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音の降る駅
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駅ののりばに男が2人ベンチに座っていた。
当時、鉄道はまだ普及したばかりだ。
列車が到着すれば、その鈴がチリンチリンと鳴って、到着を示した。
「まさか、あんたが音楽やるとはなぁ。
人1倍馬鹿なくせして、生意気だ」
帽子を被った男は、雪の降るのりばで、白い息を吐きながらもう1人の男に呟いた。
マフラーを巻いた男は、寒いのか鼻を真っ赤に染めていた。
マフラーの男は、ベンチの足元に置いてあった革製のハードケースを膝に置いて、ポンと叩いて口を開いた。
「こいつがいなかったら、僕の人生は詰んでたよ。
運命の出会いって感じだ」
彼は2年前、ヴァイオリンと出会った。
街中を歩いていた時、決して綺麗とは言えない老舗の楽器屋のショーケースをぼんやりと眺めた。
そこで、一目惚れしたのだ。
「次の列車は、いつ来るかね」
帽子の男が、苦笑しながら呟いた。
「さぁ、時刻表の読み方は知らないからね」
マフラーの男は、そう言ってあくびをした。
ハハッと、軽快に笑う帽子の男。
「にしても、冬だな。ヴァイオリンって乾燥とか大丈夫なのか?」
「んぅ……心配どころではあるね。けど、まぁなんとかなるさ。なにせ、僕がついてる」
誇らしげに答えた彼と、どこか遠い顔で笑みを浮かべた帽子の男。
遠くでカンカンと、音を鳴らしながら駅へ走ってくる列車。
「この列車で会っているのかな」
緩んだマフラーに手をかけて、キュッと絞る男。
ベンチから立ち上がって、右手にヴァイオリンケースを持った。
「どっちでもいいさ、あんたはここに残ってちゃダメだろ?羽ばたかないと」
ポンと、男の背中を叩く帽子の男。
「最後に……一曲聞かせてくれよ」
白い息を吐き出した、帽子の男。
帽子とまつ毛に少量、雪が積もっていた。
「列車は大丈夫なのかい?」
「俺が許してる、大丈夫だ」
帽子の男がそう笑うと、ヴァイオリンケースが置かれた。
黄金の蝶番が、「キィ」と少し音を立てる。
──それは静かに雪に溶けた。
弓を手に取り、松脂を塗る。弓の馬毛部分が美しく線を描いた。
ヴァイオリンを肩に乗せ、顎をつける。
先程きつく絞めたマフラーは、緩んでいた。
「……。」
ヴァイオリン奏者は、帽子の男を少し見つめた。不安の目だった。彼も、旅立ちというのには不安が残っていたのだろう。唇を噛んでいた。
帽子の男は、笑顔を返す。ベンチにゆったり座って、演奏に耳を傾けた。
弦の繊細な振動が、優雅な音色となってのりばに響き渡る。
帽子の男は、目に涙を浮かべていた。
やがて、零れ落ちた一滴は、雪のように静かだった。
ヴァイオリンの音色が、降る雪に静かに溶けていく。
降るような音は、列車の到着を告げていた。
気がつけば、演奏は終わってしまっていた。
「それじゃあ」
マフラーの男は、それだけ言うと、運命の相手を片手に列車に乗り込んだ。
列車が出発する時、警笛も、鈴も鳴らなかった。
──少なくとも、男の耳には雪の静寂だけが残されていた。
駅ののりばに、帽子の男──リチャードが一人残された。
彼は、鉄道を開設した人物だった。
列車が到着する度、リチャードの耳には警笛ではなく、鈴でもない、あるヴァイオリン奏者の奏でた音色が響いていた。
雪のように、ただただ静かに降っていた。
当時、鉄道はまだ普及したばかりだ。
列車が到着すれば、その鈴がチリンチリンと鳴って、到着を示した。
「まさか、あんたが音楽やるとはなぁ。
人1倍馬鹿なくせして、生意気だ」
帽子を被った男は、雪の降るのりばで、白い息を吐きながらもう1人の男に呟いた。
マフラーを巻いた男は、寒いのか鼻を真っ赤に染めていた。
マフラーの男は、ベンチの足元に置いてあった革製のハードケースを膝に置いて、ポンと叩いて口を開いた。
「こいつがいなかったら、僕の人生は詰んでたよ。
運命の出会いって感じだ」
彼は2年前、ヴァイオリンと出会った。
街中を歩いていた時、決して綺麗とは言えない老舗の楽器屋のショーケースをぼんやりと眺めた。
そこで、一目惚れしたのだ。
「次の列車は、いつ来るかね」
帽子の男が、苦笑しながら呟いた。
「さぁ、時刻表の読み方は知らないからね」
マフラーの男は、そう言ってあくびをした。
ハハッと、軽快に笑う帽子の男。
「にしても、冬だな。ヴァイオリンって乾燥とか大丈夫なのか?」
「んぅ……心配どころではあるね。けど、まぁなんとかなるさ。なにせ、僕がついてる」
誇らしげに答えた彼と、どこか遠い顔で笑みを浮かべた帽子の男。
遠くでカンカンと、音を鳴らしながら駅へ走ってくる列車。
「この列車で会っているのかな」
緩んだマフラーに手をかけて、キュッと絞る男。
ベンチから立ち上がって、右手にヴァイオリンケースを持った。
「どっちでもいいさ、あんたはここに残ってちゃダメだろ?羽ばたかないと」
ポンと、男の背中を叩く帽子の男。
「最後に……一曲聞かせてくれよ」
白い息を吐き出した、帽子の男。
帽子とまつ毛に少量、雪が積もっていた。
「列車は大丈夫なのかい?」
「俺が許してる、大丈夫だ」
帽子の男がそう笑うと、ヴァイオリンケースが置かれた。
黄金の蝶番が、「キィ」と少し音を立てる。
──それは静かに雪に溶けた。
弓を手に取り、松脂を塗る。弓の馬毛部分が美しく線を描いた。
ヴァイオリンを肩に乗せ、顎をつける。
先程きつく絞めたマフラーは、緩んでいた。
「……。」
ヴァイオリン奏者は、帽子の男を少し見つめた。不安の目だった。彼も、旅立ちというのには不安が残っていたのだろう。唇を噛んでいた。
帽子の男は、笑顔を返す。ベンチにゆったり座って、演奏に耳を傾けた。
弦の繊細な振動が、優雅な音色となってのりばに響き渡る。
帽子の男は、目に涙を浮かべていた。
やがて、零れ落ちた一滴は、雪のように静かだった。
ヴァイオリンの音色が、降る雪に静かに溶けていく。
降るような音は、列車の到着を告げていた。
気がつけば、演奏は終わってしまっていた。
「それじゃあ」
マフラーの男は、それだけ言うと、運命の相手を片手に列車に乗り込んだ。
列車が出発する時、警笛も、鈴も鳴らなかった。
──少なくとも、男の耳には雪の静寂だけが残されていた。
駅ののりばに、帽子の男──リチャードが一人残された。
彼は、鉄道を開設した人物だった。
列車が到着する度、リチャードの耳には警笛ではなく、鈴でもない、あるヴァイオリン奏者の奏でた音色が響いていた。
雪のように、ただただ静かに降っていた。
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