6 / 20
6
しおりを挟む
実技での騒動から逃れるように、エルサは学園の最深部にある地下図書室へと潜り込んだ。ここには数百年誰も開いていないような古文書が眠っている。 シロとルビィを足元に侍らせ、古い羊皮紙をめくる。
「……あら、この術式。千年前の私の術式の劣化版ね。効率が悪すぎて、これじゃ魔力を無駄にするだけじゃない」 エルサは手近なペンを取り、貴重な古文書の余白にスラスラと「修正案」を書き込み始めた。 すると、背後の暗闇からしわがれた声が響いた。 「……お嬢さん、それは国の重要文化財なんだがね」
現れたのは、ボロボロのローブを纏った老人だった。図書室の管理人を自称する彼は、エルサが書き込んだ数式を一目見るなり、目を見開いて硬直した。 「なっ……これは、失われた第十階梯の術式……!? まさか、この不完全な魔法陣を、一瞬で補完したというのか?」 「ええ、少し気になったので。こちらの方が、お花に水をやる時も便利ですし」 「お、お花に水を……!? 伝説の『星落とし』の術式を家庭菜園レベルに落とし込んだのか!?」
老人の正体は、かつての宮廷魔導師長であり、引退して隠居していた「賢者」バルカスだった。彼は震える手でエルサの肩を掴もうとしたが、シロが静かに牙を見せて阻止する。 「君は……一体、何者だ?」 「ただの落ちこぼれ令嬢、エルサです」 エルサは微笑んで、書きかけの古文書を老人に手渡した。 「これ、差し上げます。もっと効率よくすれば、この学園の結界も少しはマシになると思いますから」 賢者バルカスは、その日、生涯かけて探究してきた魔法という概念が、一人の少女によって塗り替えられたことを悟った。
エルサが学園を破壊(本人は無自覚)し、賢者を隠居から引きずり出している頃。 アデレイド公爵家には、学園から連日「報告書」という名の悲鳴が届いていた。
「……エルサが、標的どころか外壁を貫通させた?」 報告書を読み、父ヴィルフリートは頭を抱えた。 「……エルサが、賢者バルカスを弟子のように教え導いている?」 長男シグルドは、もはや笑うしかなかった。 「……よし。エルサが学園でいじめられていないか、視察に行くぞ。全騎士団、出撃準備だ」 「「「ハッ!!」」」
一方、学園ではカイル王子が追い詰められていた。 彼はエルサを「無能」として切り捨てることで、自分の権威を高めるつもりだった。しかし、今のエルサは「歩く戦略兵器」のような存在だ。王家としては、何としても彼女を繋ぎ止めておかなければならない。 「エルサ……! 私が悪かった! 婚約破棄の話は白紙だ。むしろ、今すぐ結婚しよう!」
中庭でエルサを待ち伏せしたカイルが、無理やり彼女の手を掴もうとする。 「放してください、王子殿下。私、勉強が忙しいので」 「黙れ! 王族の命令だ! 貴様のような強大な力、私の手元で管理せねば――」
カイルの手がエルサに触れる直前。 ドォォォォォン!! という爆音と共に、中庭の噴水が真っ二つに割れた。 「我が妹に、気安く触れるな。……羽虫が」 そこには、抜剣したシグルドと、武装した公爵家の精鋭たちが、殺気と共に立っていた。 背後には、冷たい笑みを浮かべた父ヴィルフリート。 「王子殿下。我が娘は、あなたのような『矮小な男』には勿体ない。……今この場をもって、婚約破棄を承諾しましょう。いや、こちらから願い下げだ」
エルサは、兄と父のあまりの過保護ぶりに「やっぱりこうなるのね」と溜息をつきつつ、足元で「よくやった」と言わんばかりに尻尾を振るシロを撫でた。 落ちこぼれ令嬢の快進撃は、まだ始まったばかりである。
「……あら、この術式。千年前の私の術式の劣化版ね。効率が悪すぎて、これじゃ魔力を無駄にするだけじゃない」 エルサは手近なペンを取り、貴重な古文書の余白にスラスラと「修正案」を書き込み始めた。 すると、背後の暗闇からしわがれた声が響いた。 「……お嬢さん、それは国の重要文化財なんだがね」
