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第一部

2-3.ムカつくあいつの玩具にされました

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 血のように赤い瞳が怪しげに輝く。
 まるで矮小なものを甚振る獣のような視線に、アリシアの背筋には恐怖とは違うものが走った。

 本棚の隙間という狭い場所で、詰まった古書に背中を押し付けられた。
 先程まで堪能していた匂いが鼻に届いたが、今から行われることを思えば違和感しかない。

「シャツのボタン、自分で外せよ。俺に見せてみろ」

 ロシュは向かいの本棚に背中を預け、腕を組んでアリシアを見つめる。
 触れる気はないと言いたいのだろう。
 すでに開かれたローブからは赤紫色の燐光が溢れ、白いシャツを中から透かしている。
 アリシアが震える手で下から一つずつ外していくと、小さく喉を鳴らす音が聞こえた。

「……これで、いい?」

「下着も。全部」

 端的な命令に下腹部が疼く。
 部屋ではない場所でシャツを脱ぎ捨てるのは躊躇われる。
 肩に引っ掛けたまま広げると、頼りない下着が姿を表した。

「へぇ、この前のと違うのな。そっちのが外すの簡単そう」

 シュミーズに合わせたものとは違い、昼間につけるものは形が変わっている。
 両胸を覆った布の中心には、左右を結ぶ可愛らしいリボンがあった。
 全部と言われたならこれも解かなければいけないのだろう。
 震える指で何度か掴み損ねたあと、ゆっくりゆっくり引っ張った。

「それじゃ見えない。自分でずらせ」

 中心の支えをなくしただけの胸当てはアリシアの胸を隠したままだ。
 ロシュがそれで満足するはずもなく、平坦な声で命令を続けた。
 冷徹な目にゾクゾクしてしまう。
 これも呪いの効果なのだろうか。
 呼吸すら震わせたアリシアは、見せつけるように胸の膨らみを零れさせる。
 身体の震えにあわせて揺れる胸の先端は、存在感を主張しながら膨らんでいた。

「見てるだけなのになんで立ってんだよ。そんなに触って欲しかったのか?」

 あざ笑うような声はアリシアをどこまでも下に見ている。
 死んでしまいそうなほど恥ずかしい。
 でも、ロシュの問いかけに頷くしかない。
 下腹部から湧き出し続ける快感を前に、アリシアの自尊心など欠片ほどしか残っていなかった。
 満足そうに身体を起こしたロシュは、背後の本棚に肘をついてから指を伸ばす。
 ようやく触れてもらえる。
 熱い吐息を漏らそうとした時……ロシュは膨らみきった場所をパチンと爪で弾いた。

「きゃあっ!」

 甲高い悲鳴が漏れ、駆け抜ける痛みと快感に腰が抜けてしまいそうになる。
 全身に伝わる感覚を抑え込んでいると、ロシュが耳元で小さく囁いた。

「その声を聞きつけて誰か来るかもな。そいつにもこれ、見せてやるか?」

 触れそうで触れない位置で指さされ、思わず身体を寄せてしまいそうになる。
 それをするりと躱したロシュは、まるでお預けするかのように一定の距離を保つ。
 なんて意地悪なことをするのか。
 一瞬だけ与えられた快楽のせいで、アリシアの思考はすでに熱に浮かされていた。

「どうすんだよ。こんなにやらしいお前の格好、見られていいのか?」

「やだ……っ、見られ、たくない……」

「じゃあ、しっかり口塞いどけよ」

 すぐ眼の前まで顔を寄せたロシュは、ついにその指でアリシアの胸に触れた。
 形を探るようなことはせず、尖ったままの両端を容赦なく摘まみ上げる。
 鋭すぎる刺激に嬌声が漏れそうになったが、アリシアは必死に手で口を押さえた。
 親指と人差し指でこね回され、時折埋めるように押しつぶす。
 痛みにも近い感覚だというのに、アリシアの身体は快感だけを拾い上げてしまう。

