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2章:新婚旅行は幻惑の都で…(後編)
25.フレポジ夫人と軽薄男
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一体に何が起こっているというのだ?
エルシャルフィールが皇女どもに連れて行かれてヒヤリとしたと思ったら今度は唯のメイドとケヴィンが踊りだす。
そしてエルシャルフィールが戻ってくると今度はそのメイドを相手にしてしまう。
更には今度はそのメイドが何故か"薔薇"の腕輪を身に着けており、それを暴露する?
「一体アイツは何をやっているんだ…?」
ジェジルはこの不可解な行動に眉をひそめ怪しむ。
もしや、あのエルシャルフィールもケヴィンに汚染されてしまったのでは?
そんな不安をよそに会場の中心では異様な雰囲気が漂っていた。
「まあいい、皇女もあそこにいるのだ。これ以上高望みは避けて始めてしまおう」
ジェジルはそっとその場を離れ待機している仲間の下へと向かった。
―――――――――――――――
「聞いて…下さぃ…」
床に組み伏せられ拘束されているエルシャは消え入るような声で言葉を出す。
しかし、その声はあまりにも儚い物であった。
きっとこの言葉は誰にも届かないのだと…
あの時の様に…
………
しかし、そこに待ったをかける人間がいた。
「姐さん、その手を放してくれ」
ハッとそちらに目を向けるとそこには自分の夫の姿。
「あん?私に指図しようってのか?」
「その人はさっきまで俺とダンスを踊っていた相手だ」
「ケヴィン…アンタの目は節穴かい?この腕輪が何なのかわからないわけでもないだろうに」
「いいからとっととその手放せっつってんだこのアバズレ」
「ンだとこらぁ…!」
ケヴィンの煽りに思わずエルシャから手を放しケヴィンの襟首を掴むリディス。
刷り込まれた上下関係で思わず玉ヒュンしてしまうが、一応まともにやり合えば勝てる…はず。
そう言い聞かせて睨みつける事を止めにないケヴィン。
目の前のバケモンがまともにやるわけが無いという事実はミエナイキコエナイ。
「姐さん、キレないで下さいよ…」
「ケヴィ~ン、あんた後で覚えときなさいよ~」
「あら、私は好きよ?」
怒りを露にするリディスだが他のメンバーがなだめられ、渋々とツバを吐き捨て会場から去っていく…
おい貴婦人…と心の中でツッコみを入れながらもケヴィンはエルシャの方へと手を差し出した。
「それで謎のお嬢様…何を聞かせてもらえるんでしょうか?」
「ケヴィン様…どうして?」
「そりゃあ…姐さん達から女の話は黙って聞けって叩き込まれてるからな」
困ったように笑いつつ手を差し伸べるケヴィン。
「そして何よりキミの瞳は魅力的だ…」
目の前にいるのは腕輪を着けた女…
ケヴィンが目にしてきた操られた人間達は皆、同じ目をしていた。
だが、目の前の女性はそれらとは違いハッキリと自分の意志を持って行動している。
だからこそその言葉は聞くべきだと思えたのだ。
手を差し伸べて来る男を呆然と見つめてしまうエルシャ。
エルシャをエルシャとは思っていない…
しかし、ケヴィンはケヴィンであった。
どうやらこの軽薄男は女にとことん甘く、こんな状況ですら手を差し伸べてしまう…
差し出される手に手を伸ばすエルシャであったが…
震える手…
しかし、先程までの震えとは既に意味が違っていた。
みるみると顔が火照り、心臓が早鐘を打ち始める…
周りに誰も味方がいない状況に置かれてもなお見知らぬ女に手を差し伸べて来る男性。
この男の行動にはきっと下心があるのだろう…
そう分かっていたとしてもエルシャはその姿に救われていた。
エルシャは理解した…
きっとケヴィンが口説いて来た女性たちの多くもこうして手を差し伸べられたのだろう。
もしかしたらそんな数多の女性たちの一人過ぎないのかもしれない。
それでもこのエルシャの手を引くケヴィンの温かさに嘘は無いのだとわかる。
出会ってから今まで、それはずっと変わらない。
彼にとってはそれはあまりに当たり前の事で…
だからこそ、それで女性を口説けないと思ったらすぐにでも目移りしてしまう。
だがエルシャにとってはそれは宝石よりも珍しい何かなのだ。
手放したくない程に…
手を取ってくれたケヴィンの手を放さぬようにとギュッと握り立ち上がるエルシャ。
そんな姿にエルシャルフィールが声をかける。
「ケヴィン様…パートナーである新妻を放置して他の女性を優先するのですか?」
「ぐぅ…」
その言葉に思わず手を放してしまいそうになるケヴィンであったが、そうはさせないと両手でギュッと握り直す。
離すものかと…
「おい…」
「ケヴィン様…どうか騙されないで。彼女はエルシャルフィールではないのです」
「………へ?」
エルシャではないという言葉にビクリとするケヴィン。
何度も何度も失敗してきた結婚…
ようやく成立した相手。
だが、確かにエルシャは結婚前に一度も会った事の無い相手であり「本物のエルシャルフィールではない」と言われてケヴィンがこの場で確かめる術は持ってはいなかったりする。
(え…まさか、別人と結婚して浮かれてたなんてわけないよな?)
