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66話 菜緒虎、鉄砲水に遭う
しおりを挟む降水量という言葉がある。
一定時間の間に雨量計に入った雨、雪、霰、雹などの体積の合計を指すものだ。
降水量が1時間1ミリとなる水の量は100センチ×100センチの器に1ミリ。1リットルの水が溜まることを意味している。
ちなみに一時間3ミリ以上の雨が降ると地面に水溜りが発生し、30ミリで崖崩れの危険性が高まり、40ミリで災害を想定するというレベルだ。
「ふむ」
菜緒虎は、窓越しに屋外で雨ざらしになっている器に溜まっている雨水の量をみて嘆息する。
正確に計測するつもりはないので、器一杯になったら捨てるを繰り返していたのである程度の誤差はあるだろうが、この二日間で溜まった水の量は合計で200ミリ。
悪韋から危険だとされている量を遥かに大きく上回っている。
菜緒虎は、手元にあった羊皮紙に「ここ、二日の降雨量から洪水を危惧している」と書き記して蜜蝋で封をすると、入口で待機している少年に渡す。
「漫寵殿に面会の先触れを頼む」
「はい」
少年は、襷掛けした鞄に羊皮紙を仕舞いこむと、笠を被って外に飛び出す。
「不味い状況ですか」
少年が待機していた場所の反対側に置かれていた、小さな机に足を投げて座っていた男が尋ねる。
人間に猫耳や尻尾があるタイプの猫人の張僚だ。
「この二日間に降った雨の量が、河川の氾濫水域を越えているようです」
菜緒虎の言葉に、張僚は僅かに右の眉毛を跳ね上げる。
「理由を聞いても?」
「入口と底が同じ大きさの器に、一定時間溜まる雨水の量を測るだけですよ」
菜緒虎は、視線を窓の外に飛ばす。
「それは普遍ですか?」
「地域でその許容の範囲は変わると聞いてますが、一日で断続的に150ミリも降れば危険だと」
張僚は、示された数字を想像して首を捻る。
「計測する器に指を伸ばした手を差し入れ、手首まで溜まっていれば危ないということです」
想像できたのか、張僚はうんうんと頷く。
「この知識広めても?」
「あくまでも可能性であり必ずではないこと、それでも災害から避難することは重要であることに留意してください」
この後、同じことを漫寵にも説明することになる。
「これは、予想以上に不味い事になってるな」
「雨が降っているのに川の水量が変わってないってことは、上流で堰き止められ、溜まってるっている・・・ってヤツですね」
眼前に広がる光景に、菜緒虎は何度目かの嘆息の息を吐き、環寧がそれを捕捉するかのようにつぶやく。
「どうしますか?」
張僚は、興味深げに川の上流の方を眺める。
今三人がいるのは、漫寵からの情報を得てやってきた街から北へ300メートルほど行った街に生活用水をもたらしている幅5メートルぐらいの川。
泥で水が濁ってはいるが、水位は思ったより、いや、それほど高くない。
数年前にも長雨で小規模な決壊をしたという過去があり、上流で何らかの異常事態が起こっている可能性は高い。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
不意に大気が呻くような音が鳴り響く。
「コンダラゴーレム、召喚」
異常な音に、菜緒虎は何が起こったのか察して真夜中の指輪に念を送ると魔法陣を展開させる。
ぬっと魔法陣からコンダラゴーレムが姿を現す。
菜緒虎は、ここに来る前にコンダラゴーレムを縦に高い人型ではなく、横に長い蛙型に変形させていた。
「環寧、張僚殿。某の腰に腕を回して掴まれ。コンダラゴーレム。包囲」
菜緒虎が叫ぶのと同時に、コンダラゴーレムが菜緒虎たちに覆いかぶさる。
直後、大量の土砂を含む濁流が菜緒虎たちに襲い掛かった。
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