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rosey-rosey ♡第8話 操り人形♡
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「じゃあ、彼氏さんをお呼びいたしますね」
「はい」
いったん梨々の聴取は終わった。次は水面だ。
その前に水面は梨々に肩を貸し、廊下の長椅子まで連れて行ってくれた。
「水面……」
「待っててね、梨々。オレが梨々を守ってみせるよ。それと警察の人にお願いしようね」そう言って水面がさっきの部屋へ入って行った。
1時間ぐらいし、水面と佐藤刑事が廊下に出てきた。
「お話は把握いたしました。兎に角、神無月さん、お大事にね。捜査へのご協力は大変でしょうが、あなたの身を守るためです。宜しくお願いします」
佐藤刑事はお辞儀をした。ふたりもお辞儀した。被害届を出し、警察から指定された産婦人科へと急ぐ。
産婦人科は警察から車でほんの10分の所にあった。梨々はゆっくりにしか歩けない。痛い。下半身が……。ずっと水面がそばで包み込むようにヘルプしてくれている。
やがて梨々の診察の順番が来た。全身をくまなくチェックされ、医師はどうやら犯人の体液や唾液等を採取したらしい。また、性病の検査をするとも言われた。
「今日は帰って良いですよ」とその産婦人科医から言われた。
男達にいたぶられ、傷ついた体で警察に被害届を出しに行った。その直後に病院で検査。
だいたいに、朝には診断書のために産婦人科と整形外科へ水面と行っていた。
梨々は今にも倒れそうだ。疲れた……あまりにも。
ふたりは車に乗った。
「早くシャワーを浴びたいわ、水面。あたし……レイプされたままお風呂に入れていない。嫌よ。ごめんなさい、そんなあたしなのに、朝、水面にぺッティングをねだったわ……」
「良いさ、梨々。綺麗な梨々。優しくて勇気のある梨々が大好きだよ。今日は凄く疲れたよね……。オレ、オレのほうこそ、あの時梨々のおねだりを断るべきだったかもしれない。好きな気持ちを証明したかった。でも、傷ついた梨々に対して……」
「ううん、水面が欲しくてたまらなかったの。水面で清めたい、って言ったらヘンな言い方かもしれないけど、あたしはあの時我慢できませんでした」
そうして家に到着した。ガレージに車を停め、梨々は水面に支えてもらいながら歩いてエレベーターへ。そしてやっとの思いで自宅に到着した。
「梨々、オレ達が付き合ってる事、秘密にするのはもうやめにしないか? HAMAMIに」
「う……ん。お仕事、やりにくくならないかな?」
「みんな良い人ばかりじゃない。大丈夫だよ。それより、竜郁君の気持ちだよね。うちの息子、夕貴にはオレが話すよ。梨々、許してもらえるならいつか彼の都合のいい日に、オレ、竜郁君と話したいな」
梨々は、こんなに……こんなにも細やかに愛されていると、素直に嬉しい。
竜郁に分かってもらえたら良いなと祈るような心地だ。
「それと……」水面は少し考えこんだのち、口を開いた。
「今回の事件のこと、店長に伝えたほうが良いと思う」
「あ……それは、そうね。分かります。仕返しが怖いからこそ、今あたしは、信頼できる人達にこの事実をきちんと伝えたい。そのほうが見守ってもらえ、身の安全が守られるような気がします」
「うん、そうだね」
梨々はとても働ける体ではない。たくさんたまっていた有休を使いしばらく休む。
梨々は電話ですべてを店長に話した。
「え!? 梨々ちゃん……そんな目に! 可哀想にっ、あの真希という女性、何という人なんだ。そんな人だったとは。とにかく今は充分体を休めるんだよ」
「はい。店長、ありがとうございます、ご迷惑をおかけし申し訳ございません」
「なに言ってるんだ! 梨々ちゃん、君はなんにも悪くないんだよ。だからとにかく元気になるんだ!」
「はい……」
一方、水面はずっとレストランHAMAMIを休んでいる訳にもいかない。
水面は出勤してすぐ「店長、仕事が終わったらお話があります。お時間戴けますか?」と訊いた。
「ああ、良いよ水面君」
そして、退社後、水面は梨々と交際していることを話した。
「え!? 水面君、あのシューズ会社マルネオのお嬢様、真希さんとは?」
「もちろん、別れましたよ。」
「……ン、そんな気はしていたが、突然来なくなったからね、真希さん、店に。それで、そんな仕打ちを梨々ちゃんに?」
「ええ」
「あんまりな話じゃないか。警察は無論動いているんだね?」
「はい。梨々は警察から指定された産婦人科で検査をしたので、犯人のDNA鑑定ではっきりとする筈です」
「……それにしても、気の毒な話だ、私も胸が痛いよ!」
「店長、オレ、心から愛する梨々を守ってやりたいんです。だから、結婚しようと思っています」
「……うん。そうか」
「店が、人手不足で本当に申し訳ないよ」店長が水面に頭を下げる。
「何日間でも梨々ちゃんのために休んであげて、と本来なら言うべきだ。君とは長い付き合いだ。ただ、店がどうにもこうにも……」頭をもう一度下げる店長。
「分かっています、梨々にしつこいほど戸締まりするよう言ってあるし、この後もすぐに梨々の家へ行きます」
「そうか、そうしてあげて!」
梨々はまたも酷い目に遭っていた。
早朝のことだ。チャイムが鳴った。
……。梨々は凍り付く。返事をせずにそっと覗き穴から玄関外を覗いた。
真希だ!
