【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade

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《本編》

29. 僕の存在理由

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  その日の終業後、僕は専属タクシーの運転手さんに頼んでスーパーに寄ってもらい、栄養補助食品と携帯食、水分補給の為の飲み物を大量に買い込んで帰宅した。今日も彰宏さんはらしい。買い込んだ食料品を寝室に運んでベッド脇に置いた。明日からの発情期に備える為に。
  発情期の時は、いつも彰宏さんが食べ物も飲み物も手の届く距離に用意してくれた。僕が拒絶していた時でさえ。けれど、彼が不在の前回の発情期は、発情して動くのもままならない体を叱咤しながら、自分でキッチンまで取りに行くしかなかったのである。発情期中は食欲より性欲が勝るとはいえ、お腹は空くんだ。人間だから。今回も何故だか、彼は帰って来ない気がした。それは、確信に近い予感だった。
  チェストの上には今日の昼休みに病院に行って貰ってきた抑制剤の入った紙袋を置く。いつも処方されているものじゃなくて、効果が強めのを出してもらった。当然、理由を聞かれたけれど、と重なりそうだから…と言えば、幾つかの注意事項を説明された後、処方してくれた。僕は嘘は言っていない。彼の出張が嘘でも、僕は出張だと聞かされてるから。
 
1. 本当に辛い時のみ、1日1錠服用すること。
2. 2日続けての服用は出来るだけ避けること。
3. 用法用量を守って服用すること(多用しないこと)
4. 副作用を理解したうえで服用すること。

以上が、強い抑制剤を処方する際の注意事項だった。

  

  Ωは一般的に『番が出来ると発情期が軽くなる』と言われている。でもそれは、番のαが寄り添ってくれるからだと思う。一緒に住んでいなくても、Ωが不安を感じた時に傍にいてくれるから。Ωは自分のαの匂いに包まれるだけで安心するんだ。
  番契約を結べばΩの発情フェロモンは番のα以外には効かないから、誰でも良いから番にしてもらうΩもいる。初対面の名前や連絡先を知らないαにでさえ。だけど、それはとても危険な行為だ。番を得たからといって発情期が無くなるわけがなく、日常生活は楽になっても、発情期は番のαを求めて辛くなる。フリーの時はただαを求めるけれど、番持ちは番以外のαには身を委ねる事は出来ず、αを求めるから。だから、知らないαと番になることほど危険な事はない。相手を良く知り、信頼し合える人と番う事こそが、Ωの本当の幸せなんだと思う。
  だけど……。

  僕は…僕達はどうだろう…?

  始まりはお見合いだったね。一目惚れなんて信じてなかったけれど、少し話しただけでも解る彰宏さんの誠実さを信じて、結婚前提のお付き合いを始めたんだ。
 αの両親から生まれたからか、僕は一般的なΩよりも背が高く、細身だけれど華奢とは程遠い体付き。それでもやっぱりΩだからか、どれだけ筋トレを頑張っても筋肉はあまり付かなかったけれど。美形の両親の遺伝子のお陰で、自分で言うのも…だけれど、顔は整っていると思う。それでもパッと見、Ωには見えないと思う。彰宏さんも一目惚れした時はまだ、僕がΩだと思っていなかったみたいだから。
  彰宏さんは僕がと言う。初めて言われた時は彼の視力を、自分の耳を疑った。可愛いなんて家族以外に言われた事はなく、身内の欲目だと思っていた。でも会う度に何度も言われて、その言葉が嘘でも僕に気を遣っているわけでもないって分かって、いつの間にかにか好きになってて…。
  と思った。いつしか芽生えた信頼関係。彼になら…とうなじを差し出した。突発性の発情ヒートだったけれど、自分の意思でと。
  それからも彰宏さんはその誠実さを発揮して、僕の家族と正面から向き合ってくれた。まだ学生の僕を番にしてしまった事に、言い訳一つしないで…。
  家族も彰宏さんなら僕を任せられるって言ってくれたんだ。だから僕も、家族に「幸せになる」って約束したのに…。
 
  ねえ、僕に一目惚れしたんでしょう?
  何度も「愛してる」って…「琳が一番大切だよ」って言ってくれたでしょう? あれは嘘だったの?
「一緒に幸せになろう」って約束したじゃない…。

『幸せ』って何だろうね。
  僕は彰宏さん、貴方のΩだ。…。
  でも、貴方は僕だけのαじゃないんだね…。
  
  唯一のαである貴方に放置され、つまとしても夫である貴方に必要とされない僕は、貴方にとって、どんな存在なんだろう…。
  いくら考えても答えは出ない……。

  そしてまた僕は、を過ごすんだー。

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