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2章:新婚旅行は幻惑の都で…(後編)
40.英雄と出来損ないの邪神
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「この馬鹿ドーラ!何にも言わずにいきなりど真ん中に落ちて行ったらダメでしょ!ちょっとは考えなさい」
文句を言いながらアネスは持っている杖でドーラと呼ばれるドラゴンの背中をガンガンと叩いていた。
ドーラと呼ばれたドラゴンは先程エルシャに刺された事など既にどこ吹く風。
背中を叩くアネスに言い返すのであった。
「む~アネスがケヴィンを見つけたから捕まえてあげたんじゃないか」
「捕まえて欲しいなんて一言も言ってないし、あんたみたいなのが落ちてきたらケヴィンが死んじゃうでしょうが!」
「死なないよー、だってケヴィン死んだことないもん。アネス知らないの?
ケヴィン死んだことないのに死ぬって言ってるんだー、アハハ!バーカバーカ!」
「あん???私の何処がバカだってのよこのトカゲ頭!!!」
一匹と一人の言い合いがヒートアップする中、二つの人影がドーラの背中から降りて来た。
一人はメイド服を着たエルフの少女。
そしてもう一人は先程まで嫌と言うほど相手をさせられていた黒髪の青年の姿…
そしてその青年はドーラとアネスを嗜めた。
「二人ともその辺にしてくれよ、ドーラもここでその格好のままだと邪魔になるから…」
「ハーイ」
言われてドーラは竜の姿から少女の姿へと変わっていく。
アネスをまだ背に乗っけているのにもかかわらず、小さくなったものだからアネスは「へぶしっ!」という叫び声と共にそのまま地面へと落下するのであった。
そして、ドーラはそんな物には目もくれずそのままパーティー会場に散乱しているパーティ―で出されていたご馳走へと走っていった…
「シュ、シュージーン公爵…!」
「ジェジル…?」
呼ばれた先に目を移すとそこには見知った顔があったのだが…
「ご主人様…ジェジルさんの額」
「ヒイロ、残念だけど…」
二人に言われ苦々しい顔を浮かべた。
そして、周囲の状況を確認するとゴーレム達が騎士に攻撃を仕掛けようとしている。
ヒイロは先ずはそちらを対処する事に決めた。
「ビットゴーレム!」
イベントリから無数の浮遊する小型ゴーレムを放出。
そして小型ゴーレム達は集団で敵のゴーレムを取り囲と『シュート!』の命令と共に魔力の矢を放出した。
ダダダダダダッ!
この攻撃になす術無く削られていき遂には元の土塊へと戻っていくのであった。
そして、ヒイロはゴーレムの対処をしていた騎士達に呼びかける。
「ここは任せて騎士の皆さんは怪我人と非戦闘員を避難させてください」
騎士達は言われるがまま退避に取り掛かった。
残ったフィフティフと対峙するヒイロ。
多分ジェジルの身体を乗っ取っているフィフティフ一人であれば簡単に拘束出来たであろう。
しかし、それが出来ないのはそのすぐ傍に佇んでいる存在だ。
ヒイロがソレに目を向けると、隣にいるエルフィーナが弓を構え何の躊躇もなく矢を放つ。
だが、その矢はその存在の前であっけなくはじけ飛んでしまった。
ヒイロもその存在の気配に眉をしかめてしまう。
そして、なんだあれは?と問う前にフィフティフが答えを話した。
「こ、こっちにはヴェルイード様が付いておられる、貴様ら如き…」
「アレがヴェルイード…?女神様って言うくらいだかもっと美人かと思ってたけど」
