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第一部

6-4.ムカつくあいつと関係を持って

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 狭い脱衣所に連れ込まれ、寝間着のシュミーズを手早く脱がされてしまう。
 方法が分からないと言っていたのはいつのことか。
 あまりに手慣れた様子にアリシアはむっとしてしまった。

「あたしばっかじゃなくて、ロシュも脱いでよね」

「シャワーなんだから当たり前だろ」

 下着は断固自分で脱ぐと主張し、その間にロシュは躊躇いなく服を脱いでいく。
 しっかりとした体格とうっすら付いた筋肉を目にするのは何度目か。
 よく考えれば、ロシュが服を脱いでいたことは少ないように感じた。

「なにじろじろ見てんだよ?」

「いいでしょ。今まであたしばっかり脱いでたんだから」

「まぁ、減るもんでもねぇし……」

 と言いながらも、なんだか気まずそうに見える。
 少しは恥ずかしがればいいと見つめ続けていると、ふとロシュの下腹部に目が行った。

「お腹、ロシュも消えたんだね」

 ミミズ腫れで描かれた不気味な紋章はすっかり消えている。
 自分と同じく解放されたのだとほっとしていると、ロシュはとんでもないことを言った。

「ああ、それな。俺、最初から呪われてねぇよ」

「……へ?」

 呪われて、なかった?
 思っても居なかったことに呆然とし、お湯の調整をするロシュに食ってかかってしまった。

「はぁっ!? え、じゃああの紋章ってなんだったの?」

「毎日自分で刻んでた。あれ、無駄に細かかったからめんどくさかったんだよな」

「刻んでって……なんでそんなことしたの!?」

 あの紋章は緻密なだけでなくかなりの大きさがあった。
 それを毎日刻み続けるなど普通の神経では考えられない。
 なのにこの数週間、ずっとそれを続けただなんて。
 信じられない気持ちで下腹部を見つめていると、ロシュはアリシアの同じ場所を指さした。

「俺は呪われてないし燐光も効かないってなったら、お前、どうしてた?」

「多分……クレメント先生に言ってた?」

「だろ。そんなん許せるかよ」

「えー……?」

 ずいぶんあっさりと口にするが、そうまでして自分で相手をしたかったということなのか。
 それが意味することを理解していないのだろうか。
 気恥ずかしい思いをしながらもからかいたい気持ちは抑えられない。
 下着に手をかけようとしたロシュの手を止め、じっと顔を覗き込んだ。

「ロシュって、そんなにあたしのこと……好き、だったり?」

「ずっとって言っただろ。ようやく気付いたお前と違ってな」

「な、何よ、悪いっ!?」

「悪くねぇよ。嬉しい」

 そう言って、照れ隠しのように額へキスをされた。
 やっぱり触れるだけのものは、逆に二人の羞恥心を強めるだけだった。

「なんか、調子狂っちゃう……」

「俺も。どうしような、これから」

「分かんない……けど、やじゃ、ないし……」

「ま、さっさとシャワー浴びとくか。お前、早く脱げよな。ごねるなら引っぺがすぞ」

 いつもの軽口の合間に普段と違うことをするなんて、違和感があって当然だ。
 そんなこそばゆさに身を捩らせながら、アリシアは思い切って下着を脱ぎ捨て浴室に入った。
 寮に備え付けのシャワー室に二人で入る余裕などない。
 お湯を浴びるためにはほとんど身体を寄せ合うことになってしまった。
 ただ、その狭さが嫌じゃない……なんて、口にできるわけもなく。
 アリシアは脚の間と胸をしっかり隠し、ロシュが興味深そうに入浴用品を見るのを眺めた。
 シャンプーや石鹸といった普通のものだが、そんなに気になるものだろうか。
 気が反れているのをいいことに、後ろを向いてさっさと髪を洗ってしまった。

「いつもお前からしてた匂い、これだったんだな」

「石鹸? えっ、変だった?」

「いや。いいなって思ってただけ」

 実家に居た頃から使っていたものは、ちょっと贅沢をしているお気に入りのものだ。
 それを褒めてもらえるのは嬉しいが、アリシアだって思うことがあった。

「ロシュも落ち着く匂いするよ?」

「俺はこういうの使ってねぇよ。どんなのだ?」

「なんか薬草とか鉱石とか、自然な感じの」

「いじってたもんの匂いが移ってるだけだろ」

 呆れたように言うけれど、アリシアにとってはそれがロシュの匂いなのだから仕方がない。
 今は自分が使ったシャンプーの匂いで分からないが、今度じっくり香ってみよう。
 そんな思いは、泡を手にしたロシュを前に吹き飛んでしまった。