「ふ……っ、んぅ……っ!」

「ちゃんと我慢できんじゃねぇか。なら、もっとしてもいいよな」

 そう言って見下ろす赤い瞳は血のように深く、燃えているようだ。
 もっとって、どんなこと?
 すぐ目の前の顔に問いかけたかったが、口を開けば喘ぎ声しか出てこないだろう。
 期待を込めた瞳で見つめれば、ロシュは小さく笑って腰を折った。
 胸の前で舌なめずりをする様子に、アリシアの脳裏には熱く滑った感覚がよみがえる。
 しかしその予想は完全に裏切られ、期待に尖った場所に鋭い歯が突き立てられた。

「んーっ!!」

 まるで噛みきられてしまいそうな強さに、思わず嬌声でない悲鳴が漏れそうになる。
 それでもアリシアは必死で声を抑え込み、愉快そうに見上げるロシュの視線を受け止めた。
 すりつぶすように歯を揺らされ、痛みばかりのはずが別のものに気付いてしまう。
 涙目で見下ろしていると、熱い舌が慰めるかのように撫であげた。

「どっちがいい? 言いつけを守らない奴にはこっちのほうがいいか」

 再び歯を立てられそうになり、必死に首を横に振る。
 痛み以外にも気付いてしまったけれど、与えられるなら後者がいい。
 ロシュはさも仕方ないと言わんばかりにため息をつき、真っ赤な舌を伸ばした。
 たっぷりと唾液を絡め、白い魔法光でぬらりと光るその場所を見る目は。
 お気に入りの玩具を眺めているように見えて、その対象でいられることに歓喜する。
 背の高いロシュに覆い被されると、天までそびえていた本棚が見えなくなってしまう。
 ロシュしか見えないこの光景に、アリシアは強い満足感を抱いた。
 もっと、もっと触れて欲しい。
 沸き上がる欲求の証しなのか、無意識に内腿を擦り合わせていた。

「そっちも欲しいってか? 反省しろって言ってんのに、ずいぶん欲張りなもんだな」

「ごめ……な、さぃ……っ」

 濡れた場所にふぅっと息を吹きかけられ、冷たい感覚に身震いする。
 赤紫色の燐光は収まるところを知らないらしい。
 今も輝き続ける紋章を隠すように、長いスカートがめくり上げられた。

「これ、咥えて持ってろ。離すなよ」

 裾を口に押し当てられ、咄嗟に唇で受け取った。
 唾液まみれの胸部は見えなくなったものの、今度は自分から下半身を晒す形になってしまう。
 なのに断れない理由など、考える必要もなかった。
 今から存分に触れてもらえる。
 そんな期待を胸に待っていたのに、なぜかロシュは床にあぐらをかいて座ってしまった。

「んふ……?」

「脚開け。そう、ちゃんと立ってろよ」

 本棚に寄りかかったまま言われたとおりに動くと、するりと下着を抜き取られてしまう。
 熱く濡れた場所がロシュの眼前に晒されていると思うと目眩がしそうだ。
 早く触って。
 もどかしさに腰を揺らめかせると、ロシュの手の平から新たな魔法光が生まれた。
 それはロシュの視線の先、アリシアの脚の間を煌々と照らしてしまった。

「んぅっ!? んー、むぐっ!」

「うるせぇな。こないだはちゃんと見れなかっただろ」

 だからといってこんな風に見ていいなんて一言も言っていない。
 不満を込めて呻き声を上げてもどこ吹く風。
 ロシュは下から覗き込むようにして、脚の間をじろじろと眺めてきた。

「へー、こんな風になってんだ。きれいな色してんだな」

 珍しい魔道具を見るような視線に身がすくんでしまう。
 その上、太腿をがっしりと掴まれ、もっとよく見えるようにと押し開かれてしまうのだ。
 自分から突き出す格好は胸以上に羞恥を煽るもので、裾を噛みしめながら呻くしかできなかった。

