追放令嬢とフレポジ男:婚約破棄を告げられ追放された侯爵令嬢はあてがわれたド田舎の男と恋に落ちる。

唯乃芽レンゲ

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2章:新婚旅行は幻惑の都で…(前編)

19.フレポジ夫人と夫の過去・入学試験

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「セントランシュ学園の事は知っているわよね?」
「ええ、私も入学を検討した事がありますから」

 ハーケーン皇国の皇都近郊に作られた学園都市…その学校がセントランシュ学園である。
元々は学校設備だけであったはずが、次第に学生相手の商売が成立するようになり街となり、学生たちもその街で自らが課外活動を始めたために次第に規模が拡大。
いつしか学園都市と呼ばれるようになった。
学生達が都市内で始めた事業が皇国規模に広まる…何て事が頻繁に起こる、そんな場所なのだ。
勿論、入学するだけでも難関でそれだけで優秀な人間と言える。

「そこに根性入学したケヴィンさんなんだけど…」
「エーデル、ストップです…根性入学の詳細を問います」
「あれ、そこから…?まあいいけど」

 そして語られたのが夫の入学に関する目を覆いたくなるような真実であった…

「ケヴィンさんが自分の領の女の子を子供の頃にイジメすぎて全くモテなくなったから、学園に通うためにハーケーン来ていたアネス姉様とヒイロ様を頼りにロアヌ山脈を無理やり踏破して彼女探しに来た所はまでは流石にいいわよね?」

………エルシャのライフは最初のたった一言で費えた。

―――――――――――――――――――――――

 ハーケーンはひと山超えればすぐ…
この名案を実行し人類で数人しかいないと言われるロアヌ山脈踏破という偉業を達成したケヴィン。
ハーケーン側の山の麓で気を失って倒れている所を冒険者クラン"紅薔薇"に回収された。
そして、頼ろうとしていたアネスとヒイロが何処にいるかわからなかったため、そのまま皇都で冒険者となったのだった。

 しばらくしてケヴィンの歳で女と出会うならセントランシュ学園が最適という話を真に受けで入学を決心。
下心のみで入団した"紅薔薇"で男としてダメだしをされまくりながらも学費を貯め学園都市へと向かったのだった。

 ちなみに、アネスは一年前に先に入学しており、ヒイロもケヴィンと同じ年に入学試験を受ける事になっており学園都市で再会した。
完全にノープランで自分の学園に弟が入学試験を受けに来る…
姉であり当時学年主席として有名になっていたアネスとしては顔面蒼白である。
何としてでも受験者としての体裁を整えるために姉が友人のヒイロを巻き込んで徹底的に指導をし、完全に付け焼刃にて入学試験に挑んだのであった。

 
 そして臨んだ試験の結果はというと…
筆記はアネスの予想問題がズバリ的中したためにギリギリアウトな得点。
そして実技試験については得意の剣術を披露したのだが…
受験者同士を相手を変えての対戦を三戦行うという形式で一勝二敗という戦績であった。

 これだけ聞くと合格は絶望的に聞こえるが、その剣術試験での一勝した相手というのが問題であった。
当時、<剣聖>のスキルを持ち未だ負けを知らぬというと言われていた近衛騎士団長の娘…
そんな相手を開始の一瞬…上段からのただの一刀で勝負を決めてしまったのだ。

 ただ、その試合は注目されていた事もあってケヴィンは当然次の相手に最大限に警戒された。
そして、初太刀さえしのげば後はバカの一つ覚えでしかなかったのが当時のケヴィンの実力である。
一流の剣術の師をもつ他の受験生に瞬く間に負けを重ねたのだった。

 敗北した近衛騎士団長の娘はというと、筆記試験も文句なしのトップレベルでその後の対戦も勝利した。
…しかし、自分の剣に疑問を持ってしまった彼女はその後の既にほぼ合格の決まっていた最終面接にてボロボロだったそうだ。


 試験担当の教師陣は混乱した。
一番の注目株から一本取った事に関してどのように評価するべきか…?
剣術の担当教官曰く、二戦でぼろ負けはしたものの決して弱いわけではなく本当に粗削りではあっても確かに光るものを感じた。
そして戦場では絶対に相まみえたくない相手…という評価。

 筆記もギリギリ目をつぶってもいいかもしれないというレベル。
そしてなによりこのケヴィンという少年はあのアネスの弟だというのだ。
アネスも入学当初はトップの成績だったというわけではない。
世界各地から人材を集めるという事はそれぞれの学力に差異があるのは仕方のない事なのだ。

 そしてアネスは入学後に魔法の才を急激に成長させ主席の座を手に入れた人物。
その弟ともなれば素質があるかもしれない…少なくとも面接くらいは…
そんな思惑により最終面接を勝ち取ったケヴィンだった。

