5 / 78
第1章
第5話 予期せぬ再会
しおりを挟む
早く図書課に戻りたい。軍人とはメルテン以外と関わりたくない。
レイは持って行けと言われた書類を不備で突き返され、散々詰られ心身共に疲弊しながら廊下の端で壁にもたれかかり落ち込んでいた。
自分のミスじゃないのに何故怒られないといけないのか。怒るべきは適当にサインをしてこれを持って行けと言い出したあの伯爵様じゃないのか。何故ただの足になっている自分に。
泣けてきた。泣かないけれど。
此処はあまり人が来ない。王宮の外れでありながら神殿が管理を行なっている祭祀の間に続く廊下だからだ。
我ながら良い場所を見つけた。此処なら休んでいても見つかることは少ない。だから此処でほんの少しだけ休憩をして、それからまた戻ればいい。
壁に寄りかかりながら座り込み、何とか最低限の体力は回復したいと目を瞑っていると、遠くの方からコツコツと革靴が床を蹴る音が聞こえてきた。
軍の人間じゃないはずだし、柱の影で見えないはず。誰も気付いてくれるなよと思いながら瞼を開けることなく休憩していると、足音は徐々に近付いてきた。まっすぐにレイがいる柱のすぐそばまでやってきた足音は、すぐそこで止まる。
もしや知り合いだろうか。軍の人間だったら怒られるどころじゃ済まないかもしれない。
「レイ……?」
よく見知った声だ。学生時代、誰よりも聞いた声。
既視感のある声に誘われるようにしてレイが恐る恐る瞼を開けると、そこには白金色の騎士様が立っていた。
「エディ、なんで此処に?」
久しぶりに見る親友に、レイは驚き目を見張った。何故此処に。エディは日々聖騎士として修行の日々のはずでは。
エディも同じように驚いているようだが、何かに気付いたようでレイのすぐそばにしゃがみ込み、痩せこけてしまった頬を指先で撫でてくる。
「痩せた?」
「はは、ちょっと忙しくって」
「ちょっとどころじゃなさそうだけど。俺は祭祀の間に用があったんだ。レイは此処で何してたの?」
「んー、休憩?」
戻ったら休めないから、此処で。流石にエディにそれは言えないけれど、自分の職場は王宮内だから此処にいたのも誤魔化せる。レイはへらりと笑い、立ち上がろうと身を起こす。
だが、エディがそれを止めた。レイの肩を掴んだエディは、真剣な瞳でレイを見つめてくる。
あの見合いの席での真剣な表情と、そこから続いた言葉を思い出してしまいそうになった。レイは慌ててふいと顔を逸らし、一息吐くとへらりと笑って誤魔化した。
「そろそろ戻んないといけないから離してくれよ」
「嫌だ。こんなにやつれてるなんておかしいだろ、まだ卒業して半年も経っていないのに」
働き始めてからまだそれしか経っていなかったのか。毎日毎日激務のせいで正常な日付感覚も失われているレイは既に一年ほど経過したのではと思い込んでいた。
冬もまだ来ていないし、それはそうか。制服だって衣替えもしていないし、そんなに経ったはずがない。
レイはそれにも笑ってしまう。何だかおかしくなってきてしまった。
もう少しすれば図書課に戻れる。戻れると言っても一度も働いたことのない部署だ。いちから全てを覚え直さないといけないから足手纏いになってしまうのはほぼ確実だ。
軍の方でこき使われ、戻っても足手纏い。これから先も一生仕事に忙殺されて、友達とは会えなくなるのか。
「何度も手紙を送ったのに返ってこないから心配した」
「え? 届いてないけど」
一度だってエディから手紙なんて届いたことがない。実家からの手紙は来ているし、その封筒の中に友人からの手紙が同封されていることだってある。けれど、エディの書いた文字は入庁以来一度も見ていない。
心配の声に驚き思わず口にしてしまえば、エディの眉間に皺が寄ってしまった。しまった、またいらぬ心配を。
レイはエディの眉間に手を伸ばし、指先で伸ばしてやりながら笑ってみせる。
「もしかしたら見落としてるだけかもしんないから、後でもっかい見てみる」
「見落とす量じゃないはずだ。毎週2回、速達で送り続けてたから」
「……なに、俺に何か用でもあった?」
