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第3章:漂流の寄港地ー学園編
第63話:演じるはずの恋
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夏休みを共に過ごしてからというもの、殿下との距離は少しずつ縮まり、今では友人のように感じられるほどになった。
定期的に手紙を出すと、殿下は相変わらず律儀に返事を書いてくれる。
直近の手紙にはこう綴った。
『秋の学園祭では演劇を上演します。オーディションで異国の王女役を射止めた私は、今、古代語を一生懸命覚えているところです』
殿下からの返事はこんな感じだった。
『王女役の配役を受けたとのこと、おめでとう。公務の都合がつけば、足を運ぼうと思う』
それと並行して、私はカリに依頼して「古代語を勉強している私」を描かせ、陛下へ送った。
教科書を、ところどころ左右反転させて。
――皇太子妃教育を怠っていないという、ささやかなアピール。
けれど本当は。
台本を読み込むうちに、もしかして、と思うことがあったのだ。
きっかけは、シャルル様が贈ってくれた手紙。
古代語を鏡文字にすると、あの日、陛下に託した紙片の走り書きにどことなく似ている気がしたのだ。
確信にはほど遠い。ただの勘違いかもしれない。
けれど陛下なら……この意図を汲んでくださるはず。
返事は簡潔だった。
『学びは必ず将来、実を結ぶ』
一見すると、ただの励ましの言葉に見える。
けれど私には、陛下が私の意図を理解してくださったと確信できた。
その短い一文が、未来への約束のように響いて、心強かった。
***
その日は、リハーサルで帰りが遅くなり、王子役を務めるギヨームがレオポルドに代わって寮まで送り届けてくれた。
「ギヨーム。送ってくれてありがとう! また明日ね」
「エレナもお疲れさま!」
西国からの留学生でもあるギヨームは、整った顔立ちなのに気取ったところがなく、その人好きのする笑顔で男女問わず人を惹きつける好青年だ。舞台の王子役にぴったりの雰囲気をまとい、誰とでも肩の力を抜いて接するその自然さが、彼の魅力をいっそう際立たせていた。
寮の入り口で別れると、復習がてらブツブツと台詞をつぶやきながら部屋へと戻った。
「ただいま」
鞄を台所のテーブルに置き、制服のままエプロンを掛ける。
棚から取り出したのは、銅色に艶めくアンティークのケトルだ。
水を張って火にかけると、やがてコトコトと小さな音が立ち、白い湯気が立ちのぼり始める。
その間に窓辺へ歩み寄り、小さな鉢植えに霧を吹きかける。
葉の先から雫が滴り落ち、土がしっとりと色を変える。
小さな自然の匂いに、一日の緊張がほっこり解けていく。
火を止め、銀のティーポットにサーフォーク領の香り高い茶葉を落とす。
こぽこぽと湯を注いだ瞬間、葉がゆっくり開いて、甘やかな花の香りが部屋いっぱいに広がる。
一口含むと、そのまま丸椅子に腰かけ、練習を再開することにした。
演劇のテーマは、悲恋――実らぬ恋だ。
「国を捨てる覚悟で参りました。わたくしを、貴方様の側においてくださいませんか? 貴方を愛してしまったのです。もう、離れたくありません」
「――私も、貴女を愛しています」
「ひいっ!!」
いきなり相手方であるギヨームの声が聞こえた気がして驚いて顔を上げると、灯りを落としたままの薄暗い部屋の中央に大柄な男性の影が見えた。
「レオポルド!! 不審者よっ!」
「っ、エレナ様!!」
すぐさま隣室の続き扉が開き、レオポルドが部屋へ足を踏み入れた。
それを、男が片手を上げて制する。
「不審者とは心外だな。……夫の声も忘れたか?」
「私に夫なんていないわよっ!! レオポルド、この不届き者を掴まえてちょうだいっ!」
「なんだと……?」
