ソウキ王朝偽典・菜緒虎伝

那田野狐

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51話 アタラカ森砦の攻防 その2

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「観測射撃」
悪韋の指示でカタパルトから石が投射される。

「上空、風速の影響なし。修正なし。攻撃準備」
悪韋の指示でカタパルトに張り付くスケルトンが動き始める。
悪韋はゆっくりと右手を上げすっと振り下ろす。

びょう

次々とカタパルトから岩石が射出され、城壁を越え、マッサチン軍の重装歩兵の集団の中に吸い込まれていく。
たちどころにあがる悲鳴。散り散りに逃げ惑う兵士たち。
「投石停止。軽装歩兵の掃討は…順調と」

フルプレートの兵士が小走りに白馬に騎乗するひときわ豪奢な白銀のフルプレート、赤いマントを身にまとった男の元に駆け込んでくる。

「ドラドさま。軽装歩兵隊壊滅。重装歩兵、半壊です」
ドラドと呼ばれた銀髪銀眼の立派なカイゼル髭・・・両端がくるんと丸くなった口髭・・・の人の男が報告を聞きながら髭をいじる。

ドラド辺境伯。フルネームをノール・ニサン・ゴーン・ドラド3世。御年36。正室と3人の側室。10歳の長男を頭に4人の子の父親。
322年前にマッサチン国を建国したアーカイ・マッサチン1世の次男アーオイ・マッサチンが王位継承を放棄して興す。
290年前にマッサチン国の西に秦双という獣人の国が興った際に当時の当主が辺境伯を拝命。
以降マッサチン国の西の守りを任されている名家の5代目。

しかし7年前に魏府王国に攻め込んだとき、ノールの判断ミスにより初戦の戦いで大敗北を喫する。
その後、リュウイチの父コジ・ソウキの鬼神のような働きで魏府王国軍を撃退するもノールの宮廷での立場は地に堕ちた。
コジが南の最辺境に飛ばされた原因その2でもある。

「重装歩兵の被害は無視できんな・・・騎馬隊で場を攪乱しつつ重装歩兵を城門に張り付けさせろ」
ノールの側に控えていた騎兵が戦場に向かって駆け出す。
今回のノールの目的はコジ・ソウキ死亡の確認とソウキ領の制圧である。
この砦を突破すれば、報告が正しければ、敵の本拠地までは大した抵抗はないはずだ。
マッサチン軍の騎馬700騎が動き出す。

「城攻めなのに最後まで戦力の逐次投入・・・ランチェスターの第二法則に攻撃3倍の法則・・・愚策中の愚策だろ」
悪韋は駆り出された敵兵に憐れみの目を向ける。

ちなみに悪韋の呟くランチェスターの第二法則とは同条件で多数が少数を殲滅するさいに多数が被る被害を数学的に割り出したもの。
多数の二乗から少数の二乗を引いた数を平方根で開いたものが多数の損害数となるという法則である。

つまり今回の戦いが平地で行われた場合、ソウキ軍六百余に対しノール軍三千。ノール軍がソウキ軍を殲滅したときの損害は・・・
三千の2乗九百万から六百の2乗である三十六万を引いた八百六十四万。これを平方根で開くと約二千九百三十九。
ソウキ軍六百を殲滅したとき、ノール軍の被害は六十一前後という圧倒的な戦いとなっていたハズである。

だが今回の戦いはソウキ軍の守る堅牢な砦での防衛戦である。
続けて悪韋の呟いた攻撃3倍の法則・・・敵を陣地から駆逐するには三倍の兵力を必要だという第一次世界大戦の英国公刊戦史で語られた法則だ。
これを当てはめてもソウキ軍千八百に対しノール軍三千。まだノール軍に数的な余裕があったのだが、まずノール軍は先鋒五百で攻めた。結果ノール軍の先鋒五百殲滅。
続けて重歩兵八百繰り出すも半壊。そして今、騎馬七百を動かしたのだが・・・

「もっとも、ランチェスターの第二法則も攻撃3倍の法則も勇気、錬度、士気、装備同程度の両軍って条件がつくんだけどな」
悪韋は身もふたもないことを呟く。
そう。振っておいてなんだが、数的に優位なノール軍でも、アタラカ森砦を攻めるには練度も士気も装備も兵の質も圧倒的に足りなかった。

アタラカ森砦攻防戦。開戦して3時間。
悪韋は最後の指示を告げる。

「ゴーレム隊起動」
ノールが本陣を構えるノール軍後衛よりも後方の山の斜面が音を立てて崩れていく。
体長4メートルのストーンゴーレムが4体。
ノール軍の後方に立ち塞がる。
そしてストーンゴーレムによって隠されていた洞穴から出てくる剣と盾を構えたスケルトンソルジャー。

「さて」
スケルトンソルジャーの後から現れた短い銀髪の若干のつり目の紅眼、笹穂状の耳に肌は日に焼けたような褐色のエルフ女性が現れる。

「突撃」
リベッチオは腰に佩いたレイピアを抜いて叫んた。
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