その推理、死者が「違う」と言ってます。~崖っぷち探偵の相棒は、イタコでした~

ズボンハクオ

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第23話 探偵 豪華客船に乗る 前編

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探偵に必要なもの。それは『スリル』だ。  
仕事をする上で、少しの刺激があった方が人生は楽しい。  そんな哲学を持つぼくだが、今ぼくは豪華客船に乗せられている。  
事の発端は、あの一通の招待状だった。

 クラブでの一件以来、ぼくたちの事務所には再び平和な日々が戻っていた。  
ぼくがデスクで大あくびをしていると、ドアポストがカタン、と音を立てた。

「ん? 電気代の請求にしてはまだ早いぞ」  

ぼくは立ち上がり、ポストを確認した。  入っていたのは、真っ黒な封筒が一通。  差出人の名前はなく、厳重に糊付けされている。

「おいおいなんだよこれ、嫌な予感がするな」

  ぼくは机の上に置いてあった定規をペーパーナイフ代わりにし、器用に封を切った。  
中から出てきたのは、一房の招待状と、3枚のチケットだった。

「なんか怖いなぁ」  ぼくはおそるおそる文面を読み上げた。

『明日正午、横浜港より出航する豪華客船・トレイン号に乗船せよ。そこで貴殿らに極上の依頼を用意している』

「船なのに、トレイン(電車)って」  

ぼくはそのネーミングセンスに、本当に豪華客船なのか疑ってしまった。

「トレイン号って、あの超豪華客船!?」  

しかし、お茶を淹れていた葵が反応した。チケットを覗き込み、目を輝かせる。 

「すごい! これ、ロイヤルスイートのチケットですよ! 一泊数十万円は下らないプラチナチケットです!」

「探偵、よくやった!」

  ちょうど非番で遊びに来ていた凛が、読んでいた雑誌から顔を上げてニヤリと笑った。 

「いや怪しいし、俺は行きたくないよ」

  ぼくは招待状をテーブルに放り投げた。

「怪しくても行きましょう! 探偵さん!」  

ドンッ!  葵がテーブルを叩き、身を乗り出した。

「はぁ? 葵くん、話聞いてた? 怪しいんだよ? 何が起きるかわからないんだよ?」

 「でも! 豪華客船ですよ!? フルコースのディナーに、大海原の絶景! エステにプールにカジノまであるんですよ! 一生に一度乗れるかどうかのチャンスなんです!」

 葵の目が欲望(主に食欲と娯楽)でギラギラと輝いている。  さらに、彼女の髪色がボッ! とオレンジ色に変わる。

『悪くねぇな。最近退屈してたところだ。船の上なら、誰に気兼ねなく暴れられるしな』  

橙花までやる気満々だ。

「凛さんからも言ってやってよ。こんな危ない橋」

 ぼくは助けを求めて凛を見た。  しかし、凛は既にスマホで『トレイン号 ドレスコード』を検索していた。

「ん?! まあ、いいんじゃない? 最近、仕事続きで肌が荒れ気味だったのよねぇ。潮風に当たってリフレッシュするのも悪くないわ」 

「凛さんまで!?」

「何言ってるの探偵。タダよ? タ・ダ。行かないなんて選択肢、ありえないわ」 

「そうですよ! 依頼なら船に乗ってから考えればいいんです! まずはビュッフェです!」

 二人の女性(+一人)の圧倒的な「バカンス欲」の前に、ぼくの危機管理能力は無力だった。

「あー、もう! わかったよ!」  

ぼくはチケットを掴み取った。 

「行けばいいんだろ、行けば! その代わり、何かあっても俺を盾にするなよ!」

「やったー! 探偵さん大好き! 新しい水着買わなきゃ!」 

「フフ、ドレス新調しようかしら」

 翌日。正午。  横浜港には、見上げるような巨体を持つ豪華客船『トレイン号』が停泊していた。  白い船体が陽光を反射して輝いている。

「うわぁ~! 大きい~! 見てください探偵さん、まるで動くお城です!」  

真新しいワンピースに着替えた葵が、キャリーケースを引いてタラップを駆け上がっていく。その足取りはスキップ交じりだ。 

「ちょっと葵くん、走ると転ぶよ!」

「遅いわよ、探偵。早く荷物運びなさい」  

凛は女優のようなサングラスをかけ、背中の開いたサマードレス姿で優雅に歩いている。完全に観光気分だ。

「はいはい、ただいま」  

両手に二人の重たい荷物を持たされたぼくは、とぼとぼと後をついていった。

 汽笛がボーッと鳴り響く。  怪しい招待状のことなどすっかり忘れ、探偵一行の優雅な(?)船旅が始まろうとしていた。
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