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2章:新婚旅行は幻惑の都で…(後編)
39.フレポジ夫人とフレポジ男の死
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突如として会場に現れた白い竜。
それがあろうことがケヴィンの真上に落ちて来た上で「ケヴィン捕まえた!」と掴み上げていた。
それだけでもエルシャの血の気は引いてしまうが、竜の恐怖はそこで終わった。
ケヴィンを掴んだ手とは逆の手で近くで動いていたゴーレムを掴む。
一瞬、ゴーレム排除の手伝いをしてくれるのかと期待したがそうではなかった。
そこから訪れたのは恐怖ではなく悪夢であった。
「行け~、ケヴィン・アタックだー!」
…それはまるで、わんぱくな男の子が人形を使って戦いゴッコをするかのように。
ゴンッ!!
掴んでいたケヴィンをゴーレムに向かって躊躇なくぶつけたのだ。
「あれ?折れちゃった…」
自分の夫が巨大生物によって目の前で蹂躙されている光景を目の当たりにしたエルシャ。
並の令嬢であればそこで失神していたもおかしくはない。
現にエルシャもそうして意識を手放してしまいたかった…が、自分は侯爵家の娘なのだと言い聞かせ踏ん張った。
そして、恐怖の竜に向かって行った。
「は、放しなさいっ!!」
エルシャは半狂乱でケヴィンを掴んでいる手に短剣を突き立てた。
「痛ったーーーい!!」
エルシャの攻撃で思わずケヴィンを持っていた手を放す竜。
エルシャはその投げ捨てられたケヴィンに必死に駆け付けた。
しかし、その姿には絶望しかなかった…
「あ、あ…ケ、ケヴィン…様…」
回復魔法をかけようにもどう対処していいかわからぬほどにボロボロ。
それでなくてもエルシャの魔力は枯渇しているというのに…
(もはやこれまで…)
全てを失った自分にそれでも愛の言葉を贈ってくれた軽薄な夫…
その夫の最後を悟ったエルシャ。
勇敢に戦った夫の姿は皇国貴族達の目にしかと焼き付けられているだろう。
そして、王国での立場を失ったエルシャがこれから出来る事などたかが知れている。
ケヴィンの妻としての立場を失ったエルシャに貴族として出来る事など何もない。
ならば最後まで貴族として生きて見せよう…
「せめて共に参ります…」
喉元に短剣を近づけ、そして一突き。
…とその寸前、喉元と短剣の間に錫杖が割って入った。
(…え?)
錫杖に驚き動きを止めたエルシャは慌てて振り返る。
するとそこにあったのは見知った人間の姿であった。
「ケヴィン様に対してその覚悟決まった感じ…もしや、エルシャ様…であっていますでしょうか?」
「システィーナ…様!?」
つい先日初めて知り合い、セイルーン教国へと戻ったはずだった司教様。
それが何故今この皇国にいるのか…?
いるはずの無い人間が目の前に突然現れ驚愕するエルシャ。
だがしかし、そこでハッと気が付いた。
「お願いします、ケヴィン様が…!!!」
もしかしたら『癒しの聖女』たるシスティーナであればこんな状態の夫でも治療できるかもしれない。
そんな藁にも縋る思いでシスティーナに救助を求めたのだ。
「あーはいはい、ここはお任せくださいね?」
そして返ってきた応えは何とも頼もしいもの。
さも当然の様にケヴィンの前へと歩み寄り、サッと触診をすると一言。
「…やば」
………
「えぇっと少々離れてもらっても?…あ、もう少し…ええその辺りで結構ですよ?」
言われるがままにその場を離れるエルシャ。
勿論システィーナの顔が引きつっている事など気に留める余裕などエルシャにはなかった。
なかったのである…
そして、システィーナはケヴィンの前で女神に祈りを捧げた。
すると神聖な光がシスティーナを中心に広がっていく。
『<蘇生魔法>』
そう、唱えた瞬間まばゆいばかりの光がケヴィンを包み込んだ。
エルシャの記憶によると"リザレクション"とは死者蘇生の大奇跡だったような気がするのだが…
会場中の人々がその眩しい光から目を逸らしているのできっとエルシャの勘違いだろうと結論付けた。
そして、システィーナの祈りの光が次第に弱くなり消えていくと…
「じいちゃんその手待った!」
突然、がばっと起きるケヴィンが起き上がった。
そして、キョロキョロと辺りを確認するとすぐそばにいた自分の仲間を見つけた。
「あれ?………ティナ?」
「おはようございます、記憶はございますか?」
「…ええっと、確かじいちゃんと遊んでる間にばあちゃんがミートパイを焼いてくれたとこまでは覚えてるんだが…
久しぶりだったのに食べ損ねたみたいだな」
「ケヴィン様、それ食べちゃダメなやつですよ?」
「残念だ、じいちゃんに勝つための手筋は見えた所だったんだが」
「ダウトですね?」
いつものケヴィンの受け答えに安心したシスティーナであった。
「無事で何よりという奴でしょうか?」
「無事でしたでしょうか?」
夫の容体はどうだったのかとか、あの大奇跡は何だったのかとか、大奇跡の祈りに対して寄進がどの程度なのか基準が分からないとか…
システィーナの言う無事が一体何なのか甚だ疑問ではあるが、しかし、今ここで問題にしてもしょうがないのだ。
「さて、お次は…<エリアヒール>!」
パーティ―会場全体を包み込む癒しの光。
負傷した騎士達だけでなく、エルシャが負っていた擦り傷すらも回復していく…
崩壊一歩手前の戦況をたった一人で立て直してしまうバランスブレイカー。
「これが『癒しの聖女』の力…」
エルシャが畏怖を感じるには十分すぎる力であった。
それがあろうことがケヴィンの真上に落ちて来た上で「ケヴィン捕まえた!」と掴み上げていた。
それだけでもエルシャの血の気は引いてしまうが、竜の恐怖はそこで終わった。
ケヴィンを掴んだ手とは逆の手で近くで動いていたゴーレムを掴む。
一瞬、ゴーレム排除の手伝いをしてくれるのかと期待したがそうではなかった。
そこから訪れたのは恐怖ではなく悪夢であった。
「行け~、ケヴィン・アタックだー!」
…それはまるで、わんぱくな男の子が人形を使って戦いゴッコをするかのように。
ゴンッ!!
