のろまな『亀』を手に入れた俺が、その『亀』で最強に上り詰めるまで~ギャルゲー要素てんこ盛り、ラブコメソースにバトルを添えて~

雨音 休

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 ミンシア町の広場には花火が打ち上げられていた。空に咲く色彩鮮やか大輪の群。楽器の演奏隊が出てきて、軽やかなメロディーが流れていた。うっとりとしたムードが漂う中、俺たちは出された丸テーブルを囲んで椅子に座っている。テーブルには豪華な料理が並べられていた。今日の戦いを振り返るような会話が交わされていた。


 4人はみんな大健闘だった。特に俺とナギは優勝もしたしな。シュヴァリエ陣営は盛り上がっており、みんなのテンションは高い、リリイがお皿に料理をよそってくれて、いま隣同士で座っている。その二人を挟むようにナユキとカグヤが腰掛けていた。


 テーブルの対角の位置にはナギとマシロがいて、料理をつまみながら会話をしている。


『はい、ダーリン。あーん』


 リリイがタルタルソースのかかったエビフライをフォークで俺の口へと運ぶ。俺は苦笑して首を振った。


【いや、あーんはいいって。リリイ】

『ダメよ。ほら、優勝者さま、あーん』

【う、わ、分かったよ】


 俺は仕方無くエビフライをかじる。もぐもぐと食べた。うん、美味いな。


 リリイが満足そうに俺を見つめている。頬が上気しており、嬉しそうな顔つきだ。なんか最近は思うんだよな。俺はこのリリイの喜んだ顔が見たくて、毎日頑張っている気がする。実際そうなんだろうな。


 そんな光景をカグヤがジト目で眺めていた。もちろん、彼女との半日デートの約束はおしゃかである。残念だったな、カグヤ。だけど何かこいつ、両目が大きくなったな。いや、大きくなった気がするだけだ。だけど瞳が湿っており、今にも泣き出しそうに見える。ちょっと心配になった。


「はい、優勝者さま、あーん」


 リリイが今度は豚の角煮をスプーンで運んでくる。


「あ、あーん」


 食べてやった。うん、出汁が効いていて肉汁がジュワッとくる。とろけるような柔らかい肉だった。


 左隣にいるナユキが言った。


「旦那さま、ナユは致命救済が欲しいの」

【ん? あ、ああそうだな。ナユはまだ覚えていないな】


 致命救済は必須スキルである。いま、ギルドメンバーで覚えていないのはナユキとカグヤだけだ。カグヤは必殺スキルで蘇生するので必要ではない。必殺スキルを発動させた方が強いだろうからな。しかしナユキにはいつか買ってあげなきゃいけないとは思っていた。彼女にいなくなられたら本当に困るからな。


 このゲームはビーストが死んだら基本復活ができない。プレイヤーと条件は同じである。


『シグレ、買ってあげたら?』

【そうだな。インベントリ】


 俺は水色の画面を開き、アイテム欄をチェックする。いま、リテナが2100万あった。一昨日ギルドダンジョンで900万リテナを獲得したため、かなり増えている。


 取引所を開いた。スキル書で検索してスワイプしていく。致命救済は現在1000万リテナだった。また値段が上がりやがった。だけどここは一つ! 俺は購入した。またアイテム欄を出してスキル書を取り出す。その茶色い本をナユキに渡した。


【ほら、ナユキ。覚えてくれ】

「わあ! 旦那さま、ありがとうなの! 大事に大事にするの!」


 両手で掴み、彼女が「習得」と唱える。ナユキが致命救済を覚えた。


『優勝者さまは太っ腹ね』

【まあな。ちょっと金は減ったけど】

『そう言えば、(Ⅱ)の石盤は使わないの?』

【それは、いま迷ってるんだ。どれに使おうか。必殺スキルは最初からランクマックスだしな】

『ふーん。まあ、焦らず落ち着いて考えた方がいいかも』

【そうだな】


 カグヤは一言も言葉を発さない。だけど今度はニコニコしている。俺はちょっとドキッとした。泣き顔が一瞬で笑顔になった!? いや、角度で見え方が違うのだろうか? だけど今、彼女は会話を聞いているだけで楽しんでいるようだ。というかこいつ、何か気になるな。色気が上がったのだろうか? この会場のムードのせいかもしれない。


 ふと、俺たちのテーブルを訪れる者があった。顔を向けると、エルとマリアである。天使の羽にメイド服姿である。俺とリリイは自然と立ち上がった。


 エルが前に出た。


「おいっす! シュヴァリエのみなさん、シグレさん、優勝おめでとうございます」

【ああ、ありがとう。エルさん、強かったな】

「ありがとうございます。シグレさん、是非是非、これからもゲームを頑張って強くなってくださいね。私、応援しちゃいます」


 彼女が右手を差し出す。


 俺は笑顔を浮かべつつその手を握った。


【エルさんもな】

「はい、もちろんです! 次の闘技祭では負けませんからね。私たちも精進します。それではお邪魔しちゃ悪いので、これで失礼します」


 俺たちは手を離す。最後、マリアが品の良いお辞儀をした。彼女はエルに着いてきただけのようだ。二人がテーブルを離れていく。


 俺はその背中を見送って、ふうと息をついた。


【彼女たちは大人だな】

『そうね』


 リリイが同意して頷いた。


 ふと、エルとマリアとは入れ替わりでアギトがペンギン二人を連れて歩いてきた。何でこいつらが来るんだ? 俺は眉をひそめて警戒する。アギトたちが俺の前で立ち止まった。残念なことに兜の右目の部分が割れている。ナユキが割ってやったのだった。まあそれは良いんだが、どうして彼は右手に大根を持っているんだ?