女神ロアリスの姿はロアリス教徒であればその神像を通して知らぬ者はいないだろう。
その姿とは清楚で美しい少女。
対して邪神ヴェルイードは邪教徒と関わった事がある人間でなければその姿をほとんど知らない。
そしてその姿は妖艶な美女とされていた…だが。
「不良品に見えるんだけど、パチモン掴まされてるんじゃない?…まったく、邪教徒って返品制度は無いのかしら」
アネスが言うように、そこにあったのは所々ただれた妖艶な美女とは程遠い存在であった。
それはフィフティフ自身も察していたようで、苦虫を嚙み潰したように吐き捨てる。
「あの小娘が…邪魔をしなければ…!」
そう言ってエルシャを睨みつけるフィフティフだったが、その程度でエルシャが臆するわけもない。
睨み返されて終わるだけ、結局彼自身は無力なのだ。
だが問題は残った脅威の方であった。
「ご主人様…アレは多分まがい物です。私の眼はアレを"鏡の悪魔"という悪魔だと判別しています」
「ああ、確か人が持つ強者のイメージを写し出すとかいう…それで邪神を?…アホね」
アネスがアホと切り捨てたソレはヒイロ達を睨むや否や突然咆哮をあげた。
『アァァァァアアァ!!』
身の毛もよだつような破滅の声。
"出来損ないの邪神"のそれはまるで抗う術を持たぬ者は膝をつけと言わんばかり。
が、しかし…
抗う術を持つ者達は既にここにいるのだ。
同時にいくつかの黒い光球を周囲に作り出し、ヒイロ達にめがけて発射されるが。
「汚らわしい…!」
その吐き捨てる言葉と共にエルフィーナが矢を連続で射出。
次々とその光球を撃ち小さな爆発と共に消えていった。
生まれては撃ち落とされる黒い光球、エルフィーナはこれを淡々とこなしていくだけ。
そして次の一手はヒイロから繰り出された。
『シューティング・スター』
先程までこの会場にいた全ての人間達が嫌と言うほど見せられた光の球がばら撒かれ"出来損ないの邪神"に向かって光の矢を浴びせかけた。
これにはたまらず飛びあがって避けるが空中には既にヒイロが待ち構えている。
いつの間に?と思う間もなくヒイロは拳に闘気を貯め込み…
「ファイナル・ブロー!!」
ズドンッ!!
渾身の拳が邪神にヒットし地面に叩きつけられた。
叩きつけられた"出来損ないの邪神"は何とか立ち上がろうとするも、今度は先ほど光の矢を放っていた光球が張り付いてくる。
危険を察知してすぐさま防御行動をとるのだが…
『マジックシールド』
ヒイロが使ったのはまさかの防御魔法…
何故?そう思ったのもつかの間。
その魔法は"出来損ないの邪神"の周りにかけられていた。
周りに張られたシールドはすっぽりと"出来損ないの邪神"を包み込む。
そして、ヒイロが手のひらを握る動作をするとシールドがみるみると縮んでいった。
光球を"出来損ないの邪神"ごと包み…そして『ボム!』と小さな音と共に光源が爆発したのだ。
「うわぁ…ありゃ中はとんでもない事になってんな…」
それを見ていたケヴィンも思わず唸る。
それもそうだろう、マジックシールドで密閉された空間の中で強力な魔法が爆発したのだ。
そしてその衝撃はほぼ外に漏れていない。
あの中の温度も圧力もとんでもない状態になった事は言うまでもないだろう。
………
爆発の煙もすぐに晴れ中にいた"出来損ないの邪神"の姿が見えて来るが…
「ヴェ…ヴェルイード様…」
そこにあったのは既に人の形とは呼べない程の肉塊であった。
「そんなはずは無い!何故こうも簡単に…」
フィフティフは嘆き何故神が敗れるのかと問うが、その問いに答えたのはヒイロ自身であった。
