上 下
37 / 83
第二章 ルクバトにて

第三十七話 翌朝になって

しおりを挟む
 翌朝。

 ……うん。身体は元気そうだ……。

「はぁ~……」

 またしても早朝覚醒してしまった私は深いため息を吐くと、洗面所へ向かった。顔を洗う水が気持ち良い。

 ****

 ピピピピー!!

「ん~……ん? おお、はえぇな」

 テーブルで読書をしていると、時計のアラームでオクト君が起きてきた。

 本を閉じ、オクト君に視線を向け私は元気よく声をかけた。
 
「おはよう!」

 オクト君は洗面所に行ったらしい。顔を洗ったり歯を磨く音が聞こえてくる。

 この世界、ファンタジーかつ中世ヨーロッパみたいな感じのクセに、ちゃっかり歯磨き粉やら歯ブラシやら、とにかく衛生面では私がいた『前の世界』とあまり変わらないらしい。

 まぁ、その方がありがたいからいいんだけどさ?

「うーし、着替えて飯食って、朝礼行くか!」

「うん、そうだね。……私、朝礼出るのはじめてだよ。緊張するな~」

「基本的にはアルベリク団長やヴァレリー副団長のお言葉なんかがあるくらいだぜ?」

「ヴァレリー……副団長さん?」

 聞き慣れない名前に、首を傾げるとオクト君が困ったように返してきた。

「おいおい、本部で会ったんじゃねぇか? 団長の横に居たお方だよ!」

 そう言われて、あのダンディなナイスミドルの人の事かと理解した。

「ああ、あの人か!」


「そそ。そのお方が『ヴァレリー・ブーランジェ』副団長な? ちゃんと覚えとけよな~!」

 イタズラっぽく笑いながら教えてくれた。
 
「う、了解です……」

「うし、着替えっぞ! 早くしろよな?」

「あ、ハイ」

 こうして私達は団員服に着替えると、部屋を出た。

 ****


「おはようございます。オクタヴィアン卿、イグナート卿」

「おはようございます!」

「おはようございます、ランベールさん!」

「ふふふ、お二人共お元気そうでなによりですよ。では、行ってらっしゃい」

 ランベールさんに見送られて、私達は寮を後にした。他の団員達を歩いていて、その中に紛れて行く。
 不思議な感覚だった。

 ****

「それでは、最後にアルベリク団長より報告があります」

 司会のヴァレリー副団長がそう言うと、アルベリク団長が壇上に立つ。

 ここは本部一階、奥にある広い体育館みたいな部屋だ。正式名称を訊きそびれたのは、仕方ないよね……?

 思ったより朝礼は早くに終わりそうでホッとしていると、アルベリク団長からとんでもない言葉が出た。

「何人かは知っていると思うけれど、ナマルサデアの下月八日に、リュドヴィック・エアラ卿が『勇者』の可能性のある『記憶喪失者』を保護した。場所がルクバト領内であることなどから、我々ルクバト聖騎士団員としてその者を受け入れたんだ。教皇庁にも既に報告済みなので、皆にも受け入れてほしい。その者の名は『イグナート・アウストラリス』卿だ。皆、よろしく頼むよ? という訳なので、イグナート卿。前に来てもらえるかな?」

 え、え、え~!?
 いきなりそんなこと言われましても……って、アルベリク団長と目が合いましたね。ハイ。

 私は大人しく、アルベリク団長の近くまで行く。

「彼だ。皆、顔を覚えてあげてほしい。それから、『記憶喪失』という点も含めて彼の戦闘力強化にも協力してあげて欲しい!」

 騎士達の拍手が鳴り響く。なんだろう、凄く恥ずかしい……というか、視線が怖いよおおお!!

 そんな私の心境なんて知る由もなく、アルベリク団長からにこやかな笑顔をイタダキマシタ。

 こうして、私の朝礼デビューは終わったのだった。
しおりを挟む

処理中です...