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瘴気に汚染された大陸からの脱出 その3
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「親族同士で大喧嘩?」
「このようなことで銀の騎士様を呼び出して申し訳ありませんっ。
しかし辺境伯を連れ戻そうとしている前辺境伯が強過ぎるんです」
「騎士って、俺は馬にも何にも騎乗してないんだけど」
「自分のっ、母親をっ、見捨てて先にっ、逃げ出そうとはーっ!」
あの爺さんが前辺境伯か。凄いな。戦っている相手は多分息子の辺境伯なんだろうけど、筋肉の量は爺さんの方が勝っているぞ。うわっ、後ろにいるのが辺境伯の奥さんみたいだけど、赤ん坊抱いているよ。なのに大暴れ? はい、ジジイは悪者決定。
「捕縛!」
鉄っぽい金属の鎖が現れてジジイに巻きつき縛りあげる。
「ちょこざいなーっ!」
ジジイは鎖を引きちぎる——ことはできなかった。
信じられないという表情をしている。二度三度と試みているようだが駄目。
その程度の太さの鉄の鎖は、いつもだったら化け物じみた身体強化でぶち切っていたんだろうけど、こちとら正真正銘の化け物、それも上位種を相手に日々戦っていたんだよねぇ。つまり力比べなら負けるはずがない。
「ぐがっ!」
ちょいと近づいたら頭突きをかましてきた。けど、俺の鎧は物理攻撃を反射するので、額から血を流してのけぞることになったのはジジイの方。
「貴様が噂の銀の騎士か? お前には関係ないであろう。わしはこの親不孝者にだなあ——」
「黙れ。
必死で自分の妻子を守る息子を攻撃する人でなしには発言の権利はない。
若ければ若いほど、瘴気の害を受ける。人の心があるなら一日でも早くと移住を後押しするだろうに、逆に妨害するとはな」
俺は振り返って、カプセルを割った男に聞いた。
「ここから転移門まで何日くらいだ?」
「五日ほどです」
俺は自分の剣に闇の属性を纏わせ、ジジイの額に軽く触れる。
「眠れ。十日の間」
後はジジイの従者らしき者たちが何とか運んでいくだろう。
賞金首の引き渡しのときと同じような処理をして俺は消えた。
「銀の騎士様を呼び出せと言われましたので」
「騎士って、俺は馬にも何にも騎乗してないんだけど。
ていうか、もしかしてアレが魅了の聖女とやら?」
カプセル割り女は答える代わりに飛び掛かってきやがった。
俺の鎧や盾は物理攻撃も反射するんだけど、今回はその前に足が出た。身体的な条件反射というか。
魅了の聖女(仮)の周囲に侍る兵士たちや怪物たちからの攻撃は鎧と盾と剣の自動反射に任せて、移民やその護衛の皆さんからの肉弾攻撃は、俺に触れる前に蹴り倒して対処した。
「あなたは自分が守るはずの民を傷つけても平気なの!?」
魅了の聖女(仮)が喚く。お前が言うな。
多分こいつには人や怪物を意のままに操る能力があって、俺の味方であるはずの移民の人たちに攻撃させることにより、俺を弱体化させる狙いがあったのだろう。彼女たちの計画の中では、俺の側に味方を攻撃することへの心理的葛藤や躊躇いがもっとあったに違いない。
ところが俺は、致命傷さえ与えなければオーケーだろうってのが身についてしまっていて……そう言えば勇者パーティー時代とは違い、癒しの聖女は同行していないんだっけ。ま、まあ治癒能力者の用意くらいあるだろう、きっと。
魅了の聖女(仮)は蓮の花のような形の台座に乗って、すーっと俺の近くに寄ってきた。ピンクブロンドに女神風ファッション。女神バージョンのゲームマスターの劣化版って感じだ。
「わたしを見て。わたしの声を聞いて。そして、わたしの言うことを聞きなさい」
恐らく、俺に魅了をかけようとしたんだろう。
だが、俺の鎧は攻撃を反射する。
さらに、攻撃を呪いと判定したら倍返しすることもある。
女の目が潤み、怒りに染まっていた頬が別の熱を帯びる。
「うわっ、気持ち悪い。どこかに引きこもってくれないかな、一年ばかり」
