【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade

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If… 《運命の番》エンド ルート

87. 一縷の望み

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 〈リオンside〉

『番契約の上書き』ー。

  その場に集っていた全員の視線が、俺に突き刺さる。

  此処はノエルの祖母宅の居間。今この場に居るのは、ノエルとカエさん、ルイさんと俺の4人。テーブルの上で開かれたパソコン画面の向こうにはリンの両親。両親にはモニター越しで参加してもらう。ルイさんには月1で会っているし、両親には一度だけお会いした事があり、面識があった。
  俺が「リンの事で大事な話がある」と声を掛け、毎晩決まった時間に布団に入るリンが寝るのを待ってから、集まってもらったのである。両親にはルイさんから声を掛けてもらった。
  リンには聞かせたくないから、おばあに頼んで場所を借り、代わりにおばあには孫宅に行ってもらった。ひ孫ノア守りも兼ねて。

  俺は私物のパソコンを起ち上げ、送ってもらった資料データを解りやすく編集したものを画面に表示し、皆の顔を一瞥してから、前置きなく言った。

『番契約の上書きがリンを救う唯一の方法』

だとー。
  全員の顔が「そんな話は聞いた事がない」と言っていた。知らなくて当然だ。日本よりずっと第二性バース研究が進んだアメリカでさえ、その事例を初めて発見、認知、研究を始めて、十数年しか経っていないのだから。報告事例が少なく、世間に向けて大々的な発表には至っていないけれど、少ない事例のほぼ全てで効果が立証されている。
  そもそも、リンの現在いま抱えている病気に、正式な名前はないんだ。薬物の過剰摂取オーバードーズで一度は弱った内臓だが、それは沖縄に来てからの2年で少しずつではあるが回復の兆しを見せている。2年前は余命宣告をされたかも知れないが、それは…だろう。リンが拒絶しているから積極的な治療はしていないけれど、それでも現在いまは、それ自体がリンの生命を脅かすものではなくなっていた。
  それよりも深刻なのは……。
『番欠乏症』ー。リンの現在いまの症状だ。
  番のαに一方的に番契約を解消されたΩ、解消はされなくても放置されたΩは、心身の疲弊や精神を病んで短命になる。リンがなぜ、番のαと番契約を解消しないまま別れたのかは判らない。リンが言わないのなら無理やり暴く事はしない。けれど、カルテから得た情報では、別れる1年以上前から発情期を番と過ごす事はなく、発情期以外も含め、性行為はしていなかったらしい。そして『不安症』になり、抑制剤の常用…となったらしいが…。リンと番のαは別れる瞬間も互いを愛していた。そんな2人の間に何があったのか、気にならないといえば嘘になるけれど、今はリンの過去を詮索している場合じゃない。

  俺は話を続けた。
  リンの発情期が再開した今、既に3年以上、番に放置された状態のリンは今後、発情期が来る度に生命を削ることは、リンの担当医から既に家族には説明されている。
  現実として、番欠乏症を治せるのは番のαだけだ。けれど、別れる前から放置されていたのなら、リンは受け入れないだろう。そもそもの原因なのだから。今更出て来て番ヅラをしてほしくないと思っている。ただ、事実としてリンは番持ち。たとえ解消されていたとしても、Ωにとって番契約は一生もので新たな番は持てない。…というのが、世間一般での常識。だが、唯一の『例外』がある。『』んだ。
  一番最初の事例が発見されたのは十数年前。番に捨てられ衰弱して死を覚悟していたΩが、形ばかりの定期検診に行った病院で『運命の番』に出逢い、衝動のままに空き部屋で行為に及び番になった。一時、昏睡状態に陥ったΩは数日で目を覚ましたが、検査の結果、先の番契約は破棄され、新たな契約が結ばれていた。新たな番となったαは常にΩに寄り添った。すると不思議な事に、あれほど衰弱していたΩはみるみる健康を取り戻していったという。
  この事例に数人のバースの研究に携わる医師が興味を持った。俺が師事していた人もその1人だ。資料を送ってくれたのも先生だ。その後に発見された少ない事例の中、事例ごとに経緯は違うものの、運命の番なら契約の上書きが可能。結果、番欠乏症のΩの回復が見込める…という立証がされた。
  俺は、自分こそがリンの『運命』である事を告げた。
  全員が目を見開く。唐突な告白に言葉を失くした彼らに向けて、更に続けた。
  出逢った瞬間から、番持ちのリンからはフェロモンを感じていた事。本能が『運命』を告げていた事を。だが、俺の言葉だけでは即座に信じてもらえないのは仕方ない。懐疑的な目で俺を見る彼らにどう言えば信じてもらえるだろうか、と思案していた俺を助けてくれたのは、ノエルの言葉だった。

