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この世界は檻でできている
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運命に抗うことを、私はやめた。だって、もう分かっていたからだ。何をしても無駄だということを。
これまで抱いてきた怒りも、悲しみも、
もしかしたら今感じているこの諦めさえ、
すべてこの世界が、そう思わせているだけなのかもしれない。
そうして月日は流れ、気づけば、明日は私の結婚式だった。
明日を迎えれば、私は婚約を破棄され、そして、すべてを失う。地位も、家も、これまで積み重ねてきた、私という存在のすべてを。
それなのに、胸の内に浮かぶのは、喜びでも、不安でもなかった。
ただ、終わりを待つ静けさだけ。
レミア・エヴェルナという役割が、ようやく回収される。そう思うと、不思議なほど、心は凪いでいた。
――はずだった。
夜半を過ぎたころ、ふと目が覚めた。胸の奥が、ざわついている。焦りでも恐怖でもない。もっと曖昧で、形のないもの。
まるで、どこか遠くから呼ばれているような感覚だった。
ありえない、とすぐに思う。私はもう抗わないと決めたのだから。
明日、すべては終わる。
それでいい。
それなのに。心臓が、やけにうるさい。
布団の上でじっとしていればいい。朝を待てばいい。それが“正しい”。そう理解しているのに、指先が、わずかに震えていた。
――最後に、もう一度だけ。
そんな言葉が、胸の奥でささやいた。
抵抗しても無駄だ。分かっている。何度も何度も、思い知らされた。
それでも。このまま何もせず、決められた不幸へ歩いていくことが、急に、耐えがたいものに思えた。
何かが、私を動かした。
理由はない。
理屈もない。
ただ、体の奥底から湧き上がる衝動。
立ち上がったのは、ほとんど無意識だった。ドレスではなく、簡素な外套を羽織る。誰にも気づかれないよう、廊下を進む。
足音がやけに大きく響く気がして、何度も振り返る。
けれど、誰もいない。まるで、屋敷そのものが、私の行動を見ていないかのように。
――それなら。
ほんの少しだけ、期待してしまった。
もしかしたら今夜は、世界が、私を引き戻さないかもしれない。重い門を、静かに押し開ける。
冷たい夜風が、頬を撫でた。
その瞬間。胸の奥で、何かが確かに動いた。私は、初めて思った。もし、この世界の外側があるのなら。そこへ、行きたいと。
これまで抱いてきた怒りも、悲しみも、
もしかしたら今感じているこの諦めさえ、
すべてこの世界が、そう思わせているだけなのかもしれない。
そうして月日は流れ、気づけば、明日は私の結婚式だった。
明日を迎えれば、私は婚約を破棄され、そして、すべてを失う。地位も、家も、これまで積み重ねてきた、私という存在のすべてを。
それなのに、胸の内に浮かぶのは、喜びでも、不安でもなかった。
ただ、終わりを待つ静けさだけ。
レミア・エヴェルナという役割が、ようやく回収される。そう思うと、不思議なほど、心は凪いでいた。
――はずだった。
夜半を過ぎたころ、ふと目が覚めた。胸の奥が、ざわついている。焦りでも恐怖でもない。もっと曖昧で、形のないもの。
まるで、どこか遠くから呼ばれているような感覚だった。
ありえない、とすぐに思う。私はもう抗わないと決めたのだから。
明日、すべては終わる。
それでいい。
それなのに。心臓が、やけにうるさい。
布団の上でじっとしていればいい。朝を待てばいい。それが“正しい”。そう理解しているのに、指先が、わずかに震えていた。
――最後に、もう一度だけ。
そんな言葉が、胸の奥でささやいた。
抵抗しても無駄だ。分かっている。何度も何度も、思い知らされた。
それでも。このまま何もせず、決められた不幸へ歩いていくことが、急に、耐えがたいものに思えた。
何かが、私を動かした。
理由はない。
理屈もない。
ただ、体の奥底から湧き上がる衝動。
立ち上がったのは、ほとんど無意識だった。ドレスではなく、簡素な外套を羽織る。誰にも気づかれないよう、廊下を進む。
足音がやけに大きく響く気がして、何度も振り返る。
けれど、誰もいない。まるで、屋敷そのものが、私の行動を見ていないかのように。
――それなら。
ほんの少しだけ、期待してしまった。
もしかしたら今夜は、世界が、私を引き戻さないかもしれない。重い門を、静かに押し開ける。
冷たい夜風が、頬を撫でた。
その瞬間。胸の奥で、何かが確かに動いた。私は、初めて思った。もし、この世界の外側があるのなら。そこへ、行きたいと。
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