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11. 予兆もなく…
しおりを挟む〈 渚視点 〉
12月ー。
それは前触れのない始まりー。
「ただいま」
「お帰り、お疲れ様」
「パパ、おかえりなさい!」
「おっ…と! ただいま、陽咲」
午後8時半を過ぎた頃、閉店後のカフェの片付けを終えて帰宅した大和に、パパが大好きな我が家の紅一点、少々お転婆な陽咲が飛び付くと、大和は片腕で軽々と抱き上げた。その足元で「パパ…」と上に手を伸ばしていた柚來をもう片方の腕で抱き上げる。
「柚來、ただいま」
「おかえりなさい」
ぎゅ~と両方から首に抱き着かれて、大和はとても嬉しそうだ。
「お母さん、お茶碗片付けた」
キッチンで食洗機から食器を取り出して片付けてくれていた芽來が傍に来たから、俺は芽來を抱き締めた。
ん? 何で…って? だって、大和ばっかり狡いじゃん。
で、ママがぎゅ~ってしてんのに、どうしてめぐちゃんは無表情なのかなぁ~? まあ、これがこの子の通常運転だけれども?
「お父さん、お仕事お疲れ様。お帰りなさい」
「うん。ただいま、芽來。今日もママのお手伝い、ありがとな」
陽咲と柚來を下に下ろして芽來の頭を撫でる大和。俺に抱きしめられたまま、「ん…」と頷く芽來。一見無表情に見えるけれど、微かにはにかんだ笑み、パパとママにはバレバレだからね?
「絆と紡は?」
「二階。明日、算数のテストがあるんだって。それぞれの部屋で勉強するって。もう9時になるから、そろそろ下りてくると思うけれど…」
大和にそう返した時だった。
ガタンッ…!
「「…?…」」
まさに今話していた二階から物音がした。
俺と大和は天井を見上げる。
ダンッ…!
バタンッ…!!
さして間を置かずに二度目、三度目と大きな音がした。
「「???」」
顔を見合わせる。何故か胸騒ぎがした。
「様子を見てくる」
「うん。お願い」
大和が二階に続く階段を上って行き……。
……………。
幾らも経たない内に、慌てた様子で下りてきた。絆を腕に抱いて…。
「絆?」
呼び掛けながら、絆の様子がおかしい事に気付く。
紅い顔をして荒い呼吸を繰り返している。
「どっ…どうしたのっ!?」
「渚、すぐに二階に行ってくれ。絆の部屋だ」
「…え…?」
「紡がいる。恐らく紡は発情期を迎えた…」
「っ…!」
大和が言い終わる前に、俺は階段を駆け上がっていた。半分開いていた絆の部屋のドアを叩きつける勢いで開け…。
「!!!」
目にした光景に悲鳴を上げそうになった。
ベッドに仰向けになっていた紡の顔は、さっき見た絆と同じ様に紅い顔をして、荒い呼吸に胸が上下している。そして最も衝撃を受けたのは、紡が着ているトレーナーと肌着が胸元までたくし上げられていた事だ。
俺はゆっくり紡に近付くと、服を直してやり、静かに声を掛けた。
「紡」
「………。マ…マ…?」
「うん。どこか苦しいとこ、ない?」
「…熱いの…」
「紡のお部屋行こうか」
俺は紡を抱き上げた。小柄な紡なら、俺でも何とか抱き上げられる。そうしてゆっくりと紡を部屋に運ぶと、そっとベッドに下ろす。もしこれが本当に発情期なら、αの絆の部屋にいるよりはいい筈だ。
「紡、すぐ戻って来るから、少しだけ1人で我慢出来る?」
「…うん…」
「ありがとう」
紡の火照った頬を撫で、額にキスをしてから、俺は一度、一階に下りた。
絆はまだパパの腕に抱かれていた。
「大和、どうなってんの? 多分、紡は発情期で間違いないと思うけれど、何があったの?」
「判らない。俺が二階に上がった時、絆が自分の部屋の前で蹲っていた。声を掛けたら怯えたような顔をして抱き着いてきて、半開きのドアから室内を見たら…。渚も見ただろう?」
「……うん……」
「それで何となく察して、改めて絆を見たら…」
大和が腕に抱く絆に視線を落とし、その視線の先を追った俺が見たのは…。
「っ…!」
絆のそこが膨らんでいた。まだ12歳。小さいけれど、それでもその存在を主張するように膨らみ、布を押し上げていた。
「紡はどうしてる?」
「え…? ああ、紡の部屋に運んだ。もし本当に発情してるなら、αの絆の部屋じゃ辛いと思って」
「ああ、それでいい。渚は紡に付いててやってくれ」
「大和はどうするの?」
「俺は子供達連れて実家に行く」
「一ヶ瀬の?」
「ああ。これは勘だけど、今は絆と紡を同じ家に置いておくのは得策じゃない気がするんだ」
「………。うん、そうだね」
俺は頷く。俺もダメな気がする。
「俺は4人連れて出るが、渚は駿兄に電話して子供用の抑制剤を持って来てもらってくれ。渚の大人用の抑制剤は飲ませないほうがいいと思う。必要なら病院に連れて行って」
「分かった。大和も子供達をお願い。安全運転でね」
俺は背伸びして大和の頬にキスをして、荒い呼吸の絆の汗ばんだ額にもキスをした。
「絆、頑張れ」
今度は腰を落とし、
「芽來、陽咲と柚來をお願いね」
「ん…。分かった」
「良い子だね」
芽來の額にもキスをして、更に低い位置にいる陽咲と柚來の頬にもキスをする。
それから俺は、携帯電話を持って再び二階の紡の部屋へと向かったー。
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