「髪は分かんねぇから手ぇ出さなかったが、身体は任せろよ。とりあえず、その隠してんの外せ」

「だから嫌って言ってるじゃん!」

「往生際の悪い奴だな。早く触らせろって言ってんだよ」

「うぅ……そういうこと言う?」

「言う。早く」

 素直に言われてしまうと断ってはいけない気持ちになる。
 浴室内がいつものように薄暗ければまだよかったのに、今日はロシュが魔法光を放ってしまった。
 腕を外せばしっかり見えてしまうだろうが、きっとロシュは見たいと言うのだろう。
 呪われてた時のほうが、理性がなくてよかったのかも……。
 そんな元も子もないことを思いながら、隠していた手をおずおずと離した。

「あんまり見ないで……ひゃっ!」

「まだ泡乗せただけだろ」

「いきなりでびっくりしちゃっただけだしっ」

 思わず声が出てしまい、呆れたようにからかわれてしまう。
 確かにどこかを刺激されたわけではないが、好きな相手に触れられて何も思わないのもどうなのか。
 少しいらっとしたアリシアは、仕返しとばかりにロシュの身体に泡を塗りつけた。
 これでちょっとは気持ちが分かるでしょ!
 そう思っていたのに、ロシュはふっと笑ってこう言った。

「これで今日は同じ匂いだな」

 少しはにかむような声に、アリシアの胸がきゅうっと疼く。
 不意打ちのように甘い言葉を言わないでほしい。
 しかしそれを言うと今の言葉にときめいたと言っているようなものだ。
 そうならないよう黙々と泡を広げていると、ロシュの手がアリシアの胸に触れた。

「お前さ、胸、大きくなったか?」

「どうだろ、あんま気にしてなかっ……んぅっ」

「気にしろよ。あーあ、呪いがなけりゃ俺が育てたって言うんだけどな」

 そんなことを言いながら、ロシュの手はアリシアの胸を弄び始めた。
 普段よりも強く触れているだろうに、痛みを感じないのは泡のせいか。
 大きな手の平が胸の形を変えるように蠢き、にゅるりと動く指に肌を刺激されてしまう。
 すでに何度も経験した感覚はすぐにアリシアの身体を高め、狭い浴室に荒い吐息が響いた。

「あっ、ロシュ……、わざ、と……でしょっ?」

「洗ってるだけだろ? ああ、背中もやってやるよ」

「ひゃあっ!? ちょ、背中、弱いの……っ、知って……!」

「ここだとお前の声、すっげぇ響くのな。もっと喘げよ」

 薄い笑みを浮かべて背中を撫で上げられ、膨らんだ胸の先を強く摘まみ上げられる。
 どちらも泡のせいか普段とまるで感覚が違って、新鮮さについていけなかった。
 身体を反らせば胸が触れてしまうし、逃げようとしても狭い場所では不可能だ。
 そんな風に弄ばれていれば、熱気のこもった浴室で耐えきれるわけもない。
 すぐに頭がくらくらしてきて、ロシュの身体にくたりともたれかかってしまった。

「気を遣うなんて、嘘でしょ……」

「やりすぎた、悪い」

 素直に謝って換気窓を開けてくれて、ひんやりとした空気にほっと息を吐く。
 しかし肌をしっかり触れ合わせているのだと気付くと、急に身体に力が入ってしまった。
 思っていたより断然逞しくて、がっしりと男性らしい姿。
 素肌で触れ合うことが少なかったせいか、無性にその肌が恋しくて堪らない。
 熱いシャワーと冷えた空気の中、身体をこすりつけるようにして抱きついた。

「なんだよ、珍しい」

「……ロシュも、ぎゅってしてよ」

「言われなくてもするに決まってんだろ」

 泡だらけの身体ではどれだけ力を込めても滑ってばかりだ。
 その感触はアリシアの快感をどんどん引き出し、気恥ずかしさや照れくささは減っていく。
 ふと顔を合わせた時には唇を合わせ、薄く開いた場所に舌が滑り込んできた。
 何度も肌に触れて快感を引き出されたというのに、こうして同じもので触れ合うのは初めてだ。
 どこか探り探りな様子を前に、アリシアもそっと舌を絡めた。