「んで、この襞の奥だよな。あー……すっげ。これ腫れてんの? ぴくぴくしてっけど」

 そんな質問にどう答えろというのだ。
 怒りが沸々と湧いてくるが、そんなものは生み出される熱に覆い隠されてしまう。
 こんな風に見られるなんて恥ずかしい。
 今すぐにでも魔法光を振り払ってしまいたい。
 だけど、そんなことよりも何よりも。
 早く触って欲しいのに……。
 もどかしい思いをひたすらに堪えていると、ようやくロシュは満足したらしい。
 だが、アリシアを襲ったのは期待とはまるで違う感触だった。

「んあぁ……っ!」

 熱く柔らかいものは指であるはずがない。
 思わず離してしまったスカートは、脚の間に顔を埋めたロシュを隠した。

「な、に……して……っ!」

 震える声で問いかけても、ぺちゃぺちゃという水音しか返ってこない。
 ざらついたものがアリシアの中心を撫で上げ、突起をピンと弾く。
 指とは違う柔らかで滑らかな刺激は、アリシアの身体を震わせるのに十分だった。

「ったく……なぁに勝手に離してんだよ」

 太腿を掴んで顔を寄せたまま、熱い声を吹きかけられる。
 分厚い布の中で行われているだろうことを思うと羞恥で頭が沸騰しそうだ。

「だ、って……、そんなとこ、舐めない、で……っ!」

「仕方ないだろ。お前のこのどろっどろなので、床に染み作っていいのかよ」

 指摘されたとおり、アリシアの中心からは止めどなく愛液が溢れでている。
 けれどだからといって口で受け止めるなんてあり得ない。
 そう言おうとしても震える口では声にならなかった。
 返事を待つようなロシュではない。
 今度はぢゅうっと音を立てて吸い付き、そのまま突起を舌で押しつぶした。

「ひゃっ、あ、あー……っ、んんーっ!」

 初めての刺激はあっという間にアリシアを絶頂へと押し上げた。
 膝をガクガクさせながら達すると、崩れ落ちそうな身体を下から支えられる。

「はっや。そんなに良かったか?」

 中からスカートをめくり、太腿に舌を這わせながら見上げられた。
 意地悪な視線が妬ましいと同時に下腹部をぞくりと震わせる。
 それは紋章にも伝わってしまったのか、赤紫色の燐光がふわりと舞い上がった。

「ここがふやけるまで舐めてやる。俺が満足するよう、上手に善がれよ?」

 悪魔のような言葉に走ったのは、恐怖か期待か分からなかった。

 絶え間ない水音はどこまで続くのだろう。
 脚の間に顔を埋めたロシュは、発言通りいつまでも快感を与えつつ愛液を啜っていた。

「もぅ、駄目ぇ……いっちゃ、うぅ……っ」

「もうじゃなくてずっとだろ。イきっぱなしじゃねぇか」

 強く吸い上げられたら再び絶頂に襲われてしまう。
 再び持っているように言われたスカートは、握りしめたまま皺が入ってしまっている。
 何度も刺激を与えられているというのに、アリシアの中には耐えがたい空虚感が居座っていた。
 刻まれた紋章の下で、痙攣のたびに締め付ける相手を恋しがってしまう。
 欠落感を埋めて欲しい。
 そう思っているのに、ロシュは一向に口を離してくれなかった。

「ロシュ……っ、もう……」

 おずおずと声をかけると、口元をぐっしょり濡らした顔が上を向いた。
 あれはどちらのものなのか。
 ぺろりと滴りを舐め取る仕草に欠落感がまた増してしまう。

「して欲しいことがあるなら言ってみろよ。ちゃんと言葉にしてな」

 口にしないと叶えてくれないのだろうか。
 再び顔を埋めようとする前に、アリシアは内腿にぎゅっと力を入れた。
 どんなに恥ずかしくても、言わないとしてもらえない。
 ただそれだけを言い聞かせ、熱と疼きに浮かされたまま口を開いた。

