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火炙りになった元聖女
ヒーローは遅れてやってくる
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「んーっ! んンっ!」
私の声にならない叫びが傾きかけた空に木霊する。
黒の広場まで連れて行かれた私は、丸太に縛りつけられた。
周囲は油の薄汚いにおいが充満している。
裁判って言ったじゃない!
このまま火炙りにする気?
「さあ、始めよう!」
中尉と呼ばれていた氷のような眼の男が手をたたくと、制服を来た男たちがなにやら準備を始めた。
ある者は火種を持ってきて、またある者は、通行人の整理を始めた。
いつの間にか、通行人は足を止め、小さな見物人の塊になっていた。
「遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ! この者は、魔術を使い、王子の地位を危うくした大罪人ぞ! 誰がこの卑劣な魔女を許せようか?」
「やれ~!」
「そうだ燃やしちまえ!」
「天罰だ!」
見物人が思い思いに声を上げる。
違う……。
私はただの元聖女なのに……。
「火を放て!」
中尉が命じると足元に火が点された。
見物人たちの声が途端に大きくなる。
「「「うぉーっ!」」」
始めは小さくパチパチと燻っていた炎が、だんだんと大きくなる。
あ、熱い……。
いやだ……。
リチャード、助けて――。
胸の中で大きくそう叫ぶと、上から水が振ってきた。
雨なんて生易しいものじゃない。
それこそ、滝か桶をひっくり返したような水が降ってきた。
「何だ!」
中尉も気が付いたのか周囲に問いただす。
ただ、誰も何も言うことが出来ない。
そろいもそろって、間抜けな顔をして、首を傾げている。
「俺がやったんだよ」
突然見物人を割るように目深にフードをかぶった男が出てきた。
「んんっ! (リチャード!)」
私は叫べる限りの声で彼をよんだ。
口元を見るだけでわかる、あれは絶対リチャードだ。
「ごめん、フローレンス。待たせたね」
フードの下から出てきたのは間違いなくリチャードだった。
「なぜ生きている。貴様は死んでいたはず!」
いつの間にか中尉は剣を抜き、リチャードの喉元に突きつけていた。
その表情は些か怯えているように見える。
「あのままだと死んでたよ。ただ知り合いに腕のいい聖女がいてね」
「貴様っー!」
リチャードは中尉の思い切り振り上げた剣を通行人でも避けるようにさらりとかわすと、一瞬にして中尉が空を舞った。
それを見ていた者で、理解できた人は一人もいないだろう。
私も何が起こっているのか分からなかった。
当の中尉ですら、不思議そうに目をぱちくりさせている。
「簡単な武術だよ。理屈が分かれば非力な子供でも自身の数倍ある巨漢をも投げとばせる。こんなことも習わないのか?」
「くっ……」
リチャードは中尉がいないかのように横を通り過ぎると、私に話しかけた。
「迎えに来たよ、フローレンス」
リチャードは縄を切り、そっと私を下ろしてくれた。
「遅いわ、もう6年も待ったのよ。ところでそのナイフまだ持っててくれたのね」
彼の手には、私が幼いころあげたナイフが握られていた。
「フローレンスからのプレゼントだからね。それに、結構細かい作業をするときに重宝するんだ」
「そうなんだ、役に立ってるならよかった。ところでこれからどうするの?」
リチャードが軽々と中尉を投げ飛ばしたのに恐れを成したのか、はたまた、巻き添えを食らうのが嫌だったのかわからないが、見物人等は既に居なくなってしまった。
「近くに馬車が止めてあるんだ。それで隣国まで逃げよう」
「わかったわ」
どうせ私はもうこの国にいられない。
私を助けたリチャードも同じだ。
「ところで、リチャード……。私の着替え持ってないかしら?」
今までリチャードの動きに見とれていて、忘れたのだが、頭から水をかぶったのだ。
自覚すると、よほど体温が下がっていたのか、歯がカチカチと震え始めた。
「ごめん寒かったよね。馬車の中に着替え置いてあるから」
サッと上着を掛けるとリチャードは馬車まで連れて行ってくれた。
私の声にならない叫びが傾きかけた空に木霊する。
黒の広場まで連れて行かれた私は、丸太に縛りつけられた。
周囲は油の薄汚いにおいが充満している。
裁判って言ったじゃない!