考えられるとすれば見合いの席で言ってしまった冗談だろうか。エディがレイを好きだとかいう、あの。
別に気にしていないのに。
レイが聞けば、エディは躊躇いがちに首を振り否定した。
「親友がいきなり一切の連絡を絶ったんだ、心配するに決まってるだろ」
「悪い悪い、ちゃんと見返すから」
「レイ、……王宮の仕事、もしかして辛い?」
辛くないわけがない。
毎日毎日朝も早くから起きて、自分の時間なんて与えられず詰られ怒鳴られながら仕事を何とかこなす日々。
レイはエディの優しい声色に、言葉を詰まらせてしまう。
「へ、いき」
「本当に平気なら、いつもみたいに笑ってよ」
「いつも、って」
「聞き方を変えるけど、……何があったか、俺に話せる?」
「あー……いや、大丈夫」
お前と親友だということが知られたから敵視されてるなんて、言えるはずがない。
何でもない。レイは首を振り、エディのいう『いつも』のように笑ってみせた。
「気にすんなって、まだ仕事覚えきれてなくて勝手にテンパってるだけだから」
「本当に? 嫌な人とかいない?」
「そんなの、……あーいや、1人だけいるけど。なんか腰とか尻とか撫で回してくるおっさんくらいだし」
「誰?」
強いて言えるとすればあのセクハラゴリラくらいだ。茶化すようにレイが話をすれば、エディは驚くほど真剣な声色で聞いてきた。
そんなに食いつくことだろうか。ただ親友が男にセクハラを受けているだけなのに。
レイはあの愛の告白は絶対に冗談だと思い込んでいる。だからとへらへら笑い、エディの肩をぽんぽんと叩いた。
「大したことないって。そろそろ部署変わって元の配置に戻れるはずだからさ」
「レイ、俺は誰かって聞いてるんだけど」
「大丈夫だって、なんだよ心配性だな」
あのゴリラに関しては一人にならなければいいだけの話だ。最悪メルテンから離れないようにすれば。
運動能力でゴリラに勝てる気はしないけれど、逃げ足だけは早いと自負している。もしメルテンがいなくても、人目があるところに逃げ込めばきっと問題はないはずだ。
レイは楽観的に考えている。本当に尻を狙われており、周りはレイを大した意味もなく嫌う男達ばかり。メルテン以外の誰かのもとに逃げ込んだところで、好き者に襲われる嫌いなレイを守るはずがないなんて思いもしない。
そして、そんな状況にあるレイのことを本当にエディが知らないとも思っていた。
聖騎士と軍の対立は皆知っている。その当事者であり、何よりも国内で強い権力を持つ侯爵家の息子であるエディが、王宮内に流れる『軍の使えない文官が聖騎士の友人』という噂を知らないはずがないのに。
レイはエディの肩に寄りかかり、よいしょと声を出し立ち上がった。
睡眠不足と栄養失調が祟った身体はその簡単な動作でさえふらつき、片手で持っていた書類の束を全て床に落とし壁に強く肩をぶつけてしまう。
「レイ!」
「ちょっと寝不足なだけだから平気だって」
「昔からだけど、本当に強情だな。ついてきて」
「うわ、おいちょっと」
ついてきて、そう言いながらエディはレイの落とした書類をさっと集めてしまうと空いている手でレイを担ぎ上げた。
荷物のように肩に担がれ、驚き抵抗しようにもエディの力には敵わない。
学生の頃からエディの細身ながらも鍛え上げられた筋肉に勝てた試しは一度もなかった。力の入らない今の身体では尚更。
「そろそろ戻んないと怒られるから、おーい」
「黙って」
何処まで連行されるんだ。ついてきてと言いながらこれでは誘拐じゃないのか。
レイは今軍用のマントを身に纏っている。きらきらした聖騎士の正装を身に纏ったエディに担がれているところを誰かに見られたら、また何を噂されるかわからない。
自分はいいけれど、エディが変な噂を立てられるのは困る。一生独り身で最低限の給料だけ貰えればいい自分と違って、エディは将来を約束されている人間だ。
何度かエディの背中を手でぽすぽすと叩いてみるけれど効果なし。
荷物のように担がれたままレイが連れてこられたのは、王宮内にある官吏達のために作られた簡易的な医務室だった。
