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If… 《運命の番》エンドルート 番外編①
EX. 彼らのその後… ①
☆『もう一つの…』の番外編です。
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〈彰宏side〉
『琳が子供を産んだ』
約2年振りに訪ねて来た瑠偉さんが言った言葉は、俺の胸に激しい動揺と衝撃を与えたー。
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琳に『運命の番』が現れたと、訪ねて来た瑠偉さんから聞かされたのは、身を引き裂かれる思いで琳と別れてから2年が過ぎた頃だ。現在から3年ほど前になるだろうか。
かなり衝撃を受けたが、続いた瑠偉さんの言葉に、今度は神様に感謝した。
沖縄に移住した琳は穏やかな日々を過ごしていたという。だが、投薬をしながらストレスなく過ごす事で、弱っていた内臓は緩やかではあるか回復しつつある反面、『番欠乏症』によりΩとしての琳の心身は少しずつ疲弊。3年近く止まっていた発情期が再開した事により、症状の進行の加速が避けられないという。
琳の現状を聞いて、俺は何も出来ない悔しさに胸が押し潰されそうだった。そうだ。俺には何もしてやれない。本来なら番の俺にしか琳を救えない筈なのに、別れる2年近く前から、琳の発情期にすら一緒に過ごしていない俺に何が出来るのか。体は番を求めていても、琳の心は俺を拒絶するだろう。俺には資格がないのだ。琳の傍にいる資格が…。
自らの不甲斐なさに唇を噛む俺に瑠偉さんが告げたのが、琳に『運命の番』が現れた…だった。そして、『運命の番』だけが先の番契約の上書きが出来、それによって琳の『番欠乏症』が改善する、と。相手は常に琳に寄り添い、琳と心を通わせ、琳も相手を受け入れたからこそ、だと。決して琳の症状の改善だけが目的ではなく、一生お互いを愛し抜く覚悟で番になるんだ、とー。
俺には返す言葉が無かった。俺も…俺だって誓った筈だ。一生愛すると…。琳だけを愛すると…。それなのに、愛していたのに傷付けた。今でも愛しているのに、無力な俺は何もしてやれない。
本当に番の上書きが可能なら、その瞬間に俺との番契約は破棄される。つまり、琳は俺の番ではなくなり、唯一の繋がりですら断たれるということ…。想像するだけで胸が苦しくなる。
けれど…。辛いけれど、琳を救えるのなら…。
そもそも瑠偉さんは、俺に相談ではなく決定事項として伝えにきたのだろう。が、何故? と疑問が浮かぶ。報告義務などない筈だ。それを率直に問えば、
「αからの契約解除ならαにダメージはない。苦しむのはΩだけだ。だが、Ω側から解除されたらどうだ? Ωの死により番契約は強制解除される。その時、αのΩへの想いが強いほど、αの心身に影響が出るらしい。稀だが、後を追う事もある、と。琳の場合は上書きだが、強制解除には違いない。俺はお前が琳にした仕打ちは赦せないが、かといって、何も知らせずに苦しませるのは本意じゃない」
との答えが返ってきた。
そうか…。この人は本当にどこまでも大きい…。
だから俺は、少しだけ…ほんの少しだけ逡巡してから、こう返した。
「ありがとうございます。俺は大丈夫です。解除の瞬間は喪失感はあると思います。でも、俺には『約束』がありますから…。宏斗の為に生きると決めたんです。辛くても、哀しくても、立ち止まる事はしません。
瑠偉さん、俺がこんな事言うのはお門違いだし烏滸がましいのは解っているけれど、琳の事、よろしくお願いします」
と。座ったまま頭を下げた。
そしてこの時、1ヶ月ほど前に祐斗が『Ω療養施設』に自らの意思で入った事を伝えた。恐らく俺の精神的な問題でαとして機能しなくなった事。愛してやる事も寄り添ってやる事も出来ず、祐斗が精神を病んだ事。宏斗に影響が出る前に…と、祐斗が自分から宏斗と離れる事を選んだ事をー。
無言で聞いてくれた瑠偉さんは、「宏斗が健やかに育ってくれるのなら、それでいい」と言って、この日は帰って行った。
この日の俺は、近い内に琳との繋がりは切れ、彼と会う事はもうないだろうと思っていた。
2ヶ月あまり後、俺は琳との番契約の解除…繋がりが切れた事を、本能で理解した。それは突然だった。身体から何かが剥がされるような感覚。止めどなく溢れる涙…。
宏斗と父さんと過ごしている時間だった。突然、前触れもなく脱力し涙を流し始めた俺の震える背中を、事情を知っていた父さんが何も言わずに撫でてくれた。
「パパっ? どうちたのっ? たいたいっ?」
びっくりして俺に抱きつき、俺の頬を流れる涙を小さな手で拭ってくれる宏斗を、俺はただ抱きしめたー。
それから3年あまり経った今日ー。