「神様って言っても人が想像できるレベルでの模造でしょ?それって結局神様に似せただけの人じゃん。
人が作った物を人が壊せないわけないよ」
ドヤァと言わんばかりの自信たっぷりに言い放つヒイロであった…
――――――――――――――――――――
「………???」
勿論エルシャはそんな雑な説明で納得出来ようはずもない。
可能かどうかとそれを実際に実行出来てしまうかは別物…
というか、あのヒイロという人物の動きは素人であるエルシャから見ても異常に見えたのだ。
本当にあの説明で納得してしまっていい物か…
そんな疑問を解消してもらおうとコーデリアの方を確認すると。
「………さすがヒイロ様!!!」
(ええぇ………)
そこにあったのは光悦した表情でヒイロを称賛する皇女の姿…
その表情にどこか既視感があった。
何処で見たのだろうかと記憶を手繰り寄せるのだが………うん止めておこう。
そして次にこの問題を解決してもらえそうな人間…そう、システィーナに視線を向ける。
しかし、エルシャが視線を向けると一瞬で目を逸らされてしまった。
………
この場所で最も信頼できるはずであった二人に裏切られたエルシャ。
最早この問題の迷宮入りにするしかなかった。
――――――――――――――――――――
「投降しろ、お前フィフティフとかいう奴のコピーだろ?本物は既に捕縛されている」
「何を言って…」
「来る途中に街道で怪しい一団を見つけたのよ…んで私達でそいつ等とっ捕まえて牢にぶち込んだってわけ。お陰でパーティーに大遅刻だわ」
ヒイロとアネスの宣告に何も言えなくなるフィフティフ。
二人としてはこのフィフティフを捕縛してジェジルの身体を取り戻したいのだ。
記憶を復活させる術は未だ無いが、米粒ほどの可能性がまだ残っているかもしれない。
アネスだって甘いとは思う…が、ジェジルを助けたいという想いは同じなのだ。
だがそんな気持ちなど関係ないフィフティフ。
オリジナルが捕らえられた…だがそれがどうしたというのか。
フッと笑った瞬間…
突然走り出した…目的は肉塊に近づくため。
すかさず警戒していたエルフィーナが狙撃するのだが…
腕を一本千切れ、足にも矢が刺さるが止まらず、結局肉塊へと張り付かれてしまった。
「チッ、しぶとい、これだから…」
まるで虫を殺しきれなかったかのように冷たく吐き捨てるエルフィーナ。
肉塊を盾にしているフィフティフに強力な魔力のこもった矢を放つ…が肉塊に突き刺さった所で止まってしまう。
「一体何のつもりだ?」
「ハァ…ハァ…知れた事…『黒き薔薇』に最後の一華を咲かせてもらおうとしているだけだっ!」
そう言って肉塊の中に手を突っ込むフィフティフ。
「ヒイロ、あいつあの肉塊に魔力を送ってるわよ」
「そいつに自爆でもさせるつもりか?」
「フッ…どうせ死ぬなら道連れにしてやる。これでシュージーン公爵は殺せないとしても他の者達は違うだろう?」
「どうして…」
「ここで皇女を殺して結婚を阻止すれば少なくともお前がこれ以上の力を持つ事は防げる!!」
「馬鹿な…」
こうなればジェジルの身体を取り戻す事を考える余裕などない。
ヒイロが止めに入ろうと構えるが…ふと近くにいたアネスから不穏な空気を感じた。
「ヒイロの結婚を………阻止?」
………をや?
ついさっきまで冷静に相手を分析し会話をしていたはずのアネスの空気が変わったのだ。
「ねぇ…コーディーが結婚できなくなったら私の結婚はどうなるの?」
「感謝しろ、ここで死ねばそんな物もどうでもいいだろう…」
バチンッ!!!