このまま火炙りにする気?
「さあ、始めよう!」
中尉と呼ばれていた氷のような眼の男が手をたたくと、制服を来た男たちがなにやら準備を始めた。
ある者は火種を持ってきて、またある者は、通行人の整理を始めた。
いつの間にか、通行人は足を止め、小さな見物人の塊になっていた。
「遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ! この者は、魔術を使い、王子の地位を危うくした大罪人ぞ! 誰がこの卑劣な魔女を許せようか?」
「やれ~!」
「そうだ燃やしちまえ!」
「天罰だ!」
見物人が思い思いに声を上げる。
違う……。
私はただの元聖女なのに……。
「火を放て!」
中尉が命じると足元に火が点された。
見物人たちの声が途端に大きくなる。
「「「うぉーっ!」」」
始めは小さくパチパチと燻っていた炎が、だんだんと大きくなる。
あ、熱い……。
いやだ……。
リチャード、助けて――。
胸の中で大きくそう叫ぶと、上から水が振ってきた。
雨なんて生易しいものじゃない。
それこそ、滝か桶をひっくり返したような水が降ってきた。
「何だ!」
中尉も気が付いたのか周囲に問いただす。
ただ、誰も何も言うことが出来ない。
そろいもそろって、間抜けな顔をして、首を傾げている。
「俺がやったんだよ」
突然見物人を割るように目深にフードをかぶった男が出てきた。
「んんっ! (リチャード!)」
私は叫べる限りの声で彼をよんだ。
口元を見るだけでわかる、あれは絶対リチャードだ。
「ごめん、フローレンス。待たせたね」
フードの下から出てきたのは間違いなくリチャードだった。
「なぜ生きている。貴様は死んでいたはず!」
いつの間にか中尉は剣を抜き、リチャードの喉元に突きつけていた。
その表情は些か怯えているように見える。
「あのままだと死んでたよ。ただ知り合いに腕のいい聖女がいてね」
「貴様っー!」
リチャードは中尉の思い切り振り上げた剣を通行人でも避けるようにさらりとかわすと、一瞬にして中尉が空を舞った。
それを見ていた者で、理解できた人は一人もいないだろう。
私も何が起こっているのか分からなかった。
当の中尉ですら、不思議そうに目をぱちくりさせている。
「簡単な武術だよ。理屈が分かれば非力な子供でも自身の数倍ある巨漢をも投げとばせる。こんなことも習わないのか?」
「くっ……」
リチャードは中尉がいないかのように横を通り過ぎると、私に話しかけた。
「迎えに来たよ、フローレンス」
リチャードは縄を切り、そっと私を下ろしてくれた。
「遅いわ、もう6年も待ったのよ。ところでそのナイフまだ持っててくれたのね」
彼の手には、私が幼いころあげたナイフが握られていた。
「フローレンスからのプレゼントだからね。それに、結構細かい作業をするときに重宝するんだ」
「そうなんだ、役に立ってるならよかった。ところでこれからどうするの?」
リチャードが軽々と中尉を投げ飛ばしたのに恐れを成したのか、はたまた、巻き添えを食らうのが嫌だったのかわからないが、見物人等は既に居なくなってしまった。
「近くに馬車が止めてあるんだ。それで隣国まで逃げよう」
「わかったわ」
どうせ私はもうこの国にいられない。
私を助けたリチャードも同じだ。
「ところで、リチャード……。私の着替え持ってないかしら?」
今までリチャードの動きに見とれていて、忘れたのだが、頭から水をかぶったのだ。
自覚すると、よほど体温が下がっていたのか、歯がカチカチと震え始めた。
「ごめん寒かったよね。馬車の中に着替え置いてあるから」
サッと上着を掛けるとリチャードは馬車まで連れて行ってくれた。
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