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2章:新婚旅行は幻惑の都で…(後編)

41.フレポジ夫婦と真実の愛

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『 超 圧 縮 魔 法 矢アトミック・レイ 』!!!
『 聖 盾ホーリーシールド 』

アネスが放った大出力のマジックアロー、それはまるで皇都全てを焼き尽くすほどの怒りに満ちていた。
そんな破壊光線をまともに受けられるわけもなく、システィーナは魔法の方向を変え上空へと逃がすのだが…
相手は腐っても賢者と呼ばれる大魔法使いの一人、すぐに耐え切れなくなってくる。

(あの怒りを何とかしなければ死んじゃいますよね?)

怒りを鎮めるためにも、同じ立場の自分からも励ましの言葉をかけるのだが…

「アネス様…後もう少し、一緒に頑張りましょう?」
「黙れ!!あなたみたいな小娘に私の何が分かるというの!?」

これにはシスティーナも動揺する。
あのアネスが初手で年齢カードを切ってくるだと?
…あり得ない、もしやそれ以上の怒りを内包しているとでも言うのか?
システィーナは<聖盾>を維持しつつもアネスが何に怒っているのかを考える。

(考えるのよ…一体、何がアネス様の怒りを増幅させているというの?)

思考を巡らせながらアネスをよく観察すると…アネスの左手に煌めくソレに気が付きハッとなる。

「一番待たされているアネス様に最初に渡さなかったのは配慮に欠けているとは思いますが、ヒイロ様ですよ?
そんな細かな配慮が行き届くなどあり得ない事はアネス様が一番分かっておられるでしょう?」
「!!!………うん、そうだけど…」
「ですからここは一旦心を落ち着けましょう…ここで全てを台無しにしては元も子もないでしょう?」
「でも…」
(デモもテロもあるかぁーーー!!)

皇都十数万の命を一身に背負ったシスティーナ。
そんな彼女が思わず叫びたくなるアネスの複雑怪奇な乙女心。
思わず膝をつき、女神への祈りが乙女の怒りに屈しそうになったその時…

元凶が助けに現れた。

「システィ!」
「ヒイロ様…!」

突破寸前だった障壁がヒイロの防御魔法により強化され、安心感が生まれる。
ちょっとだけアネスの攻撃力が高くなったように感じたがきっと気のせいだ。
そしてそのヒイロがアネスの説得した。

「小さい頃からの付き合いでついキミに甘えてしまっていたんだ、許してほしい」
「………」
「でも長く待たせてしまったのは、どうしても君と皆から祝福されるような結婚式をあげたかったからなんだ」
「え…?」
「だからアネス…明日ウェディングドレスを選びに行こう!」
「ヒイロ…私は…」

ヒイロの言葉聞いたアネス…
それはまるで何年も結婚からのらりくらりと逃げ続けているダメ男がたまに見せる優しさの様にアネスの心を溶かしてく…
次第に魔法の力が弱くなり…そして項垂れるアネスの姿が現れた。

「私は…ただ…結婚したかっただけなのよ………」
「いや、なんでアネス様が黒幕ムーブしてるんですか?」
「アネスの怒りを刺激し暴走させて皇都を火の海にしようとする…なんて狡猾な相手なんだ…」
「ヒイロ様…?」
「すみません」

仲間の魔の手から皇都を守ったシスティーナは大きなため息をつくのであった。

――――――――――――――――――――

「ひぇっ…まだ動いてやがる…」

アネスの魔法はそこにあった物全てを薙ぎ払ったが、フィフティフはその際に吹き飛ばされたのか瓦礫の中から這い出て来た。
その姿は既に動いているのも不思議なほど…

「ジェジルを助ける方法は…」
「あったらとっくご主人様がやってますよ」

エルシャの質問に対してエルフィーナが睨みながら即答する。
コーデリアにしてももはやジェジルを助ける事は不可能に見えた。

「乗っ取った影響でしょうか、寄生虫みたいなものだから体が機能を失ってもある程度は動けてしまうのかも」
「はぁ~…もう殺しますよ」

エルフィーナが心底ダルそうに息を吐き矢を番える。
彼女とて進んでジェジルを殺したいと思っているわけでもない。
ジェジルに対しては不覚を取って体を乗っ取られた事で、主の貴重な時間を使わせた事に対して万死に値するくらいにしか思っていないのだ。
アネスにしたってそうだ、ジェジルを元の戻す方法があるのであればあんな大雑把な殺し方を選んだりしなかっただろう。
10%くらいは自分の怒りにジェジルが巻き込まれただけ、という体にする事を考えていたに違いない。