地を這うような声が聞こえて、一瞬怯んでしまう。
「ひぃっ! えっ、殿下? ……何しにここへ?」
「夫が妻に会いに来るのに、理由がいるのか」
「っていうか、どうやって入ったんです!?」
「――合鍵を受け取った」
「誰から!?」
聞いてすぐに愚問だと気がついた。
合鍵を渡す人ならそこら中にいる。
学園長も、寮の警護官も、そして、無音のまま隣室へと姿を消したレオポルドも……。
「寮母からだ。――必要だと言えば誰も逆らえない」
そういえば、寮母は全ての鍵を一括管理している……。
「それより台本を寄越せ。見てやろう」
「結構です」
「遠慮しなくていい。演技くらいはできる」
台本に目を通すなり、殿下は眉をしかめて低い声で言った。
「……ギヨームと練習していたのか」
もう否定もしなかった。
だって。
私の一挙手一投足は、宮殿の玉座の間まで直通だってことを思い出したから。
殿下が顎で合図して、続きを促す。
「――今夜だけでも。わたくしを愛してくださいませんか?」
「王女殿下……ブランシュ。私も、貴女を愛している」
ここでキスシーンなのよね。
先ほどギヨームと行ったリハーサルのロマンチックなシーンを思い出して瞳を閉じた瞬間、顎を掴まれ、唇に軽い口付けが落とされた。
「なっ……何を――!」
「演劇の練習だろう?」
「そ、そんな、本当にしなくても!」
「妻に口付けをして何が悪い?」
「ファーストキスだったのに!」
殿下の表情が、一瞬だけ止まった。
夏休みを一緒に過ごしてから、こういう反応が増えた気がする。
「……何を言っている。婚姻式を忘れたのか」
はっ。あまりにも悲惨な式だったから、無意識に記憶から抹消されてたみたい。
「上演中、本当に口付けを交わすわけじゃないだろうな?」
「振りだけですよ! ……たぶん」
「『たぶん』とはどういう意味だ」
「どぉしてそんなに怒るんですか!」
「大事なことだろう」
「その『大事なこと』を初心な未成年妻に軽率にやった人が言わないでください!」
「……口付け一つでこんなに赤面していて、王女役が務まるのか?」
「うっ……痛いところを」
「練習に付き合ってやろう」
殿下の口元に意味深な微笑みが浮かび、思わず後ずさりする。
次の瞬間には、私の手から台本が取り上げられ、テーブルの上へ置かれた。
「っ、結構です」
「……照れなくていい」
流れるような動作で、殿下の指先が私の頬に触れる。
そのまま距離を詰められ、チュッ、チュッと可愛らしい口付けが落ちた。
頬が一気に熱を帯び、胸の奥がざわざわとする。
「嫌か?」
「……嫌です」
鼻先が触れそうな距離で、殿下が小さく笑った。
「ふっ。嘘だな」
次の瞬間、強く抱き寄せられ、唇を塞がれた。
深まっていく口づけに息が奪われ、抗議の言葉も溶けていく。
腰が抜けそうになった私を、殿下が片腕でしっかり支え、そっと椅子へ座らせた。
殿下は紅茶カップを2つ用意し、銀のティーポットから静かに注ぐ。
「飲むといい。落ち着くぞ」
立ちのぼる湯気に、頬の熱がさらに強まる。
胸を押さえたまま呼吸を整える私は、もう言葉も出なかった。
殿下はそんな私を見下ろし、低い声で告げた。
「――この役は降りろ」
「え?」
「皇太子妃が他の男と口付けなど、認められるはずがない」
「ええーっ!? 必死で練習してきたのに……」
たしかに、代役はいるけれど……。
私が情けない顔をしていると、殿下が「ふっ」と笑った。
「そんな顔をするな」
そう言って懐から取り出したのは、私の大好物――フィナンシェだった。
「菓子職人に頼んだ。……ヘレナの泣き顔をどうやれば笑顔にできるかと考えてな」
なんだか餌付けされたみたいで、ちょっぴり悔しい。
なのに、不思議と守られているような感覚がした。
唐突に思えた殿下の来訪も、ジュストとレオポルドから“王女役のキスシーン”の報告を受けたからだと後で知る。
