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第二章 ルクバトにて

第三十六話 寮に戻って

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 寮に戻ると、オクト君が慌てた様子で声をかけてきた。

「やっべ、ちょっとトイレ行ってくるわ! 先戻っていてくれ!」

 一階にあるトイレへと向かって行ってしまった。
 置いて行かれた私は、とりあえず部屋に戻ろうとした……時だった。

「おや、おかえりなさい。イグナート卿」

 声をかけられた方へ向くと、そこにはランベールさんがニコニコと優しい笑顔で立っていた。

「ランベールさん! ただいま戻りました!」

 そう言って挨拶をする私に、ランベールさんが再度微笑む。

「ふふふ、ええ。そのご様子では楽しまれたようですね?」

「はい、楽しかったです!」

「それは……素敵な事です」

「素敵でした! ルクバトって良い街ですね!」

「それは何よりです。ふふふ」

 そんなやり取りをしていると、オクト君が帰ってきた。

「先に部屋戻っていていいっつったのに」

「いえ、ボクが引き止めてしまったのですよ、オクタヴィアン卿。責めないで差し上げて下さい」

「ん~? 話が見えねぇけど……わかりました。おい、イグナート行こうぜ?」

「うん! じゃあランベールさん失礼します!」

 ****

 部屋に戻ってすぐに、疲れが襲ってきた。
 不意にテーブルの上にお水の入ったコップが置かれた。顔だけ上げると、オクト君が優しい笑顔で返す。

「お疲れさん。これ飲めよ!」

「ありがとう! 頂きます!」

 そう断りをいれて、私はお水を口に含む。動いたからか、やっぱり美味しい!

「なぁ、イグナート」

 突然声をかけられて、視線を向ければオクト君が少し言いにくそうに口を開いた。

「今日の激、楽しかったか?」

「う、うん。オクト君は違う?」

 訊き返せば、オクト君は深く息を吐いた。
 
 え? どうしたの?
 
 困惑していると、オクト君が静かに語り始めた。

「あの劇団さ……俺の身内がやってんだよ。まぁ俺は性に合わなくて、騎士団にはいったんだけどよ? それから……きまずくて、さ?」

 なるほど。なんとなく理解した私は、オクト君に向かって再度声をかけた。

「オクト君。家族って難しいものだ……と思うんだけどね? でも、だからこそ。大切にしあえたりするんじゃないかな?」

 『前世の私』なら言えなかった言葉。でも、今のイグナートだからこそ言える言葉を伝えると、オクト君はぎこちなく微笑んだ。

「そうだな……。うし、出歩いた事だし、湯浴みするか!」

「そ、そうだね……」

 まだまだ慣れない『男』としての日々だけど……悪くない。
 うん、悪くないね。
 二度目の人生って奴も――。
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