追放令嬢とフレポジ男:婚約破棄を告げられ追放された侯爵令嬢はあてがわれたド田舎の男と恋に落ちる。

唯乃芽レンゲ

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2章:新婚旅行は幻惑の都で…(後編)

3.フレポジ夫人と謎の令嬢

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 意 味 が わ か ら な い…

確かに自分はエルシャルフィールのはずだ。
そのような記憶を確実に保持しているし、何なら<記憶術>も使う事が出来る。
そしてその記憶の中のエルシャルフィールはこのような顔ではなかったはずだ。

 ガラス窓に写った自分の姿に動揺を隠せない。
慌てて自分の長い髪を確認してみると…
ブロンドだった髪がブラウンへと変わっているではないか。
体格は…特に変わりはないようだが…

………ん?

 左腕に触れた時に違和感を感じた。
服の下に…何か腕輪のようなものがはめられている感触。

ゾワッ…

エルシャの背筋に悪寒が走る。

(…もしや?)

 あの"ジェジルのような者"が見せて来た腕輪を思い出す。
もしやあの腕輪が着けれているのか…?
だがしかし、それでは意味がわからない。
エルシャの体を欲しているのであればエルシャの意識がこの体に宿っているのはどういうわけか?

 あのアイリーンという女が何かをしたのだろうが…一体何をしたというのだ?
そして、こんな事をする意味は何だというのか?

 窓ガラスに写った自分を眺めながら考えていると…
窓の向こうの冒険者と目が合ってしまった。
ハッとなり、すぐにその場から立ち去るエルシャ。

…いや、本当に自分が"エルシャ"なのかもわからない。

 ジェジルが全く別人に変わってしまった事。
あの不審者たちがエルシャの体を狙っている会話を確認してしまった事。
そしてあの腕輪…

もしかしたら、自分はエルシャの記憶を持った別の誰かかもしれない…
そんな疑心暗鬼に囚われてしまっていたのだった。


―――――――――――――――――――――――

 これからどうするべきか…
呆然としそうな頭を叩き起こして思考を巡らせる。

夫であるケヴィンと面会をする…これは絶対だろう。
だが、考えなければならない事は他にもある。
それが、あの者達がコーデリア皇女の誕生パーティーで何かを企んでいるという事。
『薔薇』というキーワード。

 友好関係を結んだ相手に迫る危険。
これを知らせずして何が友好関係か…
相手が強国の皇女だからと言って友人として何もしないなどという事は考えられない。
一方的に利益を享受するだけの関係など不健全なのだ。

 そして、夫の事もある。
夫は仕事の後、あのパーティーに直接向かう事になると言った。
そしてあの彼が女性との約束をすっぽかすという事が考えられない。
誠に残念ではあるが、あの軽薄男は仕事よりも女性との約束の方が重要度が高いと考えている節があるのだ。
つまり、パーティーで夫を待つことと危機を知らせる事、これは両立するという事だ。

…いや、むしろ今エルシャが置かれたこの状況について真面目に聞いてくれる人間がケヴィンという男以外に考えられない。
彼であれば、女性の話を頭から否定して聞くという事はない…そんな信頼感がある。
それが信じられるからこそ今この状況でケヴィンという男を頼りたいと思えるのだ。


 だが問題もある。
今この状況で城に向かってパーティー会場へ入れてくれと頼んだ所で門前払いは確実だろう。
招待状があれば話が違ったのだが、生憎バッグと一緒に盗られてしまっている。
今手元にあるのは、短剣と財布のみ…

 これでどうやって城へ入り込むというのだろうか。
まさか短剣で脅して…などという事が出来るわけもない。
エルシャであれば一瞬で御用となり以後の人生を牢獄で過ごす事となるだろう。

このまま城へ行ってどうにかなる物か?

他の手立て…

王国に関連する施設としてサレツィホール侯爵家ゆかりの施設などもあるが、身の証明を立てる手立てがない。
面識がある相手が都合よく居るとも思えないし、今日のパーティーまでにソレが間に合わない。

………情けない。
周りの助けが無ければこんなもの。
今のエルシャには何の力もないのだ…

………
………
………いや。

何にもない事はない。
財布を取り出し中身を確認する。
貴族の財布らしく銀貨や銅貨だけでなく金貨もかなりの数入っている。

金貨一枚あれば平民の家族ならひと月ほどであれば優に食べていける程の金額。
コレでギルドに依頼を…いや、先程の受付嬢に既に不信感を抱かれてしまっている。
やるとするのであれば…

(冒険者に対して直接交渉か…)

 基本的に冒険者というのはギルドを通さない依頼はやらない傾向にあるのだという。
それは、ギルドを通す事で仕事内容が金額に見合った仕事を斡旋してもらうため、そしてトラブルがあった際にギルドに仲介してもらうためである。
ギルドを通さない非合法の仕事を請け負う冒険者などにロクな人間はいない…そんな話を聞いたことがある。

…だが、それは逆に言えばそれを請け負うような冒険者というのも中にはいるという事。
ギルドを通さなくてもお金で容易に動く人間が…

そう例えば…

 そんな事を考えていると路地裏から何やら怒鳴り声が聞こえて来た。
エルシャは物音を立てないように物陰に隠れてその声の方へと近づいて行った。
するとそこでは二人の冒険者が口論をしているようであった。

「ああ~ん?俺の仕事になんか文句あるっていうのか!!?」

その声の主の片割れにエルシャは確かに見覚えがあった。
………昨日エルシャに絡んできたごろつき冒険者である。

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