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瘴気に汚染された大陸からの脱出 その8
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「銀の騎士様の後ろには立ちません!」
弓矢の彼女が屍竜に矢を打ち込む。大きさの割合からして小さな針が何本か刺さった程度のはずだが、意外と効いている?
「フレイヤの矢は瘴気を消します」と魔導師ゲオルグの解説。
それによって弱体化した箇所ならこちらの攻撃が通りやすそうだ。
俺は剣先から光のビームを出して、矢の当たった右の翼を斬る。
見事に切り離された翼は地に落ちる前に消える。ゲオルグの魔導書が光っていたので、多分どこかに転移されたと思われる。
おお、意外と連携ができている?
「左足を攻撃しているのは僧侶の人?」
「はい、アイクのメイスも瘴気を消します。そこをダリルが切っていきます」
そっちに手を出すのは同士討ちが怖いな。おっ、左の翼に矢が当たったようだ。再び光のビームが一閃、切った翼が消える。
「あと一人はどこに?」
「ヴァルは離れた場所で竜を大地に縫い留めています」
「左方向の魔力の渦がそれか」
「はい」
だから屍竜は伏せたような姿勢で位置が動かないのか。しかし、地から離れた頭部は拘束がやや弱いのかしきりと動く。痛みと怒りにもがくかのように。
矢の狙いは右足になったらしく何本かの矢が刺さる。次は、右脚を切り落とせばいいのだろうか? いや駄目だ。屍竜の頭部がこちらを向いて、俺たちに狙いを定めているのがわかる。わかってしまう。
「防御壁!」
屍竜の吐き出す黒のブレスに向かって走りながら背後に防御壁と光の網を設置する。それなりに力を込めて作ったので、ピートも残り二人もまあ無事に済むはず。
俺は盾と鎧の属性を反射から雷電へと変更する。反射のままだと、あのいかにも瘴気を圧縮したような噴射が化け物にそのまま跳ね返って、それがまた化け物を強化する材料になって——と悪夢な永久機関になりかねないと思ったから。
盾を前に突き出して俺は駆ける。屍竜の吐いた黒い瘴気を電撃に変えて押し戻してやる。
気がつくとブレスが切れて屍竜が間抜けな顔でこちらを見ている。吐き出すものが種切れの状態になったんだろう。全速前進のまま剣先から光のビームを出し、首を狙って横薙ぎに斬る。敵の首筋から赤い血の代わりに黒い霧が吹き出す。首を落とすまではいかなかったか。赤のゲージは五分の一、残り時間三十秒ちょっと。
屍竜の左足のあたりでガシガシやってる二人がいるせいで、落雷や天のハンマーは、ぶちかましにくい。
俺は再度、剣先から光のビームを出すために力を練った。
これで時間切れになったらなったで、ピートにまたカプセルを割ってもらえばいいはず。
気合を入れて剣を振り上げた、そのとき——
「すみません、ちょっと待ってください」
巨大な十二の翼と凄まじい後光を背にしたゲームマスターが、屍竜の上空に突然現れて、こう言った。
「この竜、瘴気の吸収と自己再生の機能持ちのため、ただ破壊するのはもったいないという声が研究機関から上がっていまして。回収して有効利用することにしました」
「えええええええーっ」
ゲームマスターが優雅に軽く手を振ると、屍竜は一瞬のうちに消え失せた。何の前触れもなく、何の余韻もなく。
屍竜の左足付近にいた剣士と僧侶は当然ながら転移の対象外。大怪我をしている様子もなく無事らしいのはいいが、何だか呆然としている。他人事ながら精神的なダメージが心配というか。
消える直前に俺はぼやく。
「女神様が物理的に直接介入って、ありだったんですか?」
「場合に応じて戦闘もこなしますよ」
弓矢の彼女が屍竜に矢を打ち込む。大きさの割合からして小さな針が何本か刺さった程度のはずだが、意外と効いている?
「フレイヤの矢は瘴気を消します」と魔導師ゲオルグの解説。
それによって弱体化した箇所ならこちらの攻撃が通りやすそうだ。
俺は剣先から光のビームを出して、矢の当たった右の翼を斬る。
見事に切り離された翼は地に落ちる前に消える。ゲオルグの魔導書が光っていたので、多分どこかに転移されたと思われる。
おお、意外と連携ができている?
「左足を攻撃しているのは僧侶の人?」
「はい、アイクのメイスも瘴気を消します。そこをダリルが切っていきます」
そっちに手を出すのは同士討ちが怖いな。おっ、左の翼に矢が当たったようだ。再び光のビームが一閃、切った翼が消える。
「あと一人はどこに?」
「ヴァルは離れた場所で竜を大地に縫い留めています」
「左方向の魔力の渦がそれか」
「はい」
だから屍竜は伏せたような姿勢で位置が動かないのか。しかし、地から離れた頭部は拘束がやや弱いのかしきりと動く。痛みと怒りにもがくかのように。
矢の狙いは右足になったらしく何本かの矢が刺さる。次は、右脚を切り落とせばいいのだろうか? いや駄目だ。屍竜の頭部がこちらを向いて、俺たちに狙いを定めているのがわかる。わかってしまう。
「防御壁!」
屍竜の吐き出す黒のブレスに向かって走りながら背後に防御壁と光の網を設置する。それなりに力を込めて作ったので、ピートも残り二人もまあ無事に済むはず。
俺は盾と鎧の属性を反射から雷電へと変更する。反射のままだと、あのいかにも瘴気を圧縮したような噴射が化け物にそのまま跳ね返って、それがまた化け物を強化する材料になって——と悪夢な永久機関になりかねないと思ったから。
盾を前に突き出して俺は駆ける。屍竜の吐いた黒い瘴気を電撃に変えて押し戻してやる。
気がつくとブレスが切れて屍竜が間抜けな顔でこちらを見ている。吐き出すものが種切れの状態になったんだろう。全速前進のまま剣先から光のビームを出し、首を狙って横薙ぎに斬る。敵の首筋から赤い血の代わりに黒い霧が吹き出す。首を落とすまではいかなかったか。赤のゲージは五分の一、残り時間三十秒ちょっと。
屍竜の左足のあたりでガシガシやってる二人がいるせいで、落雷や天のハンマーは、ぶちかましにくい。
俺は再度、剣先から光のビームを出すために力を練った。
これで時間切れになったらなったで、ピートにまたカプセルを割ってもらえばいいはず。
気合を入れて剣を振り上げた、そのとき——
「すみません、ちょっと待ってください」
巨大な十二の翼と凄まじい後光を背にしたゲームマスターが、屍竜の上空に突然現れて、こう言った。
「この竜、瘴気の吸収と自己再生の機能持ちのため、ただ破壊するのはもったいないという声が研究機関から上がっていまして。回収して有効利用することにしました」
「えええええええーっ」
ゲームマスターが優雅に軽く手を振ると、屍竜は一瞬のうちに消え失せた。何の前触れもなく、何の余韻もなく。
屍竜の左足付近にいた剣士と僧侶は当然ながら転移の対象外。大怪我をしている様子もなく無事らしいのはいいが、何だか呆然としている。他人事ながら精神的なダメージが心配というか。
消える直前に俺はぼやく。
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