(1人とも限らないし、真希さんが1人だとしても、何をされるか分からない。刺されるかも!?)
息を押し殺し留守を装う梨々。
「居るの分かってんのよ~、梨々さん? どうして出て来てくれないの? お見舞いに来たのよ。ア・タ・シ・の! 水面から聞いたわ~。あなた、輪姦されたんですって?! 何で逃げなかったの? サレたかったから? 変態ね! アッハハハ。駄目じゃない、自分の体をもっと大事にしなきゃ。バッカじゃない?! ウフフフフ」
悔しさと怖さ、ないまぜで梨々はおかしくなりそうだ。震えが止まらない。
でも相手にしたらきっとバカを見る。梨々は声を押し殺し続けた。
(見張られているかも? 家の中の会話、聴かれているかも?!)
梨々の脅えがどんどん心を蝕んで行く。
「また来るわ~。今度はお茶でもごちそうしてね!」高らかに笑い真希は去って行った。
梨々は、見られている・聞かれているという妄想に取り憑かれ、声を家の中で出せなくなった。それどころか電話にも細工が仕掛けられていて、全部丸見えかもしれない、とまで考え始めた。
だから頼りにしている水面に一切、真希が訪ねて心を傷つけられたことを伝えられない。恐怖を言葉に出来ない!
夕方、慌ただしくチャイムが鳴った。
(怖い! 怖い! 怖い!)
玄関ドアにすら近づけない梨々。
水面はただならぬ気配を感じ取り、すぐに携帯を鳴らした、梨々に電話した。
でも電話に出ない梨々。
画面を見ると『水面』。そこで梨々は玄関まで行き覗き穴を覗いた。愛する水面が立って居る。
すぐにドアを開け大泣きして飛びついた。
「水面! 助けて! あたし怖い! 殺されるかもっ!」
梨々の興奮状態がおさまらない。
「梨々、オレがいるからだいじょうぶだよ。オレが今ここにいる。何かあったんだね? オレがいるから大丈夫。さあ、リビングまで行こう。ゆっくりね……」
梨々はそれを聞き、やっと少し落ち着き、足を引きずるようにしながら水面に寄りかかりソファまで辿り着いた。
そして水面の耳元に手を当てヒソヒソと言った。
「全部見られて、全部聞かれてる?」
……それを聞き水面は愕然とした。
恐怖心ゆえ壊れてしまった梨々の心。
精神科でのカウンセリングの必要性を感じ取った。もしかしたら精神薬か何かも必要かもしれない、とも。
「梨々、大丈夫だよ。見られていないし、聴かれていない。一切ね。だから、安心してね。オレがいるよ」
梨々はコクリと頷いた。
そして今朝の真希の来訪の件を話した。侮辱されたこと、「また来る」と脅されたことことを。
「そうか……いったい、警察は何をやっているんだ!」
激しい怒りを露わにする水面。
ずっと梨々は水面に甘えていた。脅え、震え、懸命に落ち着こうとしていた。
「梨々、オレ今すぐ警察に電話するよ。捜査の状況を聴かせてもらう。今すぐ家に来てもらうさ。傷ついた体の梨々をこれ以上移動させたくない!」
「……はい」
蚊の鳴くような返事だ。
しかし、佐藤刑事は不在。他の刑事も今別件で手が離せないから、警察に出向いてくれなどと言う。
「こんな理不尽が通ってたまりますか!」
水面は声を荒げた。
「いや、そう言われましてもね。動きようがないものは動けないんでね」らちが明かない。水面は電話を切った。
「梨々……一人で家で待っていられるかい? オレは警察へ行き、捜査の状況を聴きたい」
「怖い! 嫌! あたしも行くわ、警察に」
水面は苦しい表情だ。
「わかったよ、梨々。じゃあ一緒に行こう。今朝の真希のことも話そう」
「はい」
警察署に着き、受付へ事情を話すとすぐに刑事課へ通された。
前と同じ部屋に入ってきたのは佐藤刑事だった。
「いや、先程は不在で申し訳有りませんでした」
「いえ」水面が答える。
「刑事さん、聴いて下さい! 実は真希さんが今日、わたしの家にやって来てわたしが受けたレイプの件を罵った上『また来る』と脅したんです!」
……佐藤刑事は少し黙った。そして言った。
「そうですか梨々さん。実はね……婦人科の検査結果で『水面さんの体液』が検出されました」
「え!」
