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2章:新婚旅行は幻惑の都で…(後編)
22.フレポジ夫婦のダンス
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大切な友人であるコーデリアに迫る危機…
それを阻止する事は絶対に必要な事である。
友人と謳うのであればその友人の為に尽力する事は使命である。
だが今、エルシャはそんな危機よりも重大な危機に直面していた。
有史以来そして未来永劫、人間を悩ませるであろう危機…
人命の危機、国家の危機、ソレらに並び立つ程の人々の苦悩。
それが夫婦の危機である。
エルシャはケヴィンを連れ立ってエメルとしてパーティー会場へと舞い戻った。
ちなみに、どうやらこの猿は夜の庭園でパーティー会場から漏れる音楽に合わせてダンスを…
などと寝ぼけた事を考えていたようなのだが、そんな事させるわけがない。
目が泳いているお猿さんを無視して問答無用でパーティー会場へと引きずってきた。
「どうなさいました、知り合いとのダンスなのですから堂々となさればよろしいのでは?
やましい事は無いのでしょう…?」
「え、ええ勿論…ただ変な噂が立つと…」
「あら…は私はそんなにおかしな人間でしょうか…」
「そんな事はない、貴方は美しい」
「………ありがとうございます?」
ケヴィンがケヴィンでなくなっていたらどうしようと最悪な考えが頭をよぎっていた…
しかし、目の前の男は完璧にケヴィンである。
こんな軽薄な男を演じられる人間などいやしないだろう。
悲しい事に目の前の男は紛れもなくエルシャの夫なのである。
会場に入ると会場内の全ての人間の注目を浴びてしまう二人。
それはそうだろう、あのケヴィンがメイド服を着た女を連れて来たのだから…
妻はどうしたんだ?という声も聞こえてくるが、それを無視して迷わずダンスホールの中心へと歩みを進める。
そして、エルシャとケヴィンが中央に立つとそれに合わせて音楽が鳴り響く…
ケヴィンのリードでダンスが始まる。
最初、一瞬ケヴィンが試すような動きをしたが、エルシャはそのままケヴィンにリードを任せた。
エルシャの踊りは奇抜な事など一切しない教科書通りのものである。
それにも関わらず、会場はその二人のダンスに釘付けのなっていた。
特に今日初めてパーティーに参加したであろう御令嬢たちは目をキラキラさせている。
自分達が練習してきたお手本のような姿…それがあれほど美しい物であったのかと。
教科書通りの踊りを愚直なまでに突き詰めた結果、研ぎ澄まされたソレは正に王道であった。
「まるでダンスのレッスンでも受けているかのようですね…」
「退屈ですか?」
「いえ、昔教えてくれたダンスの先生の教えが今になって身に染みている所です」
そのダンスの先生が良かったのか、はたまたケヴィンの女性に対する執念によるものなのか…
ケヴィンのリードはエルシャにとってとても踊りやすく、状況が違えば素直に上手いと言えるものであった。
それだけに、エルシャがエルシャとして夫と踊れないのが残念に思える。
もっと残念なのは目の前の猿なのだが…
「それで、私の事は思い出していただけたのですか?」
「残念ながら…あなたとの記憶がない事がとても歯がゆい。
ですが、貴方と話していると遥か昔から知っているような気がしてきます。
…きっと私たちの距離も縮まったのではないでしょうか」
「でも私の事を思い出せないのでしょう?…溝が広がり続けている気がするのですが」
「それは溝ではありません、溝だと思っていたものをヒョイと越えればそれは私たちを守る堀となるのですから」
「物は言いようですね…あなたを捕えるための牢獄になるかもしれないですよ?」
「どうやら、貴方の心は未だ頑なな城壁に囲まれているようだ…
私は美しい城から宝石を盗み出す怪盗になる必要があるようですね?」
「あら…では予告状でも送るのですか?」
「ええ、ですから今度一緒にディナーでも…」
………
………
………
「ほぅ…?」
「あれ?」
入れ食い…そんな言葉が浮かんできた。
夫と釣りに行っても、夫が魚を釣り上げた所を見たことが無かったりするのだが…
なるほど、この猿は釣り上げられる方が得意らしい。
今度湖に投げ込んでから釣り糸を垂らしてみようか?
