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第3話 ミステリーは突然に 後編
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犯人はわかった。日本有数の巨大財閥『花崎コンツェルン』の御曹司だ。動機は、裏金告発の口封じ。 あとは、決定的な証拠と自白を掴むだけ。
ぼくは凛と協力し、ある「罠」を仕掛けた。 その夜。現場となったオフィスの最上階に、御曹司を呼び出したのだ。
コツ、コツ、コツ……。 深夜の静寂なオフィスに、高級な革靴の足音が響く。 現れたのは、仕立ての良いスーツを着こなし、いかにも鼻につきそうな顔をした若い男――花崎コンツェルンの御曹司だ。
「ちくしょう……警察の極秘再捜査だと聞いて来てみれば、誰もいないではないか」 御曹司は苛立ち、舌打ちをした。 「誰がこんな悪戯を……」
その瞬間。 バチンッ!
オフィスの照明が一斉に落ちた。
「な、なんだ!? 停電か! 早く復旧させろ!」
怒り散らす御曹司の背後を、スーッ……と何かが通り過ぎる気配がした。
「誰だ!」
暗闇の中、奥にある社長室から、ギィ……と扉が開く音が聞こえた。
「そこにいるのか!」
御曹司が声を荒らげる。 窓から差し込む月明かりが、社長席に座る「影」を照らし出した。
『……よう来てくれたな、花崎の若造……』
「ひっ!?」
御曹司が悲鳴を上げて腰を抜かした。 そこに座っていたのは――死んだはずの社長(に憑依した葵)だった。 白目を剥き、恨めしそうに御曹司を睨みつけている。
『わしを殺して……のうのうと生きられると思うたか……』
「ば、馬鹿な! なんだこの小娘は!? なぜ小娘から社長の声が聞こえる!? 合成音声か! 馬鹿馬鹿しい!」
御曹司は声を震わせ、必死に現実を否定しようと反論してきた。対する社長(葵)は、静かに、だが威厳を持って答えた。
『この子はイタコじゃ。わしの未練を晴らすために、身体を貸してくれておる』
「イ、イタコ……!?」
『御曹司よ。なぜあの時、わしを殺した……!』
社長の怒号が響く。御曹司はガタガタと震えながら、頭を抱えた。
「さ、最初は殺すつもりなんてなかったんだ……! ただ、あの時……誰もいない後ろから『囁かれた』んだ……!」
『……なんだと?』
「『そいつを殺せ』
『殺してなかったことにしろ』
と……誰かわからない声が頭に響いて……気がついたら、あんたを刺していたんだ! 御曹司はその場に泣き崩れた。
「すみません……許してください……!」
バチッ! 照明が点灯し、部屋が明るくなる。
「御曹司さん。あなたの自供、全て聞かせてもらったわ」
凛がボイスレコーダーを掲げながら、部屋に入ってきた。
「ついでに、ここにもバッチリ録音させてもらったわよ。……一緒に署まで来てもらってもいいかしら?」
呆然とする御曹司の手首に、冷たい手錠がかけられた。 こうして、この事件は幕を閉じた。
その二日後。 ぼくと凛は、路地裏にある馴染みのBARにいた。
あれから、世の中は大騒ぎになっていた。
『花崎コンツェルン御曹司、殺人容疑で逮捕!』
会長は
「何も知らなかった」
としらを切っているが、株価は大暴落。日本の経済界に激震が走っている。 だが、ぼくにはそんなことよりも、もっと大事な話があった。
「世の中、大変そうだな。凛も忙しいだろ」
ぼくが皮肉交じりにグラスを傾けると、凛はため息をついた。
「ええ。花崎コンツェルンは業務の見直しを迫られ、世界各国からの取引は中止。日本経済は最悪になっていく一方よ」
「そうなるなら、逮捕しなかった方がよかったんじゃねーか?」
「んなわけないでしょ。悪いことをしたら償ってもらう。これが私たち警察の仕事だからいいのよ」
凛は相変わらず、眩しいほどに正義感が強かった。 ぼくは氷のカランという音を聞きながら、核心を切り出した。
「……それで、葵のお姉ちゃんのことは?」
ぼくが尋ねると、凛はカクテルのグラスを見つめたまま、腑に落ちない表情をした。
「……それがね。『そんな人は知らない』って言うのよ」
「は? 知らないって、御曹司が?」
「ええ。御曹司だけじゃないわ。花崎コンツェルンの社員全員に聞き込みをしたけど、『記憶にない』らしいの」
「一緒に働いていたのにか!?」
ぼくは驚き、身を乗り出した。
「全く。私も何がなんだかさっぱりよ。まるでキツネにつままれたみたい」
花崎コンツェルンに、葵のお姉さんは確かにいたはずだ。あの髪留めがそれを証明している。なのに、全員の記憶から消えている?