フィフティフの返答に反応し、何故かアネスの傍で放電現象が発生した。
そして、震える声でアネスが声を発した。
「一体…どれだけ待ったと思っているのよ。何度もあったチャンスを全てアンタ達に潰されて延期…延期…延期…。
更に皇女様との結婚が決まったからってまた延期。挙句弟に先を越された上、そして今度はコーディーを殺して結婚をつぶすだぁ?」
アネスは言葉を重ねながらも、その手にある杖の先端は肉塊の方へと向いていた。
そして、その杖の先には高密度の魔力が集り始めていた。
「お、おいヒイロ!姉貴を止めろ!!」
「あ、あの…アネスさん???」
ヒイロがどうにか自分の婚約者を宥めようとする…が、この場合待たせている方の男の制止などむしろ火に油でしかない。
………
この世界で十着しかないと言われていた賢者のローブを羽織る十一人目の賢者。
英知を象徴する魔導士の杖の先、そこには魔導を志したものであればすぐにでも首を垂れ教えを乞うであろう洗練された高度な魔法陣が浮かぶ。
研究に明け暮れ手入れなど二の次にされたその髪がなびき、幼い頃より本の虫となり魔導書にかぶり付いていたために落ちた視力を補うための眼鏡がその知性を際立たせる。
そしてその眼鏡の先にある瞳…
それは怒りで理性を失った野生の猛獣そのものであった…
「私は三年待ったのよ!!あんたらみたいな脳味噌入ってない馬鹿どもに、私の乙女心を邪魔されてたまるもんですかっ!!」
アネスの咆哮と共に、無数の補助魔法陣が展開されていく。
「いやいや、乙女って歳かよ…じゃねぇ!!やべぇ、姉貴がキレた!ティナ頼む!」
「だから私は便利アイテムではないですからね!?」
三年は婚約してからの年数で初恋は大昔だろサバ読みすぎだ…などと愚痴りながらケヴィンはシスティーナの錫杖を掴む。
そしてその錫杖をシスティーナごとぶん回し投げると、システィーナはその勢いのままアネスと肉塊の対角線上に滑り込んだ。
アネスの方では急激な魔力集中の影響で風が舞い放電現象が強くなっていた。
「術式圧縮…圧縮、圧縮、圧縮、圧縮、圧縮、圧縮ぅぅっ!!!!」
「女神よ…我らが安らぎを守り給え…」
「ヒイロ!!お前の嫁だろ何とかしろ!!」
「え?まだケヴィンのお姉さんでしょ!?っていうか今止めるとむしろ爆発で危険が危なくなっちゃう!!」
「………???」
暴走する者、最悪の事態に対処しようとする者、責任を取らせようとする者、責任を押し付けて匙を投げる者、この人たちは一体何をやっているのかと悩む者…
それぞれがそれぞれの出来る最善を尽くし、時は進んで行く。
「エルシャ!」
ケヴィンがエルシャを庇ったその瞬間。
『 超 圧 縮 魔 法 矢 』!!!
『 聖 盾 』
二つの魔法が発動し、皇都の夜にパーティーの終わりを告げる一筋の光の柱が浮かび上がるのであった。
文句を言いながらアネスは持っている杖でドーラと呼ばれるドラゴンの背中をガンガンと叩いていた。
ドーラと呼ばれたドラゴンは先程エルシャに刺された事など既にどこ吹く風。
背中を叩くアネスに言い返すのであった。
「む~アネスがケヴィンを見つけたから捕まえてあげたんじゃないか」
「捕まえて欲しいなんて一言も言ってないし、あんたみたいなのが落ちてきたらケヴィンが死んじゃうでしょうが!」
「死なないよー、だってケヴィン死んだことないもん。アネス知らないの?
ケヴィン死んだことないのに死ぬって言ってるんだー、アハハ!バーカバーカ!」
「あん???私の何処がバカだってのよこのトカゲ頭!!!」
一匹と一人の言い合いがヒートアップする中、二つの人影がドーラの背中から降りて来た。
一人はメイド服を着たエルフの少女。
そしてもう一人は先程まで嫌と言うほど相手をさせられていた黒髪の青年の姿…
そしてその青年はドーラとアネスを嗜めた。
「二人ともその辺にしてくれよ、ドーラもここでその格好のままだと邪魔になるから…」
「ハーイ」
言われてドーラは竜の姿から少女の姿へと変わっていく。
アネスをまだ背に乗っけているのにもかかわらず、小さくなったものだからアネスは「へぶしっ!」という叫び声と共にそのまま地面へと落下するのであった。
そして、ドーラはそんな物には目もくれずそのままパーティー会場に散乱しているパーティ―で出されていたご馳走へと走っていった…
「シュ、シュージーン公爵…!」
「ジェジル…?」
呼ばれた先に目を移すとそこには見知った顔があったのだが…
「ご主人様…ジェジルさんの額」
「ヒイロ、残念だけど…」
二人に言われ苦々しい顔を浮かべた。
そして、周囲の状況を確認するとゴーレム達が騎士に攻撃を仕掛けようとしている。
ヒイロは先ずはそちらを対処する事に決めた。
「ビットゴーレム!」
イベントリから無数の浮遊する小型ゴーレムを放出。
そして小型ゴーレム達は集団で敵のゴーレムを取り囲と『シュート!』の命令と共に魔力の矢を放出した。
ダダダダダダッ!