「ん……ふ、ぅ……」

「あんま、声……漏らすなよ。窓開いてんだから」

 そう言いながらも、ロシュは舌を絡めることをやめてはくれない。
 触れ合った場所は熱く、互いに吐息と共に唾液を纏わせる。
 感覚ではなく感情に響く行為に、アリシアは再び思考が蕩けていってしまう。
 そのせいか、いつの間にか下りていたロシュの手に気付くことができなかった。

「ここ、まだ洗えてないよな」

 そう言って泡だらけの手で触れられたのは、熱く疼く場所だった。
 今まで何度も愛撫された場所は、この短時間でしっかりと濡れていた。

「泡かお前のか、どっちでぬめってんのか分かんねぇな」

「やぁ……そう、いうの……やめ、てっ」

「いいだろ。お前が俺の手で感じてる証拠なんだから」

 意地悪そうな笑みを浮かべながら、ロシュは長い指で襞の間をくすぐっていく。
 呪われていた時はただただ隙間を埋めて欲しかった。
 なのに、今はこのもどかしい時間すら愛おしい。
 アリシアは吐息混じりの声を漏らすが、抑え込むように唇を合わせられた。

「あー……このまま突っ込みてぇ」

 目の前から聞こえる言葉に、アリシアは自分の腹部に押しつけられた存在に気付く。
 熱く硬く猛々しいものは既にしっかり上を向き、今すぐにでも快楽を与えてくれるだろう。
 それはロシュが自分の身体に興奮しているということ。
 そう思っただけで、指の触れる場所が熱くなる気がした。

「ロシュ……もう、そこ……触ったら」

「一回イっとけよ。ここの中はベッドでな」

「へ……? あっ、駄目、ってばぁ……」

 アリシアの言葉を無視するように、ロシュは襞の上にある突起を強く扱いた。
 二本の指で挟んで動かされ、一瞬で頭の先まで快感が突き抜ける。
 崩れ落ちそうな身体でロシュにしがみつきながら、アリシアはすぐに達してしまった。

「ひぁっ! あっ、あー……っ!」

 びくりと身体を震わせると、そのまま床に座り込んでしまいそうになる。
 しかし途中でロシュが抱き留め、泡だらけの身体にシャワーを浴びせた。

「ま、待って! 今、身体、駄目だから……っ」

「敏感になってんだろ? いいじゃん、今のお前、すっげぇやらしい」

「やぁっ、もぉ……」

 降り注ぐお湯が胸の先端を膨らませ、はじき返すように立ち上がってしまう。
 力の入らない身体を弄られ、そこかしこに触れる指先に身体が跳ねる。
 こんなことを続けられたら今度こそのぼせてしまう。
 ぼんやりとした頭で思っていると、ロシュはアリシアを抱き上げて浴室から出た。

「もういいよな?」

 手早くタオルで水気を拭ったロシュはそのままベッドへとなだれ込む。
 くしゃくしゃになった毛布を蹴飛ばし、冷たいシーツへ素肌を押しつけた。

「待って、髪、乾かさないと……」

「はぁ? そんなん待てるかよ」

 苛立たしげな声のあとに低く呪文が唱えられ、温かい風が二人を包む。
 それはあっという間に髪や肌を乾かし、アリシアの主張を一瞬で済ませてしまった。
 こんなことにまで魔法を使うなんて、どれほど余裕がないのだろうか。
 自分の身体を跨いで見おろしてくるロシュを見て、ふっと笑みがこぼれてしまった。

「なんだよ?」

「ううん。ごめんね、待たせて」

 アリシアから手を伸ばせば、ロシュはしっかり抱きしめてくれた。
 温かい肌からは鼓動が伝わり、荒い呼吸からは情欲が感じ取れた。
 安堵と欲望がない交ぜになった感情は、呪いの中では存在しなかったものだ。
 ようやく得られたしがらみのない触れあいに、アリシアはほうっと吐息を漏らす。
 熱に浮かされずに触れる肌は、なんて心地がいいのか。
 音を立てて唇を合わせていると、ロシュの手が再び胸に下りてきた。
 感触を探るようにそっと触れたかと思えば、反応を見たいとばかりに抓ってみる。
 その度に身体を震わせるアリシアを見て、ロシュは柔らかな笑みを浮かべていた。