「あたしに……ロシュの、入れ、て……」

 どうにか言えた言葉に、ロシュは一瞬目を見張る。
 しかしすぐに意地悪そうな表情に戻り、口角をにんまりと上げた。

「違うだろ」

 白い光に照らされた顔は一体何を思っているのか。

「お前の中に俺のを突っ込んで、狭いとこをぐっちゃぐちゃに擦って、奥まで虐めてくださいお願いします、だろ?」

 あんまりな言葉に頭に血が上ったが、それよりも下腹部の熱のほうが強い。
 どう考えても言えそうにないのに、ロシュはゆっくり立ち上がって見下ろしてくる。
 あたしが言うまで、ほんとにしてくれないんだ。
 絶望的な気持ちに襲われ、晒したままの胸がどくんと揺れた。
 嫌なのに、そんな風に言わせたいと思われていることは嫌じゃない。
 期待のこもった目で見つめられ、恐る恐る唇を動かした。

「あたしの中、に……ロシュのを、つ、っこんで……っ」

 言わないともらえない。
 ただそれだけを思い、涙を浮かべながら言葉を続ける。

「せ、まぃ、とこ……うぅ……っ」

 どれだけ待ち焦がれても限度というものはあったらしい。
 熱をため込んだ身体は感情まで高めてしまったようで、はらはらと涙を流してしまう。
 水滴は今も晒したままの胸に滴り、紋章に向かって肌を伝い落ちていく。

「ま、それだけ言えりゃ上出来か。仕方ねぇから入れてやるよ」

 呆れたような口調だが、ロシュの顔からも興奮が見て取れる。
 くつろげた服から出てきたものは十分な硬度を保っていた。
 高く上を向いたものが場所を探るように擦りつけられ、そのまま一気に突き刺された。

「ああぁっ!」

 まだ二回目だというのに、指で慣らすことすらされていない。
 どう考えても狭いであろう場所なのに、ロシュの猛りを手放しで歓迎してしまう。
 ぐずぐずに解けていた場所は柔らかく包み込み、決して離さないとばかりに締め付ける。
 自分の中でロシュの形を感じ取ったアリシアは、思わず熱いため息をもらした。

「は、ぁ……んぁっ」

「おい、アリシア。スカート邪魔だから咥えてろよ。
 あ、いや、それだと胸が隠れちまうな……なんか適当に持ってろ、全部見えるようにしろよ」

 荒い呼吸の合間に言われ、考えることすらできず従うしかない。
 弱々しく握った裾を、今も赤紫色の燐光を放つ紋章を隠すようにたくし上げる。
 胸も下半身もさらけ出した姿はあまりにもあられのないものだった。

「あー……ほんと、お前さ」

 薄く笑いながら見下ろされるとお腹の奥がずくんと疼く。
 大きすぎる猛りから鼓動が伝わり、互いの下腹部を擦り合わせる感触に身震いする。
 欠けていた部分をいっぱいに満たされ、ずっとこのままでいたいと思ってしまう。
 しかしロシュは容赦なくアリシアの腰を掴み、本棚に押しつけたまま激しい動きを始める。
 前と違った場所が擦られるのは立ったまま突き上げられているからなのだろうか。
 崩れ落ちないよう必死に本棚を掴んでいると小さな舌打ちが響いた。

「脚、肩に乗せろ。動きづれぇ」

「なん、で……ひゃぁっ!?」 

 膝裏を掴まれると、そのまま肩まで上げられてしまう。
 元から不安定な姿勢だったというのに、もはや片足がぎりぎり床についているだけだ。
 倒れそうな身体でロシュにしがみつくと、黒いローブが胸を擦った。

「あぅ……っ!」

「胸、擦りつけてやんの。気持ちいいのか?」

「うぅ……気持ちぃ……もっと、触って、ロシュ……っ!」

 爪先が浮きそうなほど激しく突き動かされたら、目の前の身体に縋り付くしかない。
 距離のなくなった身体は貪欲に刺激を求め、ざらりとした布の感触を味わっていた。

「あー……この馬鹿。どんだけ煽れば気が済むんだよ」

 小さな呟きのあと、腰を動かし続けたまま胸に顔を寄せられた。
 片方は大きな手の平で揉みしだかれ、もう片方は口内で先端を弄ばれる。
 堪えることを忘れた嬌声の中、肌を打ち付け合う高い音が響いた。
 中も外もいっぱいで、腹部がどんどん熱くなる。
 乱暴にも感じる繋がりからは、隙間から漏れる愛液が泡立ち濁った音が聞こえてくる。
 お互いのものが混ざり合った液体は、膝裏から足首まで伝ってきていた。

