【第2章開始】俺とお前は親友のはずだろ!? ~姉の代わりに見合いした子爵令息、親友の聖騎士に溺愛される~

田鹿結月

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第1章

第47話 魔力の供給

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 なんとかエディを隣室まで運び込み、暖炉の前に横にさせると火を強くする。熱いはずのエディの身体が冷たく感じられて、とにかく温めなければと必死になった。
 魔力が枯渇した時は応急処置として他者が自身の魔力を渡すのがいいと言われているが、如何せん二人の魔力量には差がありすぎる。レイの魔力を全て与えたところで、何の足しにもならないだろう。

「エディ、少しだけ待てるか? 誰か呼んでくる」
「だめ、そばにいて」

 掠れた、弱々しい声でエディは止める。伸ばされた手を掴み、その掌の冷たさに何があったのか恐る恐る問いかけた。

「なぁ、何があったんだよ」
「今日のお見合い、相手方の家に呼ばれたのだけれど、魔法陣が仕掛けられていて」

 掌越しに魔力を流し込みながら、どうにか少しでもエディが回復できる手段はないか考えつつ話を聞く。
 相手が誰だか知らないが、エディが攻撃を受けてこんなことになるなんて想像もつかない。だってエディは、誰よりも強いはずで。

「俺を逆恨みした、当主の暴走らしくて。その魔法陣の中には俺以外にも、ご令嬢と侍従達が何人もいて」
「……何の魔法陣だったんだよ」
「闇魔法」

 かつて、滅びた古代の魔法の類。実在すら怪しまれている、与太話とされる魔法の一種。
 好奇心でエディと二人で並んで古代魔法の本を読んでいた時に『あったかもしれない』と概要だけが書かれていたもののうちのひとつ。
 今言われて思い出した程にもううすぼんやりとしか覚えていないが、エディは強く覚えていたらしい。

「聖魔法と、相性は悪いんだ。だから聖騎士の俺の魔力が反発して、俺は無事だった」
「……俺は、って」
「魔法陣の中にいる生き物を、すべてひとつにする魔法。……娘もいたのに、それを使った」

 それじゃあ、この汚れはまさか。
 レイがエディの真っ白いはずの制服の汚れをまじまじと見つめてしまうと、エディは空いた手を伸ばして頬を撫でる。

「混ざりはしなかった。俺がいたから、正常に発動しなかったんだろうと思う。……治癒魔法、使い過ぎて」
「……犠牲者は出なかった?」
「なんとかね。でも、こんな時間までかかっちゃった」
「医者とか呼べば良かったんじゃねえの」
「流石に無理だよ。魔法陣はずっと発動されてた。外から解除するのに五人がかりで、途中から中に入るとどんな影響があるかもわからなくて、だから俺しか」

 エディしか、魔法陣の中にいた者達を助けられる者はいなかった。
 何人も、死にかけた人を治癒魔法を使い続けて救っていた。だから早くに帰ってくることも叶わなかった。
 そんな状況だったのに、レイは腕輪を外して呼びだしてしまった。
 また、何か上から話があるかもしれない。何より、突然消えたレイが何かに巻き込まれたのではと思われてしまうかもしれない。
 けれど、そんな現実離れした事件に巻き込まれ魔力が尽きてでも無事に帰って来たことに安堵する。
 兎にも角にも、エディ自身は怪我をしているわけじゃない。これは全部、救助にあたってついた血。エディのものじゃない。レイはほっと胸を撫で下ろした。

「……遅くなってごめん」
「そんな状況じゃ、怒れるわけないだろ。……とりあえずお前が無事ならそれでよかったよ」
「ごめんね」
「謝るな馬鹿」

 まさか今朝はこんなことが起きるだなんて思ってもいなかった。自分が襲われた時も、何でもない日常の中で突然だった。
 誰に襲われたのかは後で聞こう。今はとにかく、エディが動ける程に回復するのを待って、それで家に帰らなければ。

「エディ、やっぱ人呼んできた方がいいんじゃ」
「だめ。……レイがそばにいてくれたら、それで大丈夫」

 魔力を注ぎ続けているけれど、全く顔色も良くならない。誰かを呼べば、そう思うもエディ自身が拒んでしまう。
 どうすれば。せめて家に帰れれば。そう思いながらレイはふと、ひとつ思い出す。
 相手に触れるだけでも本当は魔力を渡せるが、レイは魔力量が少なく弱いから肌に直接触れないと碌にエディに送ることができない。だから今は掌でしか触れていないためにほんの少ししか渡せない。
 ……自分からするのは絶対に嫌だし、これで何かまた関係性を変えるということはしない。けれど、今は非常事態だ。
 レイはエディの肩を掴むと起き上がらせ、暖炉の脇に寄りかかる形で座らせた。

「レイ……?」
「人工呼吸だから。非常事態の緊急対応だから」
「なに、ん……っ」

 ふに、と柔らかい唇にキスをし、魔力を流し込む。エディは驚くが、早く家に連れて帰りたいレイは唇を離し、至近距離でじとりと睨んだ。

「口、開けてくんねえと早く魔力渡せないんだけど」
「……う、うん」
「キスじゃないから。わかってんな」
「いや、でも……」
「応急処置だからキスじゃない。絶対違うから、はやく」

 唇を食んでも、舌を絡めてもキスじゃない。こんな寒い中で服を脱がすわけにいかないから、緊急的な措置だ。
 両手とも指を絡めて手を繋ぎ、エディの膝の上に跨り深くまで貪るように接触しながら魔力を渡す。
 どんな気分になってきても、これはただの人工呼吸と変わらないとレイは自分に言い聞かせた。どれだけ気持ち良くなろうとも、これは人命救助。疚しい気持ちなんてない。
 無事なのが嬉しいとか、昨日のことを怒れなくなってしまったとか、人の命を救えることが格好いいとか、色々思うことはあるけれど他意はない。ただの緊急対応。ただの応急処置。
 ぐらりと頭が傾ぐけれど、もう少し。自分が枯渇するほど魔力を消費したって、エディが歩きさえできればいい。此処はレイの職場。エディさえ帰ることができるなら自分はここで朝まで寝ればいいから。

「レイ、もう歩けるから」
「だめ」

 だから、もう少しだけ。エディはレイに無理をさせないようにと自分が無茶をしてしまうから、もうちょっと。
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