氷の魔女の二度目の人生は落ちこぼれ聖女〜今度は愛されるために魔法を極めたら、神獣たちと最強の家族に溺愛されました〜

平山和人

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 実技での騒動から逃れるように、エルサは学園の最深部にある地下図書室へと潜り込んだ。ここには数百年誰も開いていないような古文書が眠っている。  シロとルビィを足元に侍らせ、古い羊皮紙をめくる。


「……あら、この術式。千年前の私の術式の劣化版ね。効率が悪すぎて、これじゃ魔力を無駄にするだけじゃない」  エルサは手近なペンを取り、貴重な古文書の余白にスラスラと「修正案」を書き込み始めた。  すると、背後の暗闇からしわがれた声が響いた。 「……お嬢さん、それは国の重要文化財なんだがね」


 現れたのは、ボロボロのローブを纏った老人だった。図書室の管理人を自称する彼は、エルサが書き込んだ数式を一目見るなり、目を見開いて硬直した。 「なっ……これは、失われた第十階梯の術式……!? まさか、この不完全な魔法陣を、一瞬で補完したというのか?」 「ええ、少し気になったので。こちらの方が、お花に水をやる時も便利ですし」 「お、お花に水を……!? 伝説の『星落とし』の術式を家庭菜園レベルに落とし込んだのか!?」


 老人の正体は、かつての宮廷魔導師長であり、引退して隠居していた「賢者」バルカスだった。彼は震える手でエルサの肩を掴もうとしたが、シロが静かに牙を見せて阻止する。 「君は……一体、何者だ?」 「ただの落ちこぼれ令嬢、エルサです」  エルサは微笑んで、書きかけの古文書を老人に手渡した。 「これ、差し上げます。もっと効率よくすれば、この学園の結界も少しはマシになると思いますから」  賢者バルカスは、その日、生涯かけて探究してきた魔法という概念が、一人の少女によって塗り替えられたことを悟った。



 エルサが学園を破壊(本人は無自覚)し、賢者を隠居から引きずり出している頃。  アデレイド公爵家には、学園から連日「報告書」という名の悲鳴が届いていた。


「……エルサが、標的どころか外壁を貫通させた?」  報告書を読み、父ヴィルフリートは頭を抱えた。 「……エルサが、賢者バルカスを弟子のように教え導いている?」  長男シグルドは、もはや笑うしかなかった。 「……よし。エルサが学園でいじめられていないか、視察に行くぞ。全騎士団、出撃準備だ」 「「「ハッ!!」」」


 一方、学園ではカイル王子が追い詰められていた。  彼はエルサを「無能」として切り捨てることで、自分の権威を高めるつもりだった。しかし、今のエルサは「歩く戦略兵器」のような存在だ。王家としては、何としても彼女を繋ぎ止めておかなければならない。 「エルサ……! 私が悪かった! 婚約破棄の話は白紙だ。むしろ、今すぐ結婚しよう!」


 中庭でエルサを待ち伏せしたカイルが、無理やり彼女の手を掴もうとする。 「放してください、王子殿下。私、勉強が忙しいので」 「黙れ! 王族の命令だ! 貴様のような強大な力、私の手元で管理せねば――」


 カイルの手がエルサに触れる直前。  ドォォォォォン!! という爆音と共に、中庭の噴水が真っ二つに割れた。 「我が妹に、気安く触れるな。……羽虫が」  そこには、抜剣したシグルドと、武装した公爵家の精鋭たちが、殺気と共に立っていた。  背後には、冷たい笑みを浮かべた父ヴィルフリート。 「王子殿下。我が娘は、あなたのような『矮小な男』には勿体ない。……今この場をもって、婚約破棄を承諾しましょう。いや、こちらから願い下げだ」


 エルサは、兄と父のあまりの過保護ぶりに「やっぱりこうなるのね」と溜息をつきつつ、足元で「よくやった」と言わんばかりに尻尾を振るシロを撫でた。  落ちこぼれ令嬢の快進撃は、まだ始まったばかりである。
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