せめてひと思いにと狙いを定めるが…そこで止めた。

「ジェジル、貴方は最後まで自分の失態の尻ぬぐいをさせるのですね…」

一人の老齢のメイドがジェジルの前に歩み出て来たのだ。

「バーベラ…」「「「メイド長!?」」」

バーベラが手に持った剣を振り下ろすとジェジルの額の宝石を真っ二つに割れる。
すると、次第に生気が無くなっていき…そして遂に倒れてしまった。

「貴方の残した仕事は私が引き継ぎます、せめて安らかに…」


………

……



――――――――――――――――――――

「ケヴィン殿…私は剣を捨て女神に祈りを捧げる道に進もうと思います」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………無理じゃね?」
「無理でしょうか?」

トボトボとケヴィンの前に歩み寄ってきたメルキスが突然おかしなことを口走り始めた。
これにはケヴィンも放ってはおけず、すぐにシスティーナを呼び寄せる。

「ティナ、ちょっとその錫杖メルキスに渡してみてくれるか?」

システィーナは首を傾げるも、言われた通りに錫杖をメルキスに渡す。

「ふむ…」

しばらく錫杖の持ち手や長さなどを確認し…

ブンブンブン

その錫杖で素振りを始めてしまった。

「少し勝手は違いますが、多分大丈夫でしょう」
「全然ダメだろ」
「???」
「エルシャが剣をへし折ったのは悪かったよ…代わりに俺の剣一本やるからそれで許してくれない?」
「ケヴィン殿の剣をですか!?」

ケヴィンから剣を貰える…それを聞いただけで尻尾をブンブン振り回す犬の様に機嫌を直すメルキス。
そしてそれに対してカルディエが絡んで来た。

「ねぇーケヴィン様~私にもご褒美無いんですかぁ~?私頑張りましたよね~?」
「ちょっとカルディエ様…夫にそれ以上近づかないで下さい」
「あらぁ?エルシャ様は独占欲が強くていらっしゃる」
「独占?…品性にかける人間を近づけたくないだけです。そもそも私は貴方に名前を呼ぶ事を許した覚えはありません」

そうこうしている内に今度はケヴィン達の先輩である『紅薔薇』達が集って来る。

「よぉーケヴィン、さっきはよくも言ってくれたなぁ?」
「げぇ…あの、姐さん今日はちょっと疲れてるんでまた今度って事には…」
「あん?お前、この程度で疲れたとか言ってんの?どこの深窓の令嬢だよ」

………

ケヴィンの周りにどんどんと女性たちが集ってくる…
そして、システィーナはこの空間に居心地の悪さを感じていた。

何せ…

妻 ・ 愛人 ・ 元恋人兼婚約者 ・ 想いを寄せる女性 ・ 昔世話になった師匠達

ケヴィンに関わって来たこれらの人物が、今この一か所に集結してしまっているからだ。
気まずいったらありゃしない。
そして、それに気が付いているであろう人間が自分だけというのが無性に腹が立つ…

(とりあえずこの空間から逃げる事にしましょう…ヒイロ様は?)

自分の現婚約者の下へ逃げるために視線を走らせる。
するとそこにはおかしな光景が広がっていた。
ヒイロがメイド服の少女の前で跪いているのだ。

「えと…あの…ヒイロ様?」
「パーティーに遅れた事大変申し訳ございませんでした。そして、御誕生日おめでとうございます」

そう言って、ヒイロはメイド服の少女の手を取る。

「これでやっと言う事が出来ますね…コーデリア皇女殿下、どうか私の妻となり共にこれからの人生を歩んで下さい」
「………ぁ、はい…」

みるみるうちに顔が茹でだこの様に紅潮していく。
何とか絞り出した言葉を聞き届けたヒイロは彼女の指に指輪をはめ、そのままキスをする。

するとどうだろうか…

キスをした指先から光が沸き上がり、パーティー会場を暖かい包む。
そして、それはまるで会場にかかっていた呪いが解けるかのように、メイドの少女を覆っていた幻を剥ぎ取った。
そこにあったのは正しく真実の姿…コーデリアの姿が現れたのであった。