「よお、優勝者。楽しんでるか?」

【楽しんでいたんだけどな、いま興がそがれたところだ。ところでアギト、その大根は何だ?】

「プレゼントだよ。優勝者に献上しようと思って持ってきたんだ」

【そうか。マジ要らないからな。大根なんてどうしろって言うんだ? 食えってことか?】

「もちろんそうさ。おでんにしてくれ」

【いやいい。それより、用事は何だ?】

「そうそう、用事があって来たんだよ。モテないお前に、女を紹介しようと思ってなあ」


 そこでペンギンの二人が前に出た。アツコとセツナである。


 二人は頬を染めている。いや、頬に化粧を盛っただけかもしれない。何か気持ち悪いな。


 おいおいどういうことだ? 女を紹介するって、まさかこの二人の事か? まあ、顔立ちは整っちゃいるが。


【おい、アギトどういうことだ? 悪いが俺には彼女がいる】


 俺はリリイの肩に手を回した。


 ペンギンの二人が口を開いた。


「シグレ様、今日からお願いしますですぅ」

「シグレ様の、お○んちんのお世話をするんだもん」

【おい、何を言って!】


 俺はぎょっとした。


 リリイが怒ったように身じろぎする。


『何なのこの人たち、ダーリン、早く追い払って』

【そうだな】


 ペンギン二人が俺の足に急接近する。後ろにテーブルがあるせいで、それほど後退ができない。


「シグレのお○んちんは私たちのものですぅ」

「シグレの夜のお悩みを、解消するんだもん」

「分かったら、ズボンとパンツを下げるですぅ」

「私たちが、気持ち良くしてあげるんだもんっ」

『このっ!』


 リリイが剣まで抜いた。ひどくイラついた様子だ。続けて言う。


「シグレのアソコが誰の物ですって!? もう一度言ってみなさい! 斬るわよ!」


 聞き捨てならなかったようだ。しかし、アツコとセツナはむふふと笑う。


「シグレのお○んちんは私のものですぅっ」

「シグレのお○んちんは私のものだもんっ」

「食べちゃうですぅ」

「味わって食べるんだもん」


 ブチッと音がした気がした。リリイが叫ように唱える。


『ヘイトハウル!』


 ガアアアッ。


 青い狼が吠えるグラフィックが起こる。アギトとペンギン二人のHPがちょっと削れた。ギルドメンバーにはダメージが無い。


 くそ、リリイがキレやがった!


 何事かとナギが立ち上がった。


「おい!」


 リリイはすっかり理性を無くしており、剣で斬りかかる。


『言葉を撤回しない殺すわよ』

「シグレは私のものですぅ!」

「シグレは私の男だもん!」

『殺すわ!』

「逃げるですぅっ!」

「逃げるんだもんっ!」


 ペンギン二人が背中を向けて走って行く。リリイが追いかけた。俺は右手を伸ばす。


【おい、リリイ】

「へへっ」


 その時、アギトが持っていた大根を割って、中から気味の悪い形状をした緑色のナイフを取り出す。そのナイフで、走って行こうとするリリイの首筋を切りつけた、ナイフはどうしてか一瞬で粉々に壊れた。リリイがどさっと地面に崩れる。


 くそ! こいつら始めからこういうつもりで!


 俺も剣を抜いた、アギトに向ける。


【てめえ! どういうつもりだ!】

「どうもこうもねえって! くははははっ、悪いけど、お前の恋人であるところのリリイは死ぬぞ?」

【何だと?】


 俺はリリイを見る、彼女は麻痺したように地面に身体をべたっとつけている。


 アギトが説明した。


「今のナイフはブラッドシャンクという。斬った相手に致死毒を付与し、今から6時間後にゲームオーバーへ追いやる。致死毒にはヒールも解毒剤もリムーバルも効かない。もう手遅れってことだ! ふっはっはっはっは。お前の恋人は死んだぜ? 残念だったなあ、優勝者よお」


【てめえ、ぶっ殺す】

「おいおいおいおい、お前の彼女は良いのかあ? このままだと死ぬぜ?」

【……なんだと?】

「ハーアッハア! あの時、俺を雑魚だと言った罰だ! よってお前の彼女は死刑に処す。ハアーッハッハッハッハア!」

 マジかよ。嘘だろ。だけど、とりあえずこいつだけは殺しておこう。許しておけん。

【ナユ、ビーストフュー】

「おおっと、俺はここで退散だ」


 いつの間にか、彼の左手には転移クリスタルが握られていた。


「使用! ハルハラン」


 青い柱となり、アギトが消えた。


「「使用、ハルハラン!」」

「ですぅ」

「だもん」


 ペンギン二人もワープして行く。


 俺は剣を捨ててリリイに駆け寄った。その両肩に手を置く。


【おい、リリイ、リリイ? 大丈夫か?】

「……し……れ?」


 彼女の顔が真っ青だった。美味く喋れないようだ。それどころか身体を動かすのも辛そうである。


「おい! シグレさん、どうした?」

[シグレ様]

「旦那さま!」

「だんちょっ、何があったの?」


 みんなが駆け寄ってくる。俺は慌てそうになる気持ちを何とか落ち着けて、リリイに呼びかけた。


【リリイ、インベントリを出せるか?】

「い、ん、べ、ん、と、り?」


 彼女の前に水色のボードが現われる。俺は操作した。ギルド画面を出して。タウンへの入室をタップする。リリイの姿が消えた。


 俺はラクトレイズを拾い、自らもインベントリを出す。


「シグレさん、何があったんだ?」


 ナギが聞いた。


 俺は困った顔をして言った。


【ナギさん、みんな、今すぐギルドタウンへ来てくれ。緊急事態だ】


 水色の画面を操作する。そしてタウンへ入室した。

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