今までの失敗の経験がエルシャとのうまくいきすぎている関係に疑念を抱いてしまう。
頭の中には今日までの幸せな結婚生活が走馬灯のように蘇る。
「そ、そそそ…そんなことあるわけないだろ???」
思いっきり動揺し、エルシャの真意とは別の方向でうろたえるケヴィンであった。
そして、そんな混乱をしているだけの姿を見てエルシャはと言うと…
(やはり、完璧に信じ込んでいたように見えて実は彼女の事を疑っていたのだわ…流石ケヴィン様!)
などと、愚か者という人間がいるという現実をすっかり忘れ夫の評価を上げていたのであった。
「ケヴィン様…彼女は本物ではないのです」
「本物ではないのならば、本物のエルシャはどちらへ?」
その言葉に返答をするのはエルシャルフィール。
そしてそれに臆することなくエルシャはその言葉を発した。
「………私がエルシャルフィールです」
「へ?」
エルシャのその言葉を聞いて呆けた顔で驚くケヴィン。
おや?少しは疑っていたのではなかったのか??と疑問を持つも、今はそれを気にする時でもない。
「あらまあ、何を言うかと思えば貴方がエルシャルフィールであると?
これ程までに容姿が違うのに?」
クツクツと呆れたように笑いながら、そして一つの提案をする。
「それではエルシャルフィールを知る人間にお尋ねしてみましょうか…?
皇女殿下…彼女と私、どちらがエルシャルフィールでありましょうか?」
言って、コーデリア皇女の方へと振りかぶる。
エルシャも一瞬は期待するもその期待はすぐに裏切られた。
「勿論、どう見ても貴方ですね」
このコーデリアの裏切りに思わず目を伏せるエルシャ。
「ケヴィン様、気にする必要はありません。大方その腕輪でそう思わされているだけなのでしょう。
さあ、ソロソロ離れて頂けませんか?私も妻としての立場という物があります」
そんな事はあり得ない!
エルシャルフィールの言葉にそう叫びたかったが、今エルシャが置かれたこの状況ではそれも無駄だろう。
…だが、ケヴィンと繋がれたこの手を放す気も無かった。
「ケヴィン様…一つお願いがあります」
「なんだ?」
ケヴィンの手をギュッと握りながら覚悟を決める。
「もし…もしも、これから私が私でなくなった場合。
その時は私を斬り捨ててくださいませ」
「断る」
「………???」
エルシャの覚悟はケヴィンに即座に切り捨てられ、混乱してしまう。
目をキョトンとさせケヴィンの目を見つめる。
「なぜ…」
「キミが自分をエルシャだと名乗りエルシャである…少なくともその心を持っている可能性が残されているのであれば、それを守るのは夫の務めだろ?」
「私が嘘を言っているとは思わないのですか?」
「言っただろ?妻に騙されるのは夫の義務だって」
そう言って軽薄男はウインク一つ…
エルシャの心は締めあげられてします。
心臓が叫び声を上げ、握った手の暖かさに心が躍る。
沈んだと思ったらまた騒ぎ出す。
この人と結婚してからずっと、エルシャの心は荒波の中だ…
それはまるで初めてハーケーンの地に足を踏み入れた時の様に。
いや、それ以上の感情の波がこの人と結婚してから常に渦巻いている。
それはきっとどんな冒険者でも体験した事の内容なスリリングな日々であろう。
まだ旅は始まったばかり…
他の誰にもこの航海を譲る事など出来はしないのだ。
「………はい」
そしてエルシャは震える心を奮い立たせ、腕輪を外して見せる。
自分は腕輪に支配された人間ではないと証明するために…
自分のこの心こそがエルシャルフィールであるのだと…
エルシャルフィールが皇女どもに連れて行かれてヒヤリとしたと思ったら今度は唯のメイドとケヴィンが踊りだす。
そしてエルシャルフィールが戻ってくると今度はそのメイドを相手にしてしまう。
更には今度はそのメイドが何故か"薔薇"の腕輪を身に着けており、それを暴露する?
