辞令:高飛車令嬢。妃候補の任を解き、宰相室勤務を命ずる

花雨宮琵

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第13話 “魔力なし”の義務

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 貴族学院に入学したての13歳の頃。
 魔力科の授業を受けていた。
 私を含めた“魔力なし”は、授業を見学してレポートを出すことで単位を貰えることになっている。

 その日の授業内容は、魔力のコントロール方法を学ぶものだった。
 貴族の子女はたいてい魔力を有していて、学院に入るまでは各家庭で教師をつけて魔力の使い方を学ぶのが習わしだ。
 だからなのだろう、誰もが自分の魔力量を披露することに躍起になっていた。
 つまるところ、授業という名を借りたお披露目会――自慢大会になっていたのだ。

 事件はそこで起きた。
 とある男子生徒の魔力が暴走したのだ。
 教師は各生徒に防御魔法を展開するよう告げると、自らも防御魔法を展開し“魔力なし”の生徒たちを守った。

 私はというと、教師に指示された教材を資料室へ取りに行くため席を外していた。
 何も知らないまま教室へ戻ったとき、一人の男子生徒が魔力暴走を起こしていることを瞬時に悟った。

 教師がいながら、何てこと! 生徒を守るべき立場にいるのに、防衛魔法を展開するので精一杯だなんて。
 私は迷いなく彼の元へ駆け寄ると、その身体を抱きしめた。

「た、助けてっ!」
「あなたの魔力を、そのまま私にぶつけて」
「だけどっ!」
「大丈夫。大丈夫だから。そう、上手よ。そのまま続けて」
「うっ……ほんとに、ごめん――」
 彼が膝から崩れ落ちた瞬間、暴れていた魔力が嘘のように霧散した。

 の生徒は、魔力暴走により身体の内側を走る神経回路に障がいが生じたらしく、そのまま学院を去ることになった。“魔力なし”となった彼は、由緒ある公爵家の嫡男でありながら後継から外され、留学という名の追放処分になったらしい。

「……魔女だ。こんなことができるのは、悪魔か魔女に違いない」
「そもそも、男子生徒の魔力が暴走したのは、デルフィーヌ嬢の仕業なのではないか」
「自分が事態を収束させたように見せたかったのでは?」
「彼はデルフィーヌ嬢に黒魔術で操られていたのかもしれない」

 そんな噂がまことしやかに流れた。情報源は、魔力暴走を起こした男子生徒の婚約者だった侯爵令嬢――のちに妃候補の一人となるクロエ嬢だ。
 どうやら彼女は、この事件が原因で婚約が解消された鬱憤を、私への誹謗中傷で晴らしたかったらしい。

 その後行われた学院の調査で、彼の魔力暴走を止められていなかったらあの生徒は間違いなく死亡していただろうこと、暴走を止められたのはなものであったことが結論付けられた。
 教師は、彼の暴走を止められなかったことを咎められ、6ヶ月の減給処分を受けた。

 それからだ。
 貴族でありながら“魔力なし”の私に対する風当たりが強くなったのは。

 ◇◇◇
「さて。本日の授業では、皆さんの魔力がどのように使われているのかを学びましょう」
 そう言って教師は教壇の上に、神殿にある貴石のレプリカを置いた。

「この貴石は皆さんもご存知ですね? そう。魔力判定を行なった日、神殿で触ったあの貴石です。両手を貴石にかざして魔力を込めると、それが吸収されて貴石は白く光ります。“魔力あり”と判定された国民は、四半期ごとに大神殿へ赴き、この貴石に魔力を投入することが義務付けられています」

「さて。我が国では国境付近で時々、小競り合いが生じているのは皆さんもご存知でしょう? 出陣の際、魔法騎士たちが貴石から皆さんが投入した魔力を吸収するのです。つまり、魔力持ちの皆さんはこの国の防衛力の一端を担っているというわけです」
「先生! それでは、”魔力なし”の者たちはこの国にどう貢献しているのですか?」
「平民は、より多くの税金を国へ納めることで貢献しているのです」
「そうだとすると、貴族の恩恵を受けながら何の貢献もしていない人がいるのは、不公平ですよね? たとえば……みたいに」

 みなが一斉に私を見た。
 彼らの瞳には、蔑みと非難の色が宿っていた。
 というわけで、貴族なのに魔力なしの私には、『国防に貢献せよ』との大義名分のもと、学院の長期休暇のたびに従軍して勤労することが魔法科の単位取得の条件となったのだ。

「――ソフィーまでついて来ることなかったのに」
「私はお嬢様の侍女ですから。それに、従軍している間は3食付きですし」

 私とソフィーが派遣されている国境付近の野戦病院に入院している者の多くは平民出身の兵士たちだ。
 魔法が使える“魔力持ち”は、赤色の医療ウェアを着ている。
 一方“魔力なし”あるいは“魔力の少ない者”たちは、白色の看護服を身に着けて、日がな一日、患者の身体を拭いたり食事の介助をしたり、包帯やシーツを洗ったり、時には調理補助などをしたりしながら過ごしている。いわゆる、下働きというやつだ。

 そんなある日。
 黒髪に炎のような赤い瞳をした一人の兵士が野戦病院を訪れた。
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