氷の魔女の二度目の人生は落ちこぼれ聖女〜今度は愛されるために魔法を極めたら、神獣たちと最強の家族に溺愛されました〜

平山和人

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 一方、王立魔法学園では、一人の男が崖っぷちに立たされていた。第二王子カイルである。  エルサを「無能」と見捨てた彼の評価は地に落ち、今や王位継承権すら危うい状況だった。そんな彼が導き出した結論は、あまりにも斜め上の方向だった。


「……そうか。エルサに認められるには、人間ではダメなのだ。彼女の傍らにいるのは、常に強大でもふもふした神獣のみ。ならば……!」  カイルは、禁じられた「獣化魔法」の古文書を広げ、自らの体に無理やり魔法をかけ始めた。 「私は、もふもふになる! もふもふになって、エルサの膝の上という特等席を奪い返してやるのだ!」


 数日後。学園から公爵邸に、一匹の「ゴールデンレトリバー(もどき)」が届けられた。首輪には『カイル・フォン・ルミナス』という名札が付いている。  それを見たエルサは、眉をひそめてシロに尋ねた。 「ねえシロ、この子、どこかで見たことあるような気がするのだけれど」 『……主、関わるな。ただの狂人だ。魔力が、プライドと変身魔法の副作用でひどく捻じ曲がっている』


 カイル(犬モード)は、必死に尻尾を振り、エルサの足元に擦り寄ろうとした。 「ワン! ワンワン!(エルサ、私だ! ほら、撫でろ! 私は王子だが、今は君の犬だ!)」  だが、その瞬間。エルサの肩にいたルビィが、冷ややかな視線でカイルを見下ろした。 「ピー(不潔よ、焼き鳥にするわよ?)」  アオもまた、水鉄砲でカイルを庭の隅まで押し流した。


「……あらあら、仲良くしなさい。でも、この子はなんだか魂が汚れている気がするわ。……よし、また『お洗濯』しましょうか」 「ワフッ!?(えっ、待て、その光は――!?)」  エルサが指を鳴らした瞬間、カイルの「王子としての野心」や「歪んだプライド」が根こそぎ洗浄され、彼はただの「非常に礼儀正しく、公爵家の庭掃除を率先して手伝う、中身の空っぽな犬」へと浄化された。  こうして、エルサの「無自覚な救済」は、ついにストーカー紛いの元婚約者さえも、社会に役立つ有益な存在へと変えてしまったのである。



 その夜、エルサは不思議な夢を見た。  真っ白な世界の中に、一人の女性が立っていた。それは、千年前の孤独な自分――氷の魔女アイリスだった。


『満足しているようね、今の人生に』  アイリスが静かに微笑む。その瞳には、かつて世界を恨んでいたような冷たさはもうなかった。 「ええ。魔法を極めるのは、誰かを排除するためじゃなくて、守るためだったんだって、ようやく気づけたわ」 『……あなたは私であって、私ではない。千年前の私が持ち得なかった「愛される資格」を、今のあなたは持っている。その家族を、大切にしなさい』


 アイリスの姿が光に溶けていく。  エルサが目を覚ますと、部屋の窓から朝日が差し込んでいた。枕元にはシロが寝そべり、足元にはルビィとアオ、そしてクロが折り重なって眠っている。  そしてドアをノックする音。 「エルサ、起きているか? 今日はお前のために、隣国の全領土から集めた最高級のイチゴでケーキを作らせたんだ。一緒に食べよう」  シグルドの声。その後ろからは、レナードが「俺がデコレーションしたんだからな!」と照れくさそうに叫ぶ声が聞こえる。


 エルサは大きく背伸びをして、笑顔でベッドから飛び出した。 「はい! 今すぐ行きます、お兄様!」


 孤独な千年魔女だった彼女は、もういない。  ここにいるのは、世界で一番強く、世界で一番愛されている、アデレイド公爵家の落ちこぼれ(自称)令嬢、エルサだ。  彼女の「魔法」は、これからも家族を、そして世界を、とんでもない方向へと幸せに導いていく。


 ――物語はまだ始まったばかり。第百章に続く、長い長い幸福の旅路の、これはまだ序章に過ぎないのだから。
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