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2章:新婚旅行は幻惑の都で…(後編)

37.フレポジ夫人と油断

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一切の躊躇もなく刎ね飛ばされた首…
そして、動きを止めた体の方もメルキスによって入念に八つ裂きにされていく。
それを見て口をパクパクさせながら沈黙するケヴィン。

エルシャもその夫の首が転がるその様にゾッとするがすぐさま頭を振りアレは魔物の物だと自分に言い聞かせた。
周囲を見渡すと他の騎士達が対応していたゴーレムも動きを止めている。

(終わった…?)

転がる首と動きを止めたゴーレムを確認し、絶望的な戦いを生き残ったのだと会場中の人々から弛緩した空気が流れていた。
それはエルシャ達とて同じなのだが…
そんな中でもケヴィン達は警戒を続けていた。

「腕輪は?」
「これじゃない?」
「例の腕輪ですか…石が無いですね」
「壊れたのか…カルディエはこういうの詳しいんだろ?」
「コロコロと新しい迷惑を開発する事に命かけてる奴等なんて知らないわよ、だから皇家に丸投げしたんだから」
「ヒイロ殿的に言うと"今週のビックリドッキリ何とか"という奴ですね。最近は鳴りを潜めていたんですが…」
「すっげー迷惑…」

………

ケヴィン達が警戒しつつも話し合っているが、エルシャも安全を宣言されていない為安心はできない。
キョロキョロと辺りを伺っていたエルシャであったが、ふと違和感を感じた。

「………結界は消えないのですか?」
「…え?」

ライムがその言葉ですぐに視線を結界に向けると確かに"邪神の結界"はそのままであった。
その状況に思わず「あっ…」と声が漏れるライム。

…一瞬の油断。

そのつもりはなかったはずなのだが、結果としてそうなってしまったのだ。
ヒュッ!…という音と共に突然エルシャの目の前を何かが通り過ぎた…

(!!!???)

何が何やらわからず、通り過ぎた先に視線を送る…
するとそこにあったのは身体に黒い剣が突き刺さったコーデリアの姿であった。

「エーデル!!!」「コーデリア様!!」

咄嗟に声をあげるエルシャとケヴィン。
すぐに剣を放った出どころの方を見るとそこにあったのはケヴィンの姿を模した生首。
そして、その首が徐々にジェジルの物へと変化していくのだが…
その額には黒い宝石が浮かび上がっている。

「!…首だけでまだ生きているのか」

メルキスの呟きに応えるようにフィフティフの斬り刻まれたはずの身体が影に溶けていき、それが首へと集まっていった。
そして、集まった影が首を持ち上げドロドロとした黒い泥人形の様に人間の形へと変化していく。

(ケヴィン様達があれだけ苦労して倒したと思ったのに…)

苦々しく思うエルシャであったが、今はそれどころではない。
すぐにコーデリアの下へ駆け寄ろうとするのだが…あろうことか、忠臣であるはずのライムに止められてしまった。

「何故です!?すぐに治療をしないと!」
「彼女なら大丈夫だから!」
「………???」

何を言っているのだ?
大切な友人に剣が突き刺さっているのだ、すぐにでも駆け寄らねばならない。
ライムの大丈夫という言葉に怒りを露にしていたが…

「いたたーっ!…て、痛くはないけど…ああ~体が少し吹き飛ばされました~」

当の本人は至って平然と…というより突き刺さった部分がドロリと溶けているではないか。

「な…な…なにが???」

うろたえるエルシャだったが、どうやらそのコーデリアらしき者もそんなエルシャに気が付いたようで…

「あ、エメルさんヤッホー!コーデリア様の影武者のライムさんですよ~凄いでしょ」

そう言ってライムの姿になって見せてくる。

「影武者ぁ~?…ってじゃあライムさんは」

慌てて隣にいるライムの姿をした人物を確認するエルシャ。
そんなエルシャにその人物は「ブイッ!」とピースをしながら宣言した。

「何を隠そう私がコーデリアだったのだ、わっはっは!」
「………何をやっているのですか?」
「何ってエルシャが心配だから傍にいてあげたんじゃない」

ちなみにライムはコーデリアが昔皇都の地下ダンジョンでテイムした<レジェンダリースライム>なのだとか…
聞いてて頭が痛くなってくるがとにかく友人が何事もなかった事は歓迎すべき事だ。
コーデリアに問題が無いのであればとフィフティフの方へと向き直る。

「せっかく倒したと思ったのにまだ生きているのですか…」
「本当にしぶといわね…でも時間は十分稼げたはず」
「………???」


そこにはジェジルの姿に戻ったフィフティフが立っていた。
傷こそ回復しているようだがその姿は疲労困憊の様子。
そして、コーデリアだけでもと隙をついた一撃も無駄に終わった事に歯ぎしりをしていたのだった。

「おのれ…ケヴィンさえいなければこんな事には!」
「え、俺?どっちかって言うと俺は巻き込まれただけじゃねーかな???
ほら、メルキスとかの方が活躍してるって言うか…」
「ふっ、ケヴィン殿の力思い知ったか!」

何故か自分にヘイトが向いている事に不服なケヴィン。
なんとか矛先をメルキスに向けようとするも、そのメルキスから裏切られてしまった。

そんなケヴィンとメルキスを睨んでいたフィフティフであったが、ある事に気が付き思わずニヤリと顔に笑みを浮かべた。
エルシャはそのフィフティフの笑みにゾクリとしたものを感じすぐにその視線の先に目を向ける。
そしてソレに気が付いた瞬間、考える事を捨てただ全力で走った。

「エルシャ!?」

コーデリアの制止など聞こうはずもない、そのような余裕などないのだから。
走りながらもケヴィンから貰った短剣を引き抜くエルシャ。
向かう先は近衛騎士のメルキス、ソレに向かって短剣を抜き全速力で駆けて行く。
咄嗟に斬られても何も文句は言えない行為であり、短剣を掲げ自分の方へと駆けて来る女に対してメルキスも当然迎撃態勢に入る。
フィフティフもメルキスに対して手を掲げ、エルシャも遅れまいと叫んだ。

「ヴェルイードの加護を!!」「ロアリスの加護を!!」

自分に向かって短剣を掲げて走ってくる気が触れたかのような行動に対して問答無用に斬ろうとしたメルキス。
だが、エルシャの叫んだロアリスの名に迷いが生じた。
彼女を斬ってはいけないと…

だからと言ってこのままおめおめと斬られるわけにはいかない。
幸い相手は気迫こそあるが短剣の扱いはずぶの素人に見える。
エルシャの振り下ろす剣を自身の剣で叩き落とす、たったそれだけのハエを落とすよりも簡単な対処…のはずであった。
しかし振り下ろされた短剣にメルキスの剣が当たった瞬間…

パキーン…

「………へ?」

何が起こったのか分からなかった。
防いだ筈の短剣が何故か自分の目の前を掠めたのだ。
相手に殺意があったのであれば死んでいてもおかしくない。

そして理解が出来ない事にメルキスの剣は刀身が切り離され、その刀身がカランと音を立てて地面に落ちたのだ…

「ちょっ…ケヴィン、あの短剣なんなの!?」
「え?いや…あれはとある司教様から貰った、信仰心が無かったら驚くほど斬れなくなる宴会用のジョークグッズなんだが………???」

勿論エルシャの狙いは剣を斬る事などでは決してない。
だがそんな事はメルキスにとっては些細な事。

「ま…まけ…まけ………負け…た」

メルキスはヘタリと崩れ落ちてしまうのであった。


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