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14. 治まらない発情(ラット)
しおりを挟む〈 大和視点 〉
子供4人を車に乗せて実家に向かった俺。家の車庫を出る前に電話で母さんに、今から行く事と事情を簡単に説明していたからか、実家に着くと、父さんと母さん、そして雄大兄さんがカーポートの所で待っていてくれた。寒いのに…。
カーポートに車を停めて車から下りる。
「ごめん、夜遅くに」
「気にしないで」
俺の言葉には母さんが応えて、父さんが後部座席のドアを開けて、チャイルドシートですっかり寝入っている柚來をそっと抱き上げ、同じく寝ている陽咲を母さんが抱き上げた。そして、1人で下りようとしていた芽來に雄大兄さんが手を差し出し、芽來はその手を掴んで車から下りた。下りた後も、しっかりと雄大叔父さんの手を掴んで離さない。雄大兄さんは少し屈んで芽來の両腋に手を差し込み、芽來を抱き上げた。
「芽來、頑張ったな」
兄さんが言うと、芽來の目から涙が溢れた。そのまま兄さんの太い首に腕を回して嗚咽を洩らす。
芽來はあまり口数は多くないけれど、面倒見が良く、気遣いも出来、言われなくても自ら察して行動する子だ。だから、つい忘れがちになる。芽來がまだ10歳の子供である事を。今夜だって、俺や渚が絆と紡の事で大変なのを察して、進んで妹弟の世話をしてくれた。
けれど、空気が読めるからこそ、芽來だって不安だった筈だ。それに気付いてやれなかった。
親失格だな、俺達…。
「大和、ゲストルームを使えるようにしてある。
詳しい話は絆が落ち着いてからでいい。早く絆を連れて行ってやれ」
父さんに促されて、はぁはぁ…と未だ荒い呼吸を繰り返す絆を抱き上げる。紡と離れて随分経つが、落ち着く様子が見られないのが気になるが、今は一旦、考えるのを保留にする。
「ありがとう。あと、α用の抑制剤を用意出来るかな? 出来れば、子供用の」
「葵斗と彩良が持ってるから、後で届ける」
芽來の背中をポンポンと一定リズムで叩きながら兄さんが言う。
「うん。ありがとう」
「大和、部屋の鍵は開けておいてね」
「分かった」
母さんに言われてうなずく。
「陽咲と柚來は今夜は僕達の部屋で寝かせるよ。芽來は雄大と朝陽にお願いするよ」
「ああ。芽來、叔父ちゃんと寝ような」
「…うん…」
「ありがとう」
俺がもう一度お礼を言い、俺達大人はそれぞれの腕に子供を抱いて、速歩きで家の中に入った。
コンコン…
ノック音と同時にドアが開き、入って来たのは葵斗だった。
「大和叔父さん、きずの様子はどう?」
この時俺は、ベッドの上に座り、布団で包んだ絆を横抱きに抱っこしていた。初めはベッドに直接寝かせようとしたけれど、絆がイヤがったのだ。だから仕方なく…と言いつつ、実は嬉しかったりする。もちろん、今も苦しそうにしている絆を見れば不謹慎だけれど、こんな風に絆を抱っこしたのはいつ以来だろうか…と。次々に下が生まれ、絆と紡が甘えてくる事は滅多にないから。
「きず、発情してるの?」
俺の腕の中の絆の顔を覗き込みながら葵斗が言う。
「分からないけど、多分…。紡が発情になったから、多分その影響かなとは思うけど、詳しい事は本当に分からないんだよ」
しかも、物理的に紡から離れ、αばかりの一ヶ瀬の家に来ても、完全には収まっていない。
「きず、辛そうだね。はい、これ。彩良からα用の抑制剤貰ってきたから。きずはまだ12歳だから、高校生の僕の抑制剤は強いと思うし。彩良も高校生だけど女の子だから、僕のよりは強くないと思う。水も持ってきたから」
そう言って、抑制剤と一緒にペットボトルの水とコップを、ベッド脇のチェストの上に置く葵斗。
「きず」
葵斗が呼ぶと、閉じていた絆の目がうっすらと開いた。
「…あお…?」
「うん。きず、頑張ったね。辛いのが少し楽になるお薬飲もうか」
「…うん…。…あお、抱っこ…」
まだ意識のはっきりしない絆が、葵斗に手を伸ばして抱っこをせがむ。うちの子達は1人の例外なく葵斗が大好きだ。具合が悪い時に、普段からは想像出来ないくらい甘えん坊になるのは、どこの子も同じらしい。
「あお、代わってくれるか?」
「僕は構わないけど、叔父さんは?」
「紡を任せた渚に連絡して、父さん達にも説明しないと、だから」
「分かった。あ、じゃあ先に薬飲ませなきゃ」
俺は抱いていた絆の体を少し起こし、葵斗が錠剤タイプの抑制剤を絆の口に入れて水を飲ませた。上手に飲み込んだのを確認してから絆を抱いたままベッドから下りた俺は、自分が座っていた場所に葵斗を座らせて、その腕に絆を抱かせた。
「頼む」
「任せて。あ、叔父さん、めぐはきらと一緒に寝るって言ってたから。きらも、めぐの面倒は任せてって張り切ってたから、心配しなくても大丈夫だよ」
「そっか。ありがとな」
芽來の様子を教えてくれた葵斗の頭をくしゃっと撫でてから、俺はスマホを持って部屋を出る。
スマホを確認すると、渚からラインが届いていた。
ー『今から紡を病院に連れて行きます』ー。
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