追放令嬢とフレポジ男:婚約破棄を告げられ追放された侯爵令嬢はあてがわれたド田舎の男と恋に落ちる。

唯乃芽レンゲ

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2章:新婚旅行は幻惑の都で…(前編)

24.フレポジ夫人とごろつき冒険者

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 あの状況で酒場にいるわけにもいかないエルシャ。
かといって勝手に外に出歩くわけにもいかないのでギルド内で待つことに…
だが、ボーっとしているというのも勿体ない。
実を言うと、人がいない状況でこんな場所に放置されるというのは初めての経験なのだ。
そんなわけで興味津々と辺りの観察を始めた。

 流石は世界有数の大都市である皇都のギルド。
ひっきりなしに屈強な冒険者達が出入りしてくる。
冒険者達はグループで活動している者達が多く、ギルドに入ってくると一人がグループから離れて受付へ向かい他のメンバーは先ほどの酒場へ向かっていた。
食事時からずれていたのに途切れることなく注文が入っていたのは冒険者達の食事の時間帯が各々の仕事の都合で違うからだったのだろう。

 受付への仕事完了の報告を終えた冒険者達は掲示板へと向かい内容を確認していた。
人によってはその紙を剥がして受付へ持っていく者もいる…
一体あれは何なのだろうか?
そんな好奇心がムクムクと湧いてきたエルシャはその掲示板へと向かった。


(常設依頼:ゴブリン討伐、各種薬草採取…討伐依頼:ワイルドバード、クレイジーボア…)

 なるほど、どうやらここには冒険者達への依頼が書かれているようだ。
しばらくその依頼内容にどのような物があるのかを読み込んでいたのだが…
ふと気になる事ができた。
なのでエルシャは近くの冒険者に声をかけて訊ねた。

「もし…この依頼の中にドラゴンの討伐といった物はあるのですか?」
「…え、ドラゴン?イヤイヤ、そんなのBランク以上のクランに依頼するような内容だぞ。
こんな所に張り付けてあったら命がいくつあっても足らん」
「Bランク…ではドラゴンをお一人で倒すという事は…?」
「そんな命知らずな事できるのは個人でAランクになったようなトップの冒険者くらいだろうよ。
お前新人か?ならドラゴン何て考えずにまずは薬草採取か皇都近郊の害獣駆除から始めろよ?」

(私が冒険者???)
 
 これには思わずクスリと笑ってしまうエルシャ。
こんなか細い腕で冒険者など務まるのか?と疑問に思ってしまう。
冒険者の方からしてみれば、腕力の強さが無くとも魔術師であるかもしれない可能性を考えるため外見だけで判断できるものではないのだ。

「ご忠告感謝いたします…ご教授ありがとうございました」

 そう言って頭を下げるエルシャに思わず顔を引きつらせてしまう冒険者。
学園に通う生徒が学費を稼ぐためにバイト代わりに冒険者として活動する事はよくある。
そして、その生徒たちが冒険者達とトラブルになり、ヒョロッとしたアマチャンのような体からは考えられない強力な魔法で黒焦げにされるなど稀によくあるのだ。

 かく言うこの冒険者も昔アネスという冒険者に絡んで一週間寝込む事になった経験があるのだ。
だからこそ、関わり合いになりたくないと感謝を受け取ると慌てて酒場の方へと逃げていくのだった。


 冒険者は行ってしまったがケヴィンはまだ戻ってくる気配が無い。
なのでそのまま掲示板の内容を確認していた。

(………街中の依頼って案外多い物なのね…あら、これは明後日のパーティー警備の応援かしら?)

 自分の出席予定のパーティーに関連する依頼まであったためじっくりと読み込んでいたのだが…
唐突にエルシャに話しかける者が現れた。

「よぉ嬢ちゃん…一人かい?」
「え、私ですか?」
「他に誰がいるってんだ?…一人なら俺が仕事を手取り足取り教えてやるよ」

 そう言って不躾にエルシャのに手を置いて来たのだ。
この突然の無礼な行動に思わずムッとしたエルシャはその手を振り払い掲示板の方へと目を向け無視を決め込んだ。
 
「オイ、何無視してくれてんだこのアマ!?」
「無礼者と会話をする口など持ち合わせてはおりません」
「んだとこらぁ!?」

 突然の無礼な行動の上に怒鳴りつけて来る男…
普通の令嬢であれば、恐れをなして逃げるのが正解なのだろうが、エルシャはそうではなかった。
思わず言い返してしまい火に油を注いでしまったようで、怒った男はエルシャの腕を掴んだ。

「その手を放しなさい」
「まあそう言うなって、言っただろ?手取り足取り教えてやるって。
先ずは宿で作戦会議と行こうぜ」
「これは警告です。もう一度言います、その手を放しなさい」
「金持ちのガキがウロウロしやがって、前から気に入らなかったんだ。
ここがどういう場所か教えてやるよ!!」

 ごろつきのような冒険者はそう言ってエルシャを引きずって行こうとする。
その力にエルシャのか細い腕で敵うわけもなく、抵抗するもそのまま引きずられてしまう。
掴まれた腕に痛みが走るがそれ以上に感じるのは恐怖だ。

 叫び声を上げ助けを求めねば…そう思った瞬間である。
突然、エルシャを引っ張る力が止まったのだ。
そして、聞きなれた声が響いた。

「どういう場所だって?教えてもらいたいな。
…とりあえず俺の嫁の腕を掴んでいい場所ではないはずなんだが?」

 突然自分の腕を掴まれたごろつき冒険者はその主を睨みつけ…
そしてその顔を驚いた表情へと変化させた。

「え??ケヴィン??『ドラゴンの遊具』のケヴィン??」
「ああ、多分そのケヴィンだがとりあえず手を放そうか」

 その言葉と共にケヴィンが腕に握力を込めると「ぐぁ!」という声と共に手を放す。
すると、エルシャが安全になった事を確認したケヴィンはごろつき冒険者を怒鳴りつけた。
 
「よりにもよってその二つ名で呼んでんじゃねーよ!!!」

その言葉と共にケヴィンのそこそこ加減をした拳がごろつき冒険者の腹に突き刺さったのだった。

「怖い思いをさせたな…すまない」
「いえ、私もうかつでした」

 冒険者ギルドではこの程度の諍いは日常茶飯事。
他の冒険者達がケヴィンの姿を見て反応はしたが、それもすぐに興味が無くなり散っていった。

「ところで『ドラゴンの遊具』とは?」
「忘れろ………忘れろ…」

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