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2章:新婚旅行は幻惑の都で…(前編)
18.フレポジ夫人とドレス
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「次のはエルシャも気に入ると思うわ」
そう言って持ってこさせた布に思わず目を奪われる。
「これは…ドワーフ織ですか?」
「流石ね、一目で見破るなんて。これにする?」
「いいえ、流石にこのレベルだと私の一存で買うわけには…
それに子爵家嫡男の妻としてはこれは少々物が良すぎるかと…」
「侯爵家の娘で皇女の友人であれば適格でしょ。
それに、ケヴィンさん皇都ではSランク冒険者として誰でも知ってるレベルの有名人だし…
あ、私も色違いで一着作ろうかしら。ねぇエルシャはどっちの色がいい?」
コーデリアの中では既に購入が決まっているようだ。
そして、この話にエルシャとしても拒否は出来なかった。
「では…ローレア模様の方で薔薇柄は皇女殿下にこそふさわしいでしょう。
ローレアと薔薇…まるで来る前から決まっていたかのようですね」
「バレましたか…」
そう言って舌を出すコーデリア。
薔薇はハーケーン皇室の象徴とする花であり、ローレアの葉はシュメール王国が式典の際に用いる神聖な植物。
これが偶然用意された物などという話は信用できない。
「本当であればエルシャの成人祝いに送るつもりだったのだけれどあのごたごたでね。
でもケヴィンさんの妻となったのなら送るのには十分な理由だと思ったの。
こちらの生地は皇家からの結婚祝いだと思って取っておいて」
本当であれば結婚祝いとして用意していたのであろうが…
そこを指摘するなど野暮な事は言うまい。
これが素晴らしい逸品だという事は誰が見ても分かる程なのだ。
それを用意させて無駄にならなかっただけ良しとしなければならない。
「王国との友好の証にはならなかったけれど、せめてサレツィホールとフレポジェルヌへの友好の証にはしたいのよね」
サレツィホールとフレポジェルヌへの友好の証…
これはつまりコーデリア皇女としては仮に王国とサレツィホールとの間に争いが生じた場合、サレツィホール側につく…少なくとも王国側にはつかないという意思表示。
「………そういう事であればありがたく頂戴いたします」
仮に実際に問題が生じた場合に援助を得られるかはその時の時世次第だが、少なくとも皇女という力のある人間が友好関係を示してくれるという事はそれだけで牽制になる。
王家がサレツィホールやフレポジェルヌに悪感情を持っていたとしても、敵対する事にリスクが伴うとあれば適度な距離感を保つことは可能なのだ。
ハーケーンとサレツィホールに挟まれた…いや、挟まれる事になった…国力がたかが知れているフレポジェルヌ。
そこの人間となったエルシャとしてはこの話に乗らないわけにはいかないだろう。
「ですが、今からですと明後日のパーティーまでにこの生地でドレスを仕立てるわけにもいきませんね」
「可能ですよ…というより」
コーデリアが合図をすると店員が既に出来上がっているドレスを持ってきた。
実は既にできており後はサイズ合わせだけなのだと言う。
コーデリアを見ると彼女は舌を出してクスクス笑っていた。
「ご厚意ありがたく頂戴いたします。
…そうだ、残った生地は妹に贈ってもよろしいでしょうか?」
「ええ、好きにして。妹さんにもお会いしてみたいわね」
「エーデルとはきっと気が合うと思いますよ」
「それは楽しみ!」
何となくではあるが、妹のルフィアとコーデリアは一緒にいて気楽という意味で似ている気がするのだ。
その後、フレポジェルヌに持ってこれなかった冠婚葬祭用の衣装や普段着などを選び、その他の私的に使う物としてリボンと糸を購入し買い物を終えた。
―――――――――――――――――――――――
昼食もコーデリアに連れられた店で取る事となったのだが…
そこでかねてより聞きたかったことを聞く事にしたのだ。
「え…ケヴィンさんの昔話?」
「はい、お恥ずかしながらケヴィン様と出会ったのがつい先日の事なのです。
夫のあの性格ですから会話が足りないという事はなのですが…」
「………言ってない事が多そうだ…と?」
「…あの性格ですから」
目を逸らしながら苦々しい顔のエルシャに思わず苦笑いをしてしまうコーデリア。
だが、コーデリアも同じクランの仲間として一応フォローだけはしておいてあげた。
「一応フォローしておくと、冒険者って守秘義務があるから家族にも仕事の話はあまりしない事が多いのよ。
知らなくていい事を知って危険にさらすって事は多いから。
勿論討伐記録なんかの開示できる情報は簡単に見れるし『黄金の稲穂』はそれだけでも十分に有名になれる程のぶっちぎりのトップクランだけどね」
「流石に他国の情報全て…ましてや冒険者の情報までは網羅できませんから」
冒険者は国から依頼される事もあるがあくまで個人。
国家として他に重要な情報に溢れているのだ、大量にいる個人である冒険者の情報までいちいち報告を聞いていられなかったとしても不思議はない。
なのでコーデリアもソレはそうだろうと思いつつも何を話すべきかを思案する。
冒険者としての仕事の話をしてもいいのだが先程言ったように守秘義務は守らなくてはならないのですすんで話したいとは思わない。
そしてコーデリアが話してもいい事など、他の人間などからいくらでも聞けるだろう。