「もう……遊んでるでしょ?」

「遊んでなんてねぇよ。反応を楽しんでる」

「それを遊んでるって……ひゃうっ!」

「正気を保ってるお前とすんの、初めてだからな。もっと見たいって思って当然じゃね」

 そんなことを言いながら胸に唇を寄せられると、どうしようもなく苦しくなってしまう。
 今は狂おしいほどの熱なんて感じない。
 けれど、温かな熱が身体を満たしてくれている。
 気持ちの伴った行為はここまですべてを満たしてくれるのか。
 そっとロシュの頭を撫でてみると、膨らんだ場所にカリッと歯を立てられた。

「あんっ!」

「うわ、いい声。お前、ほんとはこれ好きだろ?」

「そ、んなっ……ひゃっ、歯ぁ立てちゃやぁって……もぉっ!」

 舌で柔らかく舐られ、時折前歯で甘噛みされて堪えきれるはずがない。
 音を立てて吸い付かれたと同時、アリシアはロシュの頭を強く抱きしめてしまう。
 自分の胸に顔を埋められていると思えば、それもまたアリシアの身体を悦ばせた。

「お前さ、舐められるの好きだよな?」

 そう言って、ロシュはアリシアの腕から抜け出し下へと向かった。
 尖らせた舌が胸の際を縁取り、みぞおちから臍までをゆっくりと辿っていく。
 その場所からは言い知れない痺れが伝播し、熱い吐息を抑えられない。
 そうして辿り着いた下腹部には、もう何もないと分かっている。
 だというのに、ロシュがその場を執拗に撫で上げ、唇を寄せる意味はなんなのか。
 小さく息を吐きながら見つめていると、紋章が居座っていた場所に赤い花が散った。

「ん。付いた」

 唇を当てて強く吸い、音を立てながら離れていく。
 それを何度も何度も繰り返す姿は、後悔にも執着にも見えるかもしれない。
 自分を支配していたものがあった場所に、新たな証しが刻まれる。
 目に見える繋がりを与えてもらった気がして、アリシアはまたしても嬉しさがこみ上げてしまった。

「もう、あんなもん刻ませんなよ」

 そう小さく呟くと、ロシュはアリシアの脚を大きく広げた。
 晒された場所はすでに十分潤っているだろう。
 だというのに、ロシュは足りないとばかりに唾液を絡めた舌を押しつけた。

「あぁ……っ!」

「ちゃんと、濡れてくれてんのな」

 あれほど執拗な愛撫に反応しないはずがない。
 なのにロシュは更に快感を引き出そうとしているのか、狭い場所に指を差し込んできた。

「んぅ……っ、両方、だめ……ぇ」

「駄目じゃなくて、いい、な」

 膨らみに吸い付かれ、身体の中を指で探られる。
 中も外も刺激されてはどちらに反応していいのか分からない。
 むしろお互いを強めるような愛撫は、アリシアを再び絶頂へと運んでしまう。

「も、ロシュ……っ、いっちゃぅ……っ!」

「見てるから、イってみろ」

 吸い付く音もかき混ぜる音も、淫猥な水音として耳に届く。
 しかしそれよりもアリシアを高めるのは、歓喜に満ちたロシュの声だった。
 耳に心地よく、肌をくすぐるその声に、アリシアは身体にぎゅっと力を込めた。

「んっ……あ、んうぅ……っ!」

 暴れそうになる腰を押さえつけられ、逃すことのできない快感がアリシアの身を震わせた。
 ロシュが顔を埋めているというのに達してしまった。
 とろとろと愛液が零れているのを感じながら、アリシアは力なくロシュの髪に触れる。
 さらさらとした髪は心地よく、ぼんやりした頭で何度も指に絡める。
 しかしそんな手遊びはすぐに終わってしまい、口元を拭ったロシュが額を合わせてきた。

「もう、いいよな?」

 何がとは聞かれないが、アリシアはしっかり頷く。
 今までで一番丁寧に解された場所は、絶えずロシュを求めている。
 しかしそれは虚無感からではなく、ただただ愛しい存在を招きたいからだ。
 他の誰でもないロシュだから、ロシュだけを受け入れたい。
 その気持ちが伝わったのか、ロシュの猛りがぐっと押しあてられた。
 つるりとした先端が埋め込まれ、狭い場所を掘り進めるように押し込まれる。
 何度も経験してきたはずなのに、今が一番恥ずかしくて、心地よくて、嬉しくて。
 酩酊してしまいそうな気持ちをどうにか引き戻し、熱い存在の行方に思いをはせた。

