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瘴気に汚染された大陸からの脱出 その7

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 サイズ的には魔王より大きな化け物に俺は正直ちょっとビビっていた。
 本気出さないといけなくなった状況に追い込まれたのは、この世界に来てはじめてのことだ。
 剣に土の属性、遥か上空に石の塊を生成する。前回は一個だったが今回は二個。

「ピート、君は先に転移——」
「ちょっと待ったーっ!」
 ピートを先に逃しておこうと声を掛けたら、怪しいパーティーの魔術師——こちらの世界での呼び方は魔導師だそうだ——が転移で割り込んできやがった。
 手には魔導書らしき一冊の本。魔導師は必死の形相で俺たちに迫る。

「お願いだ、中くらいの魔物らを転移させ終えるまで待ってくれ」
「あのさ、あんたたちにとっては素材の確保は大事かもしれんが——」
「それだけじゃないんだ。下手に近くの魔物を殺すと偉大な屍竜が瘴気を吸収して巨大化してしまう」
 それなんてニーズヘッグ?
 魔導師は俺に背を向けて、化け物の集団の方向に何やら念を送っている模様。

「二分だけ待つ。その後は前回同様、天のハンマー落とすんで自力で逃げろ」
 まあ、この魔導師を前回みたく吹っ飛ばすのもいいけれど、俺は自分の直観に従い、時間の許す限り彼が化け物たちを転移させることができるようにした。
 あの魔王レベルにでかい化け物は確かに瘴気を吸収して強化されているっぽいし、天のハンマーの二連発程度では仕留めきれない可能性がある。

「一番でかいのは動かせないんだな?」
 と俺が言うと、
「駄目なんだ、あれだけは転移させることができない」
 と魔導師が悔しそうに答える。
 顔が歪んでいるのは、悔しさのせいだけでなく、転移の発動に相当な負荷がかかっているためだろう。

「あと一分」
 残り時間を示す赤のゲージはちょうど半分。俺が消えるまで一分半あるが、天のハンマーを落とすのは一分後ということだ。
「くっ、時間延長は?」
「無理だ」
「転移が役に立つのなら僕も少しは魔物を——」
「よせ、ピート。帰還のために魔力は取っとけ」
 俺は光の網付き防御壁でピートと魔導師を囲む。俺が消えたら防御壁も消えてしまうが、天のハンマーを落とした直後の衝撃波や瓦礫混じりの爆風とから身を守る助けにはなるだろう。
「わかりました。帰りはゲオルグさんを連れて転移します」
 魔導師はゲオルグというのか。ピートはボコられたはずなのに仲良いな。

「あと三十秒」と俺。
「くそっ、間に合わないか」とゲオルグ。
「必ずしも全部が転移できなくても良いでしょう」とピート。

 落とす時間だ。
 上空の岩の一つを支える力を無効にし、下向きに発射し加速させる。
「天のハンマー!」
 一、二、三と三つ数えて、もう一つの岩を支えていた力を無効にする。
「天のハンマー!」
 前回以上の凄まじい閃光と爆音。
 まだ転移していないピートとゲオルグをかばいながら全速力で爆風から逃げる。
 逃げながら剣から光のビームを出して巨大な影に当ててみたものの、残念ながら爆発してくれる様子はない。
 そこで時間切れ。俺は消えた。



「うん、仕留めきれなかった俺が悪いんだけどさ」
 化け物はもう群れをなしていない。
 ニーズヘッグもどきの偉大な屍竜、ただ一匹のみ。
 焼き焦げた大地に身を横たえているこいつは、まだ生きている。

 そしてピートはなぜか、ゲオルグのお仲間の怪しいパーティーのメンバーが集合してからカプセルを割ってくれたようだ。リーダー格の剣士の彼にメイス持ち僧侶の彼。露出度高すぎの彼女に弓矢持ちの彼女。

「力を合わせて敵をうつと言われても……。
 俺の鎧と盾は、物理も魔法も、全ての攻撃を反射して返してくるんだ。間違って俺に攻撃を当てれば、そのまま自分に返ってくるんだぞ。だから俺は滅多なことではパーティーを組めない。
 頼むからソロでやらせてくれ」

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