【第2章開始】俺とお前は親友のはずだろ!? ~姉の代わりに見合いした子爵令息、親友の聖騎士に溺愛される~

田鹿結月

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第1章

第23話 拒む方法

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 翌朝、レイは逃れるために咄嗟に出してしまった言葉に後悔していた。
 受付の向かいに立つ大男は、鬱陶しいほど暑苦しい笑みを浮かべレイを見下ろしている。

「早速誘いにきたぞ」
「すみません、仕事があるので……」
「昼休みは何時だ? その時まで待とう」
「いや昼は用事があって」
「なら今決めてしまおうか」

 飲みの相談なんてされても行きたくないのだけれど、デプレは一応偉い人にあたるから断りづらい。レイは冷や汗を垂らしながら横にいる男性職員に助けを求める視線を投げた。
 が、彼は関わり合いになりたくないとばかりに露骨に顔を逸らして逃げられる。くそ、せめて話に割って入るくらいはしてくれ。嫌がっているのは見てわかるだろうが。
 レイは内心悪態を吐きつつもまた後回しにするため言葉を選んでやんわりと断りの方向に持っていこうとする。

「昨日はああ言っちゃったんですけど、暫く忙しいんですよね……」
「何故? 図書課の仕事なんて本を受け渡しするだけだろう?」

 その言いようにカチンと来るが我慢。喧嘩をしたって絶対に勝てない。レイは笑みを浮かべたまま立ち上がり、首を振って投書箱をわざと手にした。

「これでも色々とあるんです。また今度、来月くらいには多分暇になるんで」

 来月になればエディも帰ってきて防御壁になってくれるだろう。このゴリラに嫉妬してよくわからない魔法を腕輪に掛けるくらいだ、その程度の火の粉くらい被ってくれ。
 きっとこの脳筋ゴリラには伝わらないだろうがと思いながら、嵌め込まれた青い宝石が見えるよう腕を動かし受付内で動き回る。やはりこれが何かなんて気付かないデプレは、むしろレイの全身を改めて眺め熱の籠った声色で独り言を漏らした。

「図書課の制服、やはり唆るな……」

 思わず顔に出さないようにするのが精一杯だった。肌という肌が鳥肌を立ててしまうほどに気色悪い発言にレイはひゅっと喉の奥から息の止まる音を鳴らしてしまう。
 図書課に配置されてから新しく与えられた制服は身体の線を隠すような脛まで隠す深緑色のローブと胸辺りまでを覆う同系色のケープだ。それと黒いパンツ、黒い革靴。肌は手しか出ない服の一体何が唆るのか、絶対に聞きたくないけれど思わず何処がだと言ってしまいたくなる。
 レイは早く帰ってくれと見上げ、デプレに頭を下げた。

「本当にすみません、また改めてでもいいですか?」
「仕方がないな。改めて来月に誘いに来るか」
「ありがとうございます、じゃあその時に」

 その時には番犬よろしくエディにガードしてもらわねば。何なら今の段階で手紙を送ってみるのもありかもしれない。届くかはわからないけれど。
 デプレが扉から出て行ってようやくレイは詰めていた息を吐き出す。同じく受付業務をしていた同僚は、げぇとあからさまに嫌な顔をしてレイを見上げた。

「ヴァンダムさんああいうのが好きなんですか?」
「んなわけないでしょ、軍部の頃からしつこいんですよあの人」

 誰があんな脳筋ゴリラ。図書課を馬鹿にした時点でより一層好感度は下がった。
 レイがやりたかった仕事をああやって無自覚にでも貶し傷つけることに躊躇のない人間は相手が誰だって嫌になる。レイは大きく溜め息を吐き、ぼやいた。

「俺が好きなのは人の好きを否定しない奴だから、あれはもう絶対に有り得ないんで」
「ふうん。嗚呼、いつもの騎士様とか紳士様とかか」
「なんで男相手で話進めるんですか?」

 騎士様とはエディのことで、紳士様とはメルテンのことだ。あの二人、異様に目立つから図書館で働く官吏の中で渾名がつけられるほど認知されている。
 何故あの二人を自分が好きだという男好きが前提となって話が進むのか。おかしいだろう、自分は結婚しなければとずっと裏でも言い続けていると言うのに。

「だってヴァンダムさん男としかつるまないじゃないですか」
「一応貴族なんで、女性とはそれなりに距離感を保って関わらないといけないんですよ」
「婿入りするのに?」
「婿入りするからこそなんです」

 ガツガツ女性に絡んでいって悪評が立ってしまったら困る。逆に、好感を持たれてしまっても。
 婿になるからこそ女性関係には潔癖でいないといけない。だからこそ学生時代だって遊んだりしなかった。隣に色男がいるからできなかったというのもあるけれど。
 今は、別に興味も湧かない。それは男女どちらにせよ同じことで、ただ同性愛者の意識はないレイからすれば相手が男であることを前提として言われるのは少しばかり腹立たしくも感じてしまった。
 同性同士の恋愛にも寛容なのはいいが、他人もそうであると決めつけないでほしい。そもそも好意を持たれて嫌悪を感じなかった男はエディだけなのだから、自分はその括りではない。
 レイは溜め息を吐く。

「俺もあれだけ顔が良きゃなぁ」
「大丈夫大丈夫、ヴァンダムさんもそこそこ整ってますよ」
「なんだよそこそこって。あー、なんでこうも男に好かれなきゃいけないんだ……」

 あの二人が何故自分を好きになったのかわからない。そもそも、あのゴリラは性欲でしか見ていない気しかしないけれど。
 エディへの断り文句はまだ考えられていない。せめて、あのゴリラの方はどうにか早いこと拒まないと多分本当に尻を狙われる。

「普通に嫌いです飯も行かないですって断りゃいいのに」
「初対面の頃から尻揉んでくるような輩にそんなこと言ったら後が怖い」
「あの騎士様とかに相談してみたらどうなんですか?」

 それこそ無理だ。
 笑い話にしてこの腕輪を贈られたのだ。大真面目に相談なんてしてみろ、家の力を使わずともあのゴリラに何かしてしまう。そうしたらまた騎士と軍人の対立が強まって、その原因の自分は多分闇討ちされる。そんな気しかしない。

「……知らないと思いますけど、あいつ王太子殿下の従弟なんですよ」
「権力でねじ伏せるってやつですね、楽しくなってきた」

 この同僚と話したのが間違いだったかもしれない。
 口笛を鳴らし面白がっている同僚をじとりと睨み、レイはそんなことさせてたまるかとまた深く溜め息を吐いた。
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