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推しの誘惑【完全版】
会社員・ゴロー
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室内では鷹城が待っていた。
「遅くなりました……って、え!?」
真琴は鷹城の意外な姿を見て、驚いた。
彼はマコカラーの真っ赤なはっぴに、同色のはちまきをつけ、右手にはサイリウムと呼ばれるペン型のライトを、左手には『こっち見て』と書かれた手製の応援うちわを持っている。どうみても立派なアイドルオタクだ。
「マコ……! 本当に来てくれたんだね。俺の方が早く着いたから、待っていたんだ……。――ささ、コートを脱いで」
鷹城ははにかんだような笑顔を向けた。普段の彼がしないような、うぶな表情をしている。
(あ、すごい。もう役に入ってる)
真琴はちょっと感動した。鷹城は演じるのも得意らしい。
「あの……鷹城先生?」
「ノンノン。俺はいまただの会社員のゴローだよ、マコ」
「もう演技は始まっているってことですね……」
「そう。さあ、こっちへ来て」
鷹城はするりと真琴の後ろに立つと、来ていたコートを脱がせた。するとミヤビに着せてもらったステージ衣装が現れる。
真琴は今、華奢な体躯{たいく}と相まって、どこからどう見てもアイドルの女の子にしか見えない。
女子高生の制服風の華やかなコスチューム。赤チェックのスカートが目を引く。すんなりと伸びる脚には健康的な色っぽさがある。
もともと長めの髪は、前髪を切った後は、丁寧にブローし、羽根飾りをつけるだけにした。ダークブラウンの猫っ毛が動く度にさらさらと揺れる。
そして最後に、真琴はサングラスとマスクをとった。つやつやとした白い肌に、チークが淡く乗った頬。かわいい鼻や、流行りの形の眉や、桃色のリップを塗った小さな唇は、プロの手で完璧に仕上がっている。
中でも特に印象的なのは、カラーコンタクトでさらに大きくなった愛らしい黒い瞳である。アイホールにはアイシャドウによって品のよいグラデーションが出来、くっきりした二重とアイライン、そしてふさふさの睫毛{まつげ}が両の眼を縁取っていて、もう無敵といってもよいほど強い眼力{めぢから}だ。
真琴は照れくささと緊張にドキドキしながら、口を開く。
「どう……ですか? 変じゃないですか」
「マコ……」
鷹城は鳶色の瞳をとろけさせた。うっとりとした表情で真琴の全身や、顔をしばらく眺めていた。
「全然変じゃないよ……。とても素敵だよ。マコだ……俺がずっと愛して、崇{あが}めていた〈恋wazurai〉のマコが……今目の前にいる……」
恍惚としたテノールだ。彼はアイドルの恰好をした真琴を見て、本当に恋をしているようである。
(は、迫力のある演技だな……)
真琴はちょっと退いた。でもそろそろ自分も役に入らなければならない。コスチュームプレイをしなければ、この羞恥の時間は永遠に続くのだ。
(さっさと終わらそう)
「遅くなりました……って、え!?」
真琴は鷹城の意外な姿を見て、驚いた。
彼はマコカラーの真っ赤なはっぴに、同色のはちまきをつけ、右手にはサイリウムと呼ばれるペン型のライトを、左手には『こっち見て』と書かれた手製の応援うちわを持っている。どうみても立派なアイドルオタクだ。
「マコ……! 本当に来てくれたんだね。俺の方が早く着いたから、待っていたんだ……。――ささ、コートを脱いで」
鷹城ははにかんだような笑顔を向けた。普段の彼がしないような、うぶな表情をしている。
(あ、すごい。もう役に入ってる)
真琴はちょっと感動した。鷹城は演じるのも得意らしい。
「あの……鷹城先生?」
「ノンノン。俺はいまただの会社員のゴローだよ、マコ」
「もう演技は始まっているってことですね……」
「そう。さあ、こっちへ来て」
鷹城はするりと真琴の後ろに立つと、来ていたコートを脱がせた。するとミヤビに着せてもらったステージ衣装が現れる。
真琴は今、華奢な体躯{たいく}と相まって、どこからどう見てもアイドルの女の子にしか見えない。
女子高生の制服風の華やかなコスチューム。赤チェックのスカートが目を引く。すんなりと伸びる脚には健康的な色っぽさがある。
もともと長めの髪は、前髪を切った後は、丁寧にブローし、羽根飾りをつけるだけにした。ダークブラウンの猫っ毛が動く度にさらさらと揺れる。
そして最後に、真琴はサングラスとマスクをとった。つやつやとした白い肌に、チークが淡く乗った頬。かわいい鼻や、流行りの形の眉や、桃色のリップを塗った小さな唇は、プロの手で完璧に仕上がっている。
中でも特に印象的なのは、カラーコンタクトでさらに大きくなった愛らしい黒い瞳である。アイホールにはアイシャドウによって品のよいグラデーションが出来、くっきりした二重とアイライン、そしてふさふさの睫毛{まつげ}が両の眼を縁取っていて、もう無敵といってもよいほど強い眼力{めぢから}だ。
真琴は照れくささと緊張にドキドキしながら、口を開く。
「どう……ですか? 変じゃないですか」
「マコ……」
鷹城は鳶色の瞳をとろけさせた。うっとりとした表情で真琴の全身や、顔をしばらく眺めていた。
「全然変じゃないよ……。とても素敵だよ。マコだ……俺がずっと愛して、崇{あが}めていた〈恋wazurai〉のマコが……今目の前にいる……」
恍惚としたテノールだ。彼はアイドルの恰好をした真琴を見て、本当に恋をしているようである。
(は、迫力のある演技だな……)
真琴はちょっと退いた。でもそろそろ自分も役に入らなければならない。コスチュームプレイをしなければ、この羞恥の時間は永遠に続くのだ。
(さっさと終わらそう)
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