「あー……すっげぇ、気持ちいい」

 とんと奥を叩かれたことですべてが埋め込まれたのだと分かった。
 隙間などまるでない場所は、一心にロシュの存在を感じ取ろうとしていた。
 圧迫感に息が詰まるが、それより胸がいっぱいだ。
 呪いも何も関係のない繋がりが、ここまですべてを満たすものだったなんて。
 混ざり合うような熱も、似たような速度の鼓動も、今まで気付くことができなかった。
 それが無性に寂しいような気がして、ベッドについたロシュの手に触れる。

「ロシュとの初めて……こんなに、幸せだったのかな」

 混乱の中、悪態をつきながら致してしまったことが今さらながらもったいない。
 寂しい気持ちで見上げると、ロシュが小さく笑っていた。

「これから幸せ感じてけばいいだろ」

 そう言って、埋め込まれたものが穏やかに動かされた。
 中をゆっくり擦り上げられることで、ロシュの熱を十分に感じ取ることができる。
 執拗なほどに指で刺激された場所も、今となっては簡単に快楽を得るようになってしまった。
 それがロシュによるものだと思うと、そう感じることすら喜びになる。
 今までで一番声を上げてしまうのは呪いではなく本心で繋がっているからなのだろう。
 無理に脚を押し広げられることもなく、羞恥や苦しさを掻きたてるような姿勢でもない。
 けれど動きは次第に速くなり、湧き上がる快感がアリシアの身体に広がっていく。

「んっ……ロシュ、気持ち、い?」

「いい、に……決まってんだろ……っ」

 互いの肌がぶつかる音に、泡立った愛液がかき混ぜられる音。
 二人をかき立てているのは暴力的な熱でも、堪えきれない渇望でもない。
 思いと共に身体が結ばれることが、ここまで幸せを感じるだなんて。
 それはロシュの気持ちにも影響を与えているのか、浅い呼吸で呟いた。

「お前は、誰にもやんねぇから……俺以外、誰にも……触らせんなよ」

 喘ぐような声に胸が高まり、目尻に涙が浮かんだ。
 そんなアリシアを見て驚いてしまったのだろう。
 動きを止めて気遣わしげに覗き込むロシュに、快感の残る身体でどうにか笑みを返した。

「ロシュが……そんなこと言うなんて、びっくり、しちゃった……」

「……こんなこと、普段言えるわけねぇだろ」

 拗ねたような表情が可愛らしくてたまらない。
 そして、そんな顔をさせてるのが自分だということが嬉しい。
 今まで振り回されてばかりだったのに、こうして困らせることができるなんて。
 
「じゃあ……今、もっと言って?」

「なら、言わせてみろよ」

 薄い笑みを浮かべたロシュは、今度は容赦なく腰を打ち付けてきた。
 寒い部屋で汗が散り、肌から立ち上る熱気が目に見えてしまうのではないか。
 自分を見下ろす視線は肌を焦がすくらいに強く、もっと見つめられたいと願ってしまう。
 ロシュの視界から出たくない、ずっとロシュの側に居たい。
 切実な思いはロシュと触れ合う場所をきゅっと引き締め、互いの感覚を鋭くさせる。
 
「馬鹿……っ、締めんな、よ……!」
 
「そんな、つもり……っ、あっ、やぁっ!」
 
 お返しとばかりに奥を突かれて、嬌声が抑えられるはずもない。
 一度漏れてしまった声を再び閉じ込めることなど不可能で、呼吸と共に溢れでてしまう。
 
「んっ、あ、いぃ……っ、もぅ、ロシュぅ……っ!」
 
「アリシア……っ、一緒、に……」
 
 押しつぶすように抱きしめられ、ぶつけるように唇を合わせる。
 今ある繋がりよりも強くと言わんばかりに、二人は舌を伸ばして絡ませた。
 呼吸なのか喘ぎ声なのかはもう分からない。
 それでも同じ気持ちを抱いているということだけは、何も言わなくても分かっていた。
 すべてを打ち付けるかのような繋がりの果て、二人は同時に絶頂に達した。
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