結局、”実家からキスシーンにNGが出た”とかなんとか苦しい言い訳をして、せっかく勝ち取った王女役を降りることになった。
定期的に手紙を出すと、殿下は相変わらず律儀に返事を書いてくれる。
直近の手紙にはこう綴った。
『秋の学園祭では演劇を上演します。オーディションで異国の王女役を射止めた私は、今、古代語を一生懸命覚えているところです』
殿下からの返事はこんな感じだった。
『王女役の配役を受けたとのこと、おめでとう。公務の都合がつけば、足を運ぼうと思う』
それと並行して、私はカリに依頼して「古代語を勉強している私」を描かせ、陛下へ送った。
教科書を、ところどころ左右反転させて。
――皇太子妃教育を怠っていないという、ささやかなアピール。
けれど本当は。
台本を読み込むうちに、もしかして、と思うことがあったのだ。
きっかけは、シャルル様が贈ってくれた手紙。
古代語を鏡文字にすると、あの日、陛下に託した紙片の走り書きにどことなく似ている気がしたのだ。
確信にはほど遠い。ただの勘違いかもしれない。
けれど陛下なら……この意図を汲んでくださるはず。
返事は簡潔だった。
『学びは必ず将来、実を結ぶ』
一見すると、ただの励ましの言葉に見える。
けれど私には、陛下が私の意図を理解してくださったと確信できた。
その短い一文が、未来への約束のように響いて、心強かった。
***
その日は、リハーサルで帰りが遅くなり、王子役を務めるギヨームがレオポルドに代わって寮まで送り届けてくれた。
「ギヨーム。送ってくれてありがとう! また明日ね」
「エレナもお疲れさま!」
西国からの留学生でもあるギヨームは、整った顔立ちなのに気取ったところがなく、その人好きのする笑顔で男女問わず人を惹きつける好青年だ。舞台の王子役にぴったりの雰囲気をまとい、誰とでも肩の力を抜いて接するその自然さが、彼の魅力をいっそう際立たせていた。
寮の入り口で別れると、復習がてらブツブツと台詞をつぶやきながら部屋へと戻った。
「ただいま」
鞄を台所のテーブルに置き、制服のままエプロンを掛ける。
棚から取り出したのは、銅色に艶めくアンティークのケトルだ。
水を張って火にかけると、やがてコトコトと小さな音が立ち、白い湯気が立ちのぼり始める。
その間に窓辺へ歩み寄り、小さな鉢植えに霧を吹きかける。
葉の先から雫が滴り落ち、土がしっとりと色を変える。
小さな自然の匂いに、一日の緊張がほっこり解けていく。
火を止め、銀のティーポットにサーフォーク領の香り高い茶葉を落とす。
こぽこぽと湯を注いだ瞬間、葉がゆっくり開いて、甘やかな花の香りが部屋いっぱいに広がる。
一口含むと、そのまま丸椅子に腰かけ、練習を再開することにした。
演劇のテーマは、悲恋――実らぬ恋だ。
「国を捨てる覚悟で参りました。わたくしを、貴方様の側においてくださいませんか? 貴方を愛してしまったのです。もう、離れたくありません」
「――私も、貴女を愛しています」
「ひいっ!!」
いきなり相手方であるギヨームの声が聞こえた気がして驚いて顔を上げると、灯りを落としたままの薄暗い部屋の中央に大柄な男性の影が見えた。
「レオポルド!! 不審者よっ!」
「っ、エレナ様!!」
すぐさま隣室の続き扉が開き、レオポルドが部屋へ足を踏み入れた。
それを、男が片手を上げて制する。
「不審者とは心外だな。……夫の声も忘れたか?」
「私に夫なんていないわよっ!! レオポルド、この不届き者を掴まえてちょうだいっ!」
「なんだと……?」
地を這うような声が聞こえて、一瞬怯んでしまう。
「ひぃっ! えっ、殿下? ……何しにここへ?」
「夫が妻に会いに来るのに、理由がいるのか」
「っていうか、どうやって入ったんです!?」
「――合鍵を受け取った」
「誰から!?」
聞いてすぐに愚問だと気がついた。