『リオンはリンので間違いないと思う。2人が出逢った時、リンはフェロモン分泌症で番にすらフェロモンが判らない…リン自身からフェロモンが出ていない状態だった。なのに、リオンにはリンのフェロモンの匂いがした。そして、リオンから出ていたαフェロモンに充てられたリンが倒れた。これは恐らく、リンが番持ちだからだ。解消されてないから。本能で目の前のαを運命だと理解しながら、既に番がいるがゆえにもう片方の本能が邪魔をする。まさに、相反する本能と本能のせめぎ合い。それに耐えられず倒れたんだと思う』

  Ωのノエルの言葉には信じさせるがあったらしい。家族は頷き合っていた。
  取り敢えず信じてもらえたところで、俺は、リンと想いを伝え合い、先日『恋人』になったと伝えた。ノエルは何となく察していたらしく平然とした態度で笑顔すら見せていたが、他の4人は再び言葉を失くした様子。、決して運命だからではなく、リンと過ごし、リンを知る中で好きになっていったのだと伝えた。αとΩである以上、本能で惹かれるのはどうしようもないが、ちゃんとリンと向き合って、『愛おしい』『大切にしたい』『守りたい』と思ったのだ、と。自分が番持ちである事を気にしていたリンも、俺が本心を聞かせてほしいと願えば、同じ想いを返してくれた。
  リンには自分達が『運命の番』だとは言っていない。番契約が上書き出来るかも知れない事も。
  そして、俺は聞いた。リンの本音を。
  自らの運命を受け入れていたリン。けれど、俺が「諦めないで。一緒に戦おう? もし駄目だったとしても、最期まで傍にいるから…」と言えば、リンは叫ぶように言った。「生きたい。死にたくない。やりたい事がいっぱいあるんだ」と。自らの余命を知ってから、リンが初めて見せた『生への執着』だった。
  リン自身がを望むなら、俺はただ傍で寄り添うだけだった。けれど、リンは「生きたい」と言った。だったら、一縷の望みでもあるのなら賭けてみよう、と俺は思った。ただ、それには家族の理解と了承が必要不可欠。先にリンに話してしまうと、リンの事だから、すぐに「試したい」と言い出しそうだったから、敢えてリンには話していない。幾ら成功事例が多いとはいえ、全くリスクがない訳でも、100%の確実なんてものも存在しないのだから。俺としてはリンとの未来を勝ち取る為に賭けてみたい。それでも、自分達の気持ちだけで勝手に事は進められない。
  
  俺は一度、席を外す事にした。ルイさんに「少し相談させてくれ」と言われたからだ。愛しい子の命が懸かっているんだ。即決出来ない気持ちは解る。それでも後日…ではなく今この場で相談してくれるという事が有り難く、リンへの家族の愛情の深さを知る。俺にはママしか愛してくれる人はいなかった。
  30分程して呼ばれて居間に戻った俺に、ルイさんが代表して結論を告げる。

「リンを助けてほしい」

と。
  このままではどちらにしろ遠からずリンを失う事になる。それなら…可能性があるのなら賭けてみたい、というのが家族の総意だ、と。
  彼らの決断に感謝し、俺は力強く頷いて言う。

「必ず…」

と。
  絶対なんてものは存在しない。それでも、それだけの決意を込めて…。
  これで、リンの次の発情期が来るまでに『準備』に入れる。

  明日、リンに話そうー。

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