この攻撃になす術無く削られていき遂には元の土塊へと戻っていくのであった。
そして、ヒイロはゴーレムの対処をしていた騎士達に呼びかける。
「ここは任せて騎士の皆さんは怪我人と非戦闘員を避難させてください」
騎士達は言われるがまま退避に取り掛かった。
残ったフィフティフと対峙するヒイロ。
多分ジェジルの身体を乗っ取っているフィフティフ一人であれば簡単に拘束出来たであろう。
しかし、それが出来ないのはそのすぐ傍に佇んでいる存在だ。
ヒイロがソレに目を向けると、隣にいるエルフィーナが弓を構え何の躊躇もなく矢を放つ。
だが、その矢はその存在の前であっけなくはじけ飛んでしまった。
ヒイロもその存在の気配に眉をしかめてしまう。
そして、なんだあれは?と問う前にフィフティフが答えを話した。
「こ、こっちにはヴェルイード様が付いておられる、貴様ら如き…」
「アレがヴェルイード…?女神様って言うくらいだかもっと美人かと思ってたけど」
女神ロアリスの姿はロアリス教徒であればその神像を通して知らぬ者はいないだろう。
その姿とは清楚で美しい少女。
対して邪神ヴェルイードは邪教徒と関わった事がある人間でなければその姿をほとんど知らない。
そしてその姿は妖艶な美女とされていた…だが。
「不良品に見えるんだけど、パチモン掴まされてるんじゃない?…まったく、邪教徒って返品制度は無いのかしら」
アネスが言うように、そこにあったのは所々ただれた妖艶な美女とは程遠い存在であった。
それはフィフティフ自身も察していたようで、苦虫を嚙み潰したように吐き捨てる。
「あの小娘が…邪魔をしなければ…!」
そう言ってエルシャを睨みつけるフィフティフだったが、その程度でエルシャが臆するわけもない。
睨み返されて終わるだけ、結局彼自身は無力なのだ。
だが問題は残った脅威の方であった。
「ご主人様…アレは多分まがい物です。私の眼はアレを"鏡の悪魔"という悪魔だと判別しています」
「ああ、確か人が持つ強者のイメージを写し出すとかいう…それで邪神を?…アホね」
アネスがアホと切り捨てたソレはヒイロ達を睨むや否や突然咆哮をあげた。
『アァァァァアアァ!!』
身の毛もよだつような破滅の声。
"出来損ないの邪神"のそれはまるで抗う術を持たぬ者は膝をつけと言わんばかり。
が、しかし…
抗う術を持つ者達は既にここにいるのだ。
同時にいくつかの黒い光球を周囲に作り出し、ヒイロ達にめがけて発射されるが。
「汚らわしい…!」
その吐き捨てる言葉と共にエルフィーナが矢を連続で射出。
次々とその光球を撃ち小さな爆発と共に消えていった。
生まれては撃ち落とされる黒い光球、エルフィーナはこれを淡々とこなしていくだけ。
そして次の一手はヒイロから繰り出された。
『シューティング・スター』
先程までこの会場にいた全ての人間達が嫌と言うほど見せられた光の球がばら撒かれ"出来損ないの邪神"に向かって光の矢を浴びせかけた。
これにはたまらず飛びあがって避けるが空中には既にヒイロが待ち構えている。
いつの間に?と思う間もなくヒイロは拳に闘気を貯め込み…
「ファイナル・ブロー!!」
ズドンッ!!