掴んでいたケヴィンをゴーレムに向かって躊躇なくぶつけたのだ。
「あれ?折れちゃった…」
自分の夫が巨大生物によって目の前で蹂躙されている光景を目の当たりにしたエルシャ。
並の令嬢であればそこで失神していたもおかしくはない。
現にエルシャもそうして意識を手放してしまいたかった…が、自分は侯爵家の娘なのだと言い聞かせ踏ん張った。
そして、恐怖の竜に向かって行った。
「は、放しなさいっ!!」
エルシャは半狂乱でケヴィンを掴んでいる手に短剣を突き立てた。
「痛ったーーーい!!」
エルシャの攻撃で思わずケヴィンを持っていた手を放す竜。
エルシャはその投げ捨てられたケヴィンに必死に駆け付けた。
しかし、その姿には絶望しかなかった…
「あ、あ…ケ、ケヴィン…様…」
回復魔法をかけようにもどう対処していいかわからぬほどにボロボロ。
それでなくてもエルシャの魔力は枯渇しているというのに…
(もはやこれまで…)
全てを失った自分にそれでも愛の言葉を贈ってくれた軽薄な夫…
その夫の最後を悟ったエルシャ。
勇敢に戦った夫の姿は皇国貴族達の目にしかと焼き付けられているだろう。
そして、王国での立場を失ったエルシャがこれから出来る事などたかが知れている。
ケヴィンの妻としての立場を失ったエルシャに貴族として出来る事など何もない。
ならば最後まで貴族として生きて見せよう…
「せめて共に参ります…」
喉元に短剣を近づけ、そして一突き。
…とその寸前、喉元と短剣の間に錫杖が割って入った。
(…え?)
錫杖に驚き動きを止めたエルシャは慌てて振り返る。
するとそこにあったのは見知った人間の姿であった。
「ケヴィン様に対してその覚悟決まった感じ…もしや、エルシャ様…であっていますでしょうか?」
「システィーナ…様!?」
つい先日初めて知り合い、セイルーン教国へと戻ったはずだった司教様。
それが何故今この皇国にいるのか…?
いるはずの無い人間が目の前に突然現れ驚愕するエルシャ。
だがしかし、そこでハッと気が付いた。
「お願いします、ケヴィン様が…!!!」
もしかしたら『癒しの聖女』たるシスティーナであればこんな状態の夫でも治療できるかもしれない。
そんな藁にも縋る思いでシスティーナに救助を求めたのだ。
「あーはいはい、ここはお任せくださいね?」
そして返ってきた応えは何とも頼もしいもの。
さも当然の様にケヴィンの前へと歩み寄り、サッと触診をすると一言。
「…やば」
………
「えぇっと少々離れてもらっても?…あ、もう少し…ええその辺りで結構ですよ?」
言われるがままにその場を離れるエルシャ。
勿論システィーナの顔が引きつっている事など気に留める余裕などエルシャにはなかった。
なかったのである…
そして、システィーナはケヴィンの前で女神に祈りを捧げた。
すると神聖な光がシスティーナを中心に広がっていく。
『<蘇生魔法>』
そう、唱えた瞬間まばゆいばかりの光がケヴィンを包み込んだ。
エルシャの記憶によると"リザレクション"とは死者蘇生の大奇跡だったような気がするのだが…
会場中の人々がその眩しい光から目を逸らしているのできっとエルシャの勘違いだろうと結論付けた。
そして、システィーナの祈りの光が次第に弱くなり消えていくと…
「じいちゃんその手待った!」
突然、がばっと起きるケヴィンが起き上がった。
そして、キョロキョロと辺りを確認するとすぐそばにいた自分の仲間を見つけた。
「あれ?………ティナ?」
「おはようございます、記憶はございますか?」
「…ええっと、確かじいちゃんと遊んでる間にばあちゃんがミートパイを焼いてくれたとこまでは覚えてるんだが…
久しぶりだったのに食べ損ねたみたいだな」
「ケヴィン様、それ食べちゃダメなやつですよ?」
「残念だ、じいちゃんに勝つための手筋は見えた所だったんだが」
「ダウトですね?」
いつものケヴィンの受け答えに安心したシスティーナであった。
「無事で何よりという奴でしょうか?」
「無事でしたでしょうか?」
夫の容体はどうだったのかとか、あの大奇跡は何だったのかとか、大奇跡の祈りに対して寄進がどの程度なのか基準が分からないとか…
システィーナの言う無事が一体何なのか甚だ疑問ではあるが、しかし、今ここで問題にしてもしょうがないのだ。
「さて、お次は…<エリアヒール>!」
パーティ―会場全体を包み込む癒しの光。
負傷した騎士達だけでなく、エルシャが負っていた擦り傷すらも回復していく…
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「これが『癒しの聖女』の力…」
エルシャが畏怖を感じるには十分すぎる力であった。
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