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第1章
第49話 ぬくもりを求めて
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清浄魔法でいいと言い張るエディに、これ以上魔力を使おうとするなと説教をしてからレイはホットココアを2人分淹れ厨房からサロンへ戻る。
本当に、普段と比べたら心配になるほどに顔色が悪い。自分の魔力だけではやはり足りなかったのかと思いながらマグカップを手渡すと、エディは自分の隣に座ってほしいと手で差した。
大人しく望まれた通りに隣に座ってやり、エディの顔を見上げながらココアを一口。じんわりと身体の芯を温めていくような甘さと熱さにほっと一息ついていれば、エディが軽く寄りかかって来た。
「なんだよ」
「いつものレイの真似。……ちょっとだけ、こうしてていい?」
「いいけど、……なに、魔力の枯渇ってそんなにきついのか」
「枯渇より、……あの場面を見た方がきつい……」
「ああ……」
べっとりと赤黒い血がこびりついてしまう程、凄惨な現場だったんだろう。
しかもそれが自分の目の前で起こったなんて、レイだったらきっと意識を飛ばしてしまっていたかもしれない。
レイは一度マグカップを隣のテーブルに置き、エディも一口飲んだのを確認するとテーブルに置かせてしまうと抱き寄せて頭を撫でてやる。
「お疲れさん。悪いな、そんな状況だったのに転移させて」
「……あれ以上、神殿にも現地にもいたくなかったから助かった」
「勝手に連れ帰るみたいな真似になったけど、明日怒られないか?」
「大丈夫、救出は終わってたし怒られても聞かないから」
「そこは聞けよ。……そのご令嬢、ちゃんと傷は治せたか?」
「うん。……侍従達が、叫ぶんだ。お嬢様を最初にって」
自分も傷ついて、命が奪われそうになっても尚主人を、その娘を優先させようとする言葉。
「その人達の方が、余程酷い怪我をしてるのに。……足が千切れても、お嬢様をって」
「……うん」
ぽつりぽつりと、呟くように吐き出すエディの背中を撫でながらレイはただ頷き聞いてやる。
こういった事件で負った心の傷は何をすれば癒せるかわからない。自分のように、いっそ他人事として捉えてしまっていられるのなら追い込まれはしないだろう。けれど、エディと自分は違うから。
レイはエディと視線を合わせ、真っ赤に腫れ上がった頬を撫でた。
「これ、魔力回復させて早く治さないとな」
「……錯乱した侍従に殴られたんだ。かっこ悪い?」
「んーん、格好いい。男前じゃん」
「治すのやめようかな」
「こら、ちゃんと治せよ」
治癒魔法をかける相手から攻撃されても救助を続けたから犠牲者はいなかったんだろう。それを男前と言わずしてなんというか。
別に顔を傷つけられてもエディはエディだ。レイは頭を撫でまわし、傷心しているエディを甘やかす。
学生時代と同じように。あの頃は、しょっちゅうレイが兄貴分ぶってエディをこうして撫でまわしていたものだ。
そろそろ落ち着いてきただろうとココアを渡し、自分も少しゆっくりしたいと同じようにエディに寄りかかった。
「エディ、魔力ってどのくらいで回復すんの」
「ここまで減ったことないからわからないけど、一週間くらいはかかるかも」
「じゃあその間はなるべく魔法使うの禁止。清浄魔法使わなくても風呂に入ればいいし、転移は腕輪外さないからさせない。暖炉も厨房も風呂も、薪とか木炭使えばいいんだから」
「……浮遊は」
「駄目。持ち歩いたりできるだろ」
なんでもかんでも魔法に頼ってしまうから意識的に禁止にしないとまた使ってしまうだろう。だから、暫くは絶対に禁止。
エディは嫌そうだ。日常的に使っている手足そのものを駄目だと言われてしまえばそうなるのも当然。
何か餌にするものはないだろうか。そう考えていたレイは、ふとひとつ思い出した。
「プレゼント忘れてた」
「え?」
「お前の誕生日プレゼント。昨日あんなことしてきやがったから渡しそびれたんだよ」
「それは本当にごめん」
「でもお前が無茶して魔法使い続けてもし外でぶっ倒れるなら渡さない」