「あーあ、床にめっちゃ垂れてる。ここ見られたらすぐバレちまうな。
 お前がここに来てるって教師は知ってんだろ? 学年次席の優等生がこんなことしてるなんてな」

「や、だぁ……っ、やめてぇ……っ!」

「止めていいのかよ? お前のここは絶対嫌だって言ってるけどな」

 アリシアの身体を浮かせながら、猛りを奥まで押しつけぐるりと回される。
 入り口から中までをかき回されるような感覚は、身を震わせて締め付けるのに十分なものだった。

「どうして欲しいか正直に言えよ」

 魔法光に照らされた顔は、荒い呼吸のせいか苦しげだ。
 それでも赤い瞳はしっかりとアリシアを見つめ、強い意志を向けてくる。
 同じ呪いを受けているというのに、どうしてこうも理性を保っていられるのだろう。
 自分と違うことに悔しさを感じながらも、身体を満たす欲求に勝てそうにない。
 ちゃんと言わないとくれない。
 してほしいことをしっかり言葉にしないと。

「あたしのっ、狭いとこぉ……、ぐちゃぐちゃに、擦って……っ、奥まで……虐めてぇっ!」

 酩酊した頭で浮かんだ言葉は、奇しくもロシュが求めたものだった。
 アリシアを辱めるための台詞を素直に口に出し、ロシュがどんな反応を返すのか。
 喉仏がごくりと動いたのを目にすると、不思議な満足感が沸き上がってきた。

「やっべ……すげぇ興奮する。もっと言えよ。全部してやるから」

 先程よりももっと強く、速く、激しい挿入に、すべての音を抑えきれない。
 誰かに見られたらなんて考えられない。
 今、目の前に居るロシュにすべて暴かれて欲しいのだから。

「ロシュが……っ、欲しぃ……あんっ、いっぱい……突いてっ、気持ちくして……!」

「ああ……お前のいいとこ全部擦って、奥の奥まで攻めてやれるの……俺だけ、だからな……っ」

「分かってるぅっ! だから、お願い……っ」

 腕と足でロシュの身体を強く引き寄せ、硬い胸に顔を埋める。
 耳を揺らす鼓動は誰のものだろう。
 縋り付きながらの考えは掠れた声に覆い隠された。

「たっぷり、味わえよ……っ!」

 最奥を貫いた猛りがビクンと震え、赤紫色の燐光がぱぁっと溢れだした。
 まるで喜んでいるかのような光の中、アリシアの身体に強い力が入った。
 すべて搾り取ろうとしているかのように、痙攣を続ける猛りを締め上げる。
 それはさらなる刺激に繋がるのか、ロシュの猛りが収まることはなかった。

「……っは、一緒に、イけたな」

 ずるりと抜き取られたあと、汗の浮いた頬に軽く唇が当てられた。
 一瞬見えた表情はどこか嬉しそうに見えて、思わず抱きついてしまう。
 しかし大きく息を吐いたロシュは、さっさとアリシアの脚を下ろしてしまった。

「おい、着替えて帰るぞ。ここで一晩中ヤるわけにはいかねぇだろ」

「そ、そんなのしないっ!」

 注がれたものに満足したのか、輝いていた紋章はすっかり息を潜めていた。
 しかし赤紫色のミミズ腫れは消えることがなく、今も存在を主張している。
 今夜はこれ以上身体を繋げる必要はないというのに。
 もっとしてもいいなんて思うの、おかしいよね。
 決して口にしないよう決意してから、乱れに乱れた服に手をかけた。