水面と梨々が声を上げた。
レイプされた後、確かに梨々は「愛撫をして」と水面にねだり、水面はそれに応じた。体液が残っていることももちろん分かる。
それについて梨々が何も言えずにいると、水面が口火を切った。
「刑事さん、梨々が犯罪に遭ったあと、僕は確かに梨々の心身を慰めました。それは認めます。しかし、他の人間の……僕の後輩たちのものだって残っているでしょう? 現に、彼らは僕に犯行を認めていますよ?」
「その……武海さん、会話の録音はされていますか?」
「そんなものしてないですよ! どうなんですかっ、奴らの体液が検出されたでしょう?」
佐藤刑事は水面を真っすぐ見て答えた。
「いいえ」
梨々は、何者かに警察が絡め取られているように感じられた。それは水面も同じであった。
しかし警察で今、署内で刑事に向かって下手なことは言えない。
梨々の頭の中に『四面楚歌』という熟語が浮かび消えなくなった。
(あたしと水面の敵なの? みんな。そんな……!)
「梨々行こう」
「武海さん、待ってください」佐藤刑事が言う。
「何ですか?」
「あなた、梨々さんに乱暴なことをされた覚えはないですか?」
歯ぎしりで歯が折れそうだ。
水面は堪忍し答えた。
「ないです。失礼いたします」
刑事は止めやしなかった。
(水面を容疑者呼ばわり?)
梨々も憤っている。何故止めない。容疑者だとするなら何故水面を警察は引き留め聴取をしない?
梨々は水面に連れられつつ、怨めしい顔をして佐藤刑事を見た。
佐藤刑事は目を逸らした。
梨々の自宅に到着した。
「くそったれが!」叫ぶ水面。
「……御免! 梨々、怖い声を出して、許して。オレ、我慢ならないよ!」
「大丈夫よ、水面」
ふたりでソファに腰かけ、今は梨々が水面の髪の毛を撫でている。
「真希のやつ、大社長の父親に金を配らせたんだ! 警察にな!」
「ええ、察しはついたわ」
「梨々、結婚は……竜郁君の気持ちを汲んでからだ。ただ、今こんな危険な状況の中、梨々を一人で住まわせておく訳には行かない。新しい家を借りられたら良いけど、情けないことにオレには金がない。赦してくれ……。だから、ここに居させてもらえないだろうか? オレの家でも良いけど。梨々に合わせるよ。同棲しよう」
梨々は涙を湛えた瞳で水面を見返して言った。
「ありがとう、ありがとう! 水面っ……。確かにここで怖い思いをしたわ。でも、あたし、実は……こんな時に変かも知れないけど、真希さんがかつて訪ねていた水面の家に暮らすのは抵抗があるんです」
「いいんだよ、梨々。正直に言ってくれてありがとう。じゃあ、オレの荷物なんて知れてるから、さっそく明日車で持ってくるよ。今夜はもう遅いからね」
「はい」
「それと梨々……。梨々、精神科に行ってほしいよ。クリニックでカウンセリングが受けられるのならそうしたほうが良いし、気持ちが楽になるなら、今の梨々にはお薬も必要かもしれない。素人のくせにって思われるだろうけど、オレは梨々を誰よりも愛してるんだ。どうだろう?」
「うん……。病院、行きます」
「はい」
いったん梨々の聴取は終わった。次は水面だ。
その前に水面は梨々に肩を貸し、廊下の長椅子まで連れて行ってくれた。
「水面……」
「待っててね、梨々。オレが梨々を守ってみせるよ。それと警察の人にお願いしようね」そう言って水面がさっきの部屋へ入って行った。
1時間ぐらいし、水面と佐藤刑事が廊下に出てきた。
「お話は把握いたしました。兎に角、神無月さん、お大事にね。捜査へのご協力は大変でしょうが、あなたの身を守るためです。宜しくお願いします」
佐藤刑事はお辞儀をした。ふたりもお辞儀した。被害届を出し、警察から指定された産婦人科へと急ぐ。
産婦人科は警察から車でほんの10分の所にあった。梨々はゆっくりにしか歩けない。痛い。下半身が……。ずっと水面がそばで包み込むようにヘルプしてくれている。
やがて梨々の診察の順番が来た。全身をくまなくチェックされ、医師はどうやら犯人の体液や唾液等を採取したらしい。また、性病の検査をするとも言われた。