そう考え話す事にしたのはコーデリアの姉から聞いたケヴィンの学園生活についての事であった…
………
……
…
そう言って持ってこさせた布に思わず目を奪われる。
「これは…ドワーフ織ですか?」
「流石ね、一目で見破るなんて。これにする?」
「いいえ、流石にこのレベルだと私の一存で買うわけには…
それに子爵家嫡男の妻としてはこれは少々物が良すぎるかと…」
「侯爵家の娘で皇女の友人であれば適格でしょ。
それに、ケヴィンさん皇都ではSランク冒険者として誰でも知ってるレベルの有名人だし…
あ、私も色違いで一着作ろうかしら。ねぇエルシャはどっちの色がいい?」
コーデリアの中では既に購入が決まっているようだ。
そして、この話にエルシャとしても拒否は出来なかった。
「では…ローレア模様の方で薔薇柄は皇女殿下にこそふさわしいでしょう。
ローレアと薔薇…まるで来る前から決まっていたかのようですね」
「バレましたか…」
そう言って舌を出すコーデリア。
薔薇はハーケーン皇室の象徴とする花であり、ローレアの葉はシュメール王国が式典の際に用いる神聖な植物。
これが偶然用意された物などという話は信用できない。
「本当であればエルシャの成人祝いに送るつもりだったのだけれどあのごたごたでね。
でもケヴィンさんの妻となったのなら送るのには十分な理由だと思ったの。
こちらの生地は皇家からの結婚祝いだと思って取っておいて」
本当であれば結婚祝いとして用意していたのであろうが…
そこを指摘するなど野暮な事は言うまい。
これが素晴らしい逸品だという事は誰が見ても分かる程なのだ。
それを用意させて無駄にならなかっただけ良しとしなければならない。
「王国との友好の証にはならなかったけれど、せめてサレツィホールとフレポジェルヌへの友好の証にはしたいのよね」
サレツィホールとフレポジェルヌへの友好の証…
これはつまりコーデリア皇女としては仮に王国とサレツィホールとの間に争いが生じた場合、サレツィホール側につく…少なくとも王国側にはつかないという意思表示。
「………そういう事であればありがたく頂戴いたします」
仮に実際に問題が生じた場合に援助を得られるかはその時の時世次第だが、少なくとも皇女という力のある人間が友好関係を示してくれるという事はそれだけで牽制になる。
王家がサレツィホールやフレポジェルヌに悪感情を持っていたとしても、敵対する事にリスクが伴うとあれば適度な距離感を保つことは可能なのだ。
ハーケーンとサレツィホールに挟まれた…いや、挟まれる事になった…国力がたかが知れているフレポジェルヌ。
そこの人間となったエルシャとしてはこの話に乗らないわけにはいかないだろう。
「ですが、今からですと明後日のパーティーまでにこの生地でドレスを仕立てるわけにもいきませんね」
「可能ですよ…というより」
コーデリアが合図をすると店員が既に出来上がっているドレスを持ってきた。
実は既にできており後はサイズ合わせだけなのだと言う。
コーデリアを見ると彼女は舌を出してクスクス笑っていた。
「ご厚意ありがたく頂戴いたします。
…そうだ、残った生地は妹に贈ってもよろしいでしょうか?」
「ええ、好きにして。妹さんにもお会いしてみたいわね」
「エーデルとはきっと気が合うと思いますよ」
「それは楽しみ!」
何となくではあるが、妹のルフィアとコーデリアは一緒にいて気楽という意味で似ている気がするのだ。
その後、フレポジェルヌに持ってこれなかった冠婚葬祭用の衣装や普段着などを選び、その他の私的に使う物としてリボンと糸を購入し買い物を終えた。
―――――――――――――――――――――――
昼食もコーデリアに連れられた店で取る事となったのだが…
そこでかねてより聞きたかったことを聞く事にしたのだ。
「え…ケヴィンさんの昔話?」
「はい、お恥ずかしながらケヴィン様と出会ったのがつい先日の事なのです。
夫のあの性格ですから会話が足りないという事はなのですが…」
「………言ってない事が多そうだ…と?」
「…あの性格ですから」
目を逸らしながら苦々しい顔のエルシャに思わず苦笑いをしてしまうコーデリア。
だが、コーデリアも同じクランの仲間として一応フォローだけはしておいてあげた。
「一応フォローしておくと、冒険者って守秘義務があるから家族にも仕事の話はあまりしない事が多いのよ。
知らなくていい事を知って危険にさらすって事は多いから。
勿論討伐記録なんかの開示できる情報は簡単に見れるし『黄金の稲穂』はそれだけでも十分に有名になれる程のぶっちぎりのトップクランだけどね」
「流石に他国の情報全て…ましてや冒険者の情報までは網羅できませんから」
冒険者は国から依頼される事もあるがあくまで個人。
国家として他に重要な情報に溢れているのだ、大量にいる個人である冒険者の情報までいちいち報告を聞いていられなかったとしても不思議はない。
なのでコーデリアもソレはそうだろうと思いつつも何を話すべきかを思案する。
冒険者としての仕事の話をしてもいいのだが先程言ったように守秘義務は守らなくてはならないのですすんで話したいとは思わない。
そしてコーデリアが話してもいい事など、他の人間などからいくらでも聞けるだろう。
そう考え話す事にしたのはコーデリアの姉から聞いたケヴィンの学園生活についての事であった…
………
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