システィーナがその光景を眺めていると…ふと視線を感じたような気がした。
チラリとその視線の方へ見ると、その視線は自分指にはめられていた指輪に向けられているようだった。
しかしそれも一瞬の事…すぐに視線はコーデリアの幸せそうな笑顔に向けられるのだった。

――――――――――――――――――――

(いいなぁ…)

これがエルシャの素直な感想であった。
別にあのヒイロとかいう見境の無い男の事ではない、ないのだが…
単にケヴィンがずっとエルシャと分かってからも何となく確証がなさそうな雰囲気なのがひしひしと伝わるのだ。
勿論、ソレがケヴィンが悪いというわけでもない。
悪いのは全面的に怪盗カルディエなのだから…

(はやい所、私の姿も元に戻してもらわなければ…)

そう思い、カルディエの方へと向き直る…が、そこには既に誰もいなかった。

『それでは私もそろそろ失礼させてもらいますねぇ』

そんな声が何処からともなく聞こえて来る。

「ちょ、ちょっとお待ちなさい!消えるのは私の姿を戻してからにしなさい!」
『???』
「え?ちょっと…もしかして、本当にこのままにして帰るつもり?」
『あーなるほどなるほど…えーとエルシャ様?魔女の呪いを解く作法をご存じでないのですか?』
「………???」
『マジか………こほん、魔女の呪いを解くにはズバリ、王子様からの真実の愛によるキス…これに限るんですよ?』
「………"真実の愛"ってなんですか???」
『…なんなんですかねぇ?あー、じゃあ後はケヴィン様にお任せしますのでサヨナラ~』
「ちょっと待ちなさい!!」

エルシャの制止も虚しく、返答は無かった。
こうなればカルディエから任されたケヴィンに聞いてみる他無いだろう。

「ケヴィン様…分かるのですか、この謎かけが?」
「えーと、謎かけ?」

エルシャの曇りなき眼がケヴィンに期待の眼差しを向ける。

「えーと、エルシャ?"真実の愛"とかいう以前にエルシャはもう…「うぉっほん!!」

言いかけた瞬間、言葉を遮るように大きな咳払いがコーデリアの方から聞えて来た。
見ると、物凄い形相で睨んでいるコーデリアの顔。
そして、会場全体の雰囲気もそれと同じくしているようで…もはや覚悟を決める他無かった。

「エルシャ…」
「………???」

ゆっくりエルシャに近づき体を引き寄せる。
エルシャも一瞬ビックリするが、ケヴィンにされるがまま抱き寄せられる。
ケヴィンの体温が心地よいと感じるも、今はそれどころではない。

「あの…ケヴィン様?」
「エルシャ…これが"真実の愛"だ…」

そう言って、エルシャの唇に近づいていく。

「ふぇ…!?」

反射的に振り払おうとしてしまうも逃げられない様に見事に体が固定されており、なすがまま唇を奪われてしまうのだった。
突然の事で硬直しまっていたが、いつものケヴィンの匂いや体温を感じ取れるようになっていくと次第に体の力が抜けていく。
そしていつもの数倍優しいキスに身を任せているとゆっくり離れていき、名残惜しさだけが残る。

「ケヴィン様…あの、姿はどうなっていますでしょうか?」
「うん?…あ、ああそうだな…えーと」
「………???」

ケヴィンが言い淀んでいると、コーデリアが助け舟を出した。

「誰か鏡を!」

言われてミケーネがすぐに鏡を持ってくるとその鏡でエルシャの姿を写して見せた。

「………戻ってる」

…つまりあの優しいキスが"真実の愛"とやらだったのか?
そんな考えに行きつくエルシャ。
すると、段々と今までになかった感情が芽生え始めた。

(へっ!?…"真実"?あの軽薄夫から"真実の愛"??そんなわけがあるの…???)

そして、今度は体の体温がすさまじい勢いで上昇するのを感じ、顔が真っ赤に紅潮していく。
それは先ほどのコーデリアなど比では無い程。

「あの…エルシャ?」
「ひゃい!」

思わずバランスを崩すエルシャ、そこにすかさずケヴィンが支えに入るとそのまま抱き寄せられてしまう。
たくましい夫の腕に抱き寄せられ…

そして………

エルシャの意識はそこで途絶えたのだった。

………

……

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