「俺、何処も悪くないけど?」
「嘘だ」
「嘘じゃないんだけど……」
何か食べて寝ればまた元気になる。ただ少しそれができていないというだけで。
侍医は王族のための医師。従者である官吏は侍医の診察を受けることはできないため、この医務室では軽い怪我や病気のための設備しかなく、医療知識のない女官が数名滞在しているだけだ。
医務室内にいた女官は、突然現れた男前な聖騎士に表情を隠しながらも色めき立っていた。学園を卒業して数年しか経っていない年若い女官達は、エディの存在を元々知っていたのだろう。
エディはレイを木製ベッドに下ろしながら、そんな女官達に視線を向け笑顔を貼り付け声をかけた。
「友人が体調不良になってしまったので、こちらで少し休ませてくださいますか?」
「こちらは官吏のための医務室ですので、随意に」
「有難う。助かります。それと申し訳ありませんが、彼と少し二人で話をさせてほしくて」
エディが侯爵家の人間であることを知っているのか、それよりも低い階級なのだろう家の女官達はエディが望むまま退室していく。
男同士だから扉を開けておく必要はない。ぱたん、と音を立てて閉じられた扉を眺め、エディはふっと表情を消しレイを見下ろした。
「俺がどれだけ心配したか、レイにはわからないだろうね」
「ただ手紙返さなかっただけだろ?」
「……そうじゃないよ」
苦し気に呟くエディの表情は初めて見た。学生時代だって、こんな顔を見せたことなど一度もない。
忙しさにかまけて手紙の確認を疎かにしていたのは確かだ。けれどエディが心配したのはそこではないらしい。
エディが何を思っているのかがわからない。どうしてそこまで心配するのかが理解できない。
王宮の中のことを、聖騎士になるエディが知るはずがないから。レイが今どんな環境にいるのかをエディが知っていると、露ほども思っていないから。
レイは持って行けと言われた書類を不備で突き返され、散々詰られ心身共に疲弊しながら廊下の端で壁にもたれかかり落ち込んでいた。
自分のミスじゃないのに何故怒られないといけないのか。怒るべきは適当にサインをしてこれを持って行けと言い出したあの伯爵様じゃないのか。何故ただの足になっている自分に。
泣けてきた。泣かないけれど。
此処はあまり人が来ない。王宮の外れでありながら神殿が管理を行なっている祭祀の間に続く廊下だからだ。
我ながら良い場所を見つけた。此処なら休んでいても見つかることは少ない。だから此処でほんの少しだけ休憩をして、それからまた戻ればいい。
壁に寄りかかりながら座り込み、何とか最低限の体力は回復したいと目を瞑っていると、遠くの方からコツコツと革靴が床を蹴る音が聞こえてきた。
軍の人間じゃないはずだし、柱の影で見えないはず。誰も気付いてくれるなよと思いながら瞼を開けることなく休憩していると、足音は徐々に近付いてきた。まっすぐにレイがいる柱のすぐそばまでやってきた足音は、すぐそこで止まる。
もしや知り合いだろうか。軍の人間だったら怒られるどころじゃ済まないかもしれない。
「レイ……?」
よく見知った声だ。学生時代、誰よりも聞いた声。
既視感のある声に誘われるようにしてレイが恐る恐る瞼を開けると、そこには白金色の騎士様が立っていた。
「エディ、なんで此処に?」
久しぶりに見る親友に、レイは驚き目を見張った。何故此処に。エディは日々聖騎士として修行の日々のはずでは。
エディも同じように驚いているようだが、何かに気付いたようでレイのすぐそばにしゃがみ込み、痩せこけてしまった頬を指先で撫でてくる。
「痩せた?」
「はは、ちょっと忙しくって」
「ちょっとどころじゃなさそうだけど。俺は祭祀の間に用があったんだ。レイは此処で何してたの?」
「んー、休憩?」
戻ったら休めないから、此処で。流石にエディにそれは言えないけれど、自分の職場は王宮内だから此処にいたのも誤魔化せる。レイはへらりと笑い、立ち上がろうと身を起こす。
だが、エディがそれを止めた。レイの肩を掴んだエディは、真剣な瞳でレイを見つめてくる。
