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第22話 探偵 クラブに潜入 前編
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その夜。会員制クラブの重厚な扉の前に、一組のカップルが立っていた。
「……なぁ凛。少し張り切りすぎてないか?」
タキシードを着慣れないぼくが小声で尋ねる。首元のネクタイが苦しい。
「あら、何言ってるの、あなた♡ 今日もかっこいいこと」
ぼくの腕にがっしりと絡みついているのは、背中が大胆に開いた真紅のイブニングドレスを纏った凛だ。
普段の男勝りなスーツ姿からは想像もできない妖艶さに、すれ違う男たちの視線が釘付けになる。
「ほら、行くわよ。シャキッとなさい、私の『旦那様』」
凛はぼくの頬にわざとらしくキスをすると、ボーイに警察で押収した会員証を見せ、堂々と中へ入っていった。
クラブの中は、薄暗く、甘い香水の匂いと紫煙が充満していた。
ジャズの生演奏が流れるラウンジでは、着飾った男女がグラスを傾け、そこかしこで濃厚なスキンシップを交わしている。まさに「大人の社交場」だ。
ぼくたちがフロアの隅のソファー席に案内された、その直後だった。
その時僕は何やら怪しげな2人を目撃した。
「え?ローズと葵?まさかここまできてるとは」
入り口付近の観葉植物の影から、怪しい2人がコソコソとしていた。
「……入れたわね。さすがアタシ、アタシの魅力で警備員もイチコロね」
ローズだ。彼女はドレスアップした一般客を装い、手招きしているがあまりにも派手な格好すぎて周りからは浮いていた。
その背後から、綺麗に妖艶にドレスアップされてきた葵が、恥ずかしそうに顔を隠しながらついてきた。
「うぅ……。なんで私がこんな格好なんですか……」
「仕方ないでしょ。アンタは未成年なんだから、これぐらいメイクしないとすぐにバレるわよ」
ローズが小声で諭す。
二人は、ぼくたちの席から少し離れた柱の影に陣取った。
ここからなら、ぼくたちの様子が丸見えだ。
「……見てよ、あの泥棒猫。完全に役得だと思ってるわね」
ローズが面白そうにクスクス笑う。
視線の先では、凛が演技を開始していた。
「ねえ、あなた。今日は強いお酒を呑みたいの いいかしら?」
凛はグラスを持った手でぼくの首に腕を回し、耳元で囁くフリをした。
(探偵、3時の方角。怪しいのがいるわ)
(わかってる。ていうか凛さん、近すぎない? 当たってるって)
(バカね。これくらいしないと怪しまれるでしょ? ほら、あーんしてあげる)
凛はさくらんぼをピックに刺し、ぼくの口元に運んだ。
その光景を見た瞬間。
柱の影で、葵の髪がボッ! とオレンジ色に燃え上がった。
「あのアマ……! 調子に乗りやがって!」
ドスの効いた声で橙花が唸る。
「私の旦那に何イチャついてんだ! そのさくらんぼ、鼻の穴に突っ込んでやろうか!」
シュウゥ……(青髪に戻る)
「お姉ちゃんそれはひどいです! さくらんぼが可哀想です。」
「葵ちゃんってなんだか抜けてるわよね」
ローズは微笑ましく葵を見つめ笑っていた。
「お姉ちゃん! 代わってよ! 私が行って『あーん』を阻止してくる!」
ボッ!(オレンジ髪)
「バカ、お前じゃ摘み出される! 私が行ってあの女のドレスの紐を引きちぎってやる!」
チカチカと髪色を目まぐるしく変えながら、二重人格の嫉妬は最高潮に達しようとしていた。
「あらあら、元気ねぇ」
ローズがそれをツマミに酒を飲んでいる。
――その時だった。
クラブの空気が、少しだけ変わった。
「来たわよ」
凛が演技を続けながら、鋭い目つきで囁いた。
VIPルームへと続く階段から、数人の男たちが降りてきた。
その中心にいる女。間違いない。依頼人から写真を見せてもらった、浮気調査のターゲット「奥さん」だ。
彼女は男性と手を繋ぎながら階段から降りてきた。
(ビンゴ。浮気確定だな)
ぼくが胸ポケットの超小型カメラを起動しようとした、その時。
(ちょっと待って。あっちもよ)
凛が視線で示した先。
浮気妻とは別のテーブルで、いかにも裏社会といった風貌の男たちが、アタッシュケースをテーブルの下で交換しているのが見えた。
「麻薬取引の現場ね。現行犯でいけるわ」
