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第24話「達也との出会い」
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やばいまた遅刻してしまった……。
私――冬木真帆は小さい頃から遅刻魔だった。
八時に来いと言われると八時半に行き、九時半に来いと言われると、十時半に着く。
あまりの遅刻にほかの人より早めの時間を告げられたこともある。
そんな私でもようやくバイトに受かることができた。
ただ、今の時刻は午前九時十五分。
来いと言われた時間は八時四十分。
やっぱり怒られるよね。
いや怒られるだけで済めばいい、その場でもう来なくていいと言われてしまうかもしれない。
せっかく受かったのに……。
なんてことを考えながら店の前をうろうろしていると、制服姿の人に話しかけられた。
「あ、今日初めて来る人だよね? 場所わからなかった?」
「遅れてごめんなさい、冬木真帆と言います」
その男の人に首がもげるのではないかという速度で頭を下げる。
もう何回連続で不意にしたかわからないバイト。
わがままなのは百も承知だが、これ以上クビになるのは避けたかった。
「別に気にしてないから大丈夫だよ」
その人はすごいおかしそうに笑った。
かっこいい顔だったけど、かわいい顔して笑う人だな……。
「じゃあちょっとついて来てもらおうかな」
「わかりました」
「ここがトイレで、これが荷物の搬入口、でこれが女性用の更衣室。じゃあ着替えが終わったら店の方来てね」
そう言うとあっちねと指さしながら去っていこうとする。
あ、お礼言わなきゃ。
「あの、ありがとうございました。えっとー……」
「ああ達也でいいよ、みんなそう呼んでるから。俺は冬木さんでいいかな?」
なんか同年代なのにすごい立派そうな人だな。
ちゃんと働いてて、人望もありそう。
私なんかと大違いだし、呼び捨てなんかおこがましいな。
「わかりました。呼び捨ては申し訳ないので達也クンにします」
「まあいいけど。ただ敬語はやめてよ、敬われるほどの人間じゃないし、なんかこそばゆいんだよね」
「わかった。私も呼び捨てでいいよ」
「じゃあ冬木ね」
真帆でもいいですとはどうしても言えなかった。
その時の私はゆでだこの様に真っ赤だったと思う。
恥ずかしさのあまり比喩ではなく本当に体から湯気が噴出していても、不思議ではなかった。
それになにか慣れ慣れしいとかで嫌われそうで、呼び捨てにしてもらえるのが精いっぱいだった。
「ああいう人には素敵な彼女とかできるんだろうな……」
誰もいないのをいいことにひときわ大きなため息を吐いた。
今まで生きてきてあんな人がいい人あったことなかったな。
ずっと遅刻して、愚図とか呼ばれてろくに人扱いされた記憶がない。
達也クンは私を人として扱ってくれた初めての人な気がする。
「って、やばもう五分以上経ってる早くいかなきゃ」
◇
「すみませんまた遅れました」
「大丈夫だよ、人間ミスするもんだし、この時間は一人ぐらいいなくても回るしね」
「ところでほかの従業員の人は?」
カウンターの中を見渡すと、達也クンのほかにだれも居なかった。
「この時間二人だけなんだよね、大丈夫?」
「大丈夫です……、多分」
こんなカッコイイ人と二人きりなんて……。
緊張でミスの数が倍になりそう……。
彼はぱっと見た限り私の人生と縁遠い人だ。
バイトなんかしなければ関わることはなかっただろう。
だからこの人と一緒に生きたいなんて思わない。
ただ彼が幸せであることがわかればそれでいい。
そんな彼に彼女ができたと聞いたのは、私と知り合ってしばらく経ってからだった。
私――冬木真帆は小さい頃から遅刻魔だった。
八時に来いと言われると八時半に行き、九時半に来いと言われると、十時半に着く。
あまりの遅刻にほかの人より早めの時間を告げられたこともある。
そんな私でもようやくバイトに受かることができた。
ただ、今の時刻は午前九時十五分。
来いと言われた時間は八時四十分。
やっぱり怒られるよね。
いや怒られるだけで済めばいい、その場でもう来なくていいと言われてしまうかもしれない。
せっかく受かったのに……。
なんてことを考えながら店の前をうろうろしていると、制服姿の人に話しかけられた。
「あ、今日初めて来る人だよね? 場所わからなかった?」
「遅れてごめんなさい、冬木真帆と言います」
その男の人に首がもげるのではないかという速度で頭を下げる。
もう何回連続で不意にしたかわからないバイト。
わがままなのは百も承知だが、これ以上クビになるのは避けたかった。
「別に気にしてないから大丈夫だよ」
その人はすごいおかしそうに笑った。
かっこいい顔だったけど、かわいい顔して笑う人だな……。
「じゃあちょっとついて来てもらおうかな」
「わかりました」
「ここがトイレで、これが荷物の搬入口、でこれが女性用の更衣室。じゃあ着替えが終わったら店の方来てね」
そう言うとあっちねと指さしながら去っていこうとする。
あ、お礼言わなきゃ。
「あの、ありがとうございました。えっとー……」
「ああ達也でいいよ、みんなそう呼んでるから。俺は冬木さんでいいかな?」
なんか同年代なのにすごい立派そうな人だな。
ちゃんと働いてて、人望もありそう。
私なんかと大違いだし、呼び捨てなんかおこがましいな。
「わかりました。呼び捨ては申し訳ないので達也クンにします」
「まあいいけど。ただ敬語はやめてよ、敬われるほどの人間じゃないし、なんかこそばゆいんだよね」
「わかった。私も呼び捨てでいいよ」
「じゃあ冬木ね」
真帆でもいいですとはどうしても言えなかった。
その時の私はゆでだこの様に真っ赤だったと思う。
恥ずかしさのあまり比喩ではなく本当に体から湯気が噴出していても、不思議ではなかった。
それになにか慣れ慣れしいとかで嫌われそうで、呼び捨てにしてもらえるのが精いっぱいだった。
「ああいう人には素敵な彼女とかできるんだろうな……」
誰もいないのをいいことにひときわ大きなため息を吐いた。
今まで生きてきてあんな人がいい人あったことなかったな。
ずっと遅刻して、愚図とか呼ばれてろくに人扱いされた記憶がない。
達也クンは私を人として扱ってくれた初めての人な気がする。
「って、やばもう五分以上経ってる早くいかなきゃ」
◇
「すみませんまた遅れました」
「大丈夫だよ、人間ミスするもんだし、この時間は一人ぐらいいなくても回るしね」
「ところでほかの従業員の人は?」
カウンターの中を見渡すと、達也クンのほかにだれも居なかった。
「この時間二人だけなんだよね、大丈夫?」
「大丈夫です……、多分」
こんなカッコイイ人と二人きりなんて……。
緊張でミスの数が倍になりそう……。
彼はぱっと見た限り私の人生と縁遠い人だ。
バイトなんかしなければ関わることはなかっただろう。
だからこの人と一緒に生きたいなんて思わない。
ただ彼が幸せであることがわかればそれでいい。
そんな彼に彼女ができたと聞いたのは、私と知り合ってしばらく経ってからだった。
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