「今日は帰って良いですよ」とその産婦人科医から言われた。
男達にいたぶられ、傷ついた体で警察に被害届を出しに行った。その直後に病院で検査。
だいたいに、朝には診断書のために産婦人科と整形外科へ水面と行っていた。
梨々は今にも倒れそうだ。疲れた……あまりにも。
ふたりは車に乗った。
「早くシャワーを浴びたいわ、水面。あたし……レイプされたままお風呂に入れていない。嫌よ。ごめんなさい、そんなあたしなのに、朝、水面にぺッティングをねだったわ……」
「良いさ、梨々。綺麗な梨々。優しくて勇気のある梨々が大好きだよ。今日は凄く疲れたよね……。オレ、オレのほうこそ、あの時梨々のおねだりを断るべきだったかもしれない。好きな気持ちを証明したかった。でも、傷ついた梨々に対して……」
「ううん、水面が欲しくてたまらなかったの。水面で清めたい、って言ったらヘンな言い方かもしれないけど、あたしはあの時我慢できませんでした」
そうして家に到着した。ガレージに車を停め、梨々は水面に支えてもらいながら歩いてエレベーターへ。そしてやっとの思いで自宅に到着した。
「梨々、オレ達が付き合ってる事、秘密にするのはもうやめにしないか? HAMAMIに」
「う……ん。お仕事、やりにくくならないかな?」
「みんな良い人ばかりじゃない。大丈夫だよ。それより、竜郁君の気持ちだよね。うちの息子、夕貴にはオレが話すよ。梨々、許してもらえるならいつか彼の都合のいい日に、オレ、竜郁君と話したいな」
梨々は、こんなに……こんなにも細やかに愛されていると、素直に嬉しい。
竜郁に分かってもらえたら良いなと祈るような心地だ。
「それと……」水面は少し考えこんだのち、口を開いた。
「今回の事件のこと、店長に伝えたほうが良いと思う」
「あ……それは、そうね。分かります。仕返しが怖いからこそ、今あたしは、信頼できる人達にこの事実をきちんと伝えたい。そのほうが見守ってもらえ、身の安全が守られるような気がします」
「うん、そうだね」
梨々はとても働ける体ではない。たくさんたまっていた有休を使いしばらく休む。
梨々は電話ですべてを店長に話した。
「え!? 梨々ちゃん……そんな目に! 可哀想にっ、あの真希という女性、何という人なんだ。そんな人だったとは。とにかく今は充分体を休めるんだよ」
「はい。店長、ありがとうございます、ご迷惑をおかけし申し訳ございません」
「なに言ってるんだ! 梨々ちゃん、君はなんにも悪くないんだよ。だからとにかく元気になるんだ!」
「はい……」
一方、水面はずっとレストランHAMAMIを休んでいる訳にもいかない。
水面は出勤してすぐ「店長、仕事が終わったらお話があります。お時間戴けますか?」と訊いた。
「ああ、良いよ水面君」
そして、退社後、水面は梨々と交際していることを話した。
「え!? 水面君、あのシューズ会社マルネオのお嬢様、真希さんとは?」
「もちろん、別れましたよ。」
「……ン、そんな気はしていたが、突然来なくなったからね、真希さん、店に。それで、そんな仕打ちを梨々ちゃんに?」
「ええ」
「あんまりな話じゃないか。警察は無論動いているんだね?」
「はい。梨々は警察から指定された産婦人科で検査をしたので、犯人のDNA鑑定ではっきりとする筈です」
「……それにしても、気の毒な話だ、私も胸が痛いよ!」
「店長、オレ、心から愛する梨々を守ってやりたいんです。だから、結婚しようと思っています」
「……うん。そうか」
「店が、人手不足で本当に申し訳ないよ」店長が水面に頭を下げる。
「何日間でも梨々ちゃんのために休んであげて、と本来なら言うべきだ。君とは長い付き合いだ。ただ、店がどうにもこうにも……」頭をもう一度下げる店長。
「分かっています、梨々にしつこいほど戸締まりするよう言ってあるし、この後もすぐに梨々の家へ行きます」
「そうか、そうしてあげて!」
梨々はまたも酷い目に遭っていた。
早朝のことだ。チャイムが鳴った。
……。梨々は凍り付く。返事をせずにそっと覗き穴から玄関外を覗いた。
真希だ!