きっと、よく釣れるだろう。
とりあえず、あっさりと証拠は押さえてしまったので、処罰は後に取っておくことにする。
夫の本能のみによる行動のおかげで脇道に逸れてしまったが、今はそれどころではないのだ。
「所でお猿…ではなくケヴィン様、エルシャルフィール様に何か不審な点はありませんでしたか?」
「エルシャに…?いや、特に…今日も美人だな」
「今日はまるで別人のように感じる…とは?」
「…毎日のように色んな顔を見せてくれる女性だ、毎日別人と接している気持ちだよ」
「そ、そうですか」
ぐぬぬ…一瞬ドキリとしてしまったではないか。
陰口と共に育ってきたエルシャにとって、夫がこのように他人に自分の事を良く言ってくれるという事には免疫が無い。
お猿さんを見直してしまいそうになるのだが…
よく考えれば、そんな妻がいるのに他の女性を口説こうとしているのでやっぱりギルティである。
「よく聞いてください、あの方は…ケヴィン様そのブローチは?」
「ん?ああ、エルシャから貰った物なんだが…」
妙に気になるそのブローチ。
何の変哲もない赤いルビーではあるのだが…これは確かあのロ―マック伯爵が着けさせようとしていた物と同じに見える。
ダンス中に無礼ではあるのだが、しかしこんな時でなければじっくり見る事も出来ない。
そのブローチを観察してみると…その奥には宝石のカットで巧妙に隠された黒い宝石。
ゾクリッ…
その宝石はジェジルに着けられていた物とあまりにも酷似していた。
「ケヴィン様…!その宝石をすぐに外してくださいませ」
「うん、これをか…?なんだってまた」
「確証はないのですが、それはとても危険な物で…」
そこでハタと気が付く…
これと類似した宝石を付けた人間がこの会場にどれほどいるのかと。
視線を会場の招待客へと向けると、やはり似たような物を着けている人間が多数…
人の思考を乗っ取る魔道具…
それがもしこの場で起動されてしまったら?
「マズいかもしれません…」
「マズい…?」
「ケヴィン様、どうか聞いてくださ…「ゲッ…!」
言い終わる前にエルシャの言葉はケヴィンの驚愕にかき消されてしまった。
何事かとダンスを止めてケヴィンが注目する方へと向き直ってみると…
「あら、ケヴィン様。妻が席を外している隙に随分と美しい女性と楽しんでおられますね?」
そこにいたのはエルシャルフィールであった。
それを阻止する事は絶対に必要な事である。
友人と謳うのであればその友人の為に尽力する事は使命である。
だが今、エルシャはそんな危機よりも重大な危機に直面していた。
有史以来そして未来永劫、人間を悩ませるであろう危機…
人命の危機、国家の危機、ソレらに並び立つ程の人々の苦悩。
それが夫婦の危機である。
エルシャはケヴィンを連れ立ってエメルとしてパーティー会場へと舞い戻った。
ちなみに、どうやらこの猿は夜の庭園でパーティー会場から漏れる音楽に合わせてダンスを…
などと寝ぼけた事を考えていたようなのだが、そんな事させるわけがない。
目が泳いているお猿さんを無視して問答無用でパーティー会場へと引きずってきた。
「どうなさいました、知り合いとのダンスなのですから堂々となさればよろしいのでは?