「一体アイツは何をやっているんだ…?」
ジェジルはこの不可解な行動に眉をひそめ怪しむ。
もしや、あのエルシャルフィールもケヴィンに汚染されてしまったのでは?
そんな不安をよそに会場の中心では異様な雰囲気が漂っていた。
「まあいい、皇女もあそこにいるのだ。これ以上高望みは避けて始めてしまおう」
ジェジルはそっとその場を離れ待機している仲間の下へと向かった。
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「聞いて…下さぃ…」
床に組み伏せられ拘束されているエルシャは消え入るような声で言葉を出す。
しかし、その声はあまりにも儚い物であった。
きっとこの言葉は誰にも届かないのだと…
あの時の様に…
………
しかし、そこに待ったをかける人間がいた。
「姐さん、その手を放してくれ」
ハッとそちらに目を向けるとそこには自分の夫の姿。
「あん?私に指図しようってのか?」
「その人はさっきまで俺とダンスを踊っていた相手だ」
「ケヴィン…アンタの目は節穴かい?この腕輪が何なのかわからないわけでもないだろうに」
「いいからとっととその手放せっつってんだこのアバズレ」
「ンだとこらぁ…!」
ケヴィンの煽りに思わずエルシャから手を放しケヴィンの襟首を掴むリディス。
刷り込まれた上下関係で思わず玉ヒュンしてしまうが、一応まともにやり合えば勝てる…はず。
そう言い聞かせて睨みつける事を止めにないケヴィン。
目の前のバケモンがまともにやるわけが無いという事実はミエナイキコエナイ。
「姐さん、キレないで下さいよ…」
「ケヴィ~ン、あんた後で覚えときなさいよ~」
「あら、私は好きよ?」
怒りを露にするリディスだが他のメンバーがなだめられ、渋々とツバを吐き捨て会場から去っていく…
おい貴婦人…と心の中でツッコみを入れながらもケヴィンはエルシャの方へと手を差し出した。
「それで謎のお嬢様…何を聞かせてもらえるんでしょうか?」
「ケヴィン様…どうして?」
「そりゃあ…姐さん達から女の話は黙って聞けって叩き込まれてるからな」
困ったように笑いつつ手を差し伸べるケヴィン。
「そして何よりキミの瞳は魅力的だ…」
目の前にいるのは腕輪を着けた女…
ケヴィンが目にしてきた操られた人間達は皆、同じ目をしていた。
だが、目の前の女性はそれらとは違いハッキリと自分の意志を持って行動している。
だからこそその言葉は聞くべきだと思えたのだ。
手を差し伸べて来る男を呆然と見つめてしまうエルシャ。
エルシャをエルシャとは思っていない…
しかし、ケヴィンはケヴィンであった。
どうやらこの軽薄男は女にとことん甘く、こんな状況ですら手を差し伸べてしまう…
差し出される手に手を伸ばすエルシャであったが…
震える手…
しかし、先程までの震えとは既に意味が違っていた。
みるみると顔が火照り、心臓が早鐘を打ち始める…
周りに誰も味方がいない状況に置かれてもなお見知らぬ女に手を差し伸べて来る男性。
この男の行動にはきっと下心があるのだろう…
そう分かっていたとしてもエルシャはその姿に救われていた。
エルシャは理解した…
きっとケヴィンが口説いて来た女性たちの多くもこうして手を差し伸べられたのだろう。
もしかしたらそんな数多の女性たちの一人過ぎないのかもしれない。
それでもこのエルシャの手を引くケヴィンの温かさに嘘は無いのだとわかる。
出会ってから今まで、それはずっと変わらない。
彼にとってはそれはあまりに当たり前の事で…
だからこそ、それで女性を口説けないと思ったらすぐにでも目移りしてしまう。
だがエルシャにとってはそれは宝石よりも珍しい何かなのだ。
手放したくない程に…
手を取ってくれたケヴィンの手を放さぬようにとギュッと握り立ち上がるエルシャ。
そんな姿にエルシャルフィールが声をかける。
「ケヴィン様…パートナーである新妻を放置して他の女性を優先するのですか?」
「ぐぅ…」
その言葉に思わず手を放してしまいそうになるケヴィンであったが、そうはさせないと両手でギュッと握り直す。
離すものかと…
「おい…」
「ケヴィン様…どうか騙されないで。彼女はエルシャルフィールではないのです」
「………へ?」
エルシャではないという言葉にビクリとするケヴィン。
何度も何度も失敗してきた結婚…
ようやく成立した相手。
だが、確かにエルシャは結婚前に一度も会った事の無い相手であり「本物のエルシャルフィールではない」と言われてケヴィンがこの場で確かめる術は持ってはいなかったりする。
(え…まさか、別人と結婚して浮かれてたなんてわけないよな?)
