追放令嬢とフレポジ男:婚約破棄を告げられ追放された侯爵令嬢はあてがわれたド田舎の男と恋に落ちる。

唯乃芽レンゲ

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2章:新婚旅行は幻惑の都で…(前編)

幕間.執事と子供

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 夜も更け館の使用人達も寝静まった頃、ジェジルは一人館内の戸締りを確認していた。
この館は新人研修の意味も込められて人員が送られてくる。
勿論皆優秀な人材ばかりなのだが、新人である事を忘れてはいけない。
ミスがあるという前提を持っておかなければならないのだ。
だからこそ最終確認の報告を受けた後にこうして自分の目で確認しているのだ。
まあ、年寄りの道楽である感は否めないのだが…

 優秀である…それは誇張ではなく実際にここを離れた使用人は皇族の下へと送られる事も多い。
単に経験が少ないという意味でしかないのだ。
だがその経験の少なさもケヴィンの妻であるエルシャに見透かされてしまったのだが…

 流石というか何というか、王国きっての名家サレツィホール家の娘というのは伊達ではなかった。
ジェジル自身が見定められる視線を送られるなど何十年ぶりだろうか…
そしてその視線は自分が育てた使用人達にも及び、それを育てた人間としての評価も含まれる。

 そんな人間から『わかるだろ?』という無言の高評価を受けて嬉しくないわけもない。
ついつい人からの評価を求めた若かりし日の頃を思い出して張り切ってしまうのも無理もないだろう。
若き日の自分は言葉にしてもらわねば分からなかったが、今はそんな事はない。
そして、そんな自分の成長をこの歳になって実感するとは思わなかった…

(奥様の部屋の結界も問題なく作動しておりますな…)

 日課である確認を次々とこなしていくジジェル。
最後にスタート地点である正面玄関まで戻ってくるとそこである違和感に気が付いた。

(外に何かいるようですね…)

 そのままにしておくことも出来ないため、外へと出て確認しに行くのだが…
その何かは正門の前でうずくまっていた。

(子供?こんな時間に…)

小さな子供を無視する事も出来ず、諦めて声をかける。

「こんな時間にどうしましたか?」

その声にハッとこちらに気が付いたかのように振り向くと「迷子になっちゃった…」と消え入りそうな声で伝えて来た。
時間が時間なので放置というわけにもいかないだろう…
多分親が大変心配している、家の場所を聞いてみると意外と近くのようだったので連れて行く事にした。

道すがら事情を聞いてみる事にしたジェジル。

「何故あのような場所に?」
「お母さんにお花をプレゼントしようとしたの。そしたら奇麗なお花があるお家を見つけたから…」
「おやおや…人の家のお花を勝手に摘んではいけませんよ?」
「ごめんなさい…」

 その子は知っている場所に近づくとコッチコッチと道案内をしてくれるようになった。
勿論夜の街を一人ウロウロさせることも出来ないのでそのまま一緒に家まで送る事にする。
そして遂に家にたどり着くとすぐに母親らしき人が出て来た。

 子供が夜中まで帰って来なかったのだ、大層心配しているだろうと考えていたが、その母親は意外に冷静だった。
ジジェルの話を聞き届けるとひたすら頭を下げ続け、お礼を言ってきたのだ。
こんな夜中だ、正直平民から言葉以外のお礼を貰うつもりもサラサラないジェジルはすぐにその場を立ち去る事にした。

「本当にありがとうございました」
「おじいちゃんありがとう!」
「ええ、今度から気を付けてくださいね」

そう言って立ち去ろうとするジェジルをその子は「ちょっと待って!」と言って引き止めた。

「手を出して?」
「こうでしょうか…」
「はい、これあげる!!」

ジジェルの手のひらにはブローチが置かれており、そしてそれを受け取ったジェジルに対してその子は満面の笑みで言葉をかけた。

「ジェジルおじいちゃんに女神さまの祝福を!」

………
……


 館に戻ってきたジェジルは、正門から入り扉に鍵をかけた。
そして、部屋を一つずつ確認して回る…
その中に灯りが付いたままになった部屋を見つけた。
きっとここがエルシャルフィールの部屋なのだろう、そう思い扉のドアノブに手をかけるが…

バチッ!!とその手が弾かれた。

「結界か…厄介な物を…まあいい」

 この体であれば子供と母親の魔力でギリギリ足りたが、正直言うと老体一人の魔力で若い娘の祝福が行えるかが不安だったのだ。
出来れば自我が希薄になった所で祝福を与えたかったのだが…過ぎた事はしょうがない。
ジェジルは舌打ちをしながらもその扉から離れていくのだった…
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