やましい事は無いのでしょう…?」
「え、ええ勿論…ただ変な噂が立つと…」
「あら…は私はそんなにおかしな人間でしょうか…」
「そんな事はない、貴方は美しい」
「………ありがとうございます?」
ケヴィンがケヴィンでなくなっていたらどうしようと最悪な考えが頭をよぎっていた…
しかし、目の前の男は完璧にケヴィンである。
こんな軽薄な男を演じられる人間などいやしないだろう。
悲しい事に目の前の男は紛れもなくエルシャの夫なのである。
会場に入ると会場内の全ての人間の注目を浴びてしまう二人。
それはそうだろう、あのケヴィンがメイド服を着た女を連れて来たのだから…
妻はどうしたんだ?という声も聞こえてくるが、それを無視して迷わずダンスホールの中心へと歩みを進める。
そして、エルシャとケヴィンが中央に立つとそれに合わせて音楽が鳴り響く…
ケヴィンのリードでダンスが始まる。
最初、一瞬ケヴィンが試すような動きをしたが、エルシャはそのままケヴィンにリードを任せた。
エルシャの踊りは奇抜な事など一切しない教科書通りのものである。
それにも関わらず、会場はその二人のダンスに釘付けのなっていた。
特に今日初めてパーティーに参加したであろう御令嬢たちは目をキラキラさせている。
自分達が練習してきたお手本のような姿…それがあれほど美しい物であったのかと。
教科書通りの踊りを愚直なまでに突き詰めた結果、研ぎ澄まされたソレは正に王道であった。
「まるでダンスのレッスンでも受けているかのようですね…」
「退屈ですか?」
「いえ、昔教えてくれたダンスの先生の教えが今になって身に染みている所です」
そのダンスの先生が良かったのか、はたまたケヴィンの女性に対する執念によるものなのか…
ケヴィンのリードはエルシャにとってとても踊りやすく、状況が違えば素直に上手いと言えるものであった。
それだけに、エルシャがエルシャとして夫と踊れないのが残念に思える。
もっと残念なのは目の前の猿なのだが…
「それで、私の事は思い出していただけたのですか?」
「残念ながら…あなたとの記憶がない事がとても歯がゆい。
ですが、貴方と話していると遥か昔から知っているような気がしてきます。
…きっと私たちの距離も縮まったのではないでしょうか」
「でも私の事を思い出せないのでしょう?…溝が広がり続けている気がするのですが」
「それは溝ではありません、溝だと思っていたものをヒョイと越えればそれは私たちを守る堀となるのですから」
「物は言いようですね…あなたを捕えるための牢獄になるかもしれないですよ?」
「どうやら、貴方の心は未だ頑なな城壁に囲まれているようだ…
私は美しい城から宝石を盗み出す怪盗になる必要があるようですね?」
「あら…では予告状でも送るのですか?」
「ええ、ですから今度一緒にディナーでも…」
………
………
………
「ほぅ…?」
「あれ?」
入れ食い…そんな言葉が浮かんできた。
夫と釣りに行っても、夫が魚を釣り上げた所を見たことが無かったりするのだが…
なるほど、この猿は釣り上げられる方が得意らしい。
今度湖に投げ込んでから釣り糸を垂らしてみようか?
きっと、よく釣れるだろう。
とりあえず、あっさりと証拠は押さえてしまったので、処罰は後に取っておくことにする。
夫の本能のみによる行動のおかげで脇道に逸れてしまったが、今はそれどころではないのだ。
「所でお猿…ではなくケヴィン様、エルシャルフィール様に何か不審な点はありませんでしたか?」
「エルシャに…?いや、特に…今日も美人だな」
「今日はまるで別人のように感じる…とは?」
「…毎日のように色んな顔を見せてくれる女性だ、毎日別人と接している気持ちだよ」
「そ、そうですか」
ぐぬぬ…一瞬ドキリとしてしまったではないか。
陰口と共に育ってきたエルシャにとって、夫がこのように他人に自分の事を良く言ってくれるという事には免疫が無い。
お猿さんを見直してしまいそうになるのだが…
よく考えれば、そんな妻がいるのに他の女性を口説こうとしているのでやっぱりギルティである。
「よく聞いてください、あの方は…ケヴィン様そのブローチは?」
「ん?ああ、エルシャから貰った物なんだが…」
妙に気になるそのブローチ。
何の変哲もない赤いルビーではあるのだが…これは確かあのロ―マック伯爵が着けさせようとしていた物と同じに見える。
ダンス中に無礼ではあるのだが、しかしこんな時でなければじっくり見る事も出来ない。
そのブローチを観察してみると…その奥には宝石のカットで巧妙に隠された黒い宝石。
ゾクリッ…
その宝石はジェジルに着けられていた物とあまりにも酷似していた。
「ケヴィン様…!その宝石をすぐに外してくださいませ」
「うん、これをか…?なんだってまた」
「確証はないのですが、それはとても危険な物で…」
そこでハタと気が付く…
これと類似した宝石を付けた人間がこの会場にどれほどいるのかと。
視線を会場の招待客へと向けると、やはり似たような物を着けている人間が多数…
人の思考を乗っ取る魔道具…
それがもしこの場で起動されてしまったら?
「マズいかもしれません…」
「マズい…?」
「ケヴィン様、どうか聞いてくださ…「ゲッ…!」
言い終わる前にエルシャの言葉はケヴィンの驚愕にかき消されてしまった。
何事かとダンスを止めてケヴィンが注目する方へと向き直ってみると…
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