あの見合いの席での真剣な表情と、そこから続いた言葉を思い出してしまいそうになった。レイは慌ててふいと顔を逸らし、一息吐くとへらりと笑って誤魔化した。
「そろそろ戻んないといけないから離してくれよ」
「嫌だ。こんなにやつれてるなんておかしいだろ、まだ卒業して半年も経っていないのに」
働き始めてからまだそれしか経っていなかったのか。毎日毎日激務のせいで正常な日付感覚も失われているレイは既に一年ほど経過したのではと思い込んでいた。
冬もまだ来ていないし、それはそうか。制服だって衣替えもしていないし、そんなに経ったはずがない。
レイはそれにも笑ってしまう。何だかおかしくなってきてしまった。
もう少しすれば図書課に戻れる。戻れると言っても一度も働いたことのない部署だ。いちから全てを覚え直さないといけないから足手纏いになってしまうのはほぼ確実だ。
軍の方でこき使われ、戻っても足手纏い。これから先も一生仕事に忙殺されて、友達とは会えなくなるのか。
「何度も手紙を送ったのに返ってこないから心配した」
「え? 届いてないけど」
一度だってエディから手紙なんて届いたことがない。実家からの手紙は来ているし、その封筒の中に友人からの手紙が同封されていることだってある。けれど、エディの書いた文字は入庁以来一度も見ていない。
心配の声に驚き思わず口にしてしまえば、エディの眉間に皺が寄ってしまった。しまった、またいらぬ心配を。
レイはエディの眉間に手を伸ばし、指先で伸ばしてやりながら笑ってみせる。
「もしかしたら見落としてるだけかもしんないから、後でもっかい見てみる」
「見落とす量じゃないはずだ。毎週2回、速達で送り続けてたから」
「……なに、俺に何か用でもあった?」
考えられるとすれば見合いの席で言ってしまった冗談だろうか。エディがレイを好きだとかいう、あの。
別に気にしていないのに。
レイが聞けば、エディは躊躇いがちに首を振り否定した。
「親友がいきなり一切の連絡を絶ったんだ、心配するに決まってるだろ」
「悪い悪い、ちゃんと見返すから」
「レイ、……王宮の仕事、もしかして辛い?」
辛くないわけがない。
毎日毎日朝も早くから起きて、自分の時間なんて与えられず詰られ怒鳴られながら仕事を何とかこなす日々。
レイはエディの優しい声色に、言葉を詰まらせてしまう。
「へ、いき」
「本当に平気なら、いつもみたいに笑ってよ」
「いつも、って」
「聞き方を変えるけど、……何があったか、俺に話せる?」
「あー……いや、大丈夫」
お前と親友だということが知られたから敵視されてるなんて、言えるはずがない。
何でもない。レイは首を振り、エディのいう『いつも』のように笑ってみせた。
「気にすんなって、まだ仕事覚えきれてなくて勝手にテンパってるだけだから」
「本当に? 嫌な人とかいない?」
「そんなの、……あーいや、1人だけいるけど。なんか腰とか尻とか撫で回してくるおっさんくらいだし」
「誰?」
強いて言えるとすればあのセクハラゴリラくらいだ。茶化すようにレイが話をすれば、エディは驚くほど真剣な声色で聞いてきた。
そんなに食いつくことだろうか。ただ親友が男にセクハラを受けているだけなのに。
レイはあの愛の告白は絶対に冗談だと思い込んでいる。だからとへらへら笑い、エディの肩をぽんぽんと叩いた。
「大したことないって。そろそろ部署変わって元の配置に戻れるはずだからさ」
「レイ、俺は誰かって聞いてるんだけど」
「大丈夫だって、なんだよ心配性だな」
あのゴリラに関しては一人にならなければいいだけの話だ。最悪メルテンから離れないようにすれば。
運動能力でゴリラに勝てる気はしないけれど、逃げ足だけは早いと自負している。もしメルテンがいなくても、人目があるところに逃げ込めばきっと問題はないはずだ。
レイは楽観的に考えている。本当に尻を狙われており、周りはレイを大した意味もなく嫌う男達ばかり。メルテン以外の誰かのもとに逃げ込んだところで、好き者に襲われる嫌いなレイを守るはずがないなんて思いもしない。
