氷の魔女の二度目の人生は落ちこぼれ聖女〜今度は愛されるために魔法を極めたら、神獣たちと最強の家族に溺愛されました〜

平山和人

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魔王を浄化し、一家のペットへと変貌させたエルサの噂は、もはや隠しきれる段階を過ぎていた。アデレイド公爵領から放たれる「常時発動型の超広域浄化結界」は、隣接する国々の長年の土壌汚染や干ばつさえも勝手に癒やしてしまったのだ。  この「歩く奇跡」を巡り、周辺諸国――帝国、聖王国、そして海の向こうの連合自治領までが、一斉に「エルサへの公式求婚書」を公爵邸に叩きつけた。


「ふざけるな。……ふざけるな、この紙クズ共がッ!」  アデレイド公爵邸の執務室。父ヴィルフリートは、机の上に山積みになった各国の第一王子や若き英雄たちからの求婚書を、無慈悲に暖炉へと投げ込んだ。 「お父様、火が強すぎます。絨毯が焦げてしまいますわ」  エルサが心配そうに声をかけるが、ヴィルフリートの耳には届かない。 「エルサ、いいか。この世の男は私と兄貴たちを除いて、全員がお前の魔力を狙うハイエナだと思え。特にこの聖王国の『輝きの王子』。何が『私こそが彼女の聖なる伴侶に相応しい』だ。お前の靴を舐める資格すら与えん」


 シグルドとレナードも、かつてないほどの武装でエルサの左右を固めていた。 「エルサ。今日から公爵領は『鎖国』する。許可なき入国者は、私の魔剣の錆にする」 「兄貴、甘いよ。もう結界は張った。エルサの許可がない男がこの領地に一歩でも入れば、強制的に子犬の姿に変身して、魔導収容所に送られるように設定しておいたから」 「……レナード、それは私の仕業じゃないわよね?」  エルサは困惑したが、実際にレナードが「賢者」バルカスと結託して設置した『エルサ守護結界』は、もはや神話級の難攻不落さを誇っていた。


 そんな中、空が黄金色に輝き、聖王国の直属飛行騎士団が上空に現れた。 「エルサ様! 聖なる御方! 我ら聖教会は、あなたを『再臨の神』としてお迎えに上がりました!」  スピーカー魔法で増幅された声が領内に響く。エルサはため息をつき、手にしたティーカップを置いた。 「お兄様、少しお騒がせしますね。……お洗濯の時間よ、シロ、ルビィ、アオ、クロ!」  四匹の神獣(と元魔王)が、主の言葉に応えて空へと舞い上がった。



 上空に展開した聖王国の精鋭騎士団は、自分たちの正義を微塵も疑っていなかった。彼らにとって、エルサは自分たちの教義を完成させるための「最後のピース」に過ぎなかったのだ。  だが、彼らの前に立ちはだかったのは、エルサが「少し遊んであげて」と放った神獣たちだった。


『……ふむ。主のティータイムを邪魔するとは、命知らずな羽虫どもだ』  シロ(フェンリル)が空を駆け、前足で空間を叩く。それだけで、騎士団の最新鋭魔導飛空艇のエンジンが凍結し、機能停止に陥る。 「ピーッ!!」  ルビィ(フェニックス)が翼を振れば、極低温の氷さえも燃やし尽くす「浄化の炎」が空を覆い、騎士たちの武器だけを溶かして無効化していく。 「きゅきゅー!」  アオ(リヴァイアサン)が空中に巨大な水の渦を作り出し、落下する騎士たちを優しく、しかし確実に捕縛して地上へ降ろしていく。


 そして、最後の一匹。 「……ぴぃ(僕も、役に立たないと、消される……!)」  真っ白なもふもふマスコットと化した元魔王・クロが、その小さな口を開いた。 「【絶望の残滓(ただし、超低出力)】」  放たれたのは、殺意ではなく「猛烈な眠気」の波動だった。聖王国の騎士たちは、戦う意欲を根こそぎ奪われ、アオが作った水球の中で幸せそうな寝息を立て始めた。


 地上で見守っていたエルサは、満足げに頷いた。 「よしよし、みんな偉いわね。……さて、お父様。あの空から降ってきた方たちは、うちの畑の肥料運びに使ってもいいかしら? 最近、世界樹の成長が速すぎて、人手が足りないんです」 「……ああ、エルサがそう言うなら、好きにするがいい。シグルド、捕虜たちに『エルサ様への絶対忠誠』を叩き込む教育プログラムを組め」 「承知しました。まずは、エルサの幼少期の肖像画を一日十時間拝ませることから始めましょう」  アデレイド公爵家の「妹教育」は、ついに他国のエリート騎士団を洗脳……もとい、更生させる段階へと突入した。
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