その推理、死者が「違う」と言ってます。~崖っぷち探偵の相棒は、イタコでした~

ズボンハクオ

文字の大きさ
50 / 53

第23話 探偵 豪華客船に乗る 後編

しおりを挟む
執事の後について回廊を進むと、先ほどの煌びやかな客室エリアとは打って変わり、重厚で静まり返ったエリアへと入った。  通されたのは、窓のない広い個室だった。  部屋の中央には、革張りのソファと、壁一面を覆うほどの巨大なモニターだけが鎮座している。

「主は、こちらにおります」  

使用人が一礼して部屋を出ていくと、カチリと鍵が掛かる音がした。

「ちょっと、なんか雰囲気怖くないですか?」  

葵が僕の袖を掴む。 

「まるで取調室ね。もしくは、悪の組織の司令室か」  

凛が腕組みをしてモニターを睨みつける。

 その時。  ザザッ……ザザザッ……。  不快なノイズと共に、モニターに電源が入った。

 画面には、デジタル処理された人影(シルエット)が映し出されていた。顔も、年齢も、性別すら判別できない。ただ、そこに「誰か」がいることだけがわかる。

『ようこそ、探偵諸君。そして優秀な刑事殿』

 スピーカーから流れてきたのは、機械で加工された無機質な声だった。

「あなたが招待主か? 姿を見せたらどうだ」  

僕が問いかけると、影はクククと低く笑った。

『今はまだ、その時ではない。……君たちを呼んだのは、他でもない。ある「謎」を解明してもらうためだ』

「謎?」

『単刀直入に言おう』  影は一呼吸置き、告げた。

『この船に乗っている乗客の中に私の最愛の妻を殺した犯人がいる』

 室内の空気が凍りついた。 

「殺人犯……ですって?」  

葵が息を呑む。

『そうだ。警察は事故として処理した。だが私は知っている。あれは巧妙に仕組まれた殺人だ。犯人はのうのうと生き延び、今、この優雅なクルーズを楽しんでいる』

 影の声に、押し殺したような憎悪が滲む。

『君たちへの依頼はただ一つ。この船に乗っている1000人の乗客とスタッフの中から、真犯人を特定し、私の元へ連れてくることだ』

「警察に行けばいいじゃない。なんで私たちなの?」  凛が鋭く尋ねる。

『警察は無能だ。それに、法で裁くつもりはない。私が直接、裁きを下す』  

不穏な言葉に、僕たちは顔を見合わせた。これはただの調査ではない。復讐の代行だ。

『報酬は、君たちの口座に既に振り込んだ額の倍。そして、この船での全ての権限を与える』

 モニターの端に、デジタル時計が表示された。

『期限は、この船が目的地に到着するまでの「一週間」。』

『それまでに犯人を見つけ出せなければ、依頼は失敗とみなす』

「失敗したら?」  

僕が尋ねると、影は冷徹に言い放った。

『その時はこの船ごと、犯人を海の藻屑にするだけだ』

 ザンッ。  通信が切れた。真っ暗になったモニターに、呆然とする僕たちの顔が映り込んでいる。

「おいおい!俺らも死んじゃうの!?」  

僕は冷や汗が滝のように流れてきた。

逃げ場のない海の上。  1000人の容疑者。  姿なき依頼人。  そして、紛れ込んでいる殺人犯。

僕たちの命を懸けた、一週間の推理ゲームが幕を開けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

処理中です...