凛の雰囲気が、甘えた妻から、冷徹な刑事へと切り替わった。
二つのターゲットが同時に現れた。
「……なぁ凛。少し張り切りすぎてないか?」
タキシードを着慣れないぼくが小声で尋ねる。首元のネクタイが苦しい。
「あら、何言ってるの、あなた♡ 今日もかっこいいこと」
ぼくの腕にがっしりと絡みついているのは、背中が大胆に開いた真紅のイブニングドレスを纏った凛だ。
普段の男勝りなスーツ姿からは想像もできない妖艶さに、すれ違う男たちの視線が釘付けになる。
「ほら、行くわよ。シャキッとなさい、私の『旦那様』」
凛はぼくの頬にわざとらしくキスをすると、ボーイに警察で押収した会員証を見せ、堂々と中へ入っていった。
クラブの中は、薄暗く、甘い香水の匂いと紫煙が充満していた。
ジャズの生演奏が流れるラウンジでは、着飾った男女がグラスを傾け、そこかしこで濃厚なスキンシップを交わしている。まさに「大人の社交場」だ。
ぼくたちがフロアの隅のソファー席に案内された、その直後だった。
その時僕は何やら怪しげな2人を目撃した。
「え?ローズと葵?まさかここまできてるとは」
入り口付近の観葉植物の影から、怪しい2人がコソコソとしていた。
「……入れたわね。さすがアタシ、アタシの魅力で警備員もイチコロね」
ローズだ。彼女はドレスアップした一般客を装い、手招きしているがあまりにも派手な格好すぎて周りからは浮いていた。
その背後から、綺麗に妖艶にドレスアップされてきた葵が、恥ずかしそうに顔を隠しながらついてきた。
「うぅ……。なんで私がこんな格好なんですか……」
「仕方ないでしょ。アンタは未成年なんだから、これぐらいメイクしないとすぐにバレるわよ」
ローズが小声で諭す。
二人は、ぼくたちの席から少し離れた柱の影に陣取った。
ここからなら、ぼくたちの様子が丸見えだ。
「……見てよ、あの泥棒猫。完全に役得だと思ってるわね」
ローズが面白そうにクスクス笑う。
視線の先では、凛が演技を開始していた。
「ねえ、あなた。今日は強いお酒を呑みたいの いいかしら?」
凛はグラスを持った手でぼくの首に腕を回し、耳元で囁くフリをした。
(探偵、3時の方角。怪しいのがいるわ)
(わかってる。ていうか凛さん、近すぎない? 当たってるって)
(バカね。これくらいしないと怪しまれるでしょ? ほら、あーんしてあげる)
凛はさくらんぼをピックに刺し、ぼくの口元に運んだ。
その光景を見た瞬間。
柱の影で、葵の髪がボッ! とオレンジ色に燃え上がった。
「あのアマ……! 調子に乗りやがって!」
ドスの効いた声で橙花が唸る。
「私の旦那に何イチャついてんだ! そのさくらんぼ、鼻の穴に突っ込んでやろうか!」
シュウゥ……(青髪に戻る)
「お姉ちゃんそれはひどいです! さくらんぼが可哀想です。」
「葵ちゃんってなんだか抜けてるわよね」
ローズは微笑ましく葵を見つめ笑っていた。
「お姉ちゃん! 代わってよ! 私が行って『あーん』を阻止してくる!」
ボッ!(オレンジ髪)
「バカ、お前じゃ摘み出される! 私が行ってあの女のドレスの紐を引きちぎってやる!」
チカチカと髪色を目まぐるしく変えながら、二重人格の嫉妬は最高潮に達しようとしていた。
「あらあら、元気ねぇ」
ローズがそれをツマミに酒を飲んでいる。
――その時だった。
クラブの空気が、少しだけ変わった。
「来たわよ」
凛が演技を続けながら、鋭い目つきで囁いた。
VIPルームへと続く階段から、数人の男たちが降りてきた。
その中心にいる女。間違いない。依頼人から写真を見せてもらった、浮気調査のターゲット「奥さん」だ。
彼女は男性と手を繋ぎながら階段から降りてきた。
(ビンゴ。浮気確定だな)
ぼくが胸ポケットの超小型カメラを起動しようとした、その時。
(ちょっと待って。あっちもよ)
凛が視線で示した先。
浮気妻とは別のテーブルで、いかにも裏社会といった風貌の男たちが、アタッシュケースをテーブルの下で交換しているのが見えた。
「麻薬取引の現場ね。現行犯でいけるわ」
凛の雰囲気が、甘えた妻から、冷徹な刑事へと切り替わった。
二つのターゲットが同時に現れた。
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