御曹司に殺人を唆した「謎の声」。 そして、組織から消滅した「姉の記憶」。
事件は解決したはずなのに、謎は解けるどころか、より深い闇へと沈んでいくようだった。
ぼくは凛と協力し、ある「罠」を仕掛けた。 その夜。現場となったオフィスの最上階に、御曹司を呼び出したのだ。
コツ、コツ、コツ……。 深夜の静寂なオフィスに、高級な革靴の足音が響く。 現れたのは、仕立ての良いスーツを着こなし、いかにも鼻につきそうな顔をした若い男――花崎コンツェルンの御曹司だ。
「ちくしょう……警察の極秘再捜査だと聞いて来てみれば、誰もいないではないか」 御曹司は苛立ち、舌打ちをした。 「誰がこんな悪戯を……」
その瞬間。 バチンッ!
オフィスの照明が一斉に落ちた。
「な、なんだ!? 停電か! 早く復旧させろ!」
怒り散らす御曹司の背後を、スーッ……と何かが通り過ぎる気配がした。
「誰だ!」
暗闇の中、奥にある社長室から、ギィ……と扉が開く音が聞こえた。
「そこにいるのか!」
御曹司が声を荒らげる。 窓から差し込む月明かりが、社長席に座る「影」を照らし出した。
『……よう来てくれたな、花崎の若造……』
「ひっ!?」
御曹司が悲鳴を上げて腰を抜かした。 そこに座っていたのは――死んだはずの社長(に憑依した葵)だった。 白目を剥き、恨めしそうに御曹司を睨みつけている。
『わしを殺して……のうのうと生きられると思うたか……』
「ば、馬鹿な! なんだこの小娘は!? なぜ小娘から社長の声が聞こえる!? 合成音声か! 馬鹿馬鹿しい!」
御曹司は声を震わせ、必死に現実を否定しようと反論してきた。対する社長(葵)は、静かに、だが威厳を持って答えた。
『この子はイタコじゃ。わしの未練を晴らすために、身体を貸してくれておる』
「イ、イタコ……!?」
『御曹司よ。なぜあの時、わしを殺した……!』
社長の怒号が響く。御曹司はガタガタと震えながら、頭を抱えた。
「さ、最初は殺すつもりなんてなかったんだ……! ただ、あの時……誰もいない後ろから『囁かれた』んだ……!」
『……なんだと?』
「『そいつを殺せ』
『殺してなかったことにしろ』
と……誰かわからない声が頭に響いて……気がついたら、あんたを刺していたんだ! 御曹司はその場に泣き崩れた。
「すみません……許してください……!」
バチッ! 照明が点灯し、部屋が明るくなる。
「御曹司さん。あなたの自供、全て聞かせてもらったわ」
凛がボイスレコーダーを掲げながら、部屋に入ってきた。
「ついでに、ここにもバッチリ録音させてもらったわよ。……一緒に署まで来てもらってもいいかしら?」
呆然とする御曹司の手首に、冷たい手錠がかけられた。 こうして、この事件は幕を閉じた。
その二日後。 ぼくと凛は、路地裏にある馴染みのBARにいた。
あれから、世の中は大騒ぎになっていた。
『花崎コンツェルン御曹司、殺人容疑で逮捕!』
会長は
「何も知らなかった」
としらを切っているが、株価は大暴落。日本の経済界に激震が走っている。 だが、ぼくにはそんなことよりも、もっと大事な話があった。
「世の中、大変そうだな。凛も忙しいだろ」
ぼくが皮肉交じりにグラスを傾けると、凛はため息をついた。
「ええ。花崎コンツェルンは業務の見直しを迫られ、世界各国からの取引は中止。日本経済は最悪になっていく一方よ」
「そうなるなら、逮捕しなかった方がよかったんじゃねーか?」
「んなわけないでしょ。悪いことをしたら償ってもらう。これが私たち警察の仕事だからいいのよ」
凛は相変わらず、眩しいほどに正義感が強かった。 ぼくは氷のカランという音を聞きながら、核心を切り出した。
「……それで、葵のお姉ちゃんのことは?」
ぼくが尋ねると、凛はカクテルのグラスを見つめたまま、腑に落ちない表情をした。
「……それがね。『そんな人は知らない』って言うのよ」
「は? 知らないって、御曹司が?」
「ええ。御曹司だけじゃないわ。花崎コンツェルンの社員全員に聞き込みをしたけど、『記憶にない』らしいの」
「一緒に働いていたのにか!?」
ぼくは驚き、身を乗り出した。
「全く。私も何がなんだかさっぱりよ。まるでキツネにつままれたみたい」
花崎コンツェルンに、葵のお姉さんは確かにいたはずだ。あの髪留めがそれを証明している。なのに、全員の記憶から消えている?
御曹司に殺人を唆した「謎の声」。 そして、組織から消滅した「姉の記憶」。
事件は解決したはずなのに、謎は解けるどころか、より深い闇へと沈んでいくようだった。
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