渾身の拳が邪神にヒットし地面に叩きつけられた。
叩きつけられた"出来損ないの邪神"は何とか立ち上がろうとするも、今度は先ほど光の矢を放っていた光球が張り付いてくる。
危険を察知してすぐさま防御行動をとるのだが…
『マジックシールド』
ヒイロが使ったのはまさかの防御魔法…
何故?そう思ったのもつかの間。
その魔法は"出来損ないの邪神"の周りにかけられていた。
周りに張られたシールドはすっぽりと"出来損ないの邪神"を包み込む。
そして、ヒイロが手のひらを握る動作をするとシールドがみるみると縮んでいった。
光球を"出来損ないの邪神"ごと包み…そして『ボム!』と小さな音と共に光源が爆発したのだ。
「うわぁ…ありゃ中はとんでもない事になってんな…」
それを見ていたケヴィンも思わず唸る。
それもそうだろう、マジックシールドで密閉された空間の中で強力な魔法が爆発したのだ。
そしてその衝撃はほぼ外に漏れていない。
あの中の温度も圧力もとんでもない状態になった事は言うまでもないだろう。
………
爆発の煙もすぐに晴れ中にいた"出来損ないの邪神"の姿が見えて来るが…
「ヴェ…ヴェルイード様…」
そこにあったのは既に人の形とは呼べない程の肉塊であった。
「そんなはずは無い!何故こうも簡単に…」
フィフティフは嘆き何故神が敗れるのかと問うが、その問いに答えたのはヒイロ自身であった。
「神様って言っても人が想像できるレベルでの模造でしょ?それって結局神様に似せただけの人じゃん。
人が作った物を人が壊せないわけないよ」
ドヤァと言わんばかりの自信たっぷりに言い放つヒイロであった…
――――――――――――――――――――
「………???」
勿論エルシャはそんな雑な説明で納得出来ようはずもない。
可能かどうかとそれを実際に実行出来てしまうかは別物…
というか、あのヒイロという人物の動きは素人であるエルシャから見ても異常に見えたのだ。
本当にあの説明で納得してしまっていい物か…
そんな疑問を解消してもらおうとコーデリアの方を確認すると。
「………さすがヒイロ様!!!」
(ええぇ………)
そこにあったのは光悦した表情でヒイロを称賛する皇女の姿…
その表情にどこか既視感があった。
何処で見たのだろうかと記憶を手繰り寄せるのだが………うん止めておこう。
そして次にこの問題を解決してもらえそうな人間…そう、システィーナに視線を向ける。
しかし、エルシャが視線を向けると一瞬で目を逸らされてしまった。
………
この場所で最も信頼できるはずであった二人に裏切られたエルシャ。
最早この問題の迷宮入りにするしかなかった。
――――――――――――――――――――
「投降しろ、お前フィフティフとかいう奴のコピーだろ?本物は既に捕縛されている」
「何を言って…」
「来る途中に街道で怪しい一団を見つけたのよ…んで私達でそいつ等とっ捕まえて牢にぶち込んだってわけ。お陰でパーティーに大遅刻だわ」
ヒイロとアネスの宣告に何も言えなくなるフィフティフ。
二人としてはこのフィフティフを捕縛してジェジルの身体を取り戻したいのだ。
記憶を復活させる術は未だ無いが、米粒ほどの可能性がまだ残っているかもしれない。
アネスだって甘いとは思う…が、ジェジルを助けたいという想いは同じなのだ。
だがそんな気持ちなど関係ないフィフティフ。
オリジナルが捕らえられた…だがそれがどうしたというのか。
フッと笑った瞬間…
突然走り出した…目的は肉塊に近づくため。
すかさず警戒していたエルフィーナが狙撃するのだが…
腕を一本千切れ、足にも矢が刺さるが止まらず、結局肉塊へと張り付かれてしまった。
「チッ、しぶとい、これだから…」
まるで虫を殺しきれなかったかのように冷たく吐き捨てるエルフィーナ。
肉塊を盾にしているフィフティフに強力な魔力のこもった矢を放つ…が肉塊に突き刺さった所で止まってしまう。
「一体何のつもりだ?」
「ハァ…ハァ…知れた事…『黒き薔薇』に最後の一華を咲かせてもらおうとしているだけだっ!」
そう言って肉塊の中に手を突っ込むフィフティフ。
「ヒイロ、あいつあの肉塊に魔力を送ってるわよ」
「そいつに自爆でもさせるつもりか?」
「フッ…どうせ死ぬなら道連れにしてやる。これでシュージーン公爵は殺せないとしても他の者達は違うだろう?」
「どうして…」
「ここで皇女を殺して結婚を阻止すれば少なくともお前がこれ以上の力を持つ事は防げる!!」
「馬鹿な…」
こうなればジェジルの身体を取り戻す事を考える余裕などない。
ヒイロが止めに入ろうと構えるが…ふと近くにいたアネスから不穏な空気を感じた。
「ヒイロの結婚を………阻止?」
………をや?