再び訪ねて来た瑠偉さんに驚く俺に彼が告げた「琳が子供を産んだ」という事実。衝撃に固まる俺に彼は、
「琳から手紙を預かってきた。今日此処に来たのは、俺からお前に渡してほしいと琳から頼まれたからだ」
琳から預かってきたという手紙を差し出した。震える手で受け取り、室内に招き入れた瑠偉さんに座るように促した。彼が椅子に座り、俺も座った。何故か、用は済んだから帰る…と言われなかった事に安堵した。
瑠偉さんに一言断ってから、琳からの手紙を開く。
『彰宏さん、ご無沙汰しています』
手紙は、そんな言葉から始まっていた。
『早いもので、あれから5年が経ちます。
あの日から、色々な事がありました。言葉では語り尽くせないくらい…。彰宏さんもそうだと思います。僕達の時間は等しく流れているのですから。
今回、僕は貴方に謝りたくて、瑠偉くんに手紙を託しました。最初で最後の手紙です。
ごめんなさい。あの日、僕は貴方に「祐斗さんを好きにならないで」と言いました。貴方は「ならない」と答えてくれたけれど、僕か約束させたその言葉は、貴方を縛る呪いなのだと今になって気付きました。けれど、言い訳させてもらえるのなら、あの頃の僕は本当に貴方が大好きで、愛する貴方が僕以外の…ましてや、僕達の仲を壊す原因を作った祐斗さんが赦せなかった。貴方が祐斗さんにどんな情であっても、想いを寄せるのが赦せなかったんです。
きっと優しい貴方は、律儀に僕との約束を守っているのだと、容易に想像出来ます。
5年です。馬鹿な僕は貴方に強いた約束など忘れ、恋をし、番になり、結婚しました。僕の相手が『運命の番』であり、番契約を上書きにより余命宣告を受けていた死を免れた事は、瑠偉くんから聞いて知っているかと思います。そして、奇跡が起きました。僕は子供を産みました。諦めていた子供を。1ヶ月前の事です。
生まれた我が子を腕に抱いて現在思い出すのは、一度だけ見た貴方の子…宏斗くんの事です。
彰宏さん、どうか祐斗さんと寄り添って下さい。どんな情だって構わないんです。恋情じゃなくても…家族愛でも良いんです。宏斗くんの為に、どうか…。両親が寄り添う姿を見せてあげてほしいと思います。僕に、こんな事を言う資格はない事は解っています。それでも、どうか……。
最後に…。
貴方の…貴方達のこれからに、幸あらんことをー』
「琳…」
俺は手紙を胸に抱きしめた。涙は出なかった。
ただ、琳が現在幸せだという事が嬉しい。
俺は琳を幸せにしてやれなかったから…。
そして、俺の…俺達の幸せを願ってくれている。
「琳とお前が最後に会った日、どんな話をしたかは粗方聞いた。琳はお前に、祐斗を好きになるな…と、他に心を移すな…と言っておきながら、自分が新たな恋をし結ばれた事で、お前に酷い事を言ったと後悔していた」
「そっ…そんなことっ…!」
「…そうだな。人の心はままならない。
琳は祐斗が施設に入った事を知らないんだ。話してない。言えなかった…」
「言わなくても良いと思います。琳はきっと気にするから。琳には、俺達の事は忘れて幸せに暮らしてほしいから…」
俺の本心だった。俺自身は、施設に入った…入ってしまった祐斗とは、琳の願いであっても寄り添う事は二度と出来ないけれど…。
そう内心で思っていた俺に、瑠偉さんは…。
「『Ω療養施設』に入ったΩは二度と出られないなどという決まりは無い」
「………。え…?」
その言葉に、俺は小さく声を上げた。
「Ωの終の住処だなんだと言われているが、あそこは体…もしくは心の病に罹ったΩのみが入院する施設で、Ωは元々予後が悪い傾向にあるから、患者の殆どが回復出来ずに亡くなるから、そんな噂が立っているに過ぎない。体の病だけはどうにもならない事が多いが、精神を病んで入院した患者の中には、家族や番が迎えに来たり、自立する術を見つけて退院するΩもいる。稀ではあるがな」
「……………」
知らなかった事実に驚きを隠せない。
それが事実なら、祐斗は……。
「ただ、Ωの為の施設だから何よりもΩの意思が尊重、最優先される。つまり、Ω自身が退院を拒めば無理やり連れ出す事は出来ない」
「……………」
貴重な情報を与えられながら、言葉を継げない俺は…。
その時、玄関のドアの開く音がした。
パタパタと足音を立てて、散歩がてら買い物に行っていた父さんと宏斗が部屋に入って来る。瑠偉さんの訪問を言ってなかったから父さんは驚いた顔をしたけれど、すぐに背筋を伸ばして「ご無沙汰してます」と挨拶をし、瑠偉さんも「お邪魔しています」と返す。
そして1人、幼いがゆえに空気を読めない宏斗は…。
「おじちゃんはだあれ? パパのおともだち?」
と、無邪気に言い放ったのだったー。
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