現れたのは、ボロボロのローブを纏った老人だった。図書室の管理人を自称する彼は、エルサが書き込んだ数式を一目見るなり、目を見開いて硬直した。 「なっ……これは、失われた第十階梯の術式……!? まさか、この不完全な魔法陣を、一瞬で補完したというのか?」 「ええ、少し気になったので。こちらの方が、お花に水をやる時も便利ですし」 「お、お花に水を……!? 伝説の『星落とし』の術式を家庭菜園レベルに落とし込んだのか!?」
老人の正体は、かつての宮廷魔導師長であり、引退して隠居していた「賢者」バルカスだった。彼は震える手でエルサの肩を掴もうとしたが、シロが静かに牙を見せて阻止する。 「君は……一体、何者だ?」 「ただの落ちこぼれ令嬢、エルサです」 エルサは微笑んで、書きかけの古文書を老人に手渡した。 「これ、差し上げます。もっと効率よくすれば、この学園の結界も少しはマシになると思いますから」 賢者バルカスは、その日、生涯かけて探究してきた魔法という概念が、一人の少女によって塗り替えられたことを悟った。
エルサが学園を破壊(本人は無自覚)し、賢者を隠居から引きずり出している頃。 アデレイド公爵家には、学園から連日「報告書」という名の悲鳴が届いていた。
「……エルサが、標的どころか外壁を貫通させた?」 報告書を読み、父ヴィルフリートは頭を抱えた。 「……エルサが、賢者バルカスを弟子のように教え導いている?」 長男シグルドは、もはや笑うしかなかった。 「……よし。エルサが学園でいじめられていないか、視察に行くぞ。全騎士団、出撃準備だ」 「「「ハッ!!」」」
一方、学園ではカイル王子が追い詰められていた。 彼はエルサを「無能」として切り捨てることで、自分の権威を高めるつもりだった。しかし、今のエルサは「歩く戦略兵器」のような存在だ。王家としては、何としても彼女を繋ぎ止めておかなければならない。 「エルサ……! 私が悪かった! 婚約破棄の話は白紙だ。むしろ、今すぐ結婚しよう!」
中庭でエルサを待ち伏せしたカイルが、無理やり彼女の手を掴もうとする。 「放してください、王子殿下。私、勉強が忙しいので」 「黙れ! 王族の命令だ! 貴様のような強大な力、私の手元で管理せねば――」
カイルの手がエルサに触れる直前。 ドォォォォォン!! という爆音と共に、中庭の噴水が真っ二つに割れた。 「我が妹に、気安く触れるな。……羽虫が」 そこには、抜剣したシグルドと、武装した公爵家の精鋭たちが、殺気と共に立っていた。 背後には、冷たい笑みを浮かべた父ヴィルフリート。 「王子殿下。我が娘は、あなたのような『矮小な男』には勿体ない。……今この場をもって、婚約破棄を承諾しましょう。いや、こちらから願い下げだ」
エルサは、兄と父のあまりの過保護ぶりに「やっぱりこうなるのね」と溜息をつきつつ、足元で「よくやった」と言わんばかりに尻尾を振るシロを撫でた。 落ちこぼれ令嬢の快進撃は、まだ始まったばかりである。
0
あなたにおすすめの小説
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
婚約者が私のことをゴリラと言っていたので、距離を置くことにしました
相馬香子
恋愛
ある日、クローネは婚約者であるレアルと彼の友人たちの会話を盗み聞きしてしまう。
――男らしい? ゴリラ?
クローネに対するレアルの言葉にショックを受けた彼女は、レアルに絶交を突きつけるのだった。
デリカシーゼロ男と男装女子の織り成す、勘違い系ラブコメディです。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話
下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。
御都合主義のハッピーエンド。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる