するエルシャ…
いちいち評価に困る男である。
ちなみにこの時の騒ぎは有名で、決闘の際はかなりの観客が集まりコーデリアも見に行った事がある程だ。
皇女を賞品にした非公式の決闘は本人も楽しそうに見ていたらしい。

「まあ結局最後まで食らいついて来た王子の一人に一本取られたんだけれど…」

氷の皇女様は何だかんだ言って、決闘に参加した王子様方の人となりも気になっていたようであった。
なので皇室としては決闘の結果に従う義理はないが、だからといって勝手に盛り上がっている物を止める必要もなかった。

「シュナール王国の田舎子爵家の息子とかネタでしかないから、結局お姉さまは無難に他の海の向こうの王子様の所へ嫁入りしちゃったけど…見事な当て馬っぷりよねぇ」

なんだか、自分に打ち取った竜を自慢してくる夫の残念な表情と重なってしまい何とも言えなくなってしまう。

「でも私と一緒にケヴィンさん家の温泉行ったり結構仲良かったし、もしケヴィンさんに今の名声があったら義兄になってたかもしれないと思うと人生わからないわよねぇ~」

なんだかんだ言って氷の皇女様から好評価を受けていたという…何とも評価の起伏が激しい人である。

「"君の為なら世界を敵にまわしてもかまわない!"は今でも我が家の語り草よ、女のために皇国に喧嘩売る奴が現れたって」

思わずヒュッと息を吸ってしまうエルシャ。
イヤイヤ、ハーケーン皇室を敵にまわすという意味を分かって言ってるのか???
…いや、完全に色にボケていただけでわかっていないだろう。


 そんなケヴィンも卒業の年の長期休暇で冒険者の仕事中に行方不明となった事があった。
その理由というのも残念な物で、仕事先で出会った女の子と駆け落ちをしたというのだ…
思わずスゥーと息を飲み込み自らを落ち着かせるエルシャ…

 そして、クランの仲間達がようやく探し出したと思ったら、発見された時には無一文だったという。
どうやら結婚詐欺にあったのだとか…

「えぇ………」

 学園に帰ってきたケヴィンは女生徒を口説く事もなく、もしや女性不信なのか?と周りがざわついた。
ケヴィンの相手は誰になるのかという周りの興味も虚しくそのまま卒業を迎えた。

「そうですか…」

 ちなみにケヴィンが口説いてまわった女生徒たちで婚約者が決まっていなかった者たちは皆、なんだかんだ言って卒業式の日に自分を迎えに来るんではないかと期待していた…

「だけど当の本人は卒業証書を貰ったその足で皇都の娼館へと向かったそうよ…」
「そう………ですかぁ………」

当然だが、その女生徒たちは全員山の様に積まれた釣書の中から一番上の一枚を手に取って叩きつけるように見合いに応じたそうだ。


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