ついさっきまで冷静に相手を分析し会話をしていたはずのアネスの空気が変わったのだ。
「ねぇ…コーディーが結婚できなくなったら私の結婚はどうなるの?」
「感謝しろ、ここで死ねばそんな物もどうでもいいだろう…」
バチンッ!!!
フィフティフの返答に反応し、何故かアネスの傍で放電現象が発生した。
そして、震える声でアネスが声を発した。
「一体…どれだけ待ったと思っているのよ。何度もあったチャンスを全てアンタ達に潰されて延期…延期…延期…。
更に皇女様との結婚が決まったからってまた延期。挙句弟に先を越された上、そして今度はコーディーを殺して結婚をつぶすだぁ?」
アネスは言葉を重ねながらも、その手にある杖の先端は肉塊の方へと向いていた。
そして、その杖の先には高密度の魔力が集り始めていた。
「お、おいヒイロ!姉貴を止めろ!!」
「あ、あの…アネスさん???」
ヒイロがどうにか自分の婚約者を宥めようとする…が、この場合待たせている方の男の制止などむしろ火に油でしかない。
………
この世界で十着しかないと言われていた賢者のローブを羽織る十一人目の賢者。
英知を象徴する魔導士の杖の先、そこには魔導を志したものであればすぐにでも首を垂れ教えを乞うであろう洗練された高度な魔法陣が浮かぶ。
研究に明け暮れ手入れなど二の次にされたその髪がなびき、幼い頃より本の虫となり魔導書にかぶり付いていたために落ちた視力を補うための眼鏡がその知性を際立たせる。
そしてその眼鏡の先にある瞳…
それは怒りで理性を失った野生の猛獣そのものであった…
「私は三年待ったのよ!!あんたらみたいな脳味噌入ってない馬鹿どもに、私の乙女心を邪魔されてたまるもんですかっ!!」
アネスの咆哮と共に、無数の補助魔法陣が展開されていく。
「いやいや、乙女って歳かよ…じゃねぇ!!やべぇ、姉貴がキレた!ティナ頼む!」
「だから私は便利アイテムではないですからね!?」
三年は婚約してからの年数で初恋は大昔だろサバ読みすぎだ…などと愚痴りながらケヴィンはシスティーナの錫杖を掴む。
そしてその錫杖をシスティーナごとぶん回し投げると、システィーナはその勢いのままアネスと肉塊の対角線上に滑り込んだ。
アネスの方では急激な魔力集中の影響で風が舞い放電現象が強くなっていた。
「術式圧縮…圧縮、圧縮、圧縮、圧縮、圧縮、圧縮ぅぅっ!!!!」
「女神よ…我らが安らぎを守り給え…」
「ヒイロ!!お前の嫁だろ何とかしろ!!」
「え?まだケヴィンのお姉さんでしょ!?っていうか今止めるとむしろ爆発で危険が危なくなっちゃう!!」
「………???」
暴走する者、最悪の事態に対処しようとする者、責任を取らせようとする者、責任を押し付けて匙を投げる者、この人たちは一体何をやっているのかと悩む者…
それぞれがそれぞれの出来る最善を尽くし、時は進んで行く。
「エルシャ!」
ケヴィンがエルシャを庇ったその瞬間。
『 超 圧 縮 魔 法 矢 』!!!
『 聖 盾 』
二つの魔法が発動し、皇都の夜にパーティーの終わりを告げる一筋の光の柱が浮かび上がるのであった。
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