「シュメール王国のフレポジェルヌ領からわざわざ…陸路?それとも船で来たのですか?」
「陸路です。ロアヌ山脈を越えればすぐなので歩いてきました」
「そうですか………はぁ???」
「いやぁ山の上って寒いんですね、死ぬかと思いました!」
「えぇ…よく生きていましたね…そこまでしてこの学園に入学したかったのですか?」
「いえ、学園に入学を決めたのはハーケーンに来てからですね。それまでは冒険者をしておりましたから」
「ロアヌ山脈を越えてでも成し遂げたい夢とはいったい何なのですか?」
「私の夢は常に胸にあります…そのためならば冒険者クランでの雑用など何の苦もありませんでしたね」

 答えになっていない…とは思いつつも目の前の少年の熱意だけは伝わってくる。
教師の本分とは生徒の育成であり、その思想の良し悪しを決める事ではない。
学園に入学する事を夢見る受験生は数多くいても、学園に入学する事が踏み台であると言ってのける者は少ない。
そして、学園とは学びの場、夢の為の踏み台である事が真に正しい姿…
それが例え今現在言葉にできない物であってもソレに向かって情熱を向ける姿勢というのは教師にとって尊いものなのだ。
そしてこの少年からは確かに情熱を感じるのだ。
そして改めてケヴィンという少年の経歴を見てみるが…そこで目を疑うような記述。

「ふむ…Bランククランの"紅薔薇"に入団!?女性だけのクランだと聞いたのだがどうやって?」
「ひたすら土下座して荷物持ちをさせてもらったんですよ…
先輩たちは皆素晴らしい物をお持ちでしたからね、そんな彼女たちに頭を下げるなど何の苦もありませんでした。
むしろ罵倒すらご褒美と言っても過言ではありません」
「君は女性冒険者であろうと内面を見てこのクランを選んだというわけか…?」
「いえ…完全に外面を見て決めておりますが…?」
「!!!」

 そうであった…"紅薔薇"と言えば既に実績を重ねた冒険者クランである。
"女性であっても内面を見て選ぶ"などという必要はどこにもない。
多くの女生徒を育てて来た教師が何故気が付かなかったのか…教師は自分を恥じた。
そして、目の前のケヴィンという少年に興味が湧いたのだ。

「君は冒険者として大成する事を目標にしているのかね?」
「とりあえずは足掛かりとして冒険者として名を上げる事は考えておりますが、野望はもっと高みにあります」
「そうですか…それであなたはこの学校に入ったならばどのクラスを目指しておりますか?」
「ワールドクラスです!!…と言いたい所ですが現実的にはせいぜいEクラスでしょう。
ですが、AでもBでもそこに忌憚はありません」
「まるでAよりEクラスの方が良いような言い方ですね?」
「愚問です…山は…大きい方が燃えるでしょう?」
「なるほど…ロアヌ山脈を越えたというのもあながち嘘ではなさそうだ」

 ロアヌ山脈を越えて入学しに来たと言われれば例え今現在の学力が足りなかったとしても、嫌でも将来性に期待してしまう。
面接担当の教師達にはそれがまるで、学園で最も成績が悪い中入学したとしても努力でトップに君臨してくれそうな気概に感じたのだ…
………感じてしまったのだ。
そしてケヴィンは合格してしまった…

………
……


「まさか面接で"おっぱい"の話しかしていないとは面接官も思わなかったのでしょうね…
そんなわけでエロ根性で入学を勝ち取ったのよ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 顔を覆って耳まで真っ赤にしながら夫の過去の惨劇をどこに向かってなのかは分からなくも謝罪したエルシャ。
夫に出会う前であればその面接官と同じ反応をしていたかもしれない…
だがそんなピュアな自分等既にどこにもいなかった。
エルシャにとってのこの世のブラックボックスの中身は毎晩のように囁かれる言葉で既に露見してしまっているのだから…

 周りの受験生が皆、向上心を持った人間達…そんな中に紛れた発情しただけの猿をどうして見抜けようか…
いや、面接官としては見抜かなくてはならなかったのだが、面接官だって人間なのだ間違いはある。

 そして、入学後にその生徒の学力が足りなかったとしても教師たちは必死に卒業させようと頑張った。
女生徒のケツを追いかけまわす腕っぷしだけの猿を調教するために…
そして、このアホを入学させてしまった自分達の面子を守るために…
そんな彼がうっかり名声を得てしまってからは教師たちは口々にこう語るのだ。

あいつを育てたのは私だ元は取り返す」…と。

………

「それでここからが本題なんだけれど…」
「まだあるんですか!?」
「いや、さっきのはほんのジャブよ…」

ジャブ…ジャブとは全力パンチの事だっただろうか?
武術の事はとんとわからないエルシャである…きっとそうだと納得し文脈から読み取ろうとする自分を偽った。

「大丈夫?」
「………………………いえ、ケヴィン様の妻として現実向き合う義務がわたしにはあります」
「エルシャ…あなた変わったわね」
「そうでしょうか?」
「ええ、なんかこう…不憫で面白くなった」
「………」
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