合鍵を渡す人ならそこら中にいる。
学園長も、寮の警護官も、そして、無音のまま隣室へと姿を消したレオポルドも……。
「寮母からだ。――必要だと言えば誰も逆らえない」
そういえば、寮母は全ての鍵を一括管理している……。
「それより台本を寄越せ。見てやろう」
「結構です」
「遠慮しなくていい。演技くらいはできる」
台本に目を通すなり、殿下は眉をしかめて低い声で言った。
「……ギヨームと練習していたのか」
もう否定もしなかった。
だって。
私の一挙手一投足は、宮殿の玉座の間まで直通だってことを思い出したから。
殿下が顎で合図して、続きを促す。
「――今夜だけでも。わたくしを愛してくださいませんか?」
「王女殿下……ブランシュ。私も、貴女を愛している」
ここでキスシーンなのよね。
先ほどギヨームと行ったリハーサルのロマンチックなシーンを思い出して瞳を閉じた瞬間、顎を掴まれ、唇に軽い口付けが落とされた。
「なっ……何を――!」
「演劇の練習だろう?」
「そ、そんな、本当にしなくても!」
「妻に口付けをして何が悪い?」
「ファーストキスだったのに!」
殿下の表情が、一瞬だけ止まった。
夏休みを一緒に過ごしてから、こういう反応が増えた気がする。
「……何を言っている。婚姻式を忘れたのか」
はっ。あまりにも悲惨な式だったから、無意識に記憶から抹消されてたみたい。
「上演中、本当に口付けを交わすわけじゃないだろうな?」
「振りだけですよ! ……たぶん」
「『たぶん』とはどういう意味だ」
「どぉしてそんなに怒るんですか!」
「大事なことだろう」
「その『大事なこと』を初心な未成年妻に軽率にやった人が言わないでください!」
「……口付け一つでこんなに赤面していて、王女役が務まるのか?」
「うっ……痛いところを」
「練習に付き合ってやろう」
殿下の口元に意味深な微笑みが浮かび、思わず後ずさりする。
次の瞬間には、私の手から台本が取り上げられ、テーブルの上へ置かれた。
「っ、結構です」
「……照れなくていい」
流れるような動作で、殿下の指先が私の頬に触れる。
そのまま距離を詰められ、チュッ、チュッと可愛らしい口付けが落ちた。
頬が一気に熱を帯び、胸の奥がざわざわとする。
「嫌か?」
「……嫌です」
鼻先が触れそうな距離で、殿下が小さく笑った。
「ふっ。嘘だな」
次の瞬間、強く抱き寄せられ、唇を塞がれた。
深まっていく口づけに息が奪われ、抗議の言葉も溶けていく。
腰が抜けそうになった私を、殿下が片腕でしっかり支え、そっと椅子へ座らせた。
殿下は紅茶カップを2つ用意し、銀のティーポットから静かに注ぐ。
「飲むといい。落ち着くぞ」
立ちのぼる湯気に、頬の熱がさらに強まる。
胸を押さえたまま呼吸を整える私は、もう言葉も出なかった。
殿下はそんな私を見下ろし、低い声で告げた。
「――この役は降りろ」
「え?」
「皇太子妃が他の男と口付けなど、認められるはずがない」
「ええーっ!? 必死で練習してきたのに……」
たしかに、代役はいるけれど……。
私が情けない顔をしていると、殿下が「ふっ」と笑った。
「そんな顔をするな」
そう言って懐から取り出したのは、私の大好物――フィナンシェだった。
「菓子職人に頼んだ。……ヘレナの泣き顔をどうやれば笑顔にできるかと考えてな」
なんだか餌付けされたみたいで、ちょっぴり悔しい。
なのに、不思議と守られているような感覚がした。
唐突に思えた殿下の来訪も、ジュストとレオポルドから“王女役のキスシーン”の報告を受けたからだと後で知る。
結局、”実家からキスシーンにNGが出た”とかなんとか苦しい言い訳をして、せっかく勝ち取った王女役を降りることになった。
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