(1人とも限らないし、真希さんが1人だとしても、何をされるか分からない。刺されるかも!?)
息を押し殺し留守を装う梨々。
「居るの分かってんのよ~、梨々さん? どうして出て来てくれないの? お見舞いに来たのよ。ア・タ・シ・の! 水面から聞いたわ~。あなた、輪姦されたんですって?! 何で逃げなかったの? サレたかったから? 変態ね! アッハハハ。駄目じゃない、自分の体をもっと大事にしなきゃ。バッカじゃない?! ウフフフフ」
悔しさと怖さ、ないまぜで梨々はおかしくなりそうだ。震えが止まらない。
でも相手にしたらきっとバカを見る。梨々は声を押し殺し続けた。
(見張られているかも? 家の中の会話、聴かれているかも?!)
梨々の脅えがどんどん心を蝕んで行く。
「また来るわ~。今度はお茶でもごちそうしてね!」高らかに笑い真希は去って行った。
梨々は、見られている・聞かれているという妄想に取り憑かれ、声を家の中で出せなくなった。それどころか電話にも細工が仕掛けられていて、全部丸見えかもしれない、とまで考え始めた。
だから頼りにしている水面に一切、真希が訪ねて心を傷つけられたことを伝えられない。恐怖を言葉に出来ない!
夕方、慌ただしくチャイムが鳴った。
(怖い! 怖い! 怖い!)
玄関ドアにすら近づけない梨々。
水面はただならぬ気配を感じ取り、すぐに携帯を鳴らした、梨々に電話した。
でも電話に出ない梨々。
画面を見ると『水面』。そこで梨々は玄関まで行き覗き穴を覗いた。愛する水面が立って居る。
すぐにドアを開け大泣きして飛びついた。
「水面! 助けて! あたし怖い! 殺されるかもっ!」
梨々の興奮状態がおさまらない。
「梨々、オレがいるからだいじょうぶだよ。オレが今ここにいる。何かあったんだね? オレがいるから大丈夫。さあ、リビングまで行こう。ゆっくりね……」
梨々はそれを聞き、やっと少し落ち着き、足を引きずるようにしながら水面に寄りかかりソファまで辿り着いた。
そして水面の耳元に手を当てヒソヒソと言った。
「全部見られて、全部聞かれてる?」
……それを聞き水面は愕然とした。
恐怖心ゆえ壊れてしまった梨々の心。
精神科でのカウンセリングの必要性を感じ取った。もしかしたら精神薬か何かも必要かもしれない、とも。
「梨々、大丈夫だよ。見られていないし、聴かれていない。一切ね。だから、安心してね。オレがいるよ」
梨々はコクリと頷いた。
そして今朝の真希の来訪の件を話した。侮辱されたこと、「また来る」と脅されたことことを。
「そうか……いったい、警察は何をやっているんだ!」
激しい怒りを露わにする水面。
ずっと梨々は水面に甘えていた。脅え、震え、懸命に落ち着こうとしていた。
「梨々、オレ今すぐ警察に電話するよ。捜査の状況を聴かせてもらう。今すぐ家に来てもらうさ。傷ついた体の梨々をこれ以上移動させたくない!」
「……はい」
蚊の鳴くような返事だ。
しかし、佐藤刑事は不在。他の刑事も今別件で手が離せないから、警察に出向いてくれなどと言う。
「こんな理不尽が通ってたまりますか!」
水面は声を荒げた。
「いや、そう言われましてもね。動きようがないものは動けないんでね」らちが明かない。水面は電話を切った。
「梨々……一人で家で待っていられるかい? オレは警察へ行き、捜査の状況を聴きたい」
「怖い! 嫌! あたしも行くわ、警察に」
水面は苦しい表情だ。
「わかったよ、梨々。じゃあ一緒に行こう。今朝の真希のことも話そう」
「はい」
警察署に着き、受付へ事情を話すとすぐに刑事課へ通された。
前と同じ部屋に入ってきたのは佐藤刑事だった。