そして、そんな状況にあるレイのことを本当にエディが知らないとも思っていた。
聖騎士と軍の対立は皆知っている。その当事者であり、何よりも国内で強い権力を持つ侯爵家の息子であるエディが、王宮内に流れる『軍の使えない文官が聖騎士の友人』という噂を知らないはずがないのに。
レイはエディの肩に寄りかかり、よいしょと声を出し立ち上がった。
睡眠不足と栄養失調が祟った身体はその簡単な動作でさえふらつき、片手で持っていた書類の束を全て床に落とし壁に強く肩をぶつけてしまう。
「レイ!」
「ちょっと寝不足なだけだから平気だって」
「昔からだけど、本当に強情だな。ついてきて」
「うわ、おいちょっと」
ついてきて、そう言いながらエディはレイの落とした書類をさっと集めてしまうと空いている手でレイを担ぎ上げた。
荷物のように肩に担がれ、驚き抵抗しようにもエディの力には敵わない。
学生の頃からエディの細身ながらも鍛え上げられた筋肉に勝てた試しは一度もなかった。力の入らない今の身体では尚更。
「そろそろ戻んないと怒られるから、おーい」
「黙って」
何処まで連行されるんだ。ついてきてと言いながらこれでは誘拐じゃないのか。
レイは今軍用のマントを身に纏っている。きらきらした聖騎士の正装を身に纏ったエディに担がれているところを誰かに見られたら、また何を噂されるかわからない。
自分はいいけれど、エディが変な噂を立てられるのは困る。一生独り身で最低限の給料だけ貰えればいい自分と違って、エディは将来を約束されている人間だ。
何度かエディの背中を手でぽすぽすと叩いてみるけれど効果なし。
荷物のように担がれたままレイが連れてこられたのは、王宮内にある官吏達のために作られた簡易的な医務室だった。
「俺、何処も悪くないけど?」
「嘘だ」
「嘘じゃないんだけど……」
何か食べて寝ればまた元気になる。ただ少しそれができていないというだけで。
侍医は王族のための医師。従者である官吏は侍医の診察を受けることはできないため、この医務室では軽い怪我や病気のための設備しかなく、医療知識のない女官が数名滞在しているだけだ。
医務室内にいた女官は、突然現れた男前な聖騎士に表情を隠しながらも色めき立っていた。学園を卒業して数年しか経っていない年若い女官達は、エディの存在を元々知っていたのだろう。
エディはレイを木製ベッドに下ろしながら、そんな女官達に視線を向け笑顔を貼り付け声をかけた。
「友人が体調不良になってしまったので、こちらで少し休ませてくださいますか?」
「こちらは官吏のための医務室ですので、随意に」
「有難う。助かります。それと申し訳ありませんが、彼と少し二人で話をさせてほしくて」
エディが侯爵家の人間であることを知っているのか、それよりも低い階級なのだろう家の女官達はエディが望むまま退室していく。
男同士だから扉を開けておく必要はない。ぱたん、と音を立てて閉じられた扉を眺め、エディはふっと表情を消しレイを見下ろした。
「俺がどれだけ心配したか、レイにはわからないだろうね」
「ただ手紙返さなかっただけだろ?」
「……そうじゃないよ」
苦し気に呟くエディの表情は初めて見た。学生時代だって、こんな顔を見せたことなど一度もない。
忙しさにかまけて手紙の確認を疎かにしていたのは確かだ。けれどエディが心配したのはそこではないらしい。
エディが何を思っているのかがわからない。どうしてそこまで心配するのかが理解できない。
王宮の中のことを、聖騎士になるエディが知るはずがないから。レイが今どんな環境にいるのかをエディが知っていると、露ほども思っていないから。
56
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話
八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。
古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる