追放令嬢とフレポジ男:婚約破棄を告げられ追放された侯爵令嬢はあてがわれたド田舎の男と恋に落ちる。

唯乃芽レンゲ

文字の大きさ
102 / 123
2章:新婚旅行は幻惑の都で…(後編)

26.フレポジ夫人と偽物夫人

しおりを挟む
腕輪に手をかけるエルシャ…
ただそれだけの行為であるが、会場は緊張に包まれていた。
ほとんどの人間には何を行おうとしているのかは分からないはずであろう。
だが、ケヴィンにはその意味が理解できていたようだ。

エルシャが腕輪を外そうとした瞬間…
一瞬だけエルシャを止めようとする仕草が見て取れたのだ。
女性にとことん甘い夫に思わずクスリと笑ってしまう。

(妻の目の前で他の女性をそこまで心配されますか…)

モヤモヤとする気持ちもある…
だが例えそれが下心から来ているとしてもそれで助けられた女性たちは確かに存在するのだ。
エルシャ自身も…
夫の下心は間違いなく人を助けるために振るわれている。
その女性に好かれるためならばどんな人間でも助けて見せるそのブレない態度は尊敬できる。
そして、だからこそ夫が味方として立っていなくても傍にいてくれるだけで心強いと思えるのだ。

コーデリアとメイド達の目が警戒に変わるが、その注意はどうやら周りで警備をしている騎士達に向けられているようだ。
どうやら、エメルとの協力関係はまだ途切れていないのだろう。
夫もどうやら何かあったら助けに入るつもりらしくジッとエルシャに注意を払ている。

そしてエルシャルフィールの観察するような目…

絶対に負けるものか…

そう言い聞かせエルシャは腕輪をそっと外すのであった…

………

………

………

(何も起きない?)

外した腕輪を震える手で持つのだが…

「手を放せ」

ケヴィンのその言葉にハッとするようにその手を放すと、腕輪が転がっていく。
それをケヴィンがハンカチを使いながら拾い上げ物を「ふむ…なるほど…」と確認する。

そしてしばらくして…

「………よくわからん」

ズコーっと見事に会場中がよろめいてしまった。
少々不安になってしまうのだが頼りになる人間である事は確かなのだと言い聞かせ、エルシャはエルシャルフィールと対峙する。

「これで、私が腕輪に支配された人間ではない事は分かっていただけましたね?」
「ええ勿論…あなたは正常な狂言師という事なのでしょう?」
「ペテン師に狂言師扱いされるとは光栄な事です。
普段の行いが正当である証明となりましょう」
「ペテン師ですか…それでは私がペテン師である証明は出来るのですか?」
「証明もなにも…あなたの所作全てに侯爵家の娘として教養を感じられません。
見てくれを似せた所で中身は全くの別物、ハッキリ申し上げて落第点です。
貴方のような方がエルシャルフィールを名乗るなど、侮辱と言ってもよいでしょう」
「所作ですか、これはまた…」

呆れたように笑うエルシャルフィールはふとケヴィンに視線を向け質問をする。

「どうなのですか、ケヴィン様?」
「え?俺…?」

まるで突然振られたかのように驚いた顔になるケヴィン。
エルシャもムキッとケヴィンの方へ「夫ならわかるだろ?」という目を向ける。

そして、ケヴィンはというと…

「所作…所作?」

二人を交互に見つめながら考えこみ…
次第にその視線が胸元へと向かって………っておぃ。

ギロリと睨みつけると一瞬怯むが、それでへこたれないのが夫である。
ハッと気が付いたかのように二人を見つめ近づいてくる。

「これってつまりアレだろ?…二人の美女が俺を取り合ってるって事だ」
「………???」

いやまあそうなると言えばそうなる…のか?

「二人の美女が取り合うように俺の妻でいたがる…コレがモテ期ってやつなのかな。
こんなに嬉しい事はない…」
「………???」
「何を言っているのですか?」

目の前の二人のみならず会場中の人間の頭に「?」が乱舞する。
そんな中で平然の続けるケヴィン。

「ああ、悪い悪い…それで、どっちが本物のエルシャかって話だったな?
俺の答えはこうだ…」

二人の手を取り自分の前でその手を重ねて見せると優し気な目で囁いた…

「どっちも美人なんだ…俺を取り合うんじゃなく、手を取り合って両方俺の嫁って事でいいんじゃないか?」

………

………

………

会場中の時が止まり…

ふと、隣のエルシャを見るとそこには同時にこちらを見ている相手の瞳。
そして見つめ合う二人…

(ああ、なるほど…私は今こんな顔をしているのか………)

どちらからともなくふっとと笑ったかと思うと、二人は鏡の様に同時に振りかぶり…

『『バシーーーンッ!!』』

二人の女の怒りがケヴィンの両頬に直撃し怒鳴り声が響いた。

「「そんなわけあるかーーーーっ!!!!」」

男を取り合っていた二人の女…
それが手を取り合ったのならどうなるか。
当然の帰結である。

自分を取り合う女二人を見て、極めて高度な教育を受けて来た頭脳がはじき出した計算の結果、妻が二人おっぱいが四つになったと変換されてしまう猿は制裁を受けて然るべきであろう。

―――――――――――――――

パーティー会場の中央でそんな茶番劇が繰り広げられている最中、一人の男がその傍へと歩み寄っていた…
その男の目つきが明らかにおかしいため、周りに人間達は思わずギョッとする。

「お、おい君…大丈夫か?」

傍にいた人間が声をかけようとするのだが、男はそちらに向かってを手を掲げ…

バンッ!

衝撃波で声をかけて来た男性を吹き飛ばす。

その騒ぎに今までケヴィン達に注目していた会場中の人間の目がそちらに向けられた。

「なんだ?」

ケヴィンもひっぱたかれた両の頬を擦りながら二人のエルシャと男の間に入り注意を払う。
そして男は突然手を掲げ天に向かって叫び声を上げた。

「くふっ!くははははははっ!女神よ!我が祈り受け取り給えッ!」

瞬間、ケヴィンは咄嗟に「やめろっ!」と叫ぶが声はそれを止める事は出来なかった。
「かはっぁ!」という声と共に男は背中から心臓を一突きされ崩れ落ちる…
そして、男を刺した人間に視線を向けるとケヴィンは呟いた。

「ジェジル…」

そこに立っていたのは血染めの剣を持ったジェジル。
そして、ジェジルはそのまま先程の男と同様に女神への祈りを唱えたのだ。

「女神よ!供物を対価にここに聖域を与えたまえ!」

その言葉と共にどす黒い邪気がパーティー会場を取り囲む…
その恐怖にケヴィンに縋りつくエルシャ、ケヴィンも条件反射で傍にいた二人を庇うように抱きしめる。
そして呟いた…

「クソ…邪神の聖域か…」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ

汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。 ※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。

処理中です...