「いや、先程は不在で申し訳有りませんでした」
「いえ」水面が答える。
「刑事さん、聴いて下さい! 実は真希さんが今日、わたしの家にやって来てわたしが受けたレイプの件を罵った上『また来る』と脅したんです!」
……佐藤刑事は少し黙った。そして言った。
「そうですか梨々さん。実はね……婦人科の検査結果で『水面さんの体液』が検出されました」
「え!」
水面と梨々が声を上げた。
レイプされた後、確かに梨々は「愛撫をして」と水面にねだり、水面はそれに応じた。体液が残っていることももちろん分かる。
それについて梨々が何も言えずにいると、水面が口火を切った。
「刑事さん、梨々が犯罪に遭ったあと、僕は確かに梨々の心身を慰めました。それは認めます。しかし、他の人間の……僕の後輩たちのものだって残っているでしょう? 現に、彼らは僕に犯行を認めていますよ?」
「その……武海さん、会話の録音はされていますか?」
「そんなものしてないですよ! どうなんですかっ、奴らの体液が検出されたでしょう?」
佐藤刑事は水面を真っすぐ見て答えた。
「いいえ」
梨々は、何者かに警察が絡め取られているように感じられた。それは水面も同じであった。
しかし警察で今、署内で刑事に向かって下手なことは言えない。
梨々の頭の中に『四面楚歌』という熟語が浮かび消えなくなった。
(あたしと水面の敵なの? みんな。そんな……!)
「梨々行こう」
「武海さん、待ってください」佐藤刑事が言う。
「何ですか?」
「あなた、梨々さんに乱暴なことをされた覚えはないですか?」
歯ぎしりで歯が折れそうだ。
水面は堪忍し答えた。
「ないです。失礼いたします」
刑事は止めやしなかった。
(水面を容疑者呼ばわり?)
梨々も憤っている。何故止めない。容疑者だとするなら何故水面を警察は引き留め聴取をしない?
梨々は水面に連れられつつ、怨めしい顔をして佐藤刑事を見た。
佐藤刑事は目を逸らした。
梨々の自宅に到着した。
「くそったれが!」叫ぶ水面。
「……御免! 梨々、怖い声を出して、許して。オレ、我慢ならないよ!」
「大丈夫よ、水面」
ふたりでソファに腰かけ、今は梨々が水面の髪の毛を撫でている。
「真希のやつ、大社長の父親に金を配らせたんだ! 警察にな!」
「ええ、察しはついたわ」
「梨々、結婚は……竜郁君の気持ちを汲んでからだ。ただ、今こんな危険な状況の中、梨々を一人で住まわせておく訳には行かない。新しい家を借りられたら良いけど、情けないことにオレには金がない。赦してくれ……。だから、ここに居させてもらえないだろうか? オレの家でも良いけど。梨々に合わせるよ。同棲しよう」
梨々は涙を湛えた瞳で水面を見返して言った。
「ありがとう、ありがとう! 水面っ……。確かにここで怖い思いをしたわ。でも、あたし、実は……こんな時に変かも知れないけど、真希さんがかつて訪ねていた水面の家に暮らすのは抵抗があるんです」
「いいんだよ、梨々。正直に言ってくれてありがとう。じゃあ、オレの荷物なんて知れてるから、さっそく明日車で持ってくるよ。今夜はもう遅いからね」
「はい」
「それと梨々……。梨々、精神科に行ってほしいよ。クリニックでカウンセリングが受けられるのならそうしたほうが良いし、気持ちが楽になるなら、今の梨々にはお薬も必要かもしれない。素人のくせにって思われるだろうけど、オレは梨々を誰よりも愛してるんだ。どうだろう?」
「うん……。病院、行きます」
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