さて、俺の言葉を聞いてくれるかどうか。確かめる間もなく俺は消えた。
「このようなことで銀の騎士様を呼び出して申し訳ありませんっ。
しかし辺境伯を連れ戻そうとしている前辺境伯が強過ぎるんです」
「騎士って、俺は馬にも何にも騎乗してないんだけど」
「自分のっ、母親をっ、見捨てて先にっ、逃げ出そうとはーっ!」
あの爺さんが前辺境伯か。凄いな。戦っている相手は多分息子の辺境伯なんだろうけど、筋肉の量は爺さんの方が勝っているぞ。うわっ、後ろにいるのが辺境伯の奥さんみたいだけど、赤ん坊抱いているよ。なのに大暴れ? はい、ジジイは悪者決定。
「捕縛!」
鉄っぽい金属の鎖が現れてジジイに巻きつき縛りあげる。
「ちょこざいなーっ!」
ジジイは鎖を引きちぎる——ことはできなかった。
信じられないという表情をしている。二度三度と試みているようだが駄目。
その程度の太さの鉄の鎖は、いつもだったら化け物じみた身体強化でぶち切っていたんだろうけど、こちとら正真正銘の化け物、それも上位種を相手に日々戦っていたんだよねぇ。つまり力比べなら負けるはずがない。
「ぐがっ!」
ちょいと近づいたら頭突きをかましてきた。けど、俺の鎧は物理攻撃を反射するので、額から血を流してのけぞることになったのはジジイの方。
「貴様が噂の銀の騎士か? お前には関係ないであろう。わしはこの親不孝者にだなあ——」
「黙れ。
必死で自分の妻子を守る息子を攻撃する人でなしには発言の権利はない。
若ければ若いほど、瘴気の害を受ける。人の心があるなら一日でも早くと移住を後押しするだろうに、逆に妨害するとはな」
俺は振り返って、カプセルを割った男に聞いた。
「ここから転移門まで何日くらいだ?」
「五日ほどです」
俺は自分の剣に闇の属性を纏わせ、ジジイの額に軽く触れる。
「眠れ。十日の間」
後はジジイの従者らしき者たちが何とか運んでいくだろう。
賞金首の引き渡しのときと同じような処理をして俺は消えた。
「銀の騎士様を呼び出せと言われましたので」
「騎士って、俺は馬にも何にも騎乗してないんだけど。
ていうか、もしかしてアレが魅了の聖女とやら?」
カプセル割り女は答える代わりに飛び掛かってきやがった。
俺の鎧や盾は物理攻撃も反射するんだけど、今回はその前に足が出た。身体的な条件反射というか。
魅了の聖女(仮)の周囲に侍る兵士たちや怪物たちからの攻撃は鎧と盾と剣の自動反射に任せて、移民やその護衛の皆さんからの肉弾攻撃は、俺に触れる前に蹴り倒して対処した。
「あなたは自分が守るはずの民を傷つけても平気なの!?」
魅了の聖女(仮)が喚く。お前が言うな。
多分こいつには人や怪物を意のままに操る能力があって、俺の味方であるはずの移民の人たちに攻撃させることにより、俺を弱体化させる狙いがあったのだろう。彼女たちの計画の中では、俺の側に味方を攻撃することへの心理的葛藤や躊躇いがもっとあったに違いない。
ところが俺は、致命傷さえ与えなければオーケーだろうってのが身についてしまっていて……そう言えば勇者パーティー時代とは違い、癒しの聖女は同行していないんだっけ。ま、まあ治癒能力者の用意くらいあるだろう、きっと。
魅了の聖女(仮)は蓮の花のような形の台座に乗って、すーっと俺の近くに寄ってきた。ピンクブロンドに女神風ファッション。女神バージョンのゲームマスターの劣化版って感じだ。
「わたしを見て。わたしの声を聞いて。そして、わたしの言うことを聞きなさい」
恐らく、俺に魅了をかけようとしたんだろう。
だが、俺の鎧は攻撃を反射する。
さらに、攻撃を呪いと判定したら倍返しすることもある。
女の目が潤み、怒りに染まっていた頬が別の熱を帯びる。
「うわっ、気持ち悪い。どこかに引きこもってくれないかな、一年ばかり」
さて、俺の言葉を聞いてくれるかどうか。確かめる間もなく俺は消えた。
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