「ほら、パンツ履けよ」

「う……それ履くの、やだ」

「なんだよ、ノーパンで校内うろつくのか? 痴女だな」

「違うわよっ! だってそれ……汚れてる、から」

 アリシアの愛液をたっぷり吸い込んだ下着は、このまま身につけたいものではない。
 かといって履かずに動くのも躊躇われ、スカートの下で脚をもじもじ動かしてしまう。

「ったく、これならいいだろ」

 呆れた様子のロシュがついっと指を振ると、掴んだショーツを清浄な光が包んだ。
 光はあっという間に床まで照らしたかと思うと、隅に残っていたはずの埃がすっかり消えていた。

「え、何それ!?」

「浄化魔法。掃除洗濯いらずになるから覚えたほうがいいぞ」

「そんな上級魔法使えるわけ……って、床もきれいになるんじゃないっ!
 さっきなんであんなこと言ったの!?」

「面白そうだったから」

 ニヤリと笑った顔は本当にそう思っているのだろう。
 ここで怒ってもロシュを喜ばせるだけだ。
 目の前に突きつけられたショーツを奪い取り、さっさと着替えを済ませてしまう。
 こんな性格破綻者と一緒にいるなんて身体に毒だ。
 そう思っているのに、どうしようもない問題に気付いてしまった。

「何してんだ、さっさと行くぞ」

「えっと……先、行ってて。まだやることがあるから!」

「ふーん。こんな夜更けまでご苦労なこったな」

 そう言うと、ロシュはつまらなそうに本棚の先へと歩いて行く。
 姿がしっかり見えなくなった途端、アリシアはその場にへたりと座り込んでしまった。
 あんな格好してたんだから、まともに歩けるわけないじゃない……!
 下半身のあちこちがガクガクした状態で、寮までの道のりを違和感なく進めるはずがない。
 少し休めば良くなるだろうか。
 床に手をつき肩を落とすと、下を向いた頭をぱしんと叩かれた。

「馬鹿、立てねぇなら素直に言えよ」

 いつの間に戻ってきていたのか。
 ロシュはアリシアに背中を向けると、そのまましゃがみ込んだ。
 もしかして……おぶってくれる、とか?
 信じられないことに、アリシアの予想は当たっていたらしい。
 急かすように睨まれてしまい、慌てて肩に手を添えた。

「あの、立って、いいよ?」

「ん。落ちんなよ」

 両脚をしっかり抱え、すっくと立ち上がる。
 いつもより断然高い視線はロシュのものと同じらしい。
 黒い睫毛に縁取られた赤い瞳がよく見え、思わず目線をそらしてしまった。

「え、ちょっとロシュ、あの扉、魔法錠ついてない?」

「かけてるに決まってんだろ。不用心かよ」

「じゃあ誰も入れなかったんじゃないっ!」

「スリルがあってよかっただろ?」

「そ、そんなわけないでしょっ!? 信じらんない! サイテー!」

「耳元で喚くんじゃねぇよ。落とされたくなきゃ黙って掴まってろ」

 今も力の入らない脚で落ちたら受け身も取れないだろう。
 仕方なく掴まり直すと、身体のあちこちから行為の残滓を感じ取ってしまう。
 執拗に攻め立てられた胸は今もヒリヒリするし、強く掴まれた場所はじんと痛む。
 きれいになったショーツを汚すものはどれだけ注がれてしまったのだろう。
 そう考えると何かを口にすることすらできず、ロシュの首筋に顔を押しつけた。
 なんか、いい匂いする。
 自分と違う匂いは植物のようにも鉱物のようにも感じられる。
 実習のたびに気付く匂いが混じり合い、絶妙な塩梅でアリシアの鼻をくすぐった。
 ほんのり混ざった汗の匂いは自分のものでもあるのだろうか。
 身体を擦りつけるように合わせたのだから、そうだとしてもおかしくない。
 ロシュの身体に痕跡を残せたと思うと、僅かな満足感がこみ上げてきた。
 どうしてそんなことを思ってしまったかは分からない。
 しかし部屋まで送ってくれるロシュの背中で、さっきとは違う鼓動を響かせたのは事実だった。
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