誕生日プレゼントなのだから、普通にそのまま渡した方がいいのはわかっている。けれど、きっと無自覚に無理をするだろうから。
だから餌としてちらつかせてみれば、エディは簡単に釣れた。
「どんなことがあっても魔法使わないから欲しい」
「それは駄目だろ。何か変な目に遭いそうになったりヤバいことに巻き込まれたら使えよ」
「うん、緊急事態には使うけどそれ以外には使わないから。レイの選んだプレゼントなんて初めてだ、嬉しいな」
そうだったか? と思ったが、これまではずっと現物、というか一緒に遊んで過ごすことばかりで物を渡すのは初めてだったことを思い出す。
妙に恥ずかしくなってきた。レイはココアを一口啜り、エディにもっと寄りかかる。
「あとで。俺も魔力減ったから動くのだるいし」
「うん。本当に、有難う」
「……心配したんだからな」
「ごめん」
「連絡もないし、皆帰ってくからずっと一人だし」
「ごめんね」
何かあったら、そう思って気が気じゃなかった。だから腕輪を使った。
もし何か事故で倒れていたら。誰かに刺されていたら。そう思って、怖かった。
レイの呟きに、エディは頭に唇を寄せ、リップ音を立てキスをした。
「もう絶対にないから。一生心配もさせないよ」
「……もう、ほんとに見合いもしない?」
見合いをしに行って帰ってこないから、もしかしてその女に惚れたんじゃないかと思った。
悪態ばかり吐く同性のレイより、優しくて可愛くて小さいだろう異性のその誰かの方が良くなったんじゃないかと。
そういった意味での心配もあった。こんなに好きになったのに、今更捨てられるなんて耐えられない。
レイの甘えたような、縋るような声にエディは蕩けた笑みを浮かべて見下ろしてくる。
「しないよ。俺にはレイしかいないから」
唇を食み、またキスをされる。レイは拒むこともせずに受け入れ、舌を絡め合いざらついた感触に身体を疼かせてしまいながらエディを求めた。
親友以外にならない、絶対に頷かないし付き合うとかもしない。そう言っていたのに、ほんの少しエディに触れられただけで決意は簡単に崩れてしまう。
キスしたい。エディが自分から離れていかないことを実感したい。ほんの少しでも抱いた恐怖を、拭い去ってほしい。
レイは、手にしていたマグカップを落とし冷めたココアが腿にかかってしまうまで、エディとのキスに熱中してしまった。
本当に、普段と比べたら心配になるほどに顔色が悪い。自分の魔力だけではやはり足りなかったのかと思いながらマグカップを手渡すと、エディは自分の隣に座ってほしいと手で差した。
大人しく望まれた通りに隣に座ってやり、エディの顔を見上げながらココアを一口。じんわりと身体の芯を温めていくような甘さと熱さにほっと一息ついていれば、エディが軽く寄りかかって来た。
「なんだよ」
「いつものレイの真似。……ちょっとだけ、こうしてていい?」
「いいけど、……なに、魔力の枯渇ってそんなにきついのか」
「枯渇より、……あの場面を見た方がきつい……」
「ああ……」
べっとりと赤黒い血がこびりついてしまう程、凄惨な現場だったんだろう。
しかもそれが自分の目の前で起こったなんて、レイだったらきっと意識を飛ばしてしまっていたかもしれない。
レイは一度マグカップを隣のテーブルに置き、エディも一口飲んだのを確認するとテーブルに置かせてしまうと抱き寄せて頭を撫でてやる。
「お疲れさん。悪いな、そんな状況だったのに転移させて」
「……あれ以上、神殿にも現地にもいたくなかったから助かった」
「勝手に連れ帰るみたいな真似になったけど、明日怒られないか?」
「大丈夫、救出は終わってたし怒られても聞かないから」
「そこは聞けよ。……そのご令嬢、ちゃんと傷は治せたか?」
「うん。……侍従達が、叫ぶんだ。お嬢様を最初にって」
自分も傷ついて、命が奪われそうになっても尚主人を、その娘を優先させようとする言葉。
「その人達の方が、余程酷い怪我をしてるのに。……足が千切れても、お嬢様をって」
「……うん」
ぽつりぽつりと、呟くように吐き出すエディの背中を撫でながらレイはただ頷き聞いてやる。
こういった事件で負った心の傷は何をすれば癒せるかわからない。自分のように、いっそ他人事として捉えてしまっていられるのなら追い込まれはしないだろう。けれど、エディと自分は違うから。