今までの失敗の経験がエルシャとのうまくいきすぎている関係に疑念を抱いてしまう。
頭の中には今日までの幸せな結婚生活が走馬灯のように蘇る。
「そ、そそそ…そんなことあるわけないだろ???」
思いっきり動揺し、エルシャの真意とは別の方向でうろたえるケヴィンであった。
そして、そんな混乱をしているだけの姿を見てエルシャはと言うと…
(やはり、完璧に信じ込んでいたように見えて実は彼女の事を疑っていたのだわ…流石ケヴィン様!)
などと、愚か者という人間がいるという現実をすっかり忘れ夫の評価を上げていたのであった。
「ケヴィン様…彼女は本物ではないのです」
「本物ではないのならば、本物のエルシャはどちらへ?」
その言葉に返答をするのはエルシャルフィール。
そしてそれに臆することなくエルシャはその言葉を発した。
「………私がエルシャルフィールです」
「へ?」
エルシャのその言葉を聞いて呆けた顔で驚くケヴィン。
おや?少しは疑っていたのではなかったのか??と疑問を持つも、今はそれを気にする時でもない。
「あらまあ、何を言うかと思えば貴方がエルシャルフィールであると?
これ程までに容姿が違うのに?」
クツクツと呆れたように笑いながら、そして一つの提案をする。
「それではエルシャルフィールを知る人間にお尋ねしてみましょうか…?
皇女殿下…彼女と私、どちらがエルシャルフィールでありましょうか?」
言って、コーデリア皇女の方へと振りかぶる。
エルシャも一瞬は期待するもその期待はすぐに裏切られた。
「勿論、どう見ても貴方ですね」
このコーデリアの裏切りに思わず目を伏せるエルシャ。
「ケヴィン様、気にする必要はありません。大方その腕輪でそう思わされているだけなのでしょう。
さあ、ソロソロ離れて頂けませんか?私も妻としての立場という物があります」
そんな事はあり得ない!
エルシャルフィールの言葉にそう叫びたかったが、今エルシャが置かれたこの状況ではそれも無駄だろう。
…だが、ケヴィンと繋がれたこの手を放す気も無かった。
「ケヴィン様…一つお願いがあります」
「なんだ?」
ケヴィンの手をギュッと握りながら覚悟を決める。
「もし…もしも、これから私が私でなくなった場合。
その時は私を斬り捨ててくださいませ」
「断る」
「………???」
エルシャの覚悟はケヴィンに即座に切り捨てられ、混乱してしまう。
目をキョトンとさせケヴィンの目を見つめる。
「なぜ…」
「キミが自分をエルシャだと名乗りエルシャである…少なくともその心を持っている可能性が残されているのであれば、それを守るのは夫の務めだろ?」
「私が嘘を言っているとは思わないのですか?」
「言っただろ?妻に騙されるのは夫の義務だって」
そう言って軽薄男はウインク一つ…
エルシャの心は締めあげられてします。
心臓が叫び声を上げ、握った手の暖かさに心が躍る。
沈んだと思ったらまた騒ぎ出す。
この人と結婚してからずっと、エルシャの心は荒波の中だ…
それはまるで初めてハーケーンの地に足を踏み入れた時の様に。
いや、それ以上の感情の波がこの人と結婚してから常に渦巻いている。
それはきっとどんな冒険者でも体験した事の内容なスリリングな日々であろう。
まだ旅は始まったばかり…
他の誰にもこの航海を譲る事など出来はしないのだ。
「………はい」
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