【短編集】ならわし

采女

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吉凶卦

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 私の村では、毎年吉凶を占う神事があります。

 よく聞くのは、皿を割るとか、骨を焼くとか、そういう感じのものですが、私の村では道具ではなく巫女を使います。

 選ばれた巫女は、二日をかけてその神事に臨みます。

 初日は、特殊な素材の巫女服を着ます。
 その巫女服はとても薄くて、しかも水で溶ける性質があります。

 そして、五芒星の形に組まれた台に縛り付けられます。
 巫女の寝かされる向きは、その年の鬼門で決まるようですが、私はそこまで詳しくありません。

 この日に雨が降っていれば、そのまま屋外で放置されます。
 雨は恵みなので、巫女は一身に享受するのだそうです。

 雨が降っていなければ、雨に恵まれますようにと願いを込めた神事が行われます。
 村の人々がサカキという木を手に持ち、聖水に浸けてから巫女の身体を軽く叩いていきます。
 痛くはないようですが、葉に付いた水滴が少しずつ巫女服を濡らしていくので、部分的に穴が空いていきます。

 雨だとあっという間にほぼ全裸ですが、サカキで濡らしていくと本当に少しずつしか穴が空きません。
 ですが、あまり穴が空いていないとその年の凶作につながると信じているので、何度も何度も繰り返します。

 翌日はご祈祷の後、五芒星の台に縛り付けられたまま、屋内の広い殿舎に運ばれます。

 殿舎には高い天井があって、中央の太い梁から、やはり五芒星の形の燭台が吊るされています。
 もっとも、燭台の五芒星は巫女の縛り付けられているものよりずっと小さくて、直径五〇センチあるかどうかくらいです。

 燭台には、真っ赤な蝋燭が並べられます。星の各頂点と、内側の正五角形の頂点にも並べるので、その数は計十本になります。
 すべてに火をつけて蝋燭を灯すと、暗い殿舎によく映えます。

 これを、巫女の真上に吊っておくのです。

 やがて、蝋が融けて、少しずつ巫女の上に滴ります。
 火傷するほどの熱さではないそうですが、蝋が身体に落ちるたび、巫女の身体は小さく跳ねます。

 この蝋の落ちた形で、その年の吉凶を占うのです。

 この蝋は融けきるのに八時間くらいかかるので、巫女はその間ずっと耐え続けます。
 どうなれば豊作なのか、細かい部分はよくわかりませんが、巫女の身体に落ちた蝋が少ないのはよくないそうなので、身を捩ったりしてはならないと教わっているそうです。
 どうせ縛られているので、少しくらい動いても変わらない気もするのですが。

 今年は豊作みたいですよ。
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