レイはエディと視線を合わせ、真っ赤に腫れ上がった頬を撫でた。
「これ、魔力回復させて早く治さないとな」
「……錯乱した侍従に殴られたんだ。かっこ悪い?」
「んーん、格好いい。男前じゃん」
「治すのやめようかな」
「こら、ちゃんと治せよ」
治癒魔法をかける相手から攻撃されても救助を続けたから犠牲者はいなかったんだろう。それを男前と言わずしてなんというか。
別に顔を傷つけられてもエディはエディだ。レイは頭を撫でまわし、傷心しているエディを甘やかす。
学生時代と同じように。あの頃は、しょっちゅうレイが兄貴分ぶってエディをこうして撫でまわしていたものだ。
そろそろ落ち着いてきただろうとココアを渡し、自分も少しゆっくりしたいと同じようにエディに寄りかかった。
「エディ、魔力ってどのくらいで回復すんの」
「ここまで減ったことないからわからないけど、一週間くらいはかかるかも」
「じゃあその間はなるべく魔法使うの禁止。清浄魔法使わなくても風呂に入ればいいし、転移は腕輪外さないからさせない。暖炉も厨房も風呂も、薪とか木炭使えばいいんだから」
「……浮遊は」
「駄目。持ち歩いたりできるだろ」
なんでもかんでも魔法に頼ってしまうから意識的に禁止にしないとまた使ってしまうだろう。だから、暫くは絶対に禁止。
エディは嫌そうだ。日常的に使っている手足そのものを駄目だと言われてしまえばそうなるのも当然。
何か餌にするものはないだろうか。そう考えていたレイは、ふとひとつ思い出した。
「プレゼント忘れてた」
「え?」
「お前の誕生日プレゼント。昨日あんなことしてきやがったから渡しそびれたんだよ」
「それは本当にごめん」
「でもお前が無茶して魔法使い続けてもし外でぶっ倒れるなら渡さない」
誕生日プレゼントなのだから、普通にそのまま渡した方がいいのはわかっている。けれど、きっと無自覚に無理をするだろうから。
だから餌としてちらつかせてみれば、エディは簡単に釣れた。
「どんなことがあっても魔法使わないから欲しい」
「それは駄目だろ。何か変な目に遭いそうになったりヤバいことに巻き込まれたら使えよ」
「うん、緊急事態には使うけどそれ以外には使わないから。レイの選んだプレゼントなんて初めてだ、嬉しいな」
そうだったか? と思ったが、これまではずっと現物、というか一緒に遊んで過ごすことばかりで物を渡すのは初めてだったことを思い出す。
妙に恥ずかしくなってきた。レイはココアを一口啜り、エディにもっと寄りかかる。
「あとで。俺も魔力減ったから動くのだるいし」
「うん。本当に、有難う」
「……心配したんだからな」
「ごめん」
「連絡もないし、皆帰ってくからずっと一人だし」
「ごめんね」
何かあったら、そう思って気が気じゃなかった。だから腕輪を使った。
もし何か事故で倒れていたら。誰かに刺されていたら。そう思って、怖かった。
レイの呟きに、エディは頭に唇を寄せ、リップ音を立てキスをした。
「もう絶対にないから。一生心配もさせないよ」
「……もう、ほんとに見合いもしない?」
見合いをしに行って帰ってこないから、もしかしてその女に惚れたんじゃないかと思った。
悪態ばかり吐く同性のレイより、優しくて可愛くて小さいだろう異性のその誰かの方が良くなったんじゃないかと。
そういった意味での心配もあった。こんなに好きになったのに、今更捨てられるなんて耐えられない。
レイの甘えたような、縋るような声にエディは蕩けた笑みを浮かべて見下ろしてくる。
「しないよ。俺にはレイしかいないから」
唇を食み、またキスをされる。レイは拒むこともせずに受け入れ、舌を絡め合いざらついた感触に身体を疼かせてしまいながらエディを求めた。
親友以外にならない、絶対に頷かないし付き合うとかもしない。そう言っていたのに、ほんの少しエディに触れられただけで決意は簡単に崩れてしまう。
キスしたい。エディが自分から離れていかないことを実感したい。ほんの少